推理小説読書日記(2021/08)
2021年08月03日
豊臣探偵奇譚<獅子宮敏彦>
2021年に出版された連作長編だ。豊臣秀長の養子で大和の当主となった豊臣秀保が主人公だ。十台で当主となり体が弱くて十台で死んだとされる。おおまかな歴史に従う所はあるが、全体も 細部も自由な発想と奇想で描かれる。大がかりなトリックがはめ込まれた時代ミステリだ。SF性・伝奇性も満ちている。
2021年08月03日
風の轍<岡田秀文>
2008年の作品だ。越前の朝倉義景が一人の主人公で、その時代の一乗谷で栄えた商家「鍋谷」の娘・志乃がメインの主人公だ、抜荷が発覚して家が無くなり国を逃げるが盗賊に捕まり人生が変わる。 のちに小さな店から再興を図り京都・美濃・尾張・若狭と店を変えて越前を目指す。もう一人の主人公が商人・慶次郎で義景の情報収集を行いながら、影で志乃を助ける。足利義昭・明智光秀・ 織田信長・浅井長政の戦いと、志乃と慶次郎の商いの戦いが描かれる。
2021年08月03日
魔法使いと刑事たちの夏<東川篤哉>
2014年に出版され、2017年に文庫化された5作からなる連作集だ。所轄の美貌の女警部・椿木と部下の小山田刑事らの捜査を描く筈だが、小山田家に魔法使い少女が現れた事でややこしくなる。 事件は犯人側と刑事側の双方から描かれるが、なにしろ犯人かどうかだけなら魔法で判る、ただそれでは逮捕は出来ない。
2021年08月03日
猫柳十一弦の後悔<北山猛邦>
2011年の作品で、2015年に文庫化された。名探偵の助手を育成する学部に入学した語り手は、ゼミ担当の影のある女性探偵・猫柳十一弦に出会う。夏に別の名高いゼミと孤島合宿に参加したが そこで殺人事件が起きる。そこで猫柳が推理力があること、ただ詰が甘い事、他人を助けて自分が怪我をする事が判った。そして連続殺人事件は解決するのか・・・。
2021年08月09日
お勝手のあん<柴田よしき>
2019年の作品で時代小説だ。長編だがシリーズの序章的な内容だ。小さい頃に宿の主人に拾われた主人公の「やす」はそこで10代に成長して雑用を行う。そこでの生活が描かれて、次々と 新しい登場人物が加わって行く。やすは見習いだが、特別な味が判る才能があり、料理にも関わって行く。
2021年08月09日
くらげ色の蜜月<戸川昌子>
1968年から1970年頃の短編作品を、2020年に再編集して復刊した作品集だ。広義の変格ミステリだがそれでは捕らえきれない、細部は色々なジャンルがある内容の多彩な作品集だ。ようするに 全体を表す事がむつかしい作品群だ。当時の江戸川乱歩賞作家は本格ミステリでのデビューが多くそのジャンルの作品が多かったが、戸川は異色の作家だった。
2021年08月09日
いつか猫になる日まで<新井素子>
1980年の作品で作者の2冊目の本だという。作者曰く「目いっぱい明るい、能天気な話」でSFコメディとある。20才の主人公・桃子とその仲間たちがUFOを見つけて、調べると宇宙船だった。 その目的や状況を知り巻き込まれてゆく。ただ仲間の中には特殊能力もあって、地球の外へも飛び出して行く。
2021年08月09日
特急「おおぞら」殺人事件<西村京太郎>
1987年の作品で1990年に文庫化された、十津川警部シリーズの1作だ。十津川の相棒の亀井刑事が家族で北海道旅行中にその息子が誘拐されて、騒ぎのなかで犯人の罠で殺人容疑がかかり逮捕 されてついには送検される。十津川らは管轄外だが、亀井の無実を信じて助ける為に、真犯人を追うことになる。
2021年08月09日
メビウス<堂場瞬一>
2016年の作品で2019年に文庫化された。42年前の爆発事件後に消えていた男が、東京に現れて当時の知人を訪ね歩く。作家になった女性の作中作と、主人公が弟らとの思い出を語るなかで当時の 事件が再構成されて行く。その行動が、隠されていたことや、止まっていた事を一気に動かして行く。
2021年08月15日
私がモテないのはどう考えてもお前らが悪い!アンソロジー<>
2019年のオリジナル・アンソロジーだ。参加者は谷川ニコ・辻真先・青崎有吾・相沢沙呼・円居挽で「私がモテないのはどう考えてもお前らが悪い!」を背景にした、短編集だ。オリジナル作品を 私は全く知らないので、内容も全く判らなかった、流石にそれは無理だった。
2021年08月15日
ボーンヤードは語らない<市川憂人>
2021年に出版された短編集で4作からなる。デビュー作以来の探偵役である、マリア・ソールズベリー警部と九条連刑事が登場する。過去のそれぞれの学生時代の話と、2人が始めて出会い 解決する話も含まれる。探偵役二人の個人データが判る内容となっている。ほぼ不可能事件を扱うのは長編作品と同じだ。
2021年08月15日
完本 人形佐七捕物帳8<横溝正史>
1952年から1954年の作品を発表順に再編集して2021年に復刊された。10冊全集の8冊目だ。最初に別のシリーズ作品「朝顔金太」「左門」それぞれの捕物帳で発表された作品が、その後に 人形佐七作品に書き直された作品も多数含まれる。それらの作品は、佐七一家の日常と会話を描きにくいので、内容的には異質感もあるが、それも面白いと言える。
