天城越え

「天城越え」について

松本清張原作の「天城越え」が何故有名なのかは良く分かりません。
松本清張の短編小説には、高い評価の作品は多いですが「天城越え」
が上位に入っている場合はほとんど目にしません。
原作が、刑事調書主体の短編という面で小説としての評価は弱い
のかもしれません。
推察すれば、映像としての「天城越え」が存在する事で有名なの
でしょう。

「天城越え」の映像化は、筆者の知っている限りでは3回です。
大塚ハナ役を田中裕子・田島刑事役を渡瀬恒彦が演じた、
1983年の三村晴彦監督の映画。
大塚ハナ役を、大谷直子・田島刑事役を佐藤慶が演じた、
1978年の和田勉演出のNHKドラマ。
大塚ハナ役を、田中美佐子・田島刑事役を長塚京三が演じた、
1998年の大岡進演出のTBSドラマ。

この作品は、少年と娼婦大塚ハナの天城での出会いと、そこに割り込む
土工とが事件で、その事件を追った30年後の刑事と少年の行く末が
ストーリーです。
短編を、長編ドラマにしているので脚本家のストーリーのふくらまし
方で大きく変わります。

台本について

私が保有している台本は、三村晴彦監督の映画台本です。
キャストは鉛筆書きで記入されています。

題名「天城越え」
原作「松本清張:『天城越え』」
脚本「三村晴彦・加藤泰」
監督「三村晴彦」
製作「野村芳太郎・宮島秀司」
主なキャスト
小野寺健造: 平幹二郎
 (中学時代): 伊藤洋一
田島松之丞・渡瀬恒彦
大塚ハナ:田中裕子
土工 :室田日出男
健造の母:吉行和子
健造の叔父:小倉一郎
菓子屋:坂上二郎
呉服屋:柄本明
江藤署長:佐藤允
山田警部補:山谷初男
赤池巡査:伊藤克信
茶店ばあさん:北林谷栄
土谷良作:石橋蓮司
  妻:樹木希林
医師:加藤剛
県警の広報部長:中野誠也
事務員:榎本ちえ子

「映画:天城越え」について

台本の最初のページに脚本家=監督の言葉があります。
それは、原作の解釈であり、監督する上の方針・狙いです。
「少年の母恋物語・少年にとって、母もハナも『自分の女』
だった。」
これが本映画の幹であり、それが描かれているかどうかが
評価の重要点です。

短編小説の映画化では、原作とは異なる所は必然的に増えます。
どの部分を長く描くか、どの場面を追加するか、どの設定を
変えるか。これらが脚本家の力となります。

従って、「天城越え」は小説・映画・テレビドラマ2本の4つが
存在すると考えるべきです。
約30年の時間を挟んだ物語ですが、この部分はどれも類似です。
ただ映画は、事件は昭和15年に起こります。
他は大正14年です。
何故については分かりません。

4バージョンの「天城越え」について

4つの「天城越え」はそれぞれ微妙に異なる特徴があります。
原作に忠実なのが良いとはいえない事は、既に忠実な映像化は
無理な事は述べました。
それでは個々の狙いはどうかと言うと、映画の狙いは脚本に
書かれた通りですが、その作品の感想を読む限りでは制作者の意図
は十分に伝わっていないように思います。
これは全体の作りに印象的な部分が多い事を意味しているとも
言えますので失敗とも言えません。

次に差があるのが、大塚ハナの事件後です。
行方不明だったり、不明だったり、死んだり、生きていたり
バラバラです。どれが印象的か、納得行くかはこれも感想はバラバラ
と見えます。

また、少年とその行く末・刑事の行く末も微妙に異なります。
もし映画脚本の冒頭の脚本家の言葉で見ると、それほど重要では
ないという事になります。

その意味では、NHKドラマで原作者の松本清張が巡礼で登場して
事件は未解決でも、真実は分かっている者がいるという設定は
注目とも言えます。あくまでも、少年の感情が主題として表現
されているからです。

原作がある場合はそれも考慮します

色々な呼び方があり、少しずつ意味は異なります

ここではやや影の部分といえるシナリオを読みます