推理小説読書日記(2017/07)
2017年07月02日
怪星の秘密<森下雨村>
江戸川乱歩・横溝正史よりも早くにデビューした森下雨村は、黒岩涙香・押川春浪と上記2人の間に位置する。編集者として有名なのは作品が現在流通していない事情もあるだろう。 大正1桁の発表作のSFの「怪星の秘密」と冒険小説「西蔵に咲く花」は存在すら知らなかったが、復刊されて読み驚く。昭和20年前後の作と言われても信じそうだ。
2017年07月02日
妖魔の哄笑<甲賀三郎>
戦前の著書が多い作家の甲賀三郎は戦時中の病死もあってか、作品の復刊が少ない。戦後の本格やリアリズムとは離れていて、戦前の変格の幻想と耽美作でもない。現在の作品 と較べると浮き世離れしている感があるが、それが楽しめるかどうかで印象が変わる。
2017年07月02日
風船魔人・黄金魔人<横溝正史>
御子柴進と三津木俊助が登場する少年向けミステリ2作からなる作品集だ。登場する怪人?魔人の名がタイトルとなる。特殊ガスの風船で空を飛ぶ魔人と、金属面の魔人と は少年向けの作品には定番的に思える。
2017年07月02日
狂乱廿四考/双蝶闇草子<北森鴻>
作者の作家デビュー作と、作者の死で未完中絶した作品の合本だ。「狂乱廿四考」は幕末から明治にかけての歌舞伎役者とその周辺を描く、「双蝶闇草子」は類似した背景を 卒論のテーマで調べる学生らを通して描く、現在と過去の謎が混在した所で中絶しているのは残念だ。
2017年07月08日
狼と兎のゲーム<我孫子武丸>
小学生が父親の警官に暴力を受けている、小学生とその友人とはその警官の殺人を目撃して逃げだしを図る。助けを求めようとするが、なにしろ悪い警官だから暴力的に 阻止される。2人は逃げる事が出来るか、助けが来るのか。
2017年07月08日
てのひらのメモ<夏樹静子>
喘息の息子を育てるシングルマザーが出社して私事で遅く帰宅すると子が死んでいた。裁判員裁判が始まり、予備裁判員として参加した主人公女性の視点で事件とその 裁判員裁判を描く。危険性の予測が出来たのか、有ったのかを裁判員と裁判官らが議論する、それはどの時点か、量刑は?。
2017年07月08日
竹村直伸探偵小説選2<竹村直伸>
江戸川乱歩編集の雑誌「宝石」で有力新人として登場した作者だ、昭和30年代の長編書き下ろし時代に短編のみの書き手で活躍して消えた。本格ではないが変格味も少ない 、話しの展開からサスペンス派と呼ばれたようだ。珍しい、学習雑誌連載の連作も収録される。
2017年07月08日
アイルランド幻想<トレメイン>
ケルト学者が書く7世紀アイルランドが舞台の修道女・フィデルマシリーズの日本紹介前に訳された幻想小説集だ。アイルランドの神話的な題材から書かれた、幻想とホラー の連作集は、その背景の雰囲気を強く反映する。
2017年07月14日
屍の記録<鷲尾三郎>
昭和30年代に書かれた長編「屍の記録」と「呪縛の沼」と短編4作を収録する。短編は変格・幻想・サスペンス的な作品であり、長編はトリック小説だ。昭和30年代の社会派の 動機重視と正反対の方向を示す。両極端な作品が並ぶと、当時の読者は戸惑ったとも思う、今は傾向が判った上で読むのだが、ストーリーを追うのは問題ない。
2017年07月14日
三十年後<星一>
星新一の父が書いた、大正時代の先駆的なSF小説だ。書かれた時の30年後を描くが、そこは現在ではとっくに過ぎている、昭和25年頃だから戦後だ、職業が薬メーカーだから 薬が進歩して、何でも薬で解決出来る社会になっている。それは近未来小説よりはパラレルワールドと感じる。
2017年07月14日
金田一耕助、パノラマ島に行く<芦辺拓>
金田一耕助と明智小五郎が登場する、作品集の3冊目だ。パノラマ島と獄門島に行く、それぞれが事件後にどのようになったかと、そこで起きた出来事を解決する。どちらも 2人の探偵以外に小説上の登場人物がリバイバル登場する。それの人物とは片方の探偵は初めて会う。