2021年08月15日
叙述トリック短編集<似鳥鶏>
2021年に出版された、題名が「叙述トリック短編集」だが、短編集なのか、連作集なのか、連作長編なのか、長編なのかは微妙だ。内容を語れないのがミステリだろう。最初から順番に読むのが 正しい読書方法だ。解説もあった方が良かったかも知れない。
2021年08月15日
駒形堂の藤吉親分捕物話<岡田鯱彦>
1971年のシリーズ作品3作と、1954年の別の作品と、再編集して2021年に復刊された。藤吉親分が主人公の作品3作だが雑誌事情で中断したので当然ながら完結感はない。発表年は捕物帳 ブームから相当に後で、数は少なくなったが幾つかが継続的に書かれていた時期だ。他の「西鶴浮世草子」は西鶴の文章の現代訳の形態を取る、岡田作には他にもある。
2021年08月21日
新・本格推理 特別編<>
2009年のオリジナル・アンソロジーで二階堂黎人編集のシリーズの最終巻だ。通常は全作が公募だが特別編は公募は1作で残り6作はシリーズ登場後に作家デビューした作家を集めた。 その意味ではプロ新人作家のアンソロジーだ。おおむねは本格ミステリだが、本格度には濃淡はある。個人的には、100枚ものの短編はアマには難しく、読者的に読み難い作品もあったと思う。
2021年08月21日
私の嫌いな探偵<東川篤哉>
2013年の短編集で、烏賊川市シリーズの1作で、私立探偵・鵜飼杜夫と相方的な二宮朱美とが関わる事件の短編5作を収録する。ユーモアとどたばた劇が展開する中で、かなりトリッキーな トリックが仕込まれた本格ミステリだ。ギャグやどたばたが伏線になる事もあり、油断がならない。
2021年08月21日
城盗り藤吉郎<岡田秀文>
2005年の文庫書き下ろしの時代小説だ。1563年に木下藤吉郎とねんが結婚してから、1567年に稲葉山城が落ちて織田信長の美濃征伐が成功するまでの、藤吉郎とねねを描く。ただし藤吉郎は いつも戦場に出ており、ねねは留守宅を守る役になる。両方に起きる事件を並行して描く。
2021年08月21日
逢う時は死人<天藤真>
1962年から1964年に書かれた短編を再編集して、2021年に再編集して復刊された。作者はユーモアのある文体と展開でサスペンス色の濃い本格を中心に書いているが、その作者の初期の短編 8作を集めた。作者の作品は角川文庫と創元推理文庫の多くが載っている、今回も多くはその範囲だが記憶がない作品は楽しみ読んだ。
2021年08月21日
無垢の傷痕<麻見和史>
20211年の連作短編集だ。副題が「本所署<白と黒>の事件簿」で、黒星達成刑事と白石雪乃刑事がコンビで主人公となり事件を解決する。黒星は名前がトラウマでマイナス思考だが、白石は 楽天派の設定だ。おおむね黒星が早くに諦めるが、おっとり楽観派の白石が現場や容疑者の「傷痕」を見つける展開となる。
2021年08月27日
先生、大事なものが盗まれました<北山猛邦>
2016年の連作集で、3話からなる。島にある3つの高校は、怪盗の高校と探偵の高校ともう一つだった。それぞれに通う幼馴染が、伝説の怪盗を調査する。その謎はそもそも何が盗まれたかだった。 それを教師が助けるがやはり普通ではない。盗まれたものは見える物とは限らず、探偵のロジック的にもややこしいもので、どんどん手ごわい内容になる。
2021年08月27日
麻倉玲一は信頼できない語り手<太田忠司>
2021年の作品だ。特殊状況であり、弱い特殊設定とも言える。主人公・克哉は奇妙な依頼をそのまま受けて、孤島へ行き最後の死刑囚のインタビューとその本の執筆に向かう。そこでの話は 信じられない内容だが、そもそも何が信頼できないのかが問題だった。
2021年08月27日
ネメシス6<青崎有吾・松澤くれは>
2021年の中編2作の作品集で6冊目になる。テレビドラマ「ネメシス」の脚本協力作と、スピンアウト作品になっている。ドラマは終わっているので、観てから小説を読む順になる。 レギュラー登場人物についてはドラマか前作を読んでいる方が判り易いのは仕方がない。どちらもコンゲームの形式を取るが、誰に対して仕掛けているのかは異なる。
2021年08月27日
逆恨みのネメシス<新井素子>
1986年の作品で、シリーズ4冊目で、作者の言葉によれば「一話の途中だが完結した話」となる。火星の探偵事務所にいる主人公・あゆみが逆恨みを受けるが相手を憎めない。その状況での 色々な事件・トラブルが描かれる。SFである事を忘れてしまう展開とも感じる。
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2021/08に読んだ本の感想を随時書いてゆく。
本格推理小説が中心ですが、広いジャンルを対象とする。
当然、ネタばれは無しだがそれは理解度で変わる。