雑誌・幻影城のベスト99(1-10)
1.獄門島
横溝正史
丁度、横溝正史のブームの最中でもあり多く選ばれています。 本作は、ストリーテラーとしての横溝の特長がいかんなく発揮されており 最高得票となりました。 ただ、本格としての犯人設定面では、必ずしも満足ではなく、完全な傑作とは 言い難い面もあります。 時代は戦後直ぐ、舞台は瀬戸内海の島、連続した3つの見立て殺人は時代と背景 を抜きには成立しにくいものです。
2.刺青殺人事件
高木彬光
色々なジャンルでの先駆者でもある、質・量共に戦後最大の作家と言って良い でしょう。逆に言えば、特定のジャンルに限れば、その分野のスペシャリスト がいますので、代表作が分かれます。 本作はデビュー作ですが、現実は数年後に全面改稿された作品です。改稿前の 作品は「初稿」と呼ばれます。これも評価の分かれる作品です。 戦後の密室本格ブームの中での作品ですが、密室を構成した狙いに特徴があり 作者は「心理の密室」と強調しています。意味は読んで確認して下さい。
2.虚無への供物
中井英夫
塔晶夫名義のデビュー作で、作者自身はメタミステリと呼び、以降は幻想小説 が中心になりました。ミステリの愛好家をひねくった構成で推理ゲームで話が 進みます。まさか、後の時代に推理ゲーム形式の作品が雨後の竹の子の様に発表 されるとは作者の予想外と思います。当時、大長編と言われた長さも現在では普 通の長さになりつつあります。序章と終章にはさまれた、4つの章、それぞれに 1つの密室が登場します。メタミステリと言われる部分も現在では多くの追従作 があり、ピンとこない若い読者もいるようです。
4.不連続殺人事件
坂口安吾
純文学畑に分類されている人が推理小説を書くこともかなり増えてきました。 本格長編としては、初期にあたります。連続殺人の意味つけは昔から現在まで 色々試みられています。風変わりな登場人物の行動のなかに紛れ込んだ不自然 な行動に気づくかどうかがポイントです。本格ミステリとしては、不満な犯人 設定ともいえますが、その部分が狙いでもあり評価が分かれます。
5.黒いトランク
鮎川哲也
この作者は代表作を選ぶ時にいつも分かれます。結果的に上位に来ないのですが 選考前に絞っていたので上位になったのでしょう。一度異なる犯人で捜査が終わ った事件を、休暇を取って再捜査します。トリックも構成も伏線も充分にありま すが、退屈なぐらい重苦しくゆっくり事件はすすみます。やはり評価がわかれる 面があります。謎を説明する最終章「風見鶏が北を向くとき」はかなり有名です。
6.危険な童話
土屋隆夫
土屋も代表作が別れる作家です。長編に関しては、純謎解きから次第に小説的な 膨らみに興味が移ってゆきます。本作もその過程の作でまだ謎解きの比率が大き いといえます。各章の頭に書かれた童話、その意味が小説全体を支える重要な意 味があります。類似の形式の作品は、その後も多く書かれていますが本作ほどに 効果があるとはいえません。事件・逮捕から始まる犯人と捜査陣の駆け引きは、 特徴的な構成で印象的です。
7.11枚のとらんぷ
泡坂妻夫
雑誌「幻影城」第1回新人賞佳作作家の処女長編です。この投票の間に「乱れか らくり」が発表されました。本雑誌出身の強みもありますが、横溝ブームのなか で、新しい本格推理小説の書き手を望む愛好家を満足させる泡坂への期待と支持 は大きいものでした。その後の大活躍を見ると、この結果は投票者は先見の明を 密かに自慢しているでしょう。自身が奇術師でもある作者がその世界を題材にし た本作は、トリックを多数含み強引さもありますが本格推理小説に飢えていた読 者の支持をえるに充分な内容です。
8.黒死館殺人事件
小栗虫太郎
3大奇書とも4大とも言われ続けています。しかし、難解な内容を理解しえる読 者は少ないと思います。私自身も同様で、理解を超えた作品であり続けています 。1冊の中に数え切れないアイデアを詰め込んだ本作は、奇才小栗でも2度と書 くことはありませんでした。舞台になる黒死館自体が謎に包まれ、館の構造自身 がまだ明らかにされていません。
9.点と線
松本清張
社会派のはじめと言う人も多いですが、内容は動機に社会性を持たせただけで典 型的なアリバイ崩しの作品です。松本は幅広いジャンルの小説と共にドキュメン タリーや研究物の作家でもありました。従って推理小説でないものまで、同じ扱 いを受ける誤解が発生して、社会派推理小説が単なる社会派小説との区別がされ ないという残念な方向に進みました。結果として社会派の功罪という松本にとっ ては言われ無き批判も登場してしまいました。松本は20年代の暗いイメージの 推理小説を一般的な社会に登場させた功労者であり本作もその成果です。
10.ドグラ・マグラ
夢野久作
黒死館と共に昔から奇書と呼ばれ続けられている作品です。評価が正当になされ る様になったのは、鶴見俊輔の再評価以降と言われています。個人的には代表作 が本作と数ページのみの「瓶詰めの地獄」という極端な見方を持っています。本 作は色々な解釈が出来、多数の小説等を組み合わせた複雑な構造を持っています 。文章的には容易に読めますが内容の理解は読むたびに変わります。
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横溝正史
