推理小説読書日記(2015/07)
2015年07月01日
福家警部補の追求<大倉崇裕>
コロンボの日本版を目指す福家警部補シリーズも4冊目で今回は中編2作だ。中編という長さはかなり向いている様に感じた。福家の奇妙な人格も多く書かれるが 後で使えなさそうな事もあるし、継続しそうな事もある。ひたすら人間離れの道を進む。相棒の二岡はやや影が薄い。犯人以外も描けるのは中編ならばで、視点が 増えるのはプラスと思う。
2015年07月01日
険奇探偵小説・ホシナ大探偵<押川春浪>
押川が、ホームズ談を翻案した短編2作からなる。いまだに書かれるホームズ談だが、探偵小説の初期の翻案作もまたその人気をうかがわせる。珍しい以外は 特徴を求めても仕方ない時代性だと思う。
2015年07月01日
遺産相続の死角<深谷忠記>
一時は量産され、高いレベルの人気シリーズで数学者・黒江壮と恋人・笹谷美緒が、警察と協力して事件を解決する。作者の作風の変化と、ネタ切れが重なったのか レベルが下がり作品が急減した。2人が結婚して再スタートかどうかは不明だが、小説全体のスタイルが変わったようだ。如何にの部分が無くなった。
2015年07月07日
殺意の構図 探偵の依頼人<深木章子>
複雑過ぎる構図と展開で、読者に挑戦する作者がまたも複雑化したと思われる謎を出す。「思われる」と言うのはこの作者ならのではの事で、誰もが気づく訳でないだろうから。 弁護士や探偵が奇妙に絡むが、どのような役割だろうさえも簡単に判らない、そもそも考える必要の有無さえ判らない、雰囲気だけでの予想も難しいだろう。
2015年07月07日
あなたに贈るX<近藤史恵>
流行のプラス1設定物とも言えるが、それが重い。「X」はキスと読ます。キスだけで伝染する死の病が存在する設定での恋愛とは何かを問う。しかも感染者(保有者)でも発症 しない者も居るし、未発症の感染者は伝染しない。「キス」という行為は死滅するし、恋には重い信頼が絡む。そして、感染者に取っては恐ろしい武器となるが・・・。
2015年07月07日
千代有三探偵小説選1<千代有三>
多くの初単行本化となる作家を含む叢書だ。この作者も同じだが、この本は「探偵小説選」と言うには微妙に違和感がある。1つは著者が本名で評論家であり、多くの評論が 取られて居ることで、もう1つは「犯人は誰か」的なものが有り、小説の形態を取っていない事だ。小説自体は凝った本格が多いが、全体からは限定される。
2015年07月13日
虐殺器官<伊藤計かつ>
わずか3作で夭折した作家のデビュー作だ。シンプルにいうなら近未来小説だが、テロを中心に現代社会の問題をSF手法で描く。先進国では、テロを力で抑えて居るように 見えるが、世界のどこかでは絶えずテロで破壊されたり紛争がある地域が存在し、そこに組織か影の人物がいる。それらがあると、それを潰そうとする役目の何かがある。 それが話しの展開となるが、その後の展開は多くの読者の予想を超える。
2015年07月13日
南溟に吼えろ<高橋泰邦>
海洋小説に力をそそぎ、翻訳も多くした作者がフォレスターの翻訳後に、その主人公・ホーンブロワーを東洋に連れて来てオリジナル小説を書いた。作風的には同じとも思わない のだが、適任としよう。英国のシンガポール植民地化で訪れて、この地域の海賊や国がからむ。そこに伝説の女海賊が絡む趣向だ。
2015年07月13日
不義密通組合<島久平>
探偵小説作家の著書だが、ミステリーとは言いがたい。コント集だろう。ただし、クイズもミステリーだと広い心を持つ人にはミステリーに入れて貰えるかも知れない。
2015年07月19日
九十九本の妖刀<大河内常平>
