推理小説読書日記(2017/04)
2017年04月03日
ため息の時間<連城三紀彦>
ひたすら奇妙な小説だ、恋愛小説風の出だしだがそもそも語り手というか著者の立ち位置があやふやでミステリーだ。そこに複数の思惑が見え隠れするが、対決するような姿勢も ある。しかも同時進行的に小説が展開する。同時進行で進むが、それが如何に描かれているのか自体がミステリーだ。内容だけでなく小説自体に謎が多い小説なのだ。
2017年04月03日
赤外線男<海野十三>
戦前の作品7作を集めた短編集で、挿絵も含めて文庫版で20年前に復刊された。科学小説風とSF風の設定と、探偵役が登場するミステリー風が混ざる。それを如何に見るかは 読者次第だ。素朴か空想か独創か懐かしい探偵小説風スタイルか、読者を選ぶ作品だが、実際は読者が選べば良い。
2017年04月03日
偽造の太陽<森村誠一>
複数のジャンルの要素を含む作品だ。発端に見ず知らずの3人が集まる犯罪があり、そこで別れる。その中の一人が仕事の中で機会を得てのり上がる。そこに昔の仲間があらわれて という展開になる。過去に犯罪が再度かかわるのだが、偶然と陰謀とが絡み奇妙な展開となる。
2017年04月03日
半夏生<今野敏>
梅雨明けの半夏生のころの事件だ、アラブ系の外人の病死がバイオテロの疑いが生じて非常事態になるが、そもそも日本に対応能力がない。それは結論がだせないと言う 事だ。テロの疑いが除けない状態が続き、非常事態も解けない。その中で刑事課も捜査員が2名隔離され、他にも割かれてしまうが如何に対応するのか。
2017年04月09日
妻たちの変身<夏樹静子>
小説ではなく、ドキュメントで、妻から色々な職業に転身した女性らを取材してまとめたレポートだ。書かれた時はまだ珍しかった様だし、それに離婚が絡み大きな転身となり それぞれにドラマ性がある。妻や夫らへのメッセージだろう。だらしない夫から離れての進め方は実際の障壁の高い転身のは必要だったと思える。
2017年04月09日
真珠塔・獣人魔島<横溝正史>
御子柴進少年と三津木俊助とが活躍する少年向け小説2作から成る。昭和30年頃の作品で、多様な要素を含んだ内容で如何にも少年向けだと言える。戦後まもなくの時期の 作品が続々と登場するこの作者の創作力は読むたびに驚かされる。
2017年04月09日
片桐大三郎とXYZの悲劇<倉知淳>
有名な4部作を直ぐに連想させる連作だ、4短編のそれぞれが対応する作品を連想させるし、それが狙いなのだが・・。主人公は時代劇の国民的なスターだが今は引退している 、耳が聞こえなくなり今は助手が会話を文字に入力して伝えている。この作者らしく推理ではなく、推測だがそれ故に飛躍する。
2017年04月09日
目撃者なし ホワイトカラー殺人事件<樹下太郎>
製造労働者の制服の色からブルーカラーと呼び、それに対してワイシャツの色からホワイトカラーと呼ぶ事は今は少なくなった。サラリーマンが主人公でその生活の中に 生じた妻の失踪。それを夫と妻から交互に描いたミステリーだ、ホワイトカラーを愛した夫という設定だ。
2017年04月15日
ノッキンオン・ロックドドア<青崎有吾>
同窓生の不可能犯罪専門の探偵と不可解犯罪専門の探偵とが探偵事務所を行う、そこにやはり同窓生の刑事が面倒な事件の下請け捜査依頼を持ち込む、そのなかにはやはり同窓生の やたら謎を作るのが好きな犯罪者が作った事件も含まれるという大枠がある。そこからの外れもあるし細部は色々だが、そんな短編が並ぶ。
2017年04月15日
浮世絵師の遊戯<高井忍>
東洲斎写楽の謎を書いた小説は多いし書籍や説も多い。それを背景にして、「歴史の面白い解釈募集の応募する内容を考える学生」を描くのが「遊戯シリーズ」だ。その枠だが それを含めた凝った構成になっている、歴史的に確からしい事と面白い会社は別という立場で描くが、その上でも後者を面白く描く。
