推理小説読書日記(2020/09)
2020年09月01日
遺品博物館<太田忠司>
2020年の作品だ。雑誌連載の連作短篇7作に、書き下ろしの最終話を加えて単行本化された。その最終話の比重が高いように感じる。遺品博物館員・吉田が生前の依頼で 死後に依頼者を代表する?遺品を選定して博物館に収納する設定だ。それを遺族や関係者の目線から描く。ミステリ色は濃いが綺談の色合いも濃い。
2020年09月01日
碧の十字架<森村誠一>
1992年の作品で、1994年に文庫化された。森村作品には「十字架」の題を付けた作品が幾つかある。コンビニ強盗の被害者の恋人女性が犯人を捜す、妹が行方不明の南雲が 出会った記憶喪失の女性と暮らし始める。新宿署の牛尾刑事らが殺人事件を追い、その過程で南雲から情報提供を受けて繋がりを持った。重なりながら全体が進行する。
2020年09月01日
地獄の辰・無惨捕物控3<笹沢佐保>
1975年の作品で1986年に文庫化された連作集だ。地獄の辰・無惨捕物控の3作目で副題は「明日は冥土か京の夢」、主人公・辰造は許嫁らに裏切られて、十手を捨てて江戸を旅立った 所から始まる。それを手下2人が追うが1人が殺される所から始まる。十手に嫌気がさす状態での捕物は如何になるか。
2020年09月01日
立待岬の鴎が見ていた<平石貴樹>
2020年の作品だ、函館を舞台にしたフランス人青年・ブラットが探偵役で舟見刑事がワトソン役の、2作目だ。7年前の3つの事件の相談を受けたブラットは、関係者の女性が 推理小説作家になって書いた作品を読んで大きな手掛かりを得て、事件を解決する。小説内の小説の比重が高い。
2020年09月01日
アナザーフェイス<堂場瞬一>
2010年の作品で、元警視庁捜査1課刑事だが、妻の死で子供の為に総務課に異動している大友鉄が主人公のシリーズの第1作目だ。時間的に余裕がある総務に異動したのだが 事件に関わってしまい、父親として悩んでしまう。周囲には刑事に復帰すると思っている人が複数存在すし、名前は知られているようだ。
2020年09月07日
河内山宗俊懐中思案(上)<島田一男>
1951-1961年の作品を集めて、2020年に復刊した。1980年の作品集「闇の顔役」に単行本未収録の短篇を加えて、再編集した作品集2冊の上巻で、短篇11作を収録する。 主人公の御数寄屋勤めの河内山宗俊が探偵役で、侍やくざの片岡直次郎が持ち込む自身の厄介事を仕方なく解決するのがメインとした、捕物帳だ。 抱えて進行する。
2020年09月07日
いつか岸辺に跳ねてゆく<加納朋子>
2019年の作品だ。この作者としては少ない長編だ。ただし二部構成で、前半は森野護が幼馴染みの平石徹子を語りながら進行して、社会に出てしばらくまでが描かれる。 中間からの後半は徹子の視点で自身と周囲が語られ、幼少から前半の時代までが描かれる。おおむね青春時代が中心だが、後半の中頃から全く違う内容に展開して行く。
2020年09月07日
ここに死体を捨てないでください<東川篤哉>
2009年の作品で、20121年に文庫化された。「烏賊川市シリーズ」の1冊で探偵・鵜飼らの登場するシリーズの長編だ。ストーリーは犯行を隠そうとする側の倒叙形式と、探偵側 からの別の事件の捜索が描かれ、後半から同じ館に色々な人物が集まると新たな事件も起きる。
2020年09月07日
御手洗潔の追憶<島田荘司>
2016年の作品集で、2018年に文庫化された。短中編7作からなるが、別の読本系から集められた物でミステリではない。小説に登場する色々な人物が、御手洗と近況等を騙る 内容となっている。御手洗自身は必ずしも登場しないし、全く時代も異なる作品もある。御手洗ファン向けのマニアックなメニューだ。
2020年09月07日
GEEKSTER 秋葉原署捜査1係 九重祐子<大倉崇裕>
2016年の作品で、2019年に文庫化された。内容が予想しにくい作品だ。秋葉原のオタク文化というか人物を描きながら、そこを制覇しようとする裏の陰謀を描く。それに巻き込まれた 九重祐子が次第にその世界に関心を持ち情報があつまり、ついには中心的に関わって行く。SF展開とオタク世界とを作者の好みで描いて行く。
2020年09月13日
不遜な容疑者たち<小杉健治>
1997年の作品で2000年に文庫化された。そしてテレビドラマ化された事で、2020年増刷されたがもはや復刊だ。当番弁護士を担当する、梶原藤子弁護士視点の短篇7作からなる連作集だ。 現在は時代小説が中心になっている作者だが当時は弁護士ものが多かった。法廷ものでなく刑事ものでもない、ただ担当する被疑者が簡単でない者たちだ。
2020年09月13日
ワースト・インプレッション<滝田務雄>
2014年の連作集で、2017年に文庫化された。副題は「刑事・理恩と拾得の事件簿」で性格が異様だが推理力はあるという二人の刑事の掛け合いから、事件が解決して行くという 連作集だ。ユーモアミステリであり、刑事ものだが事件に出会うスタイルに近いミステリだ。
