雑誌・幻影城のベスト99(31-40)
31.帝国の死角
高木彬光
レベルの高い作品を多く発表している高木ですが、本作が代表作として選ばれる ケースは少ないと思います。これは、選者の大内氏が絶賛し、後の二人が同意し た事により選ばれました。 本作は、感想・解説を行うことが、未読読者にとって好ましくない作品です。 本作の評価は時代と選者で大きく変わると予想されます。はたしてスケールの大 な大作か、そうでないのかは読者自身に委ねるべきでしょう。読んで損な作品で は無いとだけ感想を述べておきましょう。
32.黒い白鳥
鮎川哲也
推理作家協会賞を、複数の短篇で受賞した作者は多いですが、長編2作で受賞し たのは鮎川と陳舜臣です。1年の間に2長編を発表し、どちらも賞にあたいする 評価を受けることは大変困難なことです。 本作は2つのアリバイを鬼貫警部が破る構成です。特に最初のトリックはミステ リの本道を行く、小説の非常に早い段階で事件と手がかりを読者に提示する本格 推理小説の醍醐味を示した見本のような例です。
33.ゴメスの名はゴメス
結城昌治
ミステリの多彩な分野で名作を書いている、オールランドの巨星のスパイ小説です。 日本のスパイ小説は、戦時中等の国略・仮想敵を設定したレベルのものは除くと 本格的な物は海外に比べて遅れていました。昭和30年から40年代にかけて、 色々な作者が新しいジャンルを開拓した時に始まったと考えて良いでしょう。 ただ、日本を舞台にしたものは少し遅れました。本作はこのようなスパイ小説の 初期の名作です。非常に印象的な題名ですが、作品を読むことでより強くなるで でしょう。
34.病院坂の首縊りの家
横溝正史
昭和50年前後のブーム以降再び作品を発表しました。作家人生の長さは特記に 当たるでしょう。そして、その終わり頃にこの大作をまとめた事にも驚きます。 現在と過去の事件を扱うのは、どうしても長くなりがちです。どちらが従では無 く同等に扱うと、長くなってしまうのでしょう。数えきれない作品を残した作者 の晩年の作品が高く評価されたのもブームだけでは無いです。
35.細い赤い糸
飛鳥高
建築技師で短篇では本格味の強い作品が多い作者ですが、長編は本格味を含むサ スペンス物が多いです。推理作家協会賞受賞の本作は数少ない本格味の強い長編 です。全く関係がないと思われる4つの事件が最後に1つにまとまります。 ただ本作は、本格として見たときにフェアでは無いと言う意見もあります。意識 的に手がかりを書いていない所があります。嘘は書いていないが、手がかりを一 部省いています。気になるかどうかは読者が判断して下さい。
36.殺しへの招待
天藤真
独特のユーモアと緻密な構成で知られる作者です。その個性は他と一線を引きま す。本作は構成の複雑さに読者は終始振り回されます。ユーモアに満ちた語り口 がより効果的です。本作に対しては、遺産相続に絡む動機設定上に法律上の問題 があると指摘があります。普通に読めば気がつかない所ですが指摘としては妥当 と思います。このキズを超えて作品は評価されていると思います
37.誰にも出来る殺人
山田風太郎
奇想作家と呼ぶのがふさわしい人は多くありません。本格から時代物、忍法帖・ その他の奇想小説まで幅広く書いたのが山田です。死後、続々と作品が出版され ましたが、なかなか数が掴みきれません。本作は本格味の強い作品です。この ベスト選びを見ても本格に偏りがちが分かります。連作形式を取りながら全体で 長編を構成しているのは、現在では常套手段ですが本作は先駆的意味もあります。 下宿で見つけた歴代の住人が書き継いだノートを読むことで話が繋がります。 山田がこれらの分野でも、後に大きな影響を残した事が分かります。
38.弁護側の証人
小泉喜美子
長編を一発ネタで支えるのは難しいです。本作も短篇ネタを長編で使用していま す。作者の自信がうかがえますし、投票も支持が多い事を示しています。 でも、このような作品は全く内容にふれる事が出来ません。アンフェアかネタば らしになってしまいます。願わくば、あまり多くのミステリを読む前に読む事を 薦めます。流石に読み慣れると、直ぐに分かってしまいますので。
