推理小説読書日記(2016/02)
2016年02月02日
おっかなの晩<折口真喜子>
副題が「船宿若狭屋あやかし話」となっている。主人公として登場するのが、船宿若狭屋の若女将のお涼だが30過ぎでひとり者で、船宿を切り盛りする設定だ。ただし8話の 作品集が進むと、色々な視点と年代で登場する趣向となる。年代は固定でなく、年代順でもない構成となっている。「あやかし話」だから話しの内容に明確な制約がなく、 作者の思いのままの微妙な展開がくり広げられる。
2016年02月02日
落日の門<連城三紀彦>
卓越した作品群で読者を魅了したり、驚かせたり、悩ませたり・・・・底が読めない作家の代表とされたが、死去し読者を嘆かせた。作者には雑誌掲載または連載されたが 単行本になっていない複数の作品がある。作者が大幅な改稿を考えていたと思われるが、仕方がないので連載のままで、死後3冊刊行されたが、まだある。そして、本作の 様にハードカバーの単行本にはなったが何故か文庫化されていない作品集がある。作者自身には理由がある筈だが、今となっては読む機会のない人は気の毒とも言える。 ただし、2.26事件と思われる出来事を共通テーマに架空の登場人物が、多様な視点・時代・繋がり・手法で書かれた驚愕の展開に悩み驚かされる事が、読者全員が楽しむか どうかは不明だ、なぜなら私がこの作者の世界に深く嵌まり込んでいるからだ。
2016年02月02日
アルカトラズ幻想<島田荘司>
4章からなる長編だが、章毎にかなり読みはいらないと前章からの繋がりが判らない、そしてそれ判った頃は強引なのか偶然なのか疑問がある筈だが、何故か必然と思わされて いる。一種の感覚破壊なのか、舞台を次々変えて辿りつく先は・・・いつの間にここに来たのかと思う。ここは不要だろうと削りたくなるが、それでは奇想が平凡に なるのだろう。
2016年02月08日
倉橋由美子・全作品6<倉橋由美子>
1976年発行でそれ以前の全作品だ、6巻は1965-1968年でアメリカ留学前後の作品だ。帰国直後で作者曰くアメリカ土産的作品「ヴァージニア」前後だ。テーマや表現から問題作 とされそうな(された)作品も自作ノートでは、シンプルに創作動機と内容が書かれる。深刻に受け止めるとか、失敗作もあると後で言われても、評論家は困るだろう。 自由に読める一般読者は好きに読めば良いだけなのだが、周囲を気にすると迷う。
2016年02月08日
蝶の力学<麻見和史>
警察小説が急増しているが、対象・背景であるので、内容は多岐に渡る。その中で本格推理作品ならば、現在はこの作者が接見している・・正確には他には殆ど見かけない。 ただし、双方を成り立たせると構成や事件の範囲が狭くなる。本作はその中でスタイルを変える動きを行ったようだ。それは、2本柱を弱くする面もあるが、新たに加わる面 の多い。少なくともレギュラー陣の役割が広くなり、明確になりつつある。
2016年02月08日
トリックスターズ C part2<久住四季>
魔術師と魔学部とがテーマの「トリックスターズ」シリーズ最終作の後編だ。魔術師は探偵としても、犯人としても有力でストーリー展開を一気に変える事が出来る。 学園祭を魔術師?が介入し、実行委員会と解明に向かう推理小説研究会が動き廻る構図で進む。犯人の本当の狙いは何か、裏がいくつあるかは登場する魔術師の数だけ だろうか。
2016年02月14日
消えた修道士(上)<トレメイン>
7世紀のアイルランドを舞台にした修道女・フィデルマのシリーズの長編7作目の翻訳でここに来て翻訳順も発表順になった。独立した長編だが、人物や背景に共通点があるので 発表順で読む方が若干は都合が良い。大抵は分冊になる長さだが、全て本格長編で論理で解き明かす構成は今では貴重なシリーズだ。本作は国の存続を掛けた陰謀の正体を暴く が前半は、次々に混沌とする事が起きる
2016年02月14日
消えた修道士(下)<トレメイン>
