推理小説読書日記(2019/07)
2019年7月03日
定本 久生十蘭全集1<久生十蘭>
2009年に出版された全集の第2巻だ。編年体に作品が並ぶんは興味深い。長編は「新版八犬伝」があり、連作集として「キャラコさん」があるユーモアがあふれる連作だ。 第2巻後半は、顎十郎捕物帳が全て集められている。作者が度々書き直したり改稿したとされ、初出主義とする本全集でも、テキスト決定に迷うようだ。別巻に別バージョン を一部収録するとしている
2019年7月03日
同心部屋御用帳2<島田一男>
2019年に復刊されたシリーズの3作めだ。時代劇のホームズ談として話しが展開している。同心達の生活と習慣も描き、それが事件に繋がる話しもある。年代の異なる 同心の経験と感覚の食い違いが、事件への視点を変える事もある。テレビドラマ原作として書かれた、作品の長さが揃っている。
2019年7月03日
不見の月 博物館惑星2<菅浩江>
2019年の作品集で、シリーズとして19年振りだと書かれている。未来の地球では、月と反対側に小惑星を引っ張ってきて、もう1つ月を作った。それはラグランジュ点という 数学的に存在出来る地点だとされる。その天体上に巨大な博物館を作りあらゆる美術品と動物・植物を集めている。その博物館星上での出来事を描いた作品集だ。SF的な謎を あたかも推理短篇的に解き明かして行く、逆説的な事が多い。
2019年7月03日
企業特訓殺人事件<森村誠一>
1970年の作品集で、19739年に文庫復刊された。初期の本格推理短篇と社会派的なミステリとが混在して7作収録されている。前者の本格推理短篇はその後は、あまり書かれて いない事もあり、アンソロジーや他の個人作品集への収録頻度が高く、短篇ながら知名度は高い。
2019年7月09日
寮生<今野敏>
2015年の作品だ。作者の今野が高校時代を過ごした函館の高校が舞台の青春小説であり、学園ミスターでもある。新高校1年生が寮に入り生活が始まり、その1人称で描かれる。 先輩との出会いから、奇妙な噂と慣習を聞き、そこに生徒の転落死が起きた。なにか隠されている感を持った1年生らが噂と事件の真相を調べ始めた。
2019年7月09日
脅迫<高木彬光>
1972年の作品だ。ある事件関係者を中心にした多数の視点から事件が描かれる。脅迫を受けた者、依頼した探偵、刑事、そして弁護士の百谷泉一郎が登場する。脅迫事件を被害者 から描く、小説構成から本格ミステリではなくハードボイルド味のある犯罪小説・捜査小説的だ。やや不安な行動の泉一郎だが、妻・明子が助ける。
2019年7月09日
若さま侍捕物手帖2 五月雨ごろし<城昌幸>
1942-48年の作品を、書かれた順番に再編集して2019年に復刊された作品集だ。中編の「五月雨ごろし」と短篇11作が収録されている。主にお馴染みの江戸の船宿とお馴染みの メンバーの出来事が中心となる。「五月雨ごろし」のようにミステリ味が濃い作品もあるし、捕物スタイルが薄い作品もある。
2019年7月09日
名も知らぬ夫<新章文子>
1959-1965年の短篇を再編集して、2019年に出版された作品集だ。昭和ミステリルネサンス・シリーズの復刊の1冊だ。1959年に江戸川乱歩賞受賞でデビューした作者の、初期に 発表した短篇を集めた。本格ミステリのスタイルではない作者だが、個々の短篇には本格ミステリ的な要素が入れ込まれている、ただし展開は異なる。
2019年7月09日
森下雨村探偵小説選3<森下雨村>
1923-1950年に発表された作品を再編集して2018年に出版された作品集だ。近年に森下雨村の作品が断続的に復刊されている。活動期も断続的だが非常に長い、ジャンルも広い。 探偵小説として復刊される事が圧倒的に多く、全作品との比率は不明だ。書かれた当時の作品の中では読みやすい文章だが、軽さと単調さもある。
2019年7月15日
怪人大鴉博士<太田忠司>
1995年の作品で、新宿少年探偵団シリーズの第2作だ。中学生4人が蘇芳と部下のジャン・ポールとアジトを作り、武器を開発して行く。時代は異なるが江戸川乱歩の怪人 二十面相シリーズの雰囲気が強い事件と怪人との対決となった。
2019年7月15日
猟人日記<戸川昌子>
1960年代の作品で、2015年に復刊された。女を獲物として漁る男がその履歴を猟人日記として書いて残して行った。所が過去の相手が殺される事件が続いた、アリバイは別の 新しい女性とだけ、そして死体を発見する事になりその場所に閉じ込められた。逃げたが猟人日記が消えた。罠に嵌まって行くが・・・・・。
2019年7月15日
喧嘩<黒川博行>
2016年の作品だ。建築コンサルタント・二宮はヤクザの組から破門になった桑原を避けていたが、仕事に困り持ちかけてしまった。その結果は選挙の票集めトラブルでの 議員秘書とヤクザの取り持ちを図るが、事件は複雑で窮地に陥る。それでも桑原の強引さは変わらず二宮は振り回された。