2017年07月14日
白骨の処女<森下雨村>
昭和7年の作品なのだが、なんとトラベルミステリーだ。東京で事件が起きるが関係者が新潟に居たという、そこを調べると大阪にアリバイがあった。かくして列車と飛行機を 使ったアリバイを追うことになる。その背景となった時代を想定するアリバイ崩しは読者には容易でない、ストーリー的にはサスペンス傾向が後半は大きい。
2017年07月20日
死人に口なし<城昌幸>
ほとんどが掌編・・・今のショートショートとも言える、短い短編集で、30編が掲載されている。アンソロジーにも収録されている代表作の含まれる探偵小説集だ。 詩や捕物帳など多彩な作家の探偵小説と言えるが架空設定や幻想・怪奇色が強い。
2017年07月20日
松谷警部と三鷹の石<平石貴樹>
松谷警部と白石刑事の活躍するシリーズだ、警察捜査だが本格味は強い。時々に俳句を詠む松谷警部と次第に推理力を発揮する白石刑事が中心の捜査を描く。事件はスポーツ 施設で起こり、題名はカーリングの投げる石をモチーフにしている。
2017年07月20日
姿なき怪人<横溝正史>
少年向け小説の連作と、短編からなる作品集だ、御子柴少年と三津木俊助と等々力警部が登場する。作品集としてはやや雑な編集にも見えた。連作は4話に別れている。
2017年07月20日
屍島のイブ<魔子鬼一>
昭和20年代の作品を集めた、あまり作品が紹介されていない作者の作品集だ・短編7作と長編1作からなる。風変わりな作品として紹介されている、それはテーマやストーリー 全体構成や切れ味の鈍さなどあちこちに見られる。江戸川乱歩の影響の強い世界を背景にしている面も感じる。
2017年07月20日
幻坂<有栖川有栖>
本格のパズルものが多い作者の、幻想・怪奇数の「大阪が舞台の怪談」だ。天王寺近くの狭い地域にある「天王寺七坂」の話しの短編集だ。全体から見れば異色作だが、 これ以外にもある。短編として合うテーマと、切れがあると言える。
2017年07月26日
大下宇陀児・楠田匡介レガシー<大下宇陀児・楠田匡介>
本のタイトルがやや曖昧だが、紹介される事が少ない作家2名の長編を同時掲載して本にする企画の様だ。登場年代は異なるが接点がある大下宇陀児の長編「自殺を売った男」 と楠田匡介の長編「模型人形殺人事件」と合作短編「執念」を収録する。繋がりが重要なのかは不明だが今は紹介が少ない作家だ。
2017年07月26日
秘花(上)(下)<連城三紀彦>
やや長めの長編を2冊に別けた。14歳の娘がいる妻が夫の浮気を疑い、自身は微妙な生活を送る。自分の母は北海道と名古屋で遊女を行っていた記憶を持つが直接に話しは 聞いていない。だが死ぬ前に書き残した文を14歳の娘が読んで影響されたようで、自分や夫に個別に浮気していると告げる。妻はその裏で娘が妊娠している疑いを持つ。 妻と娘は遊女だった母の足跡を調べに旅立つ・・・後半は母の名古屋遊郭の生活を中心に描かれる。
2017年07月26日
捜査組曲<今野敏>
安積警部補と東京湾臨海署との人員の中の1名の視点から描く連作集だ。副署長・鑑識・水上係も含まれる・・・・多数の人物が中心になる。安積は自身からも係員の目からも、 係以外の周囲の目からも描かれる。個々の短編に音楽用語の題名が付く組曲の構成だ。
2017年07月26日
棟居刑事の悪夢の塔<森村誠一>
一つの事件を捜査本部の刑事と、民間人の関係者が調べる。個別の事件を個々の県警や所轄や本庁刑事がしらべる。だがどれも捜査は停滞してしまう、その時に別々の事件に 目撃等で関係が見つかる。一部で刑事らの情報交換が始まり、一部の事件が動き始める。
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2017/07に読んだ本の感想を随時書いてゆく。
本格推理小説が中心ですが、広いジャンルを対象とする。
当然、ネタばれは無しだがそれは理解度で変わる。