推理小説読書日記(2021/09)
2021年09月02日
十津川警部の怒り<西村京太郎>
1990年に出版され1993年に文庫化された、3作収録の短編集だ。十津川警部シリーズはトラベル・ミステリーと呼ばれた膨大なシリーズで、鉄道を舞台にした作品が主流だ。鉄道が トリックに使用された作品に代表作が多くあるが、時代と共に廃止されたり変更されたりで、いつの時代でも成立する事はない。そこを判った上で楽しめるかが、ファンになれるかの ポイントだ。本集の3作品は、トラベルミステリとトリックだが、発表時の時代が前提だ。
2021年09月02日
若さま侍捕物手帖27 かんなぎ崩れ<城昌幸>
1962年頃の短編2作と、1965年の長編を収録して再編集して2021年に復刊された。長編「かんなぎ崩れ」は伝奇時代小説の色合いが濃い、若さまも早く登場するが、全体が多視点で書かれて おりいつもとは趣が異なる。岡っ引き・小吉は被害者的な面もあり、若さまもあるいは同様かと思わせる展開だ。怪奇色・SF色が濃い。
2021年09月02日
影の守護者<堂場瞬一>
2018年に出版された「犯罪被害者支援課」シリーズの5作目だ。基本は捜査を行わない係であり捜査課とも微妙な関係だ。本作では警察官が被害者であり、被害者家族の息子が捜査1課の刑事だ。 憔悴する母と異なり、自分で犯人を見つける為に命令を無視して動きまわる、支援課・村野は監視の名目で、時間外の夜に、ペアを組んで捜査を行う事になる。
2021年09月02日
妖精悪女解剖図<都筑道夫>
2021年に再編集で復刊された短編集だ。解説によると、もとは初期短編を収録した短編集でそこに別の作品集から追加した。都筑はシリーズキャラクターが多く、そのキャラクター毎に 作品集を出している。その結果で残った短編を、溜まったころに短編集としたのだが、それには何かのきっかけが必要であったと言う、例えば溜まった短編を集めた作品集のシリーズが その一つだと言う。
2021年09月08日
戦時大捜査網<岡田秀文>
2020年の作品で、第二次世界大戦時の東京を舞台とした警察小説だ。75年前は時代小説なのか現代小説なのか微妙だが、時代性と共に戦時下でしかも、東京も空襲にあっており、捜査中も 度々避難を行うし、ついには膨大な死者が出る事態にもなる。警察と共に、特高警察がいるし、さらには陸軍も動いている状態は特殊の状況だ。警察捜査でスパイが浮かびあがると、他の介入が あり大きく展開する。
2021年09月08日
赤い部屋異聞<法月綸太郎>
2019年の短編集だ。短編9作が収録されて、それぞれに分断された作者の後書きが付いている、その方が判り易いと説明されている。他の作家の作品のオマージュ短編の企画から始まり、 アイデアなり手法なりで何かの作品がきっかけになった短編を集めた作品だ。パズル・ミステリとは異なる作品集だ。
2021年09月08日
眠たい瞳のお嬢さん 結婚物語(上)<新井素子>
1986年の作品でSFでなくて普通小説だと書いてある。3冊の最初だがそれでも、作者のあとがきはある。主人公で作家の原陽子と恋人・大島正彦が主に家族の障害??を乗り越えて、婚約に たどりつくまでが(上)の内容だ。反対では無くて、引き伸ばしという事態に迷走する二人が描かれる。この様子だと、いくらでもトラブルは起きそうだ。
2021年09月08日
小説 真田幸村<>
2015年に出版された、時代小説のテーマ別・アンソロジーで、編者は末國善己だ。短編9作を収録する、本の題名は知名度からだが、内容は戦国時代の真田三代とその周辺人物を描いた 小説を集めた。真田幸隆、真田昌幸、猿飛佐助、曽呂利新左衛門、真田幸村、真田大助、樋口角兵衛等が主人公だ。
2021年09月14日
異常心理犯罪捜査官・氷膳莉花 剥皮の獣<久住四季>
2021年の作品で女性刑事・氷膳莉花が主人公のシリーズの2作目だ。猟奇的に見える犯罪の動機は何かだが、天才犯罪心理学者が登場する訳だから一般的な動機ではない。むしろ未知の毒的な 意味合いがある。動機探しかも知れないし、それは推理出来ない内容かも知れない。サスペンス色や怪奇色も強く、中心登場人物のキャラも強い。
2021年09月14日
燃える地平線<橘外男>
2021年に出版された短編集で復刊的だが単行本未収録作品も含む、3冊予定の1冊目だ。4作収録しているが、実話風の小説スタイルであり、作者を思わせる名の人物も登場する。 だが解説で「この作者の実話風小説は、真実かそうでないかは判らない」とされる。会話は多いが、段落と空白が少なく、活字と漢字が詰まった、いわゆる黒っぽい文章で、読んでも読んでも 先に進まないが、予想外の展開は楽しい。
2021年09月14日