2020年09月13日
山陰路殺人事件<西村京太郎>
1986年の作品で1989年に文庫化された。警視庁の十津川警部と亀井刑事が、山陰の城崎・鳥取・出雲で起きた殺人事件を追う。所轄の応援か捜査協力になるいつものスタイルだ。 併行して被疑者で逮捕された歌手のマネージャーが助けようと動きまわる様子も描かれる。東京と山陰の距離感が薄い展開で進む。
2020年09月13日
信長の影<岡田秀文>
2011年の時代小説の短篇集だ。ミステリも書く作者だが純時代小説だ。織田信長に関係する歴史上の人物8人を描く事で、信長も描こうとするようだ。上杉謙信・織田信光・ 浅井長政・柴田勝家・足利義昭・蒲生氏郷・織田秀信・土田御前が登場する。
2020年09月13日
若さま侍捕物手帖15 金づる駕篭<城昌幸>
2020年に再編集復刊された全集的なシリーズの15巻だ。短篇18作からなる。短篇の若さま侍シリーズのスタイルを基本とするが、発端と展開に僅かずつ変化が加えられている。 若さまが街で誰かと会うとか事件に遇う発端が例だ。「千両箱のみがわり」は少年雑誌に載った少年物で、少年の視点から事件と若さまを見る作品だ。
2020年09月19日
警察回りの夏<堂場瞬一>
2014年の作品で、2017年に文庫化された。新聞社の甲府支社が1つの舞台でそこで起きた事件で、解決が進まず報道が異様に過密になり、そこで誤報が発生した。地方記者の誤報が 支局から本社に伝わり全国紙で報道された。お詫びと取り消しを後日行うが、批判が多く、社長や上層部は対策を図る。第三者委員会設置で調査を決めた。委員会や記者が原因追及に 動いて、新たな展開が起きて行く。
2020年09月19日
飛鳥高探偵小説選2<飛鳥高>
1959-1963年の作品を2016年に再編集で復刊された。長編「死を運ぶトラック」と短編10作を収録している。スリラーとサスペンス味が強く、変格ミステリと言えるだろう。発表当時の 解説・評論も収録されているが、勘違いを除いても、個人の主観で見方が変わる作品群だ。ミステリ・探偵小説かどうかの見方まで関わる。
2020年09月19日
殺意の旅愁<森村誠一>
1990年に出版された短篇集だが、個々の雑誌発表は1971-1988年と広い。書かれた時期が広い事からジャンル・内容的にも多彩になっている。関係者と捜査陣らの複数の視点で併行して 描いて謎と心情を、小道具や地域と旅情も搦めて描いて行く。
2020年09月19日
蝉かえる<櫻田智也>
2020年に出版された短篇集だ。えり沢泉という昆虫好き青年が探偵役のシリーズの2冊目の作品集だ。作者は泡坂妻夫作品の亜愛一郎が好きでモデルだと言う。えり沢は突然に 現れるスタイルだが、本作品集では時代と場所を拡げているので正体いまだ不明感が強い。前の作の登場人物や展開が、後の作品に再登場する事もありそこでも拡がる。
2020年09月25日
続・詩歌の待ち伏せ<北村薫>
2005年のエッセイ集だ。「上」「下」に続く三部作の最終作だ。詩や短歌に関するエッセイだが、日本の古典から海外の詩の翻訳も対象にしている。本作では詩の翻訳による 差に興味を持つて比較する。詩の翻訳とは翻訳者の感性でありほぼ創作になるようだ。だが読者は、普通は1翻訳のみ読むので、それが原作だと思いこんでしまう。
2020年09月25日
雪旅籠<戸田義長>
2020年の連作集で、同じ登場人物の連作集「恋牡丹」の続編だ。ただし、時代背景的には前作品集の個別短篇作品の前後に挿入する設定になっている。このシリーズは主人公が 親の同心と、その後妻と、親の前妻との間の息子で跡取りの同心だ。時代設定で代わるので、作品スタイルも微妙に変化する。時代不可能犯罪ミステリが中心だ。
2020年09月25日
阿弥陀ヶ池の雪密室<黒田研二>
2003年の作品だ。シリーズ第2作となるが私は初見だ。探偵役がSF設定であり、シリアルキラーが登場して、起きる事件は多彩で沢山と言えるが、ごたごたしてまとまらない とも言える。作者は本格とトラベルの融合としているが、そのようなシンプルな小説ではない。
2020年09月25日
みかんとひよどり<近藤史恵>
2019年の作品だ。長編だが連作構成とも言える面もある。野性の鹿や猪や小鳥を狩して、それをジブエ料理に作る料理人だ。ただし狩が上手く出来ない、そこで猟をする 人物と出会い、その生き方に興味を持ちながら小鳥を供給して貰う。そこに料理店オーナーのジブエ料理好きが加わり、その世界が展開して行く。
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2020/09に読んだ本の感想を随時書いてゆく。
本格推理小説が中心ですが、広いジャンルを対象とする。
当然、ネタばれは無しだがそれは理解度で変わる。