2017年04月15日
金色藻<大下宇陀児>
没後50年(乱歩より1年後)が過ぎて著作権は切れたが復刊の見込みは不明だ。そもそも作品は多いが全集が存在しない、本作も1932に書かれ1995に復刊されたものだ。 無難だが特徴が少ないのだろうか、テキスト自体が入手困難な作者だ。
2017年04月15日
金田一耕助vs明智小五郎<芦辺拓>
広義のパステーシュの短編7作からなり短編集だ、その中で単行本初が2作で書き下ろしが1作だ。概ね乱歩・正史時代を対象としている遊び心も強いが、本格味が強い作品 もある、フィクションのなかの年代記に追加するストーリーが主体だ。。
2017年04月21日
単独登攀<瓜生卓造>
山岳小説の作品集で3作収録する、昭和40年代の作品中心だ。ミステリー色よりも冒険小説色が強い。欧州のトップ登山家をドキュメント風に描いた作品と、日本の昔の槍ヶ岳登山を 描いた作品と、北海道の雪山で迷う幻想風に描いた作品だ。
2017年04月21日
花嫁首<柴田練三郎>
短い短編の週刊誌連載という形の眠狂四郎が主人公の作品は連作長編とも、短編集とも読めるが、それを短編としてみてミステリー色の濃いものを集めたものだ。色々な内容が 並ぶがとにかく短く書かれているのが特徴だ。トリックものから、ホラー・伝奇風から詐欺ものやら多数ある。トリックはミステリー作家のアイデアとされているが、独創という よりもマッチング性はどうかだろう。
2017年04月21日
アジアン・ミステリー<獅子宮敏彦>
中国本土と台湾と日本が対立していた時代の台湾を舞台に、歴史小説風に伝奇性の高い空想の舞台を構築した大がかりなトリックミステリーだ。時代も土地も全てが、大がかりな トリックにふさわしい、または納得するかもしれない舞台として選ばれた。
2017年04月21日
福家警部補の報告<大倉崇裕>
コロンボシリーズのノベライズ化を行った作者が、その分身的な福家警部補を主人公に倒叙スタイルでミステリーを展開する。4冊出版された本の1冊で、全体に長い短編・中編 3作からなる。福家は漫画にたいしておたく的なマニアと判る作品、ヤクザの世界と組対刑事にも強い事が判る作品と、無関係な第3者に早く近づく様子を描いた作だ。
2017年04月27日
ストーミー・ガール サキソフォンに棲む狐2<田中啓文>
2冊シリーズの続編であり完結編だ。前編は高校のブラスバンドでアルトサキソフォンを始めた主人公の少女がジャズに目覚め、部を辞めるまでで、後編は主人公が不明の父親と 見え隠れするその絡みを追いながら、ジャズとサキソフォン演奏の世界に深く入って行くのを描く。ミステリー的な謎も解決されるが、むしろ楽器と演奏とジャンルの世界がより 引きつける。
2017年04月27日
屋上の名探偵<市川哲也>
高校生の語り手と転校して来た奇妙な名探偵との噂の少女との絡みと探偵談の短編集だ。奇妙な設定の理由ははっきりしないし、どこに収束するかも不明だ。ただ謎がプロの 探偵が調べる種類では無さそうだとは感じる。
2017年04月27日
花水木<今野敏>
安積警部補と東京湾臨海署のメンバーが捜査する短編集で、5作収録で内容は多彩だ。このシリーズの基本は警察組織の捜査を描く事だが、それに拘らず多様な視線とテーマで 本伝と外伝的な内容を描く。斑のメンバーに周辺の関係者も適時加わり、大きな流れのシリーズとなる。
2017年04月27日
幽霊鉄仮面<横溝正史>
横溝正史の少年向き小説の1作で、由利麟太郎と三津木俊助のコンビが登場する、由利は少年向き小説では登場は多くない。少年向き小説では多くない見立て事件が登場する。 そして少年向き小説は長編でも中編的な長さが多いが、本作は通常の長編の長さだ。
←日記一覧へ戻る
2017/04に読んだ本の感想を随時書いてゆく。
本格推理小説が中心ですが、広いジャンルを対象とする。
当然、ネタばれは無しだがそれは理解度で変わる。