本シリーズは、本格ミステリの常道の関係者を集めて、探偵役が長い事件の解明を行うのが特徴で醍醐味となる。本作は国の大問題なので関係国と第三者の裁判官が集まる当時の 法廷で探偵役が弁論で真相を解き明かす展開になる。その様な背景だから、裁判の日が決まっていてそれまでに解明する必要があるという、タイムリミット設定もある。
2016年02月14日
スクープ<今野敏>
テレビの夜の報道番組の担当社会部記者・布施京一が主人公の第1作目だ。見かけは長編とも見えるが、シリーズ短編集だ。一見遊んでいるようで、打ち合わせにも遅れがちで 責任者を悩ますが、度々スクープを掴む記者が主人公だ。テレビ担当だから、記事ではなく映像を撮るのがスクープで、大型カメラの鮮明さよりもハンディカメラや携帯電話動画 機能を駆使する即時性を重視する。どこでネタを掴み追いかけていて、現場に立ち合うかは様々だが、大体は浮かび上がる。
2016年02月20日
蒼ざめた告発<夏樹静子>
1980年頃の7編からなる連作でなく独立した短編集だ。弁護士や刑事も登場するが多くは、主人公は社会人で女性が多い、対象の男は夫や恋人に限らないが疑問が謎に膨らむ 心理状態が事件に発展する。舞台も進行も解決も色々で、短編ながら圧縮された深い内容であり、終わっても、まだ発展する予知を感じさせる。
2016年02月20日
山の屍<森村誠一>
女性作家志望者が付き合った男から小説原稿を貰い、それが新人賞になりデビューするが作風が異なり、周囲から色々言われながら、自分の作風で自作移行を書く。そこにその 小説に似た事件が発生する。信州の刑事が捜査開始し難航する内に、東京の棟居刑事や新宿署・牛尾刑事が絡み、じっくりながら協力した捜査に発展する。
2016年02月20日
真実の10メートル手前<米澤穂信>
記者からフリーライターになった太刀洗万智の登場作の、短編集だ。フリーライターらしく、神出鬼没的に事件に絡むし、本業の狙い以外でも働く。視点はバラバラというか 主人公と出会った人物の視点が多い、名も知らず初めて会った、状態での記録が主になる。話しも多彩で、短編らしい型にはまらない多様さがある。
2016年02月26日
緋鹿子伝法<角田喜久雄>
主人公・緋鹿子のお紋こと紋三が活躍する伝奇時代小説だ。女装の男で謎の人物とは如何にも小説中だが、宝探し的な進行だが奇妙な人物と何故か美女ばかり登場する。 意外にも人はあまり死なないが、捕まっては秘密を聞かれ責められ、誰かに助けられては、次は助けた者が捕まりと似た繰り返しになる。秘密を知っている可能性があると なかなか殺されないという仕組みだ。
2016年02月26日
宮原龍雄探偵小説選<宮原龍雄>
宮原龍雄が1冊に収まる事はないから選集となる、雑誌・宝石中心のメジャー作品が主体だから、アンソロジーや古雑誌を読むファンはかなりの収録作を読んでいると思う。 作者の作品リストもないので、全集を組むにはどの程度の量が必要かは不明だが、かなり消化不足だ。単行本化されていない作家の本は珍しいとは言え、マニア向けでも一般 向けでもない中途半端な状態だ。続集が必要だ。
2016年02月26日
月蝕姫のキス<芦辺拓>
少年少女向け小説、あるいはミステリの企画はあるようだし、幾度か選集や文庫も作られて来た。この本もその中に含まれて企画されたと様だ。ファンの拡大は低年齢層から と考えるのか、著者にはかなり入れ込む事がある。主人公や登場人物に同じ年代を当てるのは昔からの常識だ。構成に読んで貰いたい内容を盛り込むのも同様だ。だがそれ意外に その世代に好まれそうな構成や内容を加えたくなるらしい、結果的に詰め込み過ぎて逆に混乱気味で困惑気味になる事が多い。
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2016/02に読んだ本の感想を随時書いてゆく。
本格推理小説が中心ですが、広いジャンルを対象とする。
当然、ネタばれは無しだがそれは理解度で変わる。