推理小説読書日記(2016/03)
2016年03月03日
死仮面<横溝正史>
角川文庫版の中島河太郎の解説によると「未完とされていた長編が地方出版連載で見つかったが、見つからない号があり、そこは中島が補った」とある。現在は不明だが 部分共作とも言えるかもしれないが強引さも感じる。死仮面とは死者の顔を写し取った仮面=デスマスクの意味だ。それだけでも横溝の世界の匂いがする。他に短編1作を 収録する。
2016年03月03日
ジウ1 警視庁特殊犯捜査係「SIT」<誉田哲也>
「SIT」が「捜査1課特殊斑」の略と聞いた時は脱力した思い出がある。誘拐・立て籠もり等の特殊犯に対応する係で、交渉係と突撃係を持つ。本書は、その係それぞれの女性 1人ずつがある事件の結果で、別の部署に移る所から始まり、事件捜査絡みで同じ事件で逢う事になる。文庫版全3冊の1冊目だ。一応は完結の形だが、事件は終わっていない。
2016年03月03日
おれは殺されんぞ<島久平>
ミステリ誌に掲載された通俗ミステリを集めた作品集だ。島作品にはミステリ味の薄い・無いものも多いが、一応は発表誌の顔を立てているようだ。ただ後期作品でなく 中期の移行時の作品と見るべきだろう。
2016年03月09日
灰王家の怪人<門前典之>
怪しい人物が怪人なのか、それとも・・・。本格ミステリなのだから普通は前者の筈だが、奇想と紹介されるとそうとも限らないし、それに従って本格度は急減する。 何故なら、奇想は読者の論理性を壊し本格ミステリ味を減らす、それがプラスかマイナスかは筆者と読者が判断する。少なくとも伝奇小説的な内容だとは言える。
2016年03月09日
白魔<スカーレット>
5作を残した合作作家は、本国では忘れられた存在らしいが、日本では本著の完訳で全ての紹介を終えた。現代は異なるが、戦前の抄訳時を踏襲した。閉じられた館ではないが 、一件のアパートと周辺だけが主な舞台の作品群は日本の読者好みなのだろう。トリックよりも論理性重視の作風も、愛好者は多い。戦後日本の作品とはやや方向性は異なるが ・・・・。
2016年03月09日
美女<連城三紀彦>
ミステリで登場し、多様なトリックと叙述と逆転の発想等を加えた終わる事のない作者の作品群は作者の没後も、正体をなかなか現さない。途中から恋愛小説の書き手として も有名になったが、双方を合わせた恋愛と男女の関係と心理をテーマと背景にしたミステリは、双方の読者にとって難解な作品群と言える。それ故に多数の傑作群がまだまだ 読者と評価を待っている。結局はこの作者の完全読破後でないと、理解に近づくのは難しいと思える。
2016年03月15日
離れ折紙<黒川博行>
美術専攻の作者が、骨董品・古美術界を舞台にした詐欺=コンゲームを描く短編集だ。あいにく私はその知識はないし、有っても推理は簡単で無いと思うので、そのままコンゲーム として読むか、一種の犯罪小説として読むか、一部は倒叙小説風の読み方も出来る。謎解き性は少ないが読んで楽しめる。
2016年03月15日
ミステリクロノ<久住四季>
少年・少女向けミステリシリーズの2つ目だ。登場するのは、落ちこぼれの天使で、タイムマシン風の装置を使うのだが地球のどこかに複数個落としてしまう。探す道具として タイムトラベルで歪んだ世界を戻す装置を預けられてそれを使い、落とした装置を集めされられるが、それまで人間にされる。元々頼りないが人間は経験がないのでもっと 頼り無いという一種の宝探しになる様だ。
2016年03月15日
虚構の殺人者<今野敏>
小さな東京ベイエリア分署は急造で人数も少ないが事件は多い。しかも他署の手伝いばかりだ。いつも人出不足で、やりくりに困るが反面班長の安積警部は4人の部下の性格を 知り抜き適所に配置して、難局を乗り切る。事件が多い・応援的でも関わりが多い事は結構情報が多い事にもなるので、事件の見通しは逆に精度が高く捜査の本筋を掴む。 テレビ局の勢力争い絡みの犯罪を見抜き真相に近づく。
2016年03月21日
雪の別離<夏樹静子>
昭和50年代半ばの8作からなる短編集だ。似た雰囲気からの書き出しが多いが、展開は多彩で多様なジャンルやテクニックを試行していた風にも取れるし、既に短編では固定化 した内容のリスクを判り、書き分けていたとも読める。純本格=謎解きもありが、犯罪を描く作品が主体でサスペンス展開も多く倒叙方式もある。シリーズでない個別短編集の 面白さを示す内容だ。
2016年03月21日
棟居刑事の代行人<森村誠一>
代行人は「エージェント」と読ますが、登場するのは町の代行屋だが経歴がレンジャー出身と異色だ。挙式代行をしたら、花婿が行方不明になり亡き妻とそくりの花嫁の、花婿 の代行を頼まれるという強引な導入だ。あとは何でも有りの展開となり、花嫁が狙われ護衛を頼まれ深い陰謀に巻き込まれ、妻の死が絡み、組織や宗教団体が絡み、別の事件を 捜査する棟居刑事らと事件が重なるという展開が続く。そもそもは何から始まったが忘れそうになる、そして・・。
2016年03月21日
賊将<池波正太郎>
有名な3大シリーズを始め多くの作品群のある作者だが、作品には多様な切り口とテーマがある。本作品集は、中編「応仁の乱」と短編5作からなる歴史小説の味が濃い。 実在の人物を色々な見方から発想を膨らます手法で書かれた作品軍は、歴史小説でも伝奇時代小説でも捕物帳でもない様だが、そもそもどこまでが歴史資料に基づくのか が判らない様に書かれているので読者は、分類など考えずに読むしかないだろう。
2016年03月27日
迷宮の扉<横溝正史>
中編と短編2作の作品集。中学生向けの作品で、小学生向けと較べると大人向けと大きな差はないように思う。小説としての構成と展開は差はなく、連載での中編の長さで 本格で意外な犯人設定も変わらないが、論理の積み上げとかホラー性はやや抑えるが、サスペンス性は強い。長編になれば、軽さを感じそうだが、中編までなら差は少ない。
2016年03月27日
少女の時間<樋口有介>
永遠の38才で元刑事の刑事事件専門フリールポライターの柚木草平シリーズの1作だ。著名な評論家の妻とは別居中だが、小学6年の娘・加奈子にも頭が上がらなくなってきたが その月1度の会う場面から始まるのが最近のスタイルだ。何故か柚木の周囲には女性が寄りつく、それも幅広い年代の女性が、女たらしと言いながら人畜無害とも言い、集まる。 ほぼレギュラーに加えて、本作では女刑事や人妻やその娘など増殖する。情報は集まり事件解決には良いが、ぶつかる危機は増える。
2016年03月27日
肉小説集<坂木司>
日常の謎派の作者が、肉=豚肉の各部位をテーマに描く、作品集だ。どちらかと言えば、苦手とか好まないというマイナスが多い。本当は避けていたが、どうしても食べる必要 になる状態になってしまうのが、多いパターンだ。謎解き性は薄いが、語り手の心理状態を描き、展開してゆく。
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2016/03に読んだ本の感想を随時書いてゆく。
本格推理小説が中心ですが、広いジャンルを対象とする。
当然、ネタばれは無しだがそれは理解度で変わる。