推理小説読書日記(2020/10)
2020年10月01日
箱根地獄谷殺人<島田一男>
1950年頃に書かれた連作集「犯罪山脈」で、1988年に文庫版で復刊した。30年以上後の復刊で作者の作品傾向も変わっていたが、デビュー当時は本格ミステリが中心だった。 本作は新聞社支局での社会部記者ものだがその後にこの作者は、事件記者シリーズで知られる事になる。
2020年10月01日
平成ストライク<>
2020年の「平成の起きた出来事」を題材にした書き下ろし短篇を集めたオリジナルアンソロジーだ。ミステリ作家を中心に9人が参加する。ドキュメンタリー小説や 社会派小説が本業でない作者が殆どだから、異色作が集まると言えるが、それが良いかどうかは別だ。物足りない面も強い。
2020年10月01日
色仕掛 深川あぶな絵地獄<多岐川恭>
1990年の作品で、8話からなる連作集で、2004年の文庫化だ。江戸時代の絵草紙屋と仲間の男女数人を中心とした表の仕事と、裏での仕事とを描く。悪と悪の対決、裏稼業と 裏家業の対決の雰囲気だ。膨大な数の多岐川の時代小説の1つだ
2020年10月01日
鏡館の殺人<月原渉>
2020年の作品だ。明治時代の横浜や鎌倉等を舞台にした、使用人探偵・栗花落静(つゆり・しずか)を主人公にたシリーズの4作目だ。時代も雰囲気も展開も、小栗虫太郎の 作品を思わせる、幻想と怪奇とトリックの中で展開する。本作は題名通りの館もので、終始館内で展開する、勿論閉ざされて・・。
2020年10月07日
新・本格推理06<>
主としてアマチュアの公募短篇を集めたアンソロジーのシリーズの1冊で、2016年の刊行だ。後に別名が判った藤原遊子や、後にプロ作家デビューした鏑木連・七河迦南も登場 している。100枚物なので短篇でも長めであり、奇妙・奇想トリックが混ざり読むのはかなり厄介だ。
2020年10月07日
東京地下鉄殺人事件<西村京太郎>
1988年の作品で、1992年に文庫化された。警視庁の十津川警部と十津川班が捜査するシリーズの1作だ。地方の人間には東京の地下鉄網は乗りこなせなく、位置関係も判らない。 小説の中盤以降は地下鉄を離れた展開になり、地理的な意味は無くなる、その内容は社会派ミステリの雰囲気が強い。
2020年10月07日
完本 人形佐七捕物帳三<横溝正史>
1941-1942年の作品を、2020年に発表年順に再編集して全集かを行う、その3巻目だ。この巻の収録短篇は全て書き下ろしだ。また他の登場人物の作品を人形佐七に書き変えての 書き下ろしも多数含まれている。その中の幾つかは、最近に単行本化されたので読み較べが可能だ。
2020年10月07日
第四の壁 アナザーフェイス3<堂場瞬一>
2011年の作品。警視庁刑事課総務・大友鉄が主人公の警察小説シリーズの第3作だ。捜査員でないが特別に捜査に関わるという設定だ。第四の壁とは、演劇で舞台と客席との間に あると設定されて演じられて壁だ、客は壁の存在を忘れて劇を観る。大友が学生時代に属していた劇団の事件を捜査する。そこで顔馴染みの人物が多数いる。
2020年10月13日
幻の墓<森村誠一>
1967年の作品で1997年の文庫化だ。これは著者が「高層の死角」で江戸川乱歩賞を受賞する前に当たる。主人公二人の復讐を描くサスペンスで本格ミステリ味は無い。 作者は中期以降に社会派ミステリ・サスペンスを書いたがそこでは、警察捜査と併行して事件関係者の視点で描かれるが、本作はそこから警察捜査を抜いた形だ。
2020年10月13日
鶴屋南北の殺人<芦辺拓>
2020年の作品だ。現在に鶴屋南北の脚本が見つかり、それを芝居化を図る人物とグループがあり、それに関するトラブルに森江弁護士が関わる。そこで現代とその資料の謎があり、 資料と過去の謎が提示される中で現在に殺人事件が起きる。そして資料と脚本の謎が重ね合わせる様に次々表れて来て、描かれて行く。描かれる世界が判り難く難解だ
2020年10月13日
アゲハ<吉川英梨>
2011年の作品だ。副題は「女性秘匿捜査官・原麻希」で、原麻希が主人公の警察小説だが、内容的には警察を舞台にしているが、それとは異質なサスペンスだ。原麻希シリーズの 第1作だが不安定な状況での警察内ドラマという事だろうか。過去と現在が併行して描かれるが分離が難しい。
2020年10月13日
河内山宗俊懐中思案(下)<島田一男>
1953年頃の作品で2020年に再編集で2分冊で復刊された。その下巻で遊び人侍の片岡直次郎が関わる女絡みの殺人事件を、河内山宗俊が頼まれて毎回解決する連作の捕物帳だ。 ほぼ直次郎が容疑者でありその場で解決する必要がある設定だ。安楽椅子的に事件を聞き、1回だけ現場に行きその場で解決するまさしく名探偵だ。
2020年10月19日
棲月 隠蔽捜査7<今野敏>
2018年の作品で、2020年に文庫化された。キャリアの警視庁大森署署長・竜崎が主人公のシリーズ9作目で「隠蔽捜査7」だ。第二作で所轄署長に左遷されたが独自の手法で 事件に対応してきた竜崎は、この事件後に神奈川県警本部長に異動する。依然として多数の部署と意見の不一致はあるが突破して、事件を解決して行く。
