推理小説読書日記(2019/12)
2019年12月06日
カナダ金貨の謎<有栖川有栖>
2019年の作品集だ。火村英生と有栖川有栖が主人公のシリーズの短篇集で、長めの短篇3作と短い短篇2作が掲載されている。国名シリーズの10冊目であり、短篇集では 題名と同じ短篇が含まれる。火村は京都府警と大坂府警と兵庫県警に協力して事件を解決する。トロッコ問題をミステリに応用した「トロッコの行方」は異色作だ。
2019年12月06日
密原トリカと七億の小人とチョコミント<太田忠司>
2019年のショートショート集だ。個別のショートショートが18作だが、密原トリカという謎の少女が狂言回し的に表に裏に登場する。登場しない作品もあるが、かえって 背景になにかあるのか考えてしまい逆に効果的になりそうだ。ホラー味が強いかもしれない。
2019年12月06日
定本 久生十蘭全集5<久生十蘭>
1944年から1946年の作品を発表順に2006年に再編集した作品集だ。第二次世界大戦の後半から終戦直後の時期だ。戦中は小説には検閲がかかっており純ミステリーは発表できなかった。 不思議に英語や片仮名語が使われている。戦記ものはなく、報道担当が戦場に出向くものや戦時中の内地の村を描くものが中心だ。長編は多くが中断し、雑誌掲載のまま今回単行本 初収録も多い。内容的には制限されている感は感じる。
2019年12月06日
ミステリー作家の休日<小泉喜美子>
1973-1984年の作品を2019に再編集した作品集だ。6作収録の「ミステリー作家の休日」に2作を追加した作品集だ。もともとが個別の作品を集めた短篇集だったが、異なる2作を加えて 益々バラバラ感が遠くなっている。連作が増えているが純粋な短篇集も面白い。
2019年12月06日
天空の鏡<麻見和史>
2019年の作品だ。如月塔子と鷹野秀昭らの警視庁1課が活躍するシリーズの12作目だ。現在の事件と過去の事件の謎を追う。死亡原因と状況に類似点があるからだ。 過去の事件では宗教団体が関係している、科学捜査中心の現在の警察捜査でも宗教からみは厄介だった。
2019年12月12日
大暗礁<高橋泰邦>
1969年の作品集だ。桑野航海士>船長が主人公の船舶を舞台にした、4作を掲載した海と船のミステリ集だ。日本の海洋ミステリの産みの親とも言える作者の初期の作品集だ。 「マラッカ海峡」「誤差一分」「大暗礁」「殉職」。海で起きる災害や事故や事件と、人間と起業の利害が絡み、ミステリの要素が多数含まれている。
2019年12月12日
神々の遺品<今野敏>
2000年の作品だ。伝奇ミステリというかSFミステリというか、文明・古代史ミステリというか、UFOミステリかもしれない。私立探偵・石神が殺人事件を調べた。一方では アメリカで超常現象絡みの事件を追う捜査官が捜査を日本に拡げて来日した。双方の接点は何か、二人が会うことで仮説として終結に向かう??。
2019年12月12日
棟居刑事の凶存凶栄<森村誠一>
1997年の作品だ。短篇集だが連作ともオムニバスとも言える構成だ。警視庁本庁刑事・棟居が登場するが、個々には新宿署刑事・牛尾や作家・北村直樹等のレギュラーも登場する。 また後半の3作は、「余命」テーマで同一人物が登場する。犯罪者の視点とそれ以外の視点を併行・併用して犯行と殺意と結果を描いた。
2019年12月12日
摩天楼の弩<高柳芳夫>
1983年の作品だ。ドイツや欧州舞台の作品が多い作者だが、アメリカを舞台にした企業内・企業間犯罪と連続殺人を描いた。中世の武器・いしゆみ(漢字変換が厄介だ)はたまに ミステリーに登場する。使い難さが作家のお気に入りのようだ。
2019年12月12日
新・本格推理03<>
2002年の公募短篇からのオリジナルアンソロジーだ。選者の熱さと作品とに差があるものもある。アンソロジーでは仕方がないが、短篇としては長いので読むのが辛い事もある。 後年に作家デビューする作者が登場するのが今読んで楽しみだ。
2019年12月18日
沙漠の伏魔殿<大阪圭吉>
1933-1943年の作品を2019年に再編集した作品集だ。単行本未収録作品集の3集だが、初出作も含まれる。ジャンルはばらばらで探偵小説はほとんど無い。そのジャンルは 優先的に発表されて単行本にもなったようだ。レアな雑誌や発表先を探し、未投稿の原稿を探して集めた作品集だ。
2019年12月18日
果鋭<黒川博行>
2017年の作品だ。大阪府警の組織暴力対策課をクビになった元刑事・伊達と堀内が主人公だ。金儲けが必要になったが、そこにパチンコ店・業界からみの依頼が舞い込み 業界深く入り込む。リアルな業界事情を背景にして、2人が危ない行動で如何に渡り歩くかを描く。
2019年12月18日
