雑誌・幻影城のベスト99(21-30)
21.人間の証明
森村誠一
横溝ブームの次に、角川春樹は次々にミステリを映画化して行きました。その一 つが本作です。西条八十の「麦わら帽子」をモチーフに不思議な組み合わせの持 ち物とともに死んだ事件の謎を追います。デビュー時には、純本格派といわれた 森村が次第に作風・作品を広げつつある時期でもあります。また、本作からシリ ーズタイトルの作品を発表する様になりました。全くのタイトルのみのシリーズ も意外と珍しいです。森村がシリーズキャラクターを使用するようになるのはか なり後です。人間の謎を描き始めた作者の分岐点のひとつですが、息の長い作者 には変化ごとに代表作が存在します。
22.影の告発
土屋隆夫
推理作家協会賞受賞と、シリーズキャラクター千草検事初登場の作品です。本格 派といわれ続けている土屋ですが、本作以降次第に小説中のミステリ要素の比重 が徐々に少ない方に変化してゆきます。今作も「危険な童話」同様に各章の始め にモノローグが描かれています。千草検事・野本刑事の登場と共に長編に関する 自信と余裕が感じられる、バランス感覚の優れた作品です。作者の地元の信州を 舞台に旅情感を感じる読者も多くいます。
23.船富家の惨劇
蒼井雄
太平洋戦争前(戦前)は真の本格派推理小説は少ないと言えるでしょう。特に長編 は顕著です。その時代の少ない収穫のひとつです。本作はクロフツ・フィルポッ ツだのと、欧米との比較をされがちです。蒼井の残した3長編と中短篇群は現在 でも読書に耐える作品が多く、あえて言えば早く世に出すぎた作家の一人ともい えます。
24.殺人鬼
浜尾四郎
本作も戦前の本格推理小説です。こちらは、ヴァン・ダインと比較されます。 作者自身が作中でそのことにふれ、グリーン家殺人事件のネタばらしを行って いるのでコメントしようがありません。浜尾は3長編と、1冊分の短篇群のみを 残しました。これまた少ないです。まだ、本格推理小説の土壌がなかったのでは ないかとも思われます。
24.八つ墓村
横溝正史
角川文庫の横溝作品の第1作でもあり、横溝の特徴がよく出ている作品です。た だ本作の場合、金田一耕助の登場が必要だったかどうかに疑問が集中しています。 いわゆる2人探偵になってしまっている感があります。 そういう事は忘れて読みましょうと言っても、複数の代表作を持つ作者にとって は評価が微妙になってしまいます。金田一の登場は読者へのサービスと言っては いいすぎでしょうか。
26.招かれざる客
笹沢左保
乱歩賞の次点が信じられない名作です。当時は、動機・心理的トリックの評価が 定まっていなかったと推察します。招かざる客とは、一体何か?、鍵もなにも無 いが心理的に破れない密室状況とは何か、そしてその謎の解決は?。あまりにも 多くの作品を残して一体何から読むべきか迷う作者です。本作はその中でもどう してもはずせないでしょう。
27.高木家の惨劇
角田喜久雄
昭和20年代に横溝の「本陣殺人事件」「蝶々殺人事件」をきっかけにしてたて 続けに本格推理小説が書かれました。しかも密室物が主流となりました。複数の 作者が同傾向の作品を書いた事に対する疑問が後に問題とされました。しかしそ の密室トリックまでが類似傾向が多い事まではあまり言われないようです。本作 者は怪奇・伝奇小説で有名ですが、戦後の1時期は本格物を書いています。加賀 見警部物にはいくつか優れた作品がありますが、個人的には何故この作品ばかり 目立つのか理解出来ない所もあります。
28.針の誘い
土屋隆夫
作者の第6長編で千草検事登場の3作目です。この中途半端な位置の作品が何故 選ばれたのでしょう。それは次第に変わってゆく作風の分岐点の好作と評価され た物と思います。誘拐事件を題材に、異なるアプローチを試みた作品は多数あり ます。本作もその一つです。一見平凡な誘拐事件に見える後ろのスケールの大き い真実、数は少なくなっても切れ味のするどいトリックは微妙なバランスを保っ ています。この後も作者は次々と変貌してゆきます。その分岐点の高い評価でし ょう。
28.誘拐作戦
都筑道夫
編集者の経験もあり数々の評論も発表している理論派の作者です。文体をも変え る器用さと上記の理論で、色々な試みを行っています。初期には、小説自体に仕 掛けを施した読者に対するトリッキーな作品を多く書いています。本作もその一 つです。各章ごとに、文体と登場人物名が変わるという一度読むとインパクトの ある構成です。登場人物の設定は同じで書き継いで行きますが、上記が変わりま す。奇を狙ったと言うよりもミステリを遊びの小説と位置つけて、どこまで出来 るかを追求し続けたと思います。
30.パノラマ島綺談
江戸川乱歩
「陰獣」と共に乱歩の代表作にあげられています。ただし、幻想味と突飛な夢の 世界を描いており、好きな読者とそうでない読者に大きく分かれます。 一人の男が、孤島に作った夢の世界、これは乱歩自身の夢でもあるのでしょう。 あまりに乱歩ならではの独特の世界故に、あえて無理に分類しようとする人もあ まり見掛けません。幻想かSFか怪奇か、読者に委ねられています。あなたも自 分自信で確かめるしかないでしょう。他人の感想などは寄せ付けない作品です。
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森村誠一
