推理小説読書日記(2021/11)
2021年11月01日
大忙しの二日間<新井素子>
1986年の作品で副題が「結婚物語 下」だ。作家・陽子と会社員・正彦は、前作まででようやく結婚式の日程が決まった。いよいよその直前になり、そして結婚式当日での 式の内容とその当日夜までが描かれる。残った準備での中で新婚旅行の事をようやく考え始めた。そして式は予想と異なる進行で進む。二人は緊張も重なりぐったり疲れてしまう。
2021年11月01日
葛登志岬の雁よ、雁たちよ<平石貴樹>
2021年の作品で函館を舞台にして、フランス人青年・ピエールが推理するシリーズの3作目だ。地方都市警察の事件でのそれほどに情報化が進んでいない中での本格ミステリだ。 3作目の本作は特に古典的なミステリの味が濃い。やや複雑な家族と、フランス人神父の教会等のある郊外と山際の土地が舞台での複数殺人が描かれる。
2021年11月01日
社長室の冬<堂場瞬一>
2016年の作品で2019年に文庫化された。新聞社日本新報を舞台に記者・南康祐が登場するシリーズの3作目だ。社長室に異動した南は、経営悪化による経営統合を図る社長の死が起きる。それを継いだ新社長がネット専念新聞の外資系企業と秘密に交渉を続ける。だが情報漏れから、反対勢力が動き始めた。紙新聞かネット新聞かの選択も迫られる。
2021年11月01日
落語推理 迷宮亭<>
2017年に刊行されたアンソロジーで落語をテーマにしたミステリ8作が掲載されている。大下宇陀児の「落語家変相図」や快楽亭ブラック「幻燈」などの戦前作から2000年 以降の最近作まで広い時代の作品が集められている。個人的にはかなりの既読作もあり知名度の高い作も多いようだ。
2021年11月07日
怪獣男爵 横溝正史少年小説コレクション1<横溝正史>
2021年に出版された「横溝正史少年小説コレクション」の1冊目で、長編「怪獣男爵」「大迷宮」「黄金の指紋」が収録されている。怪人・怪獣男爵が登場する3作だ。後ろの2作には 金田一耕助が登場するが、作品の性格・性質からか、変装する活劇探偵である。角川文庫や朝日ソノラマ文庫でも読んだが微妙な食い違いについては編者の解説が詳しい。
2021年11月07日
予は如何にして文士になりしか<橘外男>
2021年に出版された単行本未収録作品の短編集の全3冊の2冊目だ。6作収録で実話風に書かれた作品だ、だが解説によれば橘の実話風小説は内容には相互に矛盾があると言う。 実話と言うのは雑誌のコメントであり、作中に橘外男が登場してもミステリ読者は区別出来るだろう。だがこの本に収録されている並木行夫「伝記読物 小説橘外男」までが似た紛らわしい 内容であり、当時の作為を感じる。今回の本の副題「自伝物語篇」はあえて実話の表現を避けたと思える。
2021年11月07日
浮世絵殺人事件<福本和也>
1980年の作品だ。福本が航空機ミステリの作者で、本作も東京の高層ビルから消えた人物とかなり離れた位置で見つかった死体が繋がるかの謎が提示され、方法が浮かぶが実現性は不明だった。 同時に島根の境港での死体と謎が提示される。東京の刑事と島根の刑事と海上保安士がそれぞれに事件を追う展開となる。
2021年11月07日
幻月と探偵<伊吹亜門>
2021年に出版された。昭和13年頃の満州のハルビンや新京を舞台にした事件を、探偵・月寒三四郎が調べる。軍と豪族等の利権が入り乱れている時代と場所を背景にするので、探偵の 捜査も制限される事が多く、孤独であり利権争いに巻きまれて度々引き受けた事を反省する。やや特殊な背景の中での本格ミステリが展開するが、逆にオーソドックとも言える。
2021年11月13日
超特急「つばめ号」殺人事件<西村京太郎>
1983年の作品で、19871年に文庫化された。十津川警部シリーズの1作だが、昭和58年現在と昭和15年の事件が並行して描かれて同時に解決に進む。昭和15年に運行した「つばめ」は記録的には 通常運行されていた。昭和58年に新しい特急「つばめ」が同日同時刻に運行される事になり43年前の関係者かその家族が招待された。そこでの事件には昭和15年の事件が関係すると思われた。
2021年11月13日
あほうがらす<池波正太郎>
1985年に出版された再編集の、時代小説の短編集で、1978年に出版された複数の短編集から短編10作が取られている。背景の時代は、戦国時代と江戸時代だ。歴史に登場する人物を描いた作品も 含み、浅野内匠頭や鳥居強右衛門や荒木又右衛門等だがマイナーな人物もあり、他と区別できるわけでは無い。
2021年11月13日
猫柳十一弦の失敗<北山猛邦>
