推理小説読書日記(2015/05)
2015年05月02日
江戸の夜叉王<高木彬光>
幕末を舞台にした伝奇時代小説。最初から最後まで謎の夜叉王という人物が背景に存在する。それは誰か、目的は何かを追う。主人公は京都で新撰組を起こす前の江戸での 沖田総司で、創立時の新撰組の人物も登場する。謎の人物が諜報競争と暗殺を行った時代の事だから、何でもありに思える。
2015年05月02日
芙蓉屋敷の秘密<横溝正史>
当時の長編「芙蓉屋敷の秘密」とその他7作の作品集だ。昭和初期の長編は、現在は中編と呼ぶ長さで、名探偵・都築が登場するが、由利・三津木の前身的だ。 昭和初期で作風が幾たびか変わった頃だが、発表作はかなり多い。
2015年05月02日
壁の目<森村誠一>
副題が「新・文学賞殺人事件」で初期に「文学賞殺人事件」という短編があるらしい。小説と文学賞と内容が現実と重なる設定の作品は多い。ひらたくいえばその系統だが 色々な視点で見ると意見が異なる。複数の視点と犯罪の結び付きを絡めて、大きく広がりながら展開する。着地にはまた色々と意見がありそうだ。
2015年05月08日
太宰治の辞書<北村薫>
「私と円紫さん」シリーズの十数年ぶりの新作で、長編と言って良いだろう。登場人物は年齢を経て、大学卒業後に小さな出版社に勤めた「私」も結婚して子供もいるが 仕事は続けており、知人作家の賞候補待ちで新潮社を訪れ偶然にテープ起こしの間違いを思い出した所から、次々に芥川や太宰関連等の謎を書物的に追う事になった。 2賞では出先の小田原で教師で独身の正ちゃんと会いそこで話しが進み、最終章で久しぶりに円紫さんを訪れヒントを貰い、太宰が使用した辞書を探す。研究書を 小説にした内容で、主要人物は年齢を経ても感受性は変わらない。
2015年05月08日
目白台サイドキック・五色の事件簿<太田忠司>
SFあるいはオカルトの世界感を持ち込んだミステリ・シリーズ3作目で、短編集風の目次だが、長編と見たほうが良いだろう。名探偵なのか、ただの変わり者かという 複数の人物が事件をどんどん複雑にしてゆく感もある。普通ぽい語り手もいつしか、奇妙な仲間に引き入れられて行く。
2015年05月08日
宝石S36.9<>
長編連載は笹沢佐保で、短編が結城昌治・星新一・城昌幸・新章文子・加納一朗・樹下太郎・渡辺啓助となる。「或る作家の周辺」は多岐川恭で、翻訳が2作と随筆や コラムや書評が沢山となる。乱歩の「探偵小説四十年」出版の記事もある。
2015年05月14日
私は呪われている<橘外男>
「珍本全集」というレーベルだから、テキストでも見る機会は少ない本だ。先祖の祟りが末代に出るという怪談で、末代までというのが怪談のひとつの定跡だ。そこに 化け猫が似合うのだろう、鍋島騒動を始め化け猫も怪談にあう、アイテムが揃うと文章はたんたんと運んでも雰囲気は充分だ。時と場所をワープする話しはスケールがある。 少女雑誌に連載された「双面の舞姫」とうも収録されている。
2015年05月14日
人魚と金魚鉢<市井豊>
「聴き屋」というキャラクターの2冊目の作品集だ。「聴き屋」設定はユニークだが、ミステリ的には素材が少ないか難しいらしく、同じ人物が登場するが普通のキャラ の作品も含まれる。それで1つの普通のジャンルなのだが、やや微妙な読後感だ
2015年05月14日
臨界<今野敏>
復刊時の改題で潜入捜査シリーズになった5作目で、発表時にはまだ騒がれていなかった原発と廃棄物問題が扱われる。それに群がる暴力団と主人公・佐伯らの闘いだ。 ただ今読むとあたかも、福島原発後に書かれた作品に見えてしまう。当時は先進過ぎて読者に、伝わらなかった様にも感じる
2015年05月20日
そして医師も死す<デヴァイン>
ほぼ、年1冊ペースの出版ですが、過去に社会思想社文庫で出版された本の復刊も混ざります。古くからのファンは、新刊希望だが全体で見れば微妙です。ノン・キャラクター の作者なので全体にゆるらかな展開ですが、信頼出来る主人公や探偵がいない・不明なのがポイントとも言えます。ただ本作は1人人物が重なる説もある。
2015年05月20日
藤村正太探偵小説選2<藤村正太>
戦後デビュー時の川島郁夫名義の短編が第1集なら、第2集はその後の川島郁夫名義の残りの作品だ。長さは色々だが全て短編だ。作風は微妙に変わって行くが、作者の 変化か、発表誌の変化による編集者の要望なのか不明だ、藤村名義の後期も含めると、発表誌の要望と考える方が有望だ。川島郁夫作品集の初の単行本は喜ばしい。
2015年05月20日
欲望の構図<三好徹>
作者ノートに依れば、企業の中の人間が主人公の短編集だ。一時、社会派と無理に言わせた時代があるが、別に企業犯罪だけに注視する訳で無く、あくまでも人間が中心 であり、背景が設定された小説と見る事が出来る。手法は広義のミステリで、狭い条件には束縛されない。
2015年05月26日
ひとすじの闇に<夏樹静子>
7作からなる短編集だ。主人公は特別な人でなく、いわゆる日常性のある人間だが、内容は本格ミステリを基本とする。もちろん、日常と言っても多彩な職業や環境に生活 するので細部に入れば、他の多くの読者には未知の世界とも言える。そこを取材でカバーし、登場人物を描くとそこに謎が生まれる。それが多い手法だが、全く違うアプローチ も見られる。
2015年05月26日
続あばれ振袖<高木彬光>
続編である。水戸藩でお家騒ぎが発生する=最低2派が対立、幕府に取り潰し派とその反対派がある、合計4派だ、そこに幾つかが加わるのがこの作者の伝奇小説だ。対立が 裏切りも手を結ぶ事も、そして潜り込んだ隠密もいる。火事場泥棒も巻き込まれ人物も・・・一体どうなるのか・・次第に整理されて、まとまるそれが小説の面白い世界と 作者の筆力だ。
2015年05月26日
宝石S36.10<>
「密室特集」となっている。長編連載は笹沢佐保「孤愁の起点」で、特集短編が、鮎川哲也・佐野洋・飛鳥高・土屋隆夫・戸板康二だが密室アンソロジーの後日入った作品ばかりだ。 有名な天城一の「密室作法」と佐藤俊の「密室論」もある。他は、樹下太郎・三好徹・星新一・筒井康隆・陳舜臣と、翻訳はペンティコーストで、或る作家の周囲は「佐野洋」だ。
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2015/05に読んだ本の感想を随時書いてゆきます。
本格推理小説が中心ですが、広いジャンルを対象とします。
当然、ネタばれは無しです。