推理小説読書日記(2019/05)
2019年5月5日
うなぎ丸の航海<阿井渉介>
2004年のドキュメント、あるいはドキュメント小説だ。主人公の作家の私は、学者を中心にした「うなぎの産卵場所を探す」航海に参加した。色々な仮設を元に、広い太平洋を 色々なアイデアと方法で探す。根気よく探すが見つからない。失望で終わるが翌年に再度チャレンジする。それが繰り返される。素人の主人公も次第に深く入り込む。
2019年5月5日
棟居刑事の証明<森村誠一>
1997年の作品だ。夏に海水浴場の浮かんだ台で6人が偶然に出会い、妙な連帯感を持ったがそのまま別れた。作者は「行きずりの人にも因縁がある」と考える、そして偶然の 出会いと、その後の出会いを犯罪の発生と係わりで描いた。6人は色々な立場で関わるが、棟居刑事はその一人で捜査官の立場で再会した。
2019年5月5日
三幕殺人事件<草野唯雄>
1997年の作品だ。ある温泉街で誘致活動に賛否が別れ、反対運動の中心人物が死んだ、その息子が運動を継ぐが死んだ。娘は不審を持ち地方記者と老人ホーム住民と共に、町の中心人物と 暴力団を疑い調べた。県警刑事と所轄刑事も捜査すると事件は次第に拡がって行く。
2019年5月5日
同心部屋御用帳1<島田一男>
1975年からテレビドラマ化された「江戸の旋風」の原作だ、2013年に復刊され2019年に文庫化された。江戸南町奉行所の同心6人が中心となる捕物帳だ。若手同心・千秋城之介 が主人公となり町で起きた事件を解決する。意外な程に事件発生から解決するまでのストーリーの、オーソドックな捕物帳だ。ホームズ談的な味が強い。
2019年5月5日
快絶壮遊 天狗倶楽部<横田順彌>
1999年に出版された文化史研究書で、2019年に復刊された。押川春浪と作家らを中心にした集団・天狗倶楽部のメンバーを中核にして、明治の関連人物を紹介している。 中心人物とジャンルから始めて、関連分野と関連人物までに拡げて行く、明治時代全体を見据えて行く手法を取る。
2019年5月11日
多摩湖山荘殺人事件<藤原宰太郎>
1994年の作品だ。推理トリック研究家・久我京介とアシスタントの2人と、多摩湖の山荘で起きた密室事件の捜査を始めた。拳銃トリックという日本風でないテーマ・トリックだが トリックの小説化として読むべき作品だ。小さなトリックが複数盛り込まれた小説だ。
2019年5月11日
ヴィオロンのため息の<五十嵐均>
1994年の作品で第14回横溝賞受賞作だ。第二次世界大戦末期に連合軍の欧州本土上陸作戦が近づき、ロシアは戦後の影響力を増す為にドイツに上陸情報を流しす事を考え、スパイの 接触場所を日本の軽井沢と決めた。ピアノ講師をする大使の娘を利用して接触が行われるが、色々な思惑と各国のスパイと日本軍が絡み複雑に進み、ついに殺人事件が起きた。
2019年5月11日
ヘッドライン<今野敏>
2011年の作品だ。テレビの報道番組の遊軍記者・布施京一がニュースを追う。テレビ向きの内容であり、新聞や週刊誌や警察とは求める内容が異なる。一方では番組チーフから見た 布施を描きながらテレビ番組製作の現場を描いて行く。刑事・黒田は独自捜査して情報入手先として布施に接触した。立場と目的が異なる者が絡んで、事件を追うことになってゆく。
2019年5月11日
往ったり来たり<夏樹静子>
2003年に出版された3冊目のエッセイ集だ。日常生活からはじまり、色々な段階での作家活動や、結婚や転勤や新人賞応募から、長編デビューからの作家と主婦の生活を語る。 心や目の病気を語り、闘病生活かと思えば、無理をしても書かざるをえなかった生活を思い出し語る、ショートショート風の多彩な短文が詰まっている。
2019年5月11日
棟居刑事の殺人交差路<森村誠一>
1996年の作品だ。浮気を目撃した妻を殺害した男が死体を運ぶ途中に接触事故を起こした、相手女性と合意で事故を隠し別れたが妻の死体が消えた。強盗に入り老婆に目撃された男が 殺害したが別の男に目撃されて2人とも殺した。捜査陣が強盗を見つけるが片方の被害者の身元が不明だった。警察は交通事故を知り、浮気男を見つけたが、謎が次々現れて来た。
2019年5月17日
ドリームマッチ<今野敏>
1993年の作品だ、改題して復刊された。野見流拳法の達人の主人公がプロレス団体のトレーニングを行う、場所は野戦のサバイバル状態だ、流石のレスラーも苦しんだ。 その中でトップレスラーに異種格闘技戦を申し込まれて、1回だけ受けざるを得なくなった。師匠筋や対抗団体のレスラーから指導を受けながら、準備を行ってゆく。
2019年5月17日
海賊島の殺人<沢村浩輔>
2015年の作品で、改題復刊された。王室海軍提督と海軍が海賊に拉致されたニュースが入り、海軍や防諜部で秘かに命令が出された。提督救出命令を受けて海賊が出没する海域に 行き、さらにはアジトの島に行く。そこには色々な出自を持つ海賊が多数集まり騒ぎ、宝探しや勢力争いを行っていた。だがそこで殺人事件が起きて、その事件の捜査を行う 事になった。奇妙な背景と設定のなかでの謎の解明が行われて行く。
2019年5月17日
岡村雄輔探偵小説選1<岡村雄輔>