38.枯草の根
陳舜臣
乱歩賞受賞作でも上位にはいります。題名の意味が分かれば謎が解けると思いま す。それほど多くは登場しないが有名な「陶展文」が探偵役の作品です。日本・ 中国を舞台に作品を発表してゆく作者です。日本でも南京街が舞台です。 本作以後、立て続けに本格の作品を書き、次第に歴史・時代小説や変格に移って ゆきます。中国の歴史の豊富な知識は、ミステリでも、歴史小説でもあます事な く発揮して行きます。
40.野獣死すべし
大藪春彦
ミステリなのか、ハードボイルドなのか評価も好き嫌いもバラバラに分かれる 作者と作品です。ただ、本作がバイオレンス小説のきっかけになった歴史的意 味は誰も否定できません。多くの新しいスタイルを模索していた中で、少ない 成功例です。 本作については、コメントが難しいですがカリスマ的ヒーローの登場とアクシ ョンで構成された本書は、多くの類似作・作家を生みました。
40.人喰い
笹沢左保
極端な多作作家として有名ですが、良質の作品も多く発表しています。特にデビ ュー時は本格ミステリであり、本作も密室物です。 推理作家賞の本作以降は、純本格からロマンを合わせた方向に進み、次第に風俗 物・時代物へと変わってゆきます。従って、笹沢を理解するには、複数の作品を 読む事が必須となります。本作ぐらいが、本格からやや離れてゆく分岐点と言え ると思います。発表数が多いので全貌はとても分かりません。
40.蒸発
夏樹静子
森村誠一と乱歩賞を争って次点になった「天使が消えてゆく」と、森村と推理 作家協会賞の同時受賞になった本作が初期の代表作でしょう。ただ夏樹はこれ 以前にも「しのぶ」名義で発表していたので再デビューになります。本作は人が 蒸発する謎を幹に、何故蒸発するのかをもつきつめた作品で、本格ミステリに 人間的な問題を加えています。
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高木彬光
レベルの高い作品を多く発表している高木ですが、本作が代表作として選ばれる ケースは少ないと思います。これは、選者の大内氏が絶賛し、後の二人が同意し た事により選ばれました。 本作は、感想・解説を行うことが、未読読者にとって好ましくない作品です。 本作の評価は時代と選者で大きく変わると予想されます。はたしてスケールの大 な大作か、そうでないのかは読者自身に委ねるべきでしょう。読んで損な作品で は無いとだけ感想を述べておきましょう。
32.黒い白鳥
鮎川哲也
推理作家協会賞を、複数の短篇で受賞した作者は多いですが、長編2作で受賞し たのは鮎川と陳舜臣です。1年の間に2長編を発表し、どちらも賞にあたいする 評価を受けることは大変困難なことです。 本作は2つのアリバイを鬼貫警部が破る構成です。特に最初のトリックはミステ リの本道を行く、小説の非常に早い段階で事件と手がかりを読者に提示する本格 推理小説の醍醐味を示した見本のような例です。
33.ゴメスの名はゴメス
結城昌治
ミステリの多彩な分野で名作を書いている、オールランドの巨星のスパイ小説です。 日本のスパイ小説は、戦時中等の国略・仮想敵を設定したレベルのものは除くと 本格的な物は海外に比べて遅れていました。昭和30年から40年代にかけて、 色々な作者が新しいジャンルを開拓した時に始まったと考えて良いでしょう。 ただ、日本を舞台にしたものは少し遅れました。本作はこのようなスパイ小説の 初期の名作です。非常に印象的な題名ですが、作品を読むことでより強くなるで でしょう。
34.病院坂の首縊りの家
横溝正史
昭和50年前後のブーム以降再び作品を発表しました。作家人生の長さは特記に 当たるでしょう。そして、その終わり頃にこの大作をまとめた事にも驚きます。 現在と過去の事件を扱うのは、どうしても長くなりがちです。どちらが従では無 く同等に扱うと、長くなってしまうのでしょう。数えきれない作品を残した作者 の晩年の作品が高く評価されたのもブームだけでは無いです。
35.細い赤い糸
飛鳥高
