推理小説読書日記(2019/10)
2019年10月01日
岡田鯱彦探偵小説選2<岡田鯱彦>
1953-1960年の作品を、2014年に再編集した作品集だ。長編「幽瞑荘の殺人」に加えて、短篇・中編が8作が収録される。「幽瞑荘の殺人」は目撃された状況の殺人を扱い、 解決編では手掛かりのページを注記する索引がある。本格ミステリから始まり、次第に作風が拡がっていったようだ。
2019年10月01日
処刑<多岐川恭>
1977年の作品だ。一度政界の中心から退いた老政治家だったが、政界の混迷の中で次期総裁候補の噂が立つ。箱根の別荘には色々な思惑を持つ人物が面談に殺到した。 賛成者と反対者らが混ざった状況で、政権抗争を練っていた筈だが、翌日にロープウェイで首つり死体となり見つかる事件が起きて、展開してゆく。
2019年10月01日
クローズアップ<今野敏>
2013年の作品だ。テレビで毎日に放送される報道番組が舞台であり、そこのメンバーらが登場して、所属する報道記者の布施が主人公となり、刑事・黒田や他の新聞記者らが 絡んで隠れた事件を追う。刑事と新聞記者と雑誌記者と報道記者は、全て求める情報が異なる事がポイントとなる。テレビは映像と音声がスクープとなる。
2019年10月01日
姿なき怪盗<甲賀三郎>
第二次大戦前の作品で、その後に幾たびか復刊されている。新聞記者・獅子内俊次が探偵役を行うが、オールマイティの設定だ。度々事件に直接に遭遇するが、全く疑われずに どんどんと情報が集まる。そのわりには事件解決には時間がかかる、本来は警察が行うべき組織捜査を個人が行っている。
2019年10月07日
定本久生十蘭全集4<久生十蘭>
1974-1943年の作品を集めて、再編集した作品集だ。単行本初出と、雑誌初出を重視して、書かれた年代順に編集した全集の4冊目だ。第二次世界大戦前から前期であり、探偵小説は 自由に書けない時期であり周辺ジャンルや戦争絡みの作品が多い。年代順の編集から状況が判る。長編「女性の力」「紀ノ上一族」等・
2019年10月07日
改訂完全版 占星術殺人事件<島田荘司>
1981年に発表した作品を、2006年に大幅に改訂して完全版とした。いわゆる新本格の最初と言われた伝説的な作品だが、前半の2つの手記が、難解とも読みにくいとも言われた。 設定的に当然の内容との意見もあるが、新人のデビュー作としては評価されにくい事はヤムを得ないとも言える。かくて伝説となったが、全面的に改訂された。改訂版を改めて 読むと、2つの手記が意外に短く感じた。
2019年10月07日
新・野性の証明<森村誠一>
2010年の作品だ。圧倒的な知名度の作品の題名を付けたが、内容には直接の繋がりはない。ある作家志望者を集めた小説教室に集まったメンバーが講師を中心に繋がりを 深めてゆき、合宿中等に事件に巻き込まれて対応する。度々に事件に遭遇する中で、野性に目覚めて行く。
2019年10月07日
お節介な放課後<阿藤玲>
2018年のオムニバス形式の連作作品集だ。シリーズ2作目であり、通常のクラブ活動をしない帰宅部が課外奉仕活動を行うなかでの出来事を描く。帰宅部はなにかと 厄介な相談を持ち込まれてしまう。変則的な日常の謎か、青春小説か奇妙な小説だ。
2019年10月13日
道化師の退場<太田忠司>
2019年の作品だ。道化師のパフォーマーの主人公の青年が母の死を調べる。病気で療養している名探偵に謎の解明を依頼するが、その為の情報収集は自ら行う必要がある。 その過程で母の過去や知り合いや関係者の事を調べて行く事になり、色々な出会いがあり、しかも背後に繋がりがあると判って行く。探偵役のキャラが怪しい・・・。
2019年10月13日
マル暴総監<今野敏>
2016の作品だ。主人公は2作目のマル暴刑事・甘糟が事件に巻き込まれる。前作と同じ担当ヤクザ組に、任侠学園等のシリーズの阿岐本組が絡む。そこに先輩相棒刑事と、 文字通りの総監が登場する。遠山金四郎に憧れる総監は甘糟だけに身分を明かすが・・・・。
2019年10月13日
小鳥たち<山尾悠子>
2019年の本であり、作家・山尾悠子の短篇3作と、人形作家・中川多理の作品の写真とからなっている。城館に住む老大公妃とその周囲にいる小鳥の侍女の話だ。 連続した話しの展開のような、だが時間的に飛んでいるような展開の、3つの話しからなる。人形の写真がイメージを拡げて行く。
2019年10月13日
非道人別帳2毒の鎖<森村誠一>
1994年の作品集が2000年に復刊された。風変わりな江戸町奉行所同心・祖式弦一郎が主人公の連作だ。短篇集だが、それ以前に登場した色々な人物が別の話に登場する事がある。 本文中にどの作品かの注記が入っている。主人公の人脈が増えて行く事を意味している。
2019年10月19日
若さま侍捕物手帖4 悪鬼羅刹<城昌幸>
1949年の作品を2019年に再編集した復刊短篇集だ。若さま侍捕物手帖シリーズの4作目で、18作が収録されている。御用聞き遠州屋小吉から持ち込まれた謎を解くスタイル が定着してほとんどを占めている、短かめの作品が多く、このスタイルが向いているのだろう。江戸を少し出る「捕物道中」は異色だが面白い。