1949年から1950年の作品を、2013年に再編集した作品集だ。レギュラーの秋水魚太郎と熊座警部補が登場する作品が集められた。それぞれがどのような役割かというと それが定かでは無い。けれんみのある本格ミステリの構成が主体であり、謎解き役が定かで無いことはプラス面とマイナス面がある。
2019年5月17日
岡村雄輔探偵小説選2<岡村雄輔>
岡村雄輔探偵小説選1の続巻にあたる2集だ。1950年から1957年の作品を2013年に再編集出版された作品集だ。長編「幻女殺人事件」を中心に集められた。非シリーズ作故に 収録されていない作品への言及が解説に詳しいが異様に見える。もう1巻あれば全集になったかも知れない。
2019年5月17日
悪いうさぎ<若竹七海>
2001年の作品だ。女探偵・葉村晶が次々に色々な事件とトラブルに巻き込まれて行く長編だ。何故かトラブルを抱え込むという不運な探偵を、その1人称の視点で描いて行く。 性格の問題もあるのか、あるいは適度に能力が優れているのか、周囲に愛されているのか頼りにされているのか、あるいは目を付けられやすいのか???。
2019年5月23日
女は帯も謎も解く<小泉喜美子>
1982年の連作短編集で、シリーズ5作からなる。主人公の新橋芸者・まり勇が主人公の2−5作目に、先代のまり勇が主人公の1作目を加えている。そして異なるミステリの ジャンル5つをテーマ・スタイルにしている。ユーモアとパロディの要素が強い連作だ。
2019年5月23日
死の軌跡<森村誠一>
1988年の作品集で、5作からなる。多彩なジャンルを書いているこの作者だが、本格物の鉄道ミステリ、それも時刻表トリックものを書いている。長編にも鉄道や航空機の トリックものがあるが、短編も面白い。それ故にアンソロジーに採られる作品が並んでいる。
2019年5月23日
魂丸 海図なき逃亡<阿井祥介>
2000年の長編だ。ハードボイルドの冒険物だ。何から逃げるか、元々は見知らぬ二人が、異なる者らから逃亡する。主人公はその片割れだ。ロールプレイング式だが、追う者が 複数グループで、奇妙な展開を示す。静岡から全国へを逃げ、意外な正体が判って来る。
2019年5月23日
同心部屋御用帳2<島田一男>
1993年の連作作品集で、10作からなる。江戸の奉行所同心6名が主人公であり、2番目に若い千秋城之介が探偵役となる。捕物帳の定番的なストーリーが並ぶ、安定的な ホームズ談ライクな作品が並ぶ。
2019年5月23日
赤い博物館<大山誠一郎>
2015年の作品集で、5作からなる。警視庁資料保存場所である、犯罪資料館の館長・緋色冴子と、1課から異動した寺田聡が過去の事件の真相を捜査する。建前は資料集めで あり、1課からは睨まれている。1作毎に異なる手法で事件を描いているが、反面として主人公のキャラは薄くなる反作用がある。
2019年5月29日
楽譜と旅する男<芦辺拓>
2017年の連作作品集だ。舞台は世界各地で時代は定かでない。奇譚と呼ぶ短編集なのだろう。名もわからない楽譜を探して旅をする男がいる。楽譜が絡む事件・トラブルに遭遇した 人々に現れて、楽譜を届けては去る。人知れず、あるいは歴史の1ページに関わるかもしれない出来事だ。
2019年5月29日
横溝正史探偵小説選1<横溝正史>
2008年に編まれた、横溝正史の単行本未収録の作品集だ。長編は概ね復刊出版された作者だが、まだ長編を含めて未知の作品・単行本未収録の作品が見つかる。特に少年向き小説 はまだまだ見つかりそうだ。デビューの頃や戦前に未知の作品が多いのは、作家を取り巻く事情を反映する。横溝は作家生活が長く、まだ未知の事がある。
2019年5月29日
孤道<内田康夫>
2017年の作品だ。新聞連載中に作者の病気で中断し、未完で出版されて同時に完結編が一般公募された、だが作者が死去した後に完結編の発表となった。中断作も同時に復刊された。 結末は書きながら考えるという作者だが伏線になりそうなことがちりばめられて、そのまま中断している。
2019年5月29日
棟居刑事の殺人の人脈<森村誠一>
1995年の作品だ。幾つかの事件がバラバラに起きるが、どれかに繋がりがあるストーリー展開を見せる事が多い作者だ。本作は遺留品のアドレスリストが存在する。知らない人の 手帖に名前がある事はあるのか。色々な人脈から繋がりを探す捜査が行われて行く。
2019年5月29日
孤道完結編 金色の眠り<和久井清水>
2019年の作品であり、内田康夫作「孤道」中絶作の完結編に選ばれた作品だ。書きながら結末を考える内田作とは異なり、中絶した「孤道」から伏線的なヒントや仕掛けを読む事で 始めて書ける。従って完結編は異なる作風にならざるを得ない。「孤道」を引き継ぎ、新しい事件を起こし、過去の日記を掘り起こす、そこに歴史の謎と過去の事件の謎と、現代の 事件の謎をまとめて解決する。条件が厳しく、細部を言及しても意味は無いだろう。
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2019/05に読んだ本の感想を随時書いてゆく。
本格推理小説が中心ですが、広いジャンルを対象とする。
当然、ネタばれは無しだがそれは理解度で変わる。