2019年7月15日
影の斜塔 警視庁文書捜査官<麻見和史>
2019年の作品だ。文書管理室は係長出張中に、警察上部の理事官と管理官から文書だけで人捜しを命じられた。上の権力争いに巻き込まれる危険性を感じ、失敗すれば文書係 解散も言われたなかで捜査した。辿りつくと殺人事件が起こりさらに巻き込まれていった。
2019年7月15日
目黒の狂女<戸板康二>
1968-1983年の短篇作品を、2007年に再編集出版された作品集だ。歌舞伎役者・中村雅楽と記述者の新聞記者・竹野のシリーズを長篇1冊と短篇集・4冊で全集出版された。 その3冊目の短篇集だ。しだいに日常の謎的なミステリに比重が変わって来た。
2019年7月21日
プレゼント<若竹七海>
1996年の連作作品集だ。8作の短篇からなり、シリーズキャラクターとして葉村晶と、御子柴刑事・小林警部補とが交互に登場して、最終作では共演する。葉村物は1人称の 語りスタイルであり、御子柴・小林物は倒叙形式だ。どちらも短篇でも向いている。
2019年7月21日
卑弥呼殺人事件<阿井祥介>
1983年の作品だ。テレビ番組の製作現場を舞台にして、ドキュメンタリー番組でのやらせを描く。その対象が卑弥呼となるが、それをドキュメンタリーとドラマで描く企画で 、双方を仕切る人物が中心で描かれる。主演女優の殺人からともう1人の死から企画も、小説のストーリーも迷走した。
2019年7月21日
オイディプス症候群<笠井潔>
2002年の長編だ。矢吹駆シリーズの第5作であり、連続殺人を描く巨大長編だ。イタリアのクレタ島の側の個人所有の小島に数人が集まった、そこが嵐で閉じ込められると 不可解な連続殺人事件が起きて行く。1つの事件毎に捜査と推理が複数人で展開されて、それだけでも中編くらいにはなるのだが、それが連なって行く。
2019年7月21日
葛山二郎探偵小説選<葛山二郎>
1923年から1948年の作品を、2012年のに再編集した作品集だ。戦前に登場して戦時中は書かず、戦後の短い時期に復活して4作のみ書いた作者だ。その後は作品は発表していない。 2作目の著書になる本書は全集となった。作品傾向は多彩と言えるし、奇妙とも言える。
2019年7月21日
インフルエンス<近藤史恵>
2017年の作品だ。本格の謎を背後に潜めたサスペンス展開を示す。幼少からの3人の少女はそれぞれの関係は微妙だった。だが殺人を頼み頼まれる事態が起こった。 異なる進路・人生を進むが、ふたたび出会い、そして再度頼み頼まれる事になった。
2019年7月27日
わが名はオズヌ<今野敏>
2000年の作品だ。神奈川県のある高校を廃校にして公営住宅を作る計画が起きた。不審者が学校に現れる事態に、高校生徒とその教師と、生活安全の刑事が絡んで行く。 生徒の挙動が不審になる、ある事がきっかけで役小角が転生したか?自ら「オズヌ」と呼ぶ。利権を狙い廃校を狙う者との闘いが始まった。
2019年7月27日
屍体七十五歩にて死す<小栗虫太郎>
1927-1938年の短篇を再編集して1975年に復刊された作品集だ。小栗が織田清七の名義で発表した作品集3冊の内の1冊という。その後にも復刊された作品もあり現在では 小栗作品と認識されている。17作が収録されているが知名度はばらばらだ。
2019年7月27日
隠蔽人類<鳥飼否宇>
2018年の作品だ。連作長編になるのだろう、5短篇=あるいは章からなるが、順番に読むことで最大に楽しめる構成だから長編と呼ぶべきだろう。奇想と意外性が溢れるので、 ストーリーや梗概を語るのは好ましくない。日本の調査団が未開地で新人類を発見する事が発端だ。だがその部落が焼かれ、調査団を含めて皆殺しの危機が起きた。そして 混沌とした2章以下が続く。
2019年7月27日
致死眷属<森村誠一>
1979年の作品だ。ある夫婦がスワッピングで別の夫婦と出会うがトラブルになった、そしてその相手が殺される事件が起きた。2人姉妹の妹が失踪して姉が行方を探す。 それが発端になり複雑に絡んだ事件が拡がって行く事になった。
2019年7月27日
金時計<アルテ>
2019年の作品集。フランス本国では未出版の作品の翻訳だという。1901年に起きた雪のなかの殺人事件をシリーズキャラクターのバーンズが捜査する、他方では1991年の 話しである人物が記憶に残っている映画を探す。時代の離れた2つの話しが並行して進む
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2019/07に読んだ本の感想を随時書いてゆく。
本格推理小説が中心ですが、広いジャンルを対象とする。
当然、ネタばれは無しだがそれは理解度で変わる。