2019年10月19日
菊太郎事件控2<島田一男>
真琴菊太郎が主人公の時代小説短篇集の2冊目だ。江戸の瓦版屋とそこの作者が主人公で、町の事件から始まったが、2集では事件は武士や幕府絡みが増えて来たことが目立つ。 主人公の過去が次第に明らかになって行く、過去を知っている人や関わった人が登場してくる。
2019年10月19日
虹のような黒<連城三紀彦>
2003年に雑誌発表されたが作者の死の前には単行本にならなかった長編だ、2019年に単行本出版された。作者自筆の挿絵もストーリーと繋がりそれも掲載された。物証ではなく 状況や感覚と証言で、謎が解明されてゆく展開になる。部分的にトリッキーな要素が多いが、全体としては異様なストーリー展開が目立つ。
2019年10月19日
回帰<今野敏>
2017年の作品だ。警視庁強力犯の樋口顕シリーズの1作だ。組織捜査、情報捜査、監視カメラ捜査、その他の現代の警察捜査を描くが、そこにも盲点というか明確には判断できない 事は多く有り謎となって行く。爆破事故からテロの疑いが生じて、公安という異なる手法の部署との合同捜査が悩みとなった。
2019年10月25日
渡辺啓助探偵小説選2<渡辺啓助>
戦前にデビューして平成まで活躍し100歳で死んだ作者だが、作品集の復刊は戦前が主体だった。本作品集は、戦後の1947-1954年の作品を再編集した、この作者では紹介が少ない 時期の作品だ。幻想・怪奇・SFの分野を中心とした変格探偵小説分野で活躍したが、それが主流だった戦前作品が復刊される事が多いという。戦後になると時代性を反映して、 スタイル・内容が異なる作品が増えたようだ。簡単には表現できないが確かにたえず変化している。
2019年10月25日
レッドライト<森村誠一>
2001年の作品だ。異なる2つの交通事故が起こったが事故か事件か不明で、本庁の棟居や所轄刑事が調べた。複数の事件関係者の視点と警察との多視点から描かれるが、複数の 事件の被害者と加害者が交通事故?で繋がり、離れた事件で扱われたが、しだいに接点が見つかってゆく。
2019年10月25日
平凡な革命家の食卓<樋口有介>
2018年の作品だ。殺人事件が滅多に起きない所轄・国分寺署刑事・卯月枝衣子は自殺で処理されそうな事件を殺人事件で捜査したいと画策した。様々な所轄の人員と、事件?関係者 が絡む内偵で漸く殺人事件捜査になりかけるが意外な展開となる。事件の少ない所轄ののんびり感を反映した展開が、組織捜査・情報捜査が描かれる事が多い警察小説とは異なる 内容となった。
2019年10月25日
真夏の雷管<佐々木譲>
2017年の作品だ。北海道警シリーズの8作目で札幌大通署が舞台となる。北海道警は癒着事件で人員をランダムに異動させた、その結果で有能な刑事が色々な部署に分散した。 大通署窃盗班係の佐伯宏一と大通署少年係の小島百合と機動捜査隊・津久井らが、異なる部署で異なる事件を追う内に相互に繋がってゆく。
2019年10月31日
わが郷愁のマリアンヌ<夏樹静子>
1986年の作品であり、文庫版では上下2冊の長い作品だ。単身でイギリスに赴任した商社マンが、出会った人妻で陶器会社社長に恋をする。強引に取引を始めて知り合うが、 その主人や会社マネジャーが登場し、ついには殺人事件が発生する。その過程で人妻に似たダンサーが現れる。恋愛ドラマの展開に過去と現在の事件が絡んで行く。
2019年10月31日
法月綸太郎の消息<法月綸太郎>
2019年の作品集だ。中編1作と短篇3作からなる。全て法月綸太郎が探偵役だが、以前の作品とは内容や構成が変わっている。ドイルの作品論がテーマの作品、クリスティの 作品論がテーマの作品が含まれる、一部しか読んでいない読者(私)にはやや理解しにくい。アームチェア推理構成が2作だが、手掛かりが少しずつ与えられる展開でありこれも 作風の変化に感じた。
2019年10月31日
八月は残酷な月<河野典正>
1959-1964年の短篇を再編集して2019年に復刊した作品集だ。日本のハードボイルドの初期の作者の一人であり、のちにサスペンスやSFや色々なジャンルを書いていった。 ジャズをキーワードにして作品を構成している、ミステリー性は強くはないが、デビューからミステリジャンルで扱われて来た。
2019年10月31日
千両文七捕物帳3<高木彬光>
1954-1955年頃の短篇を2019年に復刊または初単行本化した再編集作品集だ。千両文七捕物帳シリーズを3巻にまとめた3冊目で9作を収録した。「私版天保六花選」シリーズは4作からなり、 一部に千両文七が登場する事から同時に収録されている。捕物帳はほぼ全てが、千両文七と子分の合点の勘八だけでやり繰りしている。
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2019/10に読んだ本の感想を随時書いてゆく。
本格推理小説が中心ですが、広いジャンルを対象とする。
当然、ネタばれは無しだがそれは理解度で変わる。