横溝ブームの次に、角川春樹は次々にミステリを映画化して行きました。その一 つが本作です。西条八十の「麦わら帽子」をモチーフに不思議な組み合わせの持 ち物とともに死んだ事件の謎を追います。デビュー時には、純本格派といわれた 森村が次第に作風・作品を広げつつある時期でもあります。また、本作からシリ ーズタイトルの作品を発表する様になりました。全くのタイトルのみのシリーズ も意外と珍しいです。森村がシリーズキャラクターを使用するようになるのはか なり後です。人間の謎を描き始めた作者の分岐点のひとつですが、息の長い作者 には変化ごとに代表作が存在します。
22.影の告発
土屋隆夫
推理作家協会賞受賞と、シリーズキャラクター千草検事初登場の作品です。本格 派といわれ続けている土屋ですが、本作以降次第に小説中のミステリ要素の比重 が徐々に少ない方に変化してゆきます。今作も「危険な童話」同様に各章の始め にモノローグが描かれています。千草検事・野本刑事の登場と共に長編に関する 自信と余裕が感じられる、バランス感覚の優れた作品です。作者の地元の信州を 舞台に旅情感を感じる読者も多くいます。
23.船富家の惨劇
蒼井雄
太平洋戦争前(戦前)は真の本格派推理小説は少ないと言えるでしょう。特に長編 は顕著です。その時代の少ない収穫のひとつです。本作はクロフツ・フィルポッ ツだのと、欧米との比較をされがちです。蒼井の残した3長編と中短篇群は現在 でも読書に耐える作品が多く、あえて言えば早く世に出すぎた作家の一人ともい えます。
24.殺人鬼
浜尾四郎
本作も戦前の本格推理小説です。こちらは、ヴァン・ダインと比較されます。 作者自身が作中でそのことにふれ、グリーン家殺人事件のネタばらしを行って いるのでコメントしようがありません。浜尾は3長編と、1冊分の短篇群のみを 残しました。これまた少ないです。まだ、本格推理小説の土壌がなかったのでは ないかとも思われます。
24.八つ墓村
横溝正史
角川文庫の横溝作品の第1作でもあり、横溝の特徴がよく出ている作品です。た だ本作の場合、金田一耕助の登場が必要だったかどうかに疑問が集中しています。 いわゆる2人探偵になってしまっている感があります。 そういう事は忘れて読みましょうと言っても、複数の代表作を持つ作者にとって は評価が微妙になってしまいます。金田一の登場は読者へのサービスと言っては いいすぎでしょうか。
26.招かれざる客
笹沢左保
乱歩賞の次点が信じられない名作です。当時は、動機・心理的トリックの評価が 定まっていなかったと推察します。招かざる客とは、一体何か?、鍵もなにも無 いが心理的に破れない密室状況とは何か、そしてその謎の解決は?。あまりにも 多くの作品を残して一体何から読むべきか迷う作者です。本作はその中でもどう してもはずせないでしょう。
27.高木家の惨劇
角田喜久雄
昭和20年代に横溝の「本陣殺人事件」「蝶々殺人事件」をきっかけにしてたて 続けに本格推理小説が書かれました。しかも密室物が主流となりました。複数の 作者が同傾向の作品を書いた事に対する疑問が後に問題とされました。しかしそ の密室トリックまでが類似傾向が多い事まではあまり言われないようです。本作 者は怪奇・伝奇小説で有名ですが、戦後の1時期は本格物を書いています。加賀 見警部物にはいくつか優れた作品がありますが、個人的には何故この作品ばかり 目立つのか理解出来ない所もあります。
28.針の誘い
土屋隆夫
作者の第6長編で千草検事登場の3作目です。この中途半端な位置の作品が何故 選ばれたのでしょう。それは次第に変わってゆく作風の分岐点の好作と評価され た物と思います。誘拐事件を題材に、異なるアプローチを試みた作品は多数あり ます。本作もその一つです。一見平凡な誘拐事件に見える後ろのスケールの大き い真実、数は少なくなっても切れ味のするどいトリックは微妙なバランスを保っ ています。この後も作者は次々と変貌してゆきます。その分岐点の高い評価でし ょう。
28.誘拐作戦
都筑道夫
編集者の経験もあり数々の評論も発表している理論派の作者です。文体をも変え る器用さと上記の理論で、色々な試みを行っています。初期には、小説自体に仕 掛けを施した読者に対するトリッキーな作品を多く書いています。本作もその一 つです。各章ごとに、文体と登場人物名が変わるという一度読むとインパクトの ある構成です。登場人物の設定は同じで書き継いで行きますが、上記が変わりま す。奇を狙ったと言うよりもミステリを遊びの小説と位置つけて、どこまで出来 るかを追求し続けたと思います。
30.パノラマ島綺談
江戸川乱歩
「陰獣」と共に乱歩の代表作にあげられています。ただし、幻想味と突飛な夢の 世界を描いており、好きな読者とそうでない読者に大きく分かれます。 一人の男が、孤島に作った夢の世界、これは乱歩自身の夢でもあるのでしょう。 あまりに乱歩ならではの独特の世界故に、あえて無理に分類しようとする人もあ まり見掛けません。幻想かSFか怪奇か、読者に委ねられています。あなたも自 分自信で確かめるしかないでしょう。他人の感想などは寄せ付けない作品です。
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選ばれた作品の感想です。
あくまでも主観的なものです。
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