珍本全集の1冊で、2冊と数作の短編からなる。全て刀がテーマだが、背景は作者の思いのままにあちこちに飛ぶ。ジャンルなき乱闘になる小説だ。伝奇・怪奇小説的な 風味が大きい。ただ書き方がミステリ味で書き始めたり、時代小説風に始めたりするので、途中で混乱する。一応は解決があるが、まず納得は無理だろう。
2015年07月19日
だれがコマドリを殺したか?<フィルポッツ>
フィルポッツが、ハリントン・ヘキスト名義で出して日本への紹介もその名義だが、新訳に伴い名義を統一した。それほど紹介数の多い作家でないので、それも良いだろう。 古き時代の探偵小説の風味の作品で、結構多くのファンが居ても良さそうに感じる。
2015年07月19日
えんぴつ稼業<三好徹>
新聞記者が主人公の短編集だ、時代と新聞社で変わる筈で仕事を描いたかどうかは判らないが、内容は特にテーマも作風も定めず自由に描いている。それはこの作者の天使 シリーズにも見られる短編集としての良き構成と感じた。
2015年07月25日
触発<今野敏>
爆弾テロの捜査本部だが、内閣危機管理室は犯人の危険性を分析し、自衛隊から爆弾専門家を密かに特命刑事扱いで捜査本部に送り込む。かくして、傭兵出身のプロ兵士と 自衛隊爆弾処理者の、プロ同士の闘いが始まった。それは一般の警察では理解を超えた世界だった。
2015年07月25日
二人の夫をもつ女<夏樹静子>
女性とその心理を中心に男女を中心にした人間関係を描く。本短編集は、テーマよりもよくありそうな家庭とそこに発生する問題を取りあげた風に進めるのが特徴だ。 本当に描かれるような事件が自然に発生するのかは疑問だが、そう思わせる内容だ。
2015年07月25日
病院坂の首縊りの家(上)<横溝正史>
昭和50年付近の横溝ブームは大きかった。老齢の作者は、直前に中断していた「仮面舞踏会」を完成させ、その後にやはり中断または構想段階だった「病院坂の首縊りの家」 と「悪霊島」を書き上げた。どちらも時代の経過を描く大作となった。「病院坂の首縊りの家」は前半で昭和28年の事件を描き未解決で終わり、後半で昭和48年の事件を描く、 双方に関連があるが、2つを描くから2冊分の量になった。
2015年07月31日
隠密月影帖・月の巻(下)<高木彬光>
月の巻の下巻。新之助が大活躍と言いたいが女性に弱そうで、そこに次々と怪しげな女性が登場し読んでいてもだんだん区別が怪しくなる。とにかく由比正雪の隠し金の在処 を書いた分断された書物の奪い合いだが、大物が勢揃いらしいが覆面が多すぎて真偽は不明となり、如何にも全体の半分だ。
2015年07月31日
病院坂の首縊りの家(下)<横溝正史>
上巻で昭和28年の事件は中断で終わるが、未解決事件を金田一耕助が興味を持ったまま、昭和48年になる。関係者は年をとり、死んだり成長したりする。等々力警部は退職して 調査会社を開くがたいくつ。関係者の渡米で中断していた事件が別の形で動き出す、重要人物が死期が近づき金田一と接触する時に、新たな事件が発生し、時効になっている 古い事件と共に解決編に向かう。
2015年07月31日
夜より黒きもの<高城高>
平成にしばらく小説から離れていた、高城高の作品が読める事だけでうれしい。本作は「黒頭悠介」の連作集の2冊目で私が初期に読んだ「踏切」や「ラ・クカラチャ」の流れ の作品でハードボイルド的な主人公と文体が楽しめる。北海道物だが、大自然や北の海ものが好きな人には異なると言っておく。まだまだ読みたい。
←日記一覧へ戻る
2015/07に読んだ本の感想を随時書いてゆきます。
本格推理小説が中心ですが、広いジャンルを対象とします。
当然、ネタばれは無しです。