付き馬屋おえん 暗闇始末<南原幹雄>
1986年の短篇連作集だ。遊女屋の支払いを逃れる・払わない者から取り立てる仕事を馬屋と呼ぶ。そこの娘・おえんが稼業を止めた父親の後を継ぐように、いつしか始めた。 離れていた父の手下が次第に集まり手伝い、徐々に本業になって行く。現実は危ない状況が多発する綱渡りで、捕物帳の安定感は無い。
2019年12月18日
地面師<梶山季之>
1958-1965年の作品を2018年に再編集した作品集だ。6作の短篇からなり、詐欺師や産業スパイ・企業スパイが絡む事件を記者や関係者が追う展開が多い。業界ものという ジャンルを生んだ感があり、分野・スタイルに特徴がある。ミステリ色は特に求めていないようだ。
2019年12月18日
希望の糸<東野圭吾>
2019年の作品だ。警視庁本庁捜査1課に異動した加賀刑事と共に働く松宮刑事が主人公だ。殺人事件捜査中に、松宮は死亡間際の男の遺言でその娘から、その男が松宮の父だと聞いた。 母に問うが何も話せないと言われた。捜査中の事件は意外な展開に進み、それに自身の似た状況があると思って行く。
2019年12月24日
燃える傾斜<眉村卓>
1964年の作品だ。東都ミステリーという叢書に、東都SFとして書かれた、SFとしては今日泊亜蘭の光の塔も入っている。昭和38年は日本で意識してSFが書かれ始めた初期だ。 であり、その要素が散りばめられている。宇宙と宇宙人を舞台にドリーム保険というやり直しの保険を設定して、話しが展開する。
2019年12月24日
若さま侍捕物手帖6 くれない系図<城昌幸>
2019年に復刊された長編だ、底本は1964年だが初出は不明だ。発表年順の全集だが、長編としては「双色渦巻」に次ぐ2作目だ。内容的には江戸の捕物帳のイメージよりも 伝奇時代小説だ。東海道や富士等で複数の幻術師が繰り広げる不思議な闘いを描く。若さまは事件を動かし進めるが、解決役かどうかは疑問だ。
2019年12月24日
ガラスの恋人<森村誠一>
2005年の作品の復刊だ。中年の男と年の離れた女性とが偶然に出会い、一緒に暮らし始めて行く。それぞれが関わる事情と過去と事件を抱えながら、あらたな事件に巻き込まれて行く。 棟居刑事らと牛尾刑事らが追う複数事件の捜査にも関係して行く。
2019年12月24日
犬神館の殺人<月原渉>
2019年の作品だ。探偵役の「つゆりシズカ」がかかわる過去と現在の事件を描く。宗教儀式が行われる密室のドアを開けると生け贄の人間が死ぬ仕組みの密室だ、それが三重に なっている。過去の事件と現在とが併行して描かれて行く。
2019年12月24日
武士猿<今野敏>
2008年の作品の復刊だ。明治時代の琉球の武術達人の伝記であり武術・武闘小説だ。朝基は王朝末裔だがそこに伝わる武術「手」を実戦修行で極めようとした。その過程を描き 、いくつかの闘いを描いて行く。波瀾万丈というよりも地道な成長の歴史に近い。
2019年12月30日
悪魔館訪問記<渡辺啓助>
1938-1959年の作品を、2019年に再編集した作品集だ。殆どの作品は単行本初収録となる。2019年に渡辺啓助の作品集が2冊編まれたが、どちらも原則的に2000年頃に編まれた 複数の作品集には収録されていない作品が選ばれた。本作品集は原則的には、その2冊にも収録されていない作品が選ばれている。重複がないのはうれしい。
2019年12月30日
古都の殺人<高柳芳夫>
1985年の作品が、1989年に改題して復刊された。東京の八王子付近の事件が、関係者の住所と行動場所が全国の多数の場所に広がる、ただし線では無くて点に繋がる。 重要な関係者が京都の賀茂川沿いにあるところから題名となった様だ。初出の題は「死を呼ぶ聖女」でこちらはストリー展開とモチーフを表している。捜査側の能力が 曖昧に感じた。
2019年12月30日
ロスト・ケア<葉真中顕>
2013年の作品を、201年に文庫で復刊した。この作者のデビュー作だ。犯罪小説的な内容に、ミステリ要素として、捜査側が偶然的に統計的な異常に気づき、そこから犯罪を 見つける過程も描く、そこに前半の複数場面を結びつける事でミステリにした。前半の構成は犯罪小説的だ。
2019年12月30日
新・本格推理03<>
2003年に公募した短篇で編んだアンソロジーだ。「本格推理小説短篇を公募してオリジナルのアンソロジーを文庫版で編む」という企画の創始者の鮎川哲也が前年に死去した事で、 鮎川哲也監修の最後の巻となった。常連投稿者や、その後にプロデビューしてゆく作者名が混ざっている。
←日記一覧へ戻る
2019/12に読んだ本の感想を随時書いてゆく。
本格推理小説が中心ですが、広いジャンルを対象とする。
当然、ネタばれは無しだがそれは理解度で変わる。