ナゴヤドームで待ち合わせ<>
2016年に出版されたオリジナル・アンソロジーだ。収録作者は、太田忠司・吉川トリコ・鳥飼否宇・広小路尚折・深水黎一郎だ。ミステリー作家が多いが、意外なのか当然なのか ミステリーは無い。野球と中日ドラゴンズに詳しく無いならば、判り難い内容だ。
2021年09月14日
運命の証人<デヴァイン>
2021年に翻訳出版された。デヴァインの長編は13作で、翻訳は12作目だと言う。シリーズキャラクターが存在しない本格ミステリだ。第1部は語り手の周囲で起きた殺人と語り手の結婚まだが描かれる。第2部ではさらなる死と主人公の逮捕までだ。第3部は裁判が描かれて意外な証言が出てくる。第4部でさらなる意外な展開で真相が判る。
2021年09月20日
沈黙法廷<佐々木譲>
2016年の作品で2019年に文庫化された。3章に別れた長い長編で、家政婦・山本美紀が東京と埼玉の別の時期の別の事件の参考人になる。2章で互いの警察が他の事件で証拠があると間違った判断で 状況だけで逮捕に踏み切る、埼玉の検察は公訴を断念したが東京では公訴された。3章で法廷が描かれ、公訴事件は証拠がないままで被告が隠していた過去の事件が明かされてゆく。
2021年09月20日
京都 恋と裏切りの嵯峨野<西村京太郎>
2000年の作品で2001年に文庫化された。十津川警部シリーズの1作で、休暇で京都嵯峨野に旅に行った十津川が見かけ女性に何故か注意が向く。そしてその女性が殺されて事件が展開する。京都を 舞台にした旅情ミステリだが鉄道ミステリではない。
2021年09月20日
人魚と提琴<石神茉莉>
2008年の作品だ。提琴はヴァイオリンと読む、幻想小説なのだろう。舞台と背景がぼやけた状態で小説が展開するが、始めて読む作者ではそれはなかなか理解が厳しい。記憶の中の謎は幻想的であるが なかなか明確には出来ない。
2021年09月20日
泥濘<黒川博行>
2018年の作品で2021年に文庫化された。ヤクザ・桑原とコンサルタントの二宮のコンビが活躍する、通称・役病神シリーズの7作目だ。不死身の桑原も重症になり、二宮も色々と起きる。組織暴力対策法 が出来ており、ヤクザの世界もそこの権力構造も変わっているので色々なタイプが登場する。それは警察関係も同じであった、桑原と二宮は金を求めてその複雑な利権構造に踏み入った。組長・島田や 桑原の妻・多田真由美や捜査4課刑事・中川らの存在も大きい。
2021年09月20日
不信の鎖<堂場瞬一>
2019年の作品で、警視庁犯罪被害者支援課シリーズの6作目だ。シリーズ最大級の主張し過ぎる被害者家族への対応で村野は追われる。村野と合わない支援課・長住との関係が破局に向かう。 容疑者が別の事件で犯人と判るが全面自供にならず、またも長期化してゆく。
2021年09月26日
開化鉄道探偵<山本巧次>
2017年の作品で2021年に文庫化された。題名どうりに、明治12年の京都と大津間のトンネル工事中に起きたいくつかの事件を、元同心・草壁と見習い技師・小野寺が捜査する。鉄道創成期 の鉄道を舞台に、科学捜査ではなく聞き込み捜査で事件を解決してゆく時代鉄道ミステリーとも言える作品だ。
2021年09月26日
炎舞館の殺人<月原渉>
2021年の作品だ。黒字に白抜き文字が目立つ目次が特徴だ。明治時代の山陰地方の山奥の陶芸家の窯が舞台で、当主が集めた弟子は体のどこかが不自由だった。そこでの当主の失踪から始まる、 複数の事件が起きてゆく。度々、断章が挟まれるがそこは横浜居留地であり、どことなくシリーズ探偵役の「つゆり静」の登場を予感させる。
2021年09月26日
炎天夢<今野敏>
2019年に出版され2021年に文庫化された作品だ。東京湾臨海署強力班安積警部補とその班が事件を追うシリーズの1作だ。本庁捜査課との捜査本部の中で、色々な思惑や他部署の捜査員から の個人的な依頼のなかで、安積がバランスを取りながら班全体で捜査して、捜査本部全体でも成果を上げて行く。/p>
2021年09月26日
小説集 黒田勘兵衛<>
2013年の末國善己編の時代小説のアンソロジーだ。菊地寛、鷲尾雨工、坂口安吾、海音寺潮五郎、武者小路実篤、池波正太郎の作品からなる。題名「黒田如水」が4作ある。アンソロジー だから作品内容・傾向はバラバラだが、それを承知で読むと逆に面白いだろう。鷲尾雨工は中編であり、さらに一番フィクション味が大きい。
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2021/09に読んだ本の感想を随時書いてゆく。
本格推理小説が中心ですが、広いジャンルを対象とする。
当然、ネタばれは無しだがそれは理解度で変わる。