人それを情死と呼ぶ

「人それを情死と呼ぶ」について

原作とその映像化で差が生じる事は一般的な事です。
色々な理由がありますが、その典型例と言えるのが本格ミステリの
巨匠・鮎川哲也の異色作「人それを情死と呼ぶ」です。
鮎川哲也のシリーズ探偵は3名いますが、アリバイ崩しの作品に登
場する「鬼貫警部」は論理と地道な捜査とプライベートに謎が多い
設定で知られています。
「鬼貫警部」シリーズは質量ともに有名なシリーズですが、名探偵
の性格上で、行き詰まった事件の後半から登場する事も多いです。
「人それを情死と呼ぶ」もその構成ですが、「鬼貫警部」の必要性
と前半の探偵役を含めた構成の巧みさから異色作との意見も多いで
す。汚職事件絡みで失踪して見知らぬ女性と情死したと思われる夫
の死の謎を調べる妻と夫の妹が前半の探偵役です。
そして情死相手の義弟に出会い協力しますが、行き詰まります。

ドラマ化は複数回ですが筆者が判っている範囲は下記です。
1・1961/03:「人それを情死と呼ぶ」三ツ矢歌子主演
2・1962/10:「人それを情死と呼ぶ」中川弘子主演
3・1977/11:「人それを情死と呼ぶ」佐久間良子主演
4・1993/11:「刑事 鬼貫八郎・偽装心中」大地康雄主演
5・1996/06:「人それを情死と呼ぶ」栗原小巻主演

1と2は情報を持っていません。3は主演は情死相手の義弟の妻役。
4は「鬼貫警部」シリーズで原作にはない名前を持ち、独身ではなく
妻も子もある、鬼貫が登場して主演です。シリーズですから。
5は下記に詳細します。
結局、原作とは3−5は大きく離れた構成となりました。
特に3は、作品を反対側から見るという全く異なる視点です。

台本について

私が保有している台本は5の決定稿の「人それを情死と呼ぶ」です。

題名:「人それを情死と呼ぶ」:1996/06放映
原作:「人それを情死と呼ぶ」鮎川哲也
脚本:吉田剛
演出:小野田嘉幹
主なキャスト
河辺照子: 栗原小巻
河辺遼吉:     夫:情死?
河辺由美: 高田真由子 娘
津山正夫: 永島敏行
津山久子:     妻:情死?

小説「人それを情死と呼ぶ」と
ドラマ5・「人それを情死と呼ぶ」について

原作と異なる設定
一:鬼貫警部は登場しない>元々ふたり探偵で不要構成ではあった。
二:河辺由美が、原作は遼吉の妹から夫婦の娘に変更>意味は不明
三:津山久子の義弟:本田正夫が、ドラマでは夫に変更>3で主役の
本田正夫の妻の本田節子が登場しない。

従って探偵役は、最後まで妻と娘になります。
犯罪の詳細も変更になり、ラストシーンも変わります。

本ドラマと他の3・4を含めて考えると本原作の構成が複数あると
言える事になります。
鬼貫警部の不要論があるので、一は可能でしょう。
同時に、全て鬼貫警部という4も可能ですが名探偵が真相に近づくの
が遅いという指摘があるとも思います。
義弟・本田正夫と節子夫妻は、3が本田節子の主演という事から、
その扱いは微妙です。
この原作のテーマは何か、それをどのように描くのが効果的かという
本質論にまで進んでしまいます。

表からも裏からも、探偵役を変えても描ける作品となった原作は、
まさしくこの作者の異色作というのにふさわしい事を実証しました。

本作に登場する小道具等に、時代の変化と共に不自然になったものが
複数あります。これは、小説の宿命ですがドラマ化で対応して変更し
ている部分もあります。
小説上は問題ないし、ドラマ化の時代設定を原作に合わせれば問題は
ありません。

原作がある場合はそれも考慮します

色々な呼び方があり、少しずつ意味は異なります

ここではやや影の部分といえるシナリオを読みます