2020年10月19日
焼跡の二十面相<辻真先>
2019年の作品だ。江戸川乱歩の少年向き小説に登場する、怪人二十面相と小林少年のキャラクターを使用して、オリジナルのストーリーでの謎とサスペンスを展開する。明智小五郎は 海外出張中で不在の昭和20年の終戦直後の東京で、小林は二十面相の予告を見つけて知り合いの刑事と予告を追う。 。
2020年10月19日
ツノハズ・ホーム賃貸二課におまかせを<内山純>
2017年に出版された連作集だ。賃貸住宅等の不動産仲介業の会社の課を舞台に正直だが気が弱い社員と、業務成績のトップをいつも争う先輩女性社員等が主人公で複数の物件と その問題を併行して描き解決する。概ね日常の謎だが、複数の謎を集めて一話となっている。
2020年10月19日
純喫茶「一服堂」の四季<東川篤哉>
2014年に出版された連作集で。2017年に文庫化された。鎌倉の奥の喫茶店「一服堂」の主人・ヨリ子が探偵役で客の話す事件を推理する。四季の4短篇からなるが、全体としても 仕掛けというかストーリーがある。複数解決案のスタイルがあり、最後にヨリ子が正解を出す。密室等の不可能犯罪系の謎が並ぶ。
2020年10月25日
パンダ探偵<鳥飼否宇>
2020年3作からなる作品集だ。動物が治める架空設定の世界を舞台に、アニマ探偵事務所の探偵のライガーとパンダが事件を捜査して解決する。色々な動物が登場するがそれ 自体が狙いであり、動物に関する知識が解決に必要となる。動物クイズ的な要素もあるが、それは本作での基本知識としているので、最初は戸惑うかもしれない。
2020年10月25日
月輪先生の犯罪捜査学教室<岡田秀文>
2016年の連作集で、2019年に文庫化された。明治時代の書生で登場して後に私立探偵になった月輪龍太郎が大学で犯罪捜査学教室を担当すると、3人が受講した。実際の事件を 実地捜査方式でそれぞれに解決案を出させる、最期に月輪が真相を述べる形式だ、多重解決がテーマの不可能犯罪の作品集だ。月輪シリーズは長編の解決部分が短くまとまるのが 特徴だったが短篇では逆に多重解決で解決部が長い。
2020年10月25日
伊豆・河津七滝に消えた女<西村京太郎>
1993年の作品集で、長めの短篇3作からなる、1996年に文庫化された。十津川警部とその捜査班が捜査するシリーズ作だ。副題は「十津川警部の叛撃」で、伊豆が舞台の作品2作と 、日光・鬼怒川が舞台の1作が収録されている。十津川直子や捜査班や警視庁のメンバーも細かく登場する。
2020年10月25日
殺人記事<島田一男>
1949年から1973の短篇から作者自身が選んで1974年に短篇集を出版した。それを再編集して1989年に文庫復刊された。刑事を中心にした、島田作品に登場するキャラクターを集めた 作品集となっている。この作者は作品数も登場キャラクターも多く、7作の本作品集は一部となる。
2020年10月31日
若さま侍捕物手帖16 おえん殿始末<城昌幸>
旧題「魔の死美人屋敷」を1962年に新版で「おえん殿始末」として出版された、それを2020に復刊された。若さま侍捕物手帖シリーズの長編だ。このシリーズは短篇がホームズ談 風のミステリ色が濃いが、長編になる程に伝奇時代小説色が濃く、同時に若さまの活躍は減っていた。「おえん殿始末」は若さまが前編に渡り活躍してミステリ味もかなり濃い事が 特徴であり、長編時代ミステリと言える。
2020年10月31日
魚葬<森村誠一>
1985年の連作集で、2014年に文庫復刊された。5作からなる短篇集だ。独立した短篇の、「魚葬」「神の怒色」「殺意の複製」「殺意の放浪」「鬼子母の末裔」が異なる手法で 描かれている。捜査・推理よりは犯罪小説・サスペンス等の味が強い。
2020年10月31日
消失者 アナザーフェイス4<堂場瞬一>
2012年の作品だ。アナザーフェイスシリーズ第4作だ。大友鉄は捜査3課の応援で窃盗犯逮捕に向かうが、窃盗犯が盗品を持ち逃げしたまま殺害された。被害者も消えて 双方を追い、捜査1課の応援で殺人を調べると、被害者も死んで見つかった。被害者側も捜査対象となり、複数の謎を追う事になる。
2020年10月31日
仕切られた女<高城高>
2020年の作品だ。副題が「ウラジオストク花暦」でシリーズの長編2作目だ。「ミリオンカの女」では1890年代後半を描いたが、「仕切られた女」では1903-1908年を描く。 日露戦争を含む時期で、同時に満州や樺太にも大きな影響があった。日本人が本国に疎開したり、満州での営業活動が描かれているが、最後には函館の支店に移る。日露戦争の 戦記としても詳しく面白い、満州も詳しく描かれる。
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2020/10に読んだ本の感想を随時書いてゆく。
本格推理小説が中心ですが、広いジャンルを対象とする。
当然、ネタばれは無しだがそれは理解度で変わる。