丁度、横溝正史のブームの最中でもあり多く選ばれています。 本作は、ストリーテラーとしての横溝の特長がいかんなく発揮されており 最高得票となりました。 ただ、本格としての犯人設定面では、必ずしも満足ではなく、完全な傑作とは 言い難い面もあります。 時代は戦後直ぐ、舞台は瀬戸内海の島、連続した3つの見立て殺人は時代と背景 を抜きには成立しにくいものです。
2.刺青殺人事件
高木彬光
色々なジャンルでの先駆者でもある、質・量共に戦後最大の作家と言って良い でしょう。逆に言えば、特定のジャンルに限れば、その分野のスペシャリスト がいますので、代表作が分かれます。 本作はデビュー作ですが、現実は数年後に全面改稿された作品です。改稿前の 作品は「初稿」と呼ばれます。これも評価の分かれる作品です。 戦後の密室本格ブームの中での作品ですが、密室を構成した狙いに特徴があり 作者は「心理の密室」と強調しています。意味は読んで確認して下さい。
2.虚無への供物
中井英夫
塔晶夫名義のデビュー作で、作者自身はメタミステリと呼び、以降は幻想小説 が中心になりました。ミステリの愛好家をひねくった構成で推理ゲームで話が 進みます。まさか、後の時代に推理ゲーム形式の作品が雨後の竹の子の様に発表 されるとは作者の予想外と思います。当時、大長編と言われた長さも現在では普 通の長さになりつつあります。序章と終章にはさまれた、4つの章、それぞれに 1つの密室が登場します。メタミステリと言われる部分も現在では多くの追従作 があり、ピンとこない若い読者もいるようです。
4.不連続殺人事件
坂口安吾
純文学畑に分類されている人が推理小説を書くこともかなり増えてきました。 本格長編としては、初期にあたります。連続殺人の意味つけは昔から現在まで 色々試みられています。風変わりな登場人物の行動のなかに紛れ込んだ不自然 な行動に気づくかどうかがポイントです。本格ミステリとしては、不満な犯人 設定ともいえますが、その部分が狙いでもあり評価が分かれます。
5.黒いトランク
鮎川哲也
この作者は代表作を選ぶ時にいつも分かれます。結果的に上位に来ないのですが 選考前に絞っていたので上位になったのでしょう。一度異なる犯人で捜査が終わ った事件を、休暇を取って再捜査します。トリックも構成も伏線も充分にありま すが、退屈なぐらい重苦しくゆっくり事件はすすみます。やはり評価がわかれる 面があります。謎を説明する最終章「風見鶏が北を向くとき」はかなり有名です。
6.危険な童話
土屋隆夫
土屋も代表作が別れる作家です。長編に関しては、純謎解きから次第に小説的な 膨らみに興味が移ってゆきます。本作もその過程の作でまだ謎解きの比率が大き いといえます。各章の頭に書かれた童話、その意味が小説全体を支える重要な意 味があります。類似の形式の作品は、その後も多く書かれていますが本作ほどに 効果があるとはいえません。事件・逮捕から始まる犯人と捜査陣の駆け引きは、 特徴的な構成で印象的です。
7.11枚のとらんぷ
泡坂妻夫
雑誌「幻影城」第1回新人賞佳作作家の処女長編です。この投票の間に「乱れか らくり」が発表されました。本雑誌出身の強みもありますが、横溝ブームのなか で、新しい本格推理小説の書き手を望む愛好家を満足させる泡坂への期待と支持 は大きいものでした。その後の大活躍を見ると、この結果は投票者は先見の明を 密かに自慢しているでしょう。自身が奇術師でもある作者がその世界を題材にし た本作は、トリックを多数含み強引さもありますが本格推理小説に飢えていた読 者の支持をえるに充分な内容です。
8.黒死館殺人事件
小栗虫太郎
3大奇書とも4大とも言われ続けています。しかし、難解な内容を理解しえる読 者は少ないと思います。私自身も同様で、理解を超えた作品であり続けています 。1冊の中に数え切れないアイデアを詰め込んだ本作は、奇才小栗でも2度と書 くことはありませんでした。舞台になる黒死館自体が謎に包まれ、館の構造自身 がまだ明らかにされていません。
9.点と線
松本清張
社会派のはじめと言う人も多いですが、内容は動機に社会性を持たせただけで典 型的なアリバイ崩しの作品です。松本は幅広いジャンルの小説と共にドキュメン タリーや研究物の作家でもありました。従って推理小説でないものまで、同じ扱 いを受ける誤解が発生して、社会派推理小説が単なる社会派小説との区別がされ ないという残念な方向に進みました。結果として社会派の功罪という松本にとっ ては言われ無き批判も登場してしまいました。松本は20年代の暗いイメージの 推理小説を一般的な社会に登場させた功労者であり本作もその成果です。
10.ドグラ・マグラ
夢野久作
黒死館と共に昔から奇書と呼ばれ続けられている作品です。評価が正当になされ る様になったのは、鶴見俊輔の再評価以降と言われています。個人的には代表作 が本作と数ページのみの「瓶詰めの地獄」という極端な見方を持っています。本 作は色々な解釈が出来、多数の小説等を組み合わせた複雑な構造を持っています 。文章的には容易に読めますが内容の理解は読むたびに変わります。
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雑誌・幻影城のベスト99。
選ばれた作品の感想です。
あくまでも主観的なものです。
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あくまでも主観的なものです。