推理小説読書日記(2014/05)
2014年05月01日
知床岬殺人事件<皆川博子>
題名通りに本格ミステリです。作者の幻想怪奇性格は薄いですが、短くまとまっています。人間関係の入れ子がもたらす謎とも、いくつかのテクニックの合わせ技とも 言えます。映画撮影とそれに絡む過去と連続殺人とが短いページに密集しています。
2014年05月01日
丘美丈二郎探偵小説選1<丘美丈二郎>
戦後の海野十三と30年代後半を結ぶ、科学空想小説の作者として重要な位置にいる作者です。一方では、科学捜査を取りあげたミステリーの作者でもあり、その分野 でも先駆者の1人です。その2つを結ぶ、怪奇現象が科学的に解かれる作品にも魅力があります。作者初めての単行本です。
2014年05月01日
呪いの塔<横溝正史>
作者の昭和7年の作品で、当時では珍しかった10巻からなる書き下ろし叢書の1冊です。叢書としては苦しい内容といわれますが、本作は作者が専業になる時であり 力が入っています。まだレギュラー探偵は登場しませんが、当時としては大作と言えます。
2014年05月07日
妖説地獄谷(上)(下)<高木彬光>
伝奇時代小説には雰囲気の合った登場人物が必要です。しかし本作は、それが過剰過ぎます。これが主人公かと思う人物が次から次へと現れて来ます。密度が高いのか、 それぞれの人物で別々に書いて貰いたいと思います。そもそも、誰が主人公だったのでしょうか。女侠客・遊び人侍・商人・奉行・遊び人・藩主・浪人・旗本の娘・・、 そこそこ死んでもらわないと、終わらないが、生き残りを予想する話しでもないが・・・。
2014年05月07日
薔薇を拒む<近藤史恵>
離れた家に呼ばれた孤児2人、そこに住む奇妙な人達とそもそも何のために呼ばれたかが不明だ。そして起きる殺人、警察の捜査らしきが始まるが謎は解決されず事件が 起きる、主人公の見て描く世界は歪んでいるのか視野が狭いのか、あるいは・・・・それは、10年後に判る。
2014年05月07日
流れ星と遊んだころ<連城三紀彦>
鬼才の作者の死後、ぽつぽつと作品が出たり復刊されます。実質親の介護で忙しかったという、そのために連載完結しても単行本になっていない作品もあるという、それらが 登場する日がくるのでしょうか。技巧と奇想とトリックと人物描写や叙述等のあらゆる要素をあやつる作者です。1人称と3人称視点が交叉して、連続して描く物語は 次第に読む方が麻痺して、信用してはいけない1人称と地の3人称のどちらで語られたか混乱してしまいます。
2014年05月13日
パソコン探偵の名推理<内田康夫>
初期の連作作品集で、パソコンをキャラクター的に描いた安楽椅子探偵的なおもむきです。登場人物との会話はユーモアミステリー的です。初期の多彩な作品群の1つです。 短編のイメージの少ない作者ですが、守備範囲は広い。
2014年05月13日
献心<堂場瞬一>
警視庁失踪課・高城賢吾シリーズの結末編です。最終かどうかは?。高城自身の娘の失踪事件の結末の前作と真相追求の本作で、ひと区切りは付きました。他のシリーズ とのコラボも多いし、ゆったりした捜査過程は警察小説ならではだし、長野も明神も元気?です。
2014年05月13日
春待ちの姫君たち<友桐夏>
ジュブナイルの復刊という事で、キャラクター的にその面影が出ています。ただこのジャンルでは、現実からの逃避というか幻想というか、離れた世界に入る事が多いです。 そこで書かれた作品には、奇妙な雰囲気が漂い独特の世界が生まれます。
2014年05月19日
摂<皆川博子>
舞台美術家・朝倉摂が作る「美」を描いたエッセイです。映画「写楽」で知り合い興味をもった朝倉を取材し、その世界に深く入り込んだ筆者のエッセイです。 そこには、朝倉摂の世界と、それを通して描く皆川博子の世界が浮かび上がります。
2014年05月19日
遠ざかる影<夏樹静子>
素人の主人公が事件に巻き込まれるスタイルの多数の要素を含む地味だが、堅実な作者の世界です。主人公は母から中国からの引き揚げ社の父の名を聞き会いに行きます。 そこで、合成宝石が絡む会社の紛争に巻き込まれ、父かどうかも判らず、事件も発生し、過去にも調査が必要になりどんどん世界が広がります。
2014年05月19日
特殊防諜班・聖域炎上<今野敏>
新人類委員会と主人公と仲間の対立に新たな相手が登場します。1話完結プラス、未解決で続編に続きます。芳賀一族の力も益々判ってきます。そろそろ終わりの形が 見えそうな位置ですが作者はそれを許しません。
2014年05月25日
丘美丈二郎探偵小説選2<丘美丈二郎>
SFの創始時代の先駆者のひとりで、科学捜査の先駆者の1人でもあるが、戦後の新人ブームの中で埋没した感のある作者の全集の2冊目です。作品数は少ないし、現代の 科学技術の目では厳しい面もあるが、発表時代を考慮すれば貴重な作品ばかりと言えます。
2014年05月25日
奈良吉野山万葉の殺人<石川真介>
無謀な設定の探偵コンビで書き続けるが、そのマイナスが作品の影響するのは惜しいです。短編・中編向けのトリックを長編に使用するには、探偵の不自然さが目立ちます。 トラベルミステリーの中には、その舞台の人には当然の事がしばしばあります、そこではマイナスが目立ちます。
2014年05月25日
心星ひとつ<高田郁>
料理の世界を描くシリーズですが、次第に積み残した人間関係の清算に乗り出します。ただシリーズが続くとすれば、方向は予想がつき、それは厳しい方向です。 そんな、中断とも別巻とも言える方向性の内容に向かいます。
2014年05月31日
宝石S35.10<>
長編連載は水上勉、短編は佐野洋・樹下太郎・水谷準・香山滋・結城昌治・飛鳥高・鹿島孝二・星新一です。ウッドハウスの翻訳シリーズが続き、「私だけが知っている」 の座談会があります。受賞無しの第6回乱歩賞の選考発表があり、候補に五十嵐静子の名があります。
2014年05月31日
若狭殺人事件<内田康夫>
若狭の三方と東京での事件を、若狭地方の多くの場所やイベントを巡りながら描きます。全てが事件に絡まないのは予想出来ます。書かれた1992年では高速増殖炉「もんじゅ」が 事故を起こした頃で原発についてもかなり触れていますがその時代での事なのは当然です。
2014年05月31日
恐ろしき四月馬鹿<横溝正史>
乱歩以前に登場して書き続けた作家も幾人かいますが、横溝正史もその1人です。その後幾たびか、作風を広げて行きますが初期は短編で、コント風の作品が主流です。 その頃の作品を集めた作品集を2冊の文庫に分けた1冊目です。
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2014/05に読んだ本の感想を随時書いてゆきます。
本格推理小説が中心ですが、広いジャンルを対象とします。
当然、ネタばれは無しです。