推理小説読書日記(2020/05)
2020年05月04日
ケプラーの夢<ヨハネス・ケプラー>
天文学者・ケプラーが書いた空想科学小説が死後に出版された、日本では1972年に翻訳が出版された。小説は短いがそれにケプラーの注と、翻訳者の注と図版と解説が掲載 されて全体では長編的な分量になっている。月世界旅行の話しだが、万有引力発見前でロケットもない時代なので、霊的な手段での展開もある。今ならばその展開かと思うだけだが、 当時はそれが悪魔的だとされて糾弾されたらしい。
2020年05月04日
能面殺人事件<高木彬光>
1949年の作品で、度々復刊されている。2006年の光文社文庫版は短篇2作も掲載されている。千鶴井家の事件を探偵小説作家・高木彬光と石狩検事と高木の知人・柳光一の手記で 構成される。その3人はそれぞれが探偵役を演じているので、探偵役の手記なかりになる。奇妙な設定で難解な事件が展開してゆく。
2020年05月04日
いつ殺される<楠田匡介>
1957年の作品が、2017年に文庫版で復刊された。既読の筈だが、何故か殆ど憶えておらず、再読した。前半は作家が入院した所での不思議な事件を調べて行くと、次第に大きな 事件に拡がって行く。作家に呼び出された石毛警部が巻き込まれるように捜査してゆく。そして後半は、武蔵野から北海道へと捜査に行き、レギュラー探偵でもある田名網警部も 登場する。
2020年05月04日
捕物帳もどき<都筑道夫>
1982年の連作集の1984年の文庫復刊だ。「もどき」3シリーズの2冊目で、捕物名人に憧れる商家の若旦那が6人の捕物名人になりきり、事件を調べて行く。パロディだが、 オリジナルの事件を展開する連作集だ。原典を読んでいる場合は、より面白く感じる。
2020年05月04日
平林初之輔・佐佐木俊郎<>
2020年の再編集復刊作品集だ。平林初之輔の1929年の長編「悪魔の戯れ」と、佐佐木俊郎の1930-1931年の短篇6作を掲載した「ミステリー・レガシー」シリーズの1冊だ。 「悪魔の戯れ」は単行本初収録のようだ。昭和5年という探偵小説の初期の作者と作品であり、独特の雰囲気がある。
2020年05月10日
完本 人形佐七捕物帳1<横溝正史>
2019年から出版が始まった全集の1冊目だ。複数回全集としても出ているが、人形佐七登場作が180作と確定とされた、その後の初めての全集であり、完本と名乗っている。 過去の全集等の流れから作者・横溝自身の改稿をのみ最終形とする方針だが、如何にも複雑だ。1集目は短篇20作が収録されて、発表順に並べられているが、解説の ように度々の改稿でも順番どうりの展開・内容と言えない部分も残る。ただ横溝以外が訂正しない方針は当然となる。
2020年05月10日
定本 久生十蘭全集8<久生十蘭>
1950-1954年の作品を再編集して発表順に並べた全集の8冊目だ。ようやく単純な戦争の影響は薄れて来た。その中で時代小説手法で書かれた作品が増えて、その中の「鈴木主水」 を受賞した。特に突出する印象はないのだが。長編は「十字街」「愛情会議」でありどちらも復刊されている代表作だ。漸く、戦中の複雑な時代と制約された発表制限の影響を 抜けた感も強い。
2020年05月10日
はやく名探偵になりたい<東川篤哉>
2011年の烏賊川市の探偵シリーズの短篇集だ。ほぼ密室事件が5作収録されるが、推理する鵜飼と戸村コンビが曲者キャラであり、事件も謎も謎解きも展開も会話も全て 想定外であり、実はとんでもないミステリなのだろうが、レアケースのたまたま起きるミステリとの間でもある。。
2020年05月10日
謀略<堂場瞬一>
2012年の作品だ。「警視庁追跡捜査係」シリーズで、西川刑事と沖田刑事ら班員の庄田刑事と三井さやか刑事らとOL殺害事件を調べる。1年前の事件で捜査中だが解決せず、 捜査本部に嫌がられながら見直し捜査する事になった。連続事件なのか、通り魔なのか、見込み捜査だったのか。そして西川と沖田の捜査手法もまた異なった。
2020年05月10日
伊藤博文邸の怪事件<岡田秀文>
2013年の作品だ。時代は明治15年頃に伊藤博文の東京の邸宅を舞台にした事件を描いた。杉山潤之助が書生として住みつき生活を手記に書いたスタイルで進む、実際はそれを のちに読んで転載するスタイルだ。他にも津田梅子などの歴史人物も登場する。杉山が同室の書生と事件を解決しようとするが、屋敷内には不審な人物が多く、伊藤はたまに 帰宅する状態だった。
2020年05月16日
中相撲殺人事件<小森健太朗>
2018年の作品で短中編6作からなる。連作集「大相撲殺人事件」の続編であり、千代楽部屋の親方と妻と娘と力士が、舞い込まれた事件の謎を解くのが中心となる。事件の内容は 多彩であり、日常の謎もあるし、相撲とは関係ない話しもある。本格ミステリもあるが、基本スタイルは意外な設定でのギャグ的な内容が多い。
2020年05月16日
日本アルプス殺人事件<森村誠一>