2013年に出版されて、2016年に文庫化された。探偵・猫柳十一弦とそこで探偵助手を学ぶ生徒2人が主人公の作品の2作目だ。設定も猫柳の人物設定も一般的な探偵と較べると逆説的だ。 事件を予見して防ぐ事を目標にしているが、詰が甘くて自身が怪我を負い危なくなりがちだ。大がかりな機械的なトリックを作動前に見つけて、場合によっては作動が描かれるのは、斬新だ。
2021年11月13日
首イラズ 華族探偵局長・周防院円香<岡田秀文>
2020年の作品だ。大正時代に華族探偵局が作られて、局長に周防院円香が就任したがとにかく華族のお嬢さんだった。相手役を命じられた警部補からの視点で戸惑いと呆れの中で、複雑な伯爵家 で起きた事件を解決する事になった。華族探偵局ならではの事件かも知れないが、首無し事件と首無しの呪いはギリギリの大正時代の謎とも思える。
2021年11月19日
ひでおと素子の愛の交換日記<新井素子>
1984年のエッセイ集であり、1987年に文庫化された。新井素子のエッセイ文と、吾妻ひでおの漫画のコラボだ。だから絵本とも言えるし、私小説ともいえる、或いはエッセイと言っても 創作談だろうから普通の小説とも言えるし、題材にはSF的な事も多い。SF作家は実に自由だ。
2021年11月19日
大聖神<横田順彌>
1994年の作品を2021年に復刊された。中村春吉秘境探検記シリーズの長編であり、短編集「幻綺行」も2020年に復刊されている。SFであるが小説のスタイルは小栗・橘・久生・香山らが 描いた秘境冒険談だ。シベリアで繰りひろげられる、色々な国の思惑の競争に、SF的な参加者が加わる。自転車世界無銭旅行者の中村一行が関わてゆく。
2021年11月19日
空白の家族<堂場瞬一>
2020年に出版された警視庁犯罪被害者支援課シリーズの7作目だ。主人公の村野はすっかり警視庁のあちこちで有名になっている。村野がいる事で成立するストーリーになっている。 担当部署も村野に任せている感もある。逆に支援課としての活動は描かれにくくなり、村野のみの動きを描かれる。故に村野の捜査課復帰の噂も上がってきている。
2021年11月19日
若さま侍捕物手帖29 しぐれの伝八<城昌幸>
2021年に復刊された全集を目指すシリーズの29巻目だ。若さま侍が主人公のシリーズで、昭和40年の長編「しぐれの伝八」と、短編が4作収録されている。長編は伝記時代小説の傾向が 強い作が多いが、後期のこの頃になると中編的な題材で、捕物帳の内容が濃い作品が増えてきている。主人公の若さまの登場と活躍が増えており、シリーズとして短編との落差は減っている。
2021年11月25日
太閤暗殺<岡田秀文>
2004年に出版され、2012年に文庫化された。豊臣秀吉の末期の豊臣秀次の関白時代に、秀次の側近が秀吉の暗殺を図る。それに対して京都所司代・前田玄以と奉行・石田三成らがそれぞれの思惑で 不審者・暗殺者を探して防ごうとする構図が描かれる。歴史小説と伝記小説と時代ミステリの一面が含まれるので、意外な展開や裏の動きも含めて進む。
2021年11月25日
影踏亭の怪談<大島清昭>
2021年の連作作品集だ。語り手の姉が怪談作家であり、それと並行して姉の原稿が掲載される。怪談作家が不思議な現象を追ってそれを作品に書くという構造がある。その仮定での姉が関わる 事件を語り手が描くという構造の中に組み込まれているので、判り難く奇妙な雰囲気を持たらす。外観的には解ける怪異と、解けない怪異の並列に見える。
2021年11月25日
光瀬龍ジュブナイルSF未収録作品集<光瀬龍>
1968年から1976年にかけての作品を2021年に作品集として編者・大橋博之が組んだ。初期の作品であり、未収録集なので、懐かしいシリーズがあり、更には単行本で読んでいる作品とイメージ 的に繋がる作品が登場する。多いのは時間旅行テーマであり、過去から来た忍者の話であり、第3次世界大戦テーマだったり、超能力だったり、宇宙侵略者テーマだったりする。
2021年11月25日
メルカトル悪人狩り<麻耶雄嵩>
2021年の連作作品集で、探偵役のメルカトル鮎が関わる事件を、ワトソン役の作家・美袋三条が描く。一部を除く最近4年の作品だが、長さはバラバラだ。探偵のキャラが事件を呼び込み、 語り手のキャラが事件を混乱させてしまう。2人のコンビが、作者の奇想の世界を描く形になる。
2021年11月25日
つめたい転校生<北山猛邦>
2013年の短編集で、2016年に文庫化された6作の短編集だ。題名は「人外境ロマンス」から変更された、どちらも収録されている短編の題だ。この作品集のテーマを如何に表すかで 見ると、間接になったと思える。どの作品が好きかは、読者ごとに別れそうだ。
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2021/11に読んだ本の感想を随時書いてゆく。
本格推理小説が中心ですが、広いジャンルを対象とする。
当然、ネタばれは無しだがそれは理解度で変わる。