推理小説読書日記(2016/10)
2016年10月05日
蜜柑花子の栄光 名探偵の証明<市川哲也>
過去の名探偵とその弟子が主人公の3部作の完結編と言う、ただ何が完結したのかは他作との絡みもあるがよくは判らない。本作に限っても、長編か連作か、連作長編かが 判りずらい、連作集ではない事は読み終えれば判るようだ。蜜柑花子は依頼があれば受けるという、多忙な割りには突然のタイムリミットのある依頼を受ける余裕が何故あったか という疑問と盛んに体力的に無理という設定が違和感だらけで、ゲーム感覚の世界に入り込む。
2016年10月05日
青銅ドラゴンの密室<安萬純一>
時代をまたいだ謎を極めて異質な、背景で描く。現在流行とも言えるし、あまりに古風とも言えるし、部分的には1980頃の新本格そのままとも言える。たぶんそのハイブリッド 性が狙いなのかとも思う。内容は極めて豊富だが、得てしてかなり重要な所に杜撰か蓋然性に頼る部分があり、悪い意味で古風とか新本格初期と言われかねない部分がある。 力作感が強い程に、意外と簡単な足下の乱れを見落とす事もある。
2016年10月05日
蝋面博士<横溝正史>
ジュブナイルの作品の中編と短編3作からなる。少年探偵が主人公で活躍して、金田一耕助がゲスト出演して、いつもの様にあまり活躍しない。そして横溝作品で同じみの 怪人の登場となる。ジュブナイルのスタイルの統一性にも徹底感を知る。
2016年10月11日
眠りなき夜明け<高城高>
「夜明け遠き街よ」「夜より黒きもの」に続く黒頭悠介が主人公のシリーズ連作集3冊目だ。舞台は札幌のススキ野で時代は、前2冊がバブル期で、本作がそこにかげりが 見えた頃だ。水商売の世界には事件が付きものだ、それは時代で変化はあるが無くならない。視点はやはりハードボイルドだ。
2016年10月11日
月姫系図<角田喜久雄>
伝奇時代小説で、金山奉行大久保長安の陰謀と、それに絡む複数の人物と組織の抗争が始まる。謎の女性と、登場人物の素性が不明、そして謎の符号片と必要アイテムが 揃って登場する。
2016年10月11日
後妻業<黒川博行>
犯罪小説でくくるのが簡単だが、倒叙ミステリの姿とサスペンスの姿と警察小説の姿が重なって進む。基本は詐欺だが、コンゲーム要素もある。視点と同時に小説の姿も 変動して、多彩で想定外の展開を見せる。
2016年10月17日
夜を裂く<笠原卓>
昭和50年からの読者には知名度のある作者だが、現在は新規出版は途絶えている。その作者の短編集の私家版なので、内容のレベルは高い。当時の超短編から中編まで 7作を掲載する、最近の傾向から言えば統一性が無いと見る人もあるだろうが、独立した作品・ジャンルを集めたものが本当の短編集なのだ。長編を読んだ経験者は、 雰囲気というか作風を感じると思う
2016年10月17日
龍の哭く街<今野敏>
膨大なシリーズと作品数の作者だが、そのジャンル内ではあるが少数派の作品だ。新宿を舞台にした中国マフィアと入国管理局が絡み、アクション的に進行する。いくつかの 要素の混合は得意な作者だが、素材の多さを見せた作品と思えた。
2016年10月17日
女王<連城三紀彦>
幾つかの雑誌連載して完結した作品を単行本にしないままに死んだ作者だが、残された作品の運命は微妙だ。何故に単行本になっていないのか、出版社の事情もあるかも知れない が、普通は作者が加筆・修正する予定だったと考えられる。今となっては連載されたままで出版するかどうかだけの判断になる。この本もその1冊で長さも内容もたぶん、この 作者最大だろう。現代から、段階的に過去に遡り、邪馬台国の時代まで行く構成はその意味は難解だが、部分的には面白い作品だ。評価困難だ。
2016年10月23日
和気有町屋南部署<滝田務雄>
まともな者がいない警察署の連作長編の形をしている。章ごとに視点を変えて進むが、その度にまともでない者の視点が変わるので、まともでない話しがかなりリセット される。これで収束する訳がないがそこは小説だから終わりはある。まともに訳が判った訳でないのだが。
2016年10月23日
黒い神座<森村誠一>
初期の作品の入るのか、「社会派」の題材と、末端の事件を追う者の捜査を併行して進める、巨悪を暴くミステリだ。巨悪を直接描くのが初期の特徴であり、次第に社会に潜む 色々な問題へと題材が変化して行く。どちらも道具ではなくテーマならば、社会派ミステリで同じと思うが、初期の巨悪直接が社会派とされる傾向はあるようだ。
2016年10月23日
ウィンディ・ガール サキソフォンに棲む狐1<田中啓文>
高校吹奏楽部の氷見典子が、父の残したサキソフォンに棲む狐と共に別の音楽ジャンルに興味を持って行く。それを柱にして細部の事件を絡める連作長編となる。柱となる 謎が多数蓄積した所で「1」は終わる。きっと遠大な話しになるかと期待するが、そうでもないらしいとも聞く。
2016年10月29日
四日のあやめ<山本周五郎>
戦後直ぐから昭和30年半ばまでの時代小説短編9作からなる短編集だ。時代小説であるが、書かれた時代の影響を受けていると感じるものもある。時代を経ると次第にテクニック に変化を見せる、そしてかすかに幻想や架空や擬人化を含む作品も登場する。
2016年10月29日
Cの悲劇<夏樹静子>
「C」はコンピュータで背景がコンピュータ産業で、そこで働く技術者と家庭が食い違って行く状況を描く。まだコンピュータ産業の初期の作品だが、在宅勤務や産業スパイらを 先取りして、動機や事件を広くして、その中の人と外の人とのくい違いを含めて、日常生活への影響を悲劇として描く。
2016年10月29日
警視庁神南署<今野敏>
安曇警部補シリーズ第6作で神南署所属だが、一度書き始めた「ベイエリア分署」での本格的警察小説が時代を先取りしすぎて中断し、テーマ性の2作を挟み、再度本格警察小説に 戻って来た。漸く時代が追いついたのか、作者の中核となる警察小説の大シリーズへと歩き始めた作品だ。所轄・担当という区分けが重視されるのが本格警察小説だ。
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2016/10に読んだ本の感想を随時書いてゆく。
本格推理小説が中心ですが、広いジャンルを対象とする。
当然、ネタばれは無しだがそれは理解度で変わる。