建築技師で短篇では本格味の強い作品が多い作者ですが、長編は本格味を含むサ スペンス物が多いです。推理作家協会賞受賞の本作は数少ない本格味の強い長編 です。全く関係がないと思われる4つの事件が最後に1つにまとまります。 ただ本作は、本格として見たときにフェアでは無いと言う意見もあります。意識 的に手がかりを書いていない所があります。嘘は書いていないが、手がかりを一 部省いています。気になるかどうかは読者が判断して下さい。
36.殺しへの招待
天藤真
独特のユーモアと緻密な構成で知られる作者です。その個性は他と一線を引きま す。本作は構成の複雑さに読者は終始振り回されます。ユーモアに満ちた語り口 がより効果的です。本作に対しては、遺産相続に絡む動機設定上に法律上の問題 があると指摘があります。普通に読めば気がつかない所ですが指摘としては妥当 と思います。このキズを超えて作品は評価されていると思います
37.誰にも出来る殺人
山田風太郎
奇想作家と呼ぶのがふさわしい人は多くありません。本格から時代物、忍法帖・ その他の奇想小説まで幅広く書いたのが山田です。死後、続々と作品が出版され ましたが、なかなか数が掴みきれません。本作は本格味の強い作品です。この ベスト選びを見ても本格に偏りがちが分かります。連作形式を取りながら全体で 長編を構成しているのは、現在では常套手段ですが本作は先駆的意味もあります。 下宿で見つけた歴代の住人が書き継いだノートを読むことで話が繋がります。 山田がこれらの分野でも、後に大きな影響を残した事が分かります。
38.弁護側の証人
小泉喜美子
長編を一発ネタで支えるのは難しいです。本作も短篇ネタを長編で使用していま す。作者の自信がうかがえますし、投票も支持が多い事を示しています。 でも、このような作品は全く内容にふれる事が出来ません。アンフェアかネタば らしになってしまいます。願わくば、あまり多くのミステリを読む前に読む事を 薦めます。流石に読み慣れると、直ぐに分かってしまいますので。
38.枯草の根
陳舜臣
乱歩賞受賞作でも上位にはいります。題名の意味が分かれば謎が解けると思いま す。それほど多くは登場しないが有名な「陶展文」が探偵役の作品です。日本・ 中国を舞台に作品を発表してゆく作者です。日本でも南京街が舞台です。 本作以後、立て続けに本格の作品を書き、次第に歴史・時代小説や変格に移って ゆきます。中国の歴史の豊富な知識は、ミステリでも、歴史小説でもあます事な く発揮して行きます。
40.野獣死すべし
大藪春彦
ミステリなのか、ハードボイルドなのか評価も好き嫌いもバラバラに分かれる 作者と作品です。ただ、本作がバイオレンス小説のきっかけになった歴史的意 味は誰も否定できません。多くの新しいスタイルを模索していた中で、少ない 成功例です。 本作については、コメントが難しいですがカリスマ的ヒーローの登場とアクシ ョンで構成された本書は、多くの類似作・作家を生みました。
40.人喰い
笹沢左保
極端な多作作家として有名ですが、良質の作品も多く発表しています。特にデビ ュー時は本格ミステリであり、本作も密室物です。 推理作家賞の本作以降は、純本格からロマンを合わせた方向に進み、次第に風俗 物・時代物へと変わってゆきます。従って、笹沢を理解するには、複数の作品を 読む事が必須となります。本作ぐらいが、本格からやや離れてゆく分岐点と言え ると思います。発表数が多いので全貌はとても分かりません。
40.蒸発
夏樹静子
森村誠一と乱歩賞を争って次点になった「天使が消えてゆく」と、森村と推理 作家協会賞の同時受賞になった本作が初期の代表作でしょう。ただ夏樹はこれ 以前にも「しのぶ」名義で発表していたので再デビューになります。本作は人が 蒸発する謎を幹に、何故蒸発するのかをもつきつめた作品で、本格ミステリに 人間的な問題を加えています。
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選ばれた作品の感想です。
あくまでも主観的なものです。
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