1972年の作品で、度々文庫版等で復刊された、2015年に作家活動50年記念出版された1冊を読んだ。北アルプスの槍ヶ岳開発計画を進める3会社の担当者3人が、担当官庁の権力者 の娘に山で出会い、以降仕事と女性を競い合う事になる。父の力で世間知らずの娘は3人の中で揺れ動き、その中殺人事件が続いて起きた。複数の事件の最後に鹿島槍周辺での アリバイ崩しがクライマックスとなって行く。
2020年05月16日
死者の柩を揺り動かすな<麗羅>
1977年に出版された。宮城県古川周辺で第二次世界大戦後に起きた事件と、その時の捨てられた子供が成長して警察官になった頃に育てに父が殺害されて、その死を調べるのが 小説の中心となる。過去の複数の事件と、現在の事件とが絡んで進行する。
2020年05月16日
未来製作所<>
2018年のショートショートのアンソロジーだ。5名の作者の11作を掲載している。「未来にこんな世界が来るかもしれない」がコンセプトで、アイデアを短い小説に書いた。 ショートショートはワン・アイデアの表現にむいている筈で、それが未来では現在の不可能を可能にするという内容だから、益々相性は良い。
2020年05月22日
御城の事件(東日本篇)<>
2020年に出版されたオリジナルアンソロジーで、城が絡む時代ミステリーのアンソロジーだ。高橋由太・山田彩人・松尾由美・門前典之・霞流一の書き下ろしだ。舞台は東日本篇だが ほぼ関東・中部に集まり、モデルはあっても架空の城もあり時代性も含めて大胆な設定の大胆な構成を楽しめる。架空設定の時代小説ミステリはITの影響を受けにくく、大きなジャンル になっている。
2020年05月22日
地獄横丁<香住春吾>
1954年の長編に1954-1956年の短篇を4作加えて、単行本初出となった作品集だ。作者の香住は大阪で推理作家・時代小説作家・脚本家・放送作家として活躍した。最近に推理作家と しての作品集は出版されたが、他の作品は未発掘で全貌は不明だ。主に関西の新聞に掲載されたままだった作品が初めて本になった、まだ一部だろう
2020年05月22日
黒薔薇 刑事課強行犯係 神木恭子<二上剛>
2015年の作品だ。大阪府警所轄刑事課を舞台に新人刑事・神木恭子が死んだ父と同じ刑事になった所から始まる。先輩刑事・折原ら所轄陣に殺人事件で本部から瀬名らが来た。 事件捜査の中で警察内の勢力争いや裏の顔が現れ、それが神木の父親も絡んで来る。新人刑事はその流れの中で大きく変貌して行くことになる。
2020年05月22日
ペルソナ<榊原史保美>
1997年の作品だ。能面を付けた死亡者発見の知らせで所轄刑事らが行く、刑事らが個性的であやしげに描かれる。一方で新聞記者とギャラリーオーナーが登場して発掘した民画を語る。 刑事と記者は従兄弟で、刑事が加わり民画と発掘場所と工房を語り、話しが拡がって行く。事件と刑事から始まった小説は、この作者の世界の歴史と伝統芸能絡みの世界に入って行く。
2020年05月28日
ロシア幽霊軍艦事件<島田荘司>
2001年の作品を2004年に文庫化された、それの復刊だ。最初に中編として発表された作を、大幅に加筆して長い長編に改稿した。1919年に箱根に現れた幽霊軍艦の謎が1つだ。 そして現代でも残るロシアのロマノフ王朝の滅亡と、生存者と宝等の伝説的な謎、具体的なアメリカで自ら王女と名乗った女性の謎を、御手洗と石岡が解く。
2020年05月28日
隣人<永井するみ>
2004年の文庫作品集の新装復刊文庫だ。連作ではなく独立した短篇集で6作収録する。内容は日常の謎があったり、日常生活や仕事や恋愛の中に隠された殺意が浮かんで来るという サスペンスが主体だ。主人公の女性が感じるサスペンスが多い。
2020年05月28日
アンカー<今野敏>
2017年の作品の2020年の文庫化だ。テレビのニュースショーの記者・布施京一のシリーズ4作目だ。今回はテレビ番組の制作メンバー全体が全面に出て、事件と同時に報道と 番組への思いと考え方を話し合う。同時に布施のチームと、警視庁刑事らの再捜査が併行して描かれて行く。アンカーとは番組の方向を決める中心人物の事だ。
2020年05月28日
秘密の手紙箱<>
1997年に2作組で編まれたアンソロジーを1999年に3冊に分けて文庫版で復刊された。「女性ミステリー作家傑作選」の3だ。新津きよみ・仁木悦子・乃南アサ藤木靖子・皆川博子・ 宮部みゆき・山崎洋子・山村美紗・若竹七海の作品で、昭和33年の仁木から平成9年の山崎までと広い範囲だ。
2020年05月28日
若さま侍捕物手帖11 剣妖鬼<城昌幸>
2020年に再編集で復刊された作品集だ。全集を目指すシリーズの11冊目で、1953年の短篇19作を収録した。舞台はほぼ江戸で背景の変わらない。基本のスタイルも変わっていないが、 事件的には変化がいくつかある。過去談・幽霊談や、大がかりな機械的トリック等の、趣向を凝らした感のある作品がある。
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2020/05に読んだ本の感想を随時書いてゆく。
本格推理小説が中心ですが、広いジャンルを対象とする。
当然、ネタばれは無しだがそれは理解度で変わる。