推理小説読書日記(2015/06)
2015年06月01日
群狼の海<高橋泰邦>
海を主な舞台に小説を書いてきた著者の父が主人公と思われる、ドキュメントを小説化したものと思えます。その子として作者も微かに登場します。時代が太平洋戦争末期 で、戦後も少し描かれます。戦記というと軍人や戦闘船が普通ですが、本編は一般の船の船長とその部下です。軍艦以上に被害に合ったが、語られ事も祀られる事もない 民間輸送船とその船員を描きます。ただ沈められるたみに石油等を輸送させられる悲惨な航海を描きます。
2015年06月01日
星読島に星は流れた<久住四季>
新本格という分野が登場した頃を思い出す、作品です。隕石の落ちる数が多いと言われる島に、住む研究者と天文台、そこに同行者が集まり隕石が落ちたらば、誰かが貰える 設定の中で、事件が発生し通信手段が破壊されます。限られた空間と人数、しかし通常はオンラインでの仲間で知らない者もいる。謎だらけで展開する。
2015年06月01日
倉橋由美子全作品3<倉橋由美子>
全作品と言っても、作者中期に編まれた叢書で作者の「作品ノート」が見物です。個々の作品の自筆解説というよりも、発表作の評論家の批判が中心となる。あわせて読む 事で作品が、身近で少しは判り易い存在となる。作品自体が評論・批判精神がある内容だが、個々に読むと重ねて悩む事もあるので、作者の自作解説はうれしい。
2015年06月07日
殺人暦<横溝正史>
中編「殺人暦」と短編5作からなる作品集だ。書かれたのは昭和6−8年となる。作者が東京在住時代でそこが舞台の作が中心だ。まだ、金田一どころか、由利麟太郎登場 前で、多様な探偵役が登場する。まだ幻想作の前で、本格風味や怪奇スリラーやコント風の時代といえる。怪奇と幻想の違いと差は、読者の感性のよる面もあるが、この 時期はグロテスク感が面に出ている。
2015年06月07日
千葉淳平探偵小説選<千葉淳平>
短い期間に短編のみで活躍した作者で、単行本は初めてで一部のマニア以外は読んだ事もないかも知れない。ただし、内容的には個性というか偏りはあるが、レベルは高い ので、たぶん今後も読める機会はないと思うので、お薦めと思う。理系というか物理的というトリックが多いが、小説全体はそれとは違う奇妙な味がある。
2015年06月07日
ならぬ堪忍<山本周五郎>
著名な作者の主に昭和初期の短編を集めた作品集だ。別名義作品が多く、発掘されることから研究と共に作品が増えた作者と言える。時代小説の中の多様性をこの作品集でも、 見せている。書かれた時期的には制約は多かった筈だが、まずは読んで面白い事を目指す作者の考えが内容に出ている。1作ミステリーが含まれている、内容は心理ミステリー と今では呼ぶのだようが、時代的には昭和8年とされる。
2015年06月13日
伝奇耽美館<橘外男>
短めの長編「ウニデス潮流の彼方」と「君府(コンスタンチノープル)」の2作からなる。「ウニデス潮流の彼方」は南米大陸の南を流れる早い潮流に巻き込まれ気がつくと 幻の大陸に辿りつく・・・という話しだ。「君府(コンスタンチノープル)」はヨーロッパ育ちの夫人がトルコ王の妾にされ、そこの風習に晒される官能小説的話しが進むと 、夫人が後宮を支配しトルコ王へも影響を与え出す、そこに戦争が起こりそうになり・・・・、違う流れの話しになって行く。
2015年06月13日
無の犯罪<島久平>
この作者のレギュラー探偵・伝法義太郎が登場する短編集だ。初期の本格ミステリとは一味以上異なる作品が多い。多彩というより、後期の島作品に初期の本格味をたした 内容が多そうだ、それ故の奇妙な仕上がりの作品も受け入れされる環境になった感がある。
2015年06月13日
殺人者の肖像<三好徹>
犯罪小説の短編集だ。暗黒小説でも社会派でもない、ミステリーで多そうな動機の犯罪を描くが、それが犯罪者の気持ちや行動を描き易いと作者は思うらしい。 確かに、読者が理解しやすい動機の犯罪は犯罪者にも理解しやすい面があるだろう。
2015年06月19日
虚像の道化師<東野圭吾>
ガリレオこと湯川シリーズの短編集だ。最初は、評論家が批判的な物理トリックを全面に出し、それを解決する名探偵を創出した一種のパロディ的に見ていた。思わぬ 好評で路線変更が必要になり、通常のミステリ的な展開になり、物理トリックとその解明も比重を抑え気味になった。オールラウンドの作者なので、通常のミステリ になっても、普通に面白い。
2015年06月19日
終極<今野敏>
潜入捜査シリーズの最終作だが、20年前の発表作の改題・復刊とは思えない現代的な内容だ。先祖からの殺し屋の血筋と技の継承者は警察小説のイメージではないが、 最近の小説では多くの作家が使用する設定に似ている。ラスボスは強力だが、仲間も出来て解決する。作者のいくつかの一面を見つけられるシリーズだ。
2015年06月19日
あしたの貌<夏樹静子>
表題の中編と、4作の短編からなる作品集だ。題名から予想される、貌の話し=整形医療が主題だ、ミステリの定番だが深く掘り下げる。今や日常の話題ともなったが、 全体にそのようなテーマが多いのがこの作者で、この作品集だ。
2015年06月25日
隠密月影帖・月の巻(上)<高木彬光>
2巻と上下からなる。紀州・吉宗と尾張・宗春の対立は伝奇時代小説の定番だ。大岡越前守や日本左右衞門や由衣正雪らのこれまた定番の名がそろう。そこに主人公・三日月 新之助やお紺などが登場して絡んで行く。いまだ1/4だ。
2015年06月25日
青い外套を着た女<横溝正史>
昭和10年からの9編からなる短編集だ。漸く、「木乃伊の花嫁」で由利麟太郎が登場する。多彩と言うか作者の方向性の迷いが見える内容に思える。ただ、時期としては「鬼火」 が書かれる直前に当たり、戦争中の小説内容への制限が強くなる10年前でもある。
2015年06月25日
宝石S34.01<>
長編連載は水上勉「若狭姥捨考」と黒岩重吾「詐欺師神口悟郎」と鮎川哲也「死者を笞打て」で、短編が、多岐川恭・佐野洋・斉藤栄・蒼社廉三・星新一・山川方夫・城昌幸・ 久能啓二で翻訳はブラッドベリーで、或る作家の周囲は「新田次郎」だ。
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2015/06に読んだ本の感想を随時書いてゆきます。
本格推理小説が中心ですが、広いジャンルを対象とします。
当然、ネタばれは無しです。