推理小説読書日記(2012/09)
2012年9月02日
霧の悲劇<皆川博子>
1982年刊行の長編です。ジャンルでいえば、ミステリーです。主人公のヒロインが記憶喪失でしかも、いくつかの行動が不可解というそれだけでは、しばしばある設定 ですが、奇妙な探偵役が活躍する事、それも二人も居ることが特徴です。それぞれが、ヒロインの謎を解きたい気持が異なるのが設定の妙です。それもどちらも、まじめと 言えるでしょう。
2012年9月02日
光の塔<今日泊亜蘭>
副題が「刈り得ざる種」で、日本SF初期の長編です。複数のジャンルが重なったテーマ設定ですが、やや硬質で大ぶりな文章は読みにくいのが難点です。 ミステリーとしても読めると当時でも考えた人がいたようです。作者は空想科学小説と呼んでいるのは海野十三の影響でしょうか。
2012年9月02日
ベイ・ドリーム<樋口有介>
作者名から予想して読むと意外な内容です。しかし、10年以上前に書かれたとは思えない現代風のテーマです。ミミズの研究というのが、いささか妖しいユーモア と言えますが、その背景の社会問題は時代を先取りしたものでしょう。
2012年9月08日
硝子細工のマトリョーシカ<黒田研二>
マトリョーシカというロシアの人形は、中から次々と小型の似た人形が出て来ます。無限ではないが、いくつ入っているかは外からは判りません。小説内小説は 今では全く珍しくありませんが、あまり読者としては、書き方がまずいと混乱するので歓迎は出来ません。その典型がこの小説で、いくつ入れ子になっているか不明 でしかも整理されていないので、まともに理解は期待出来ません。
2012年9月08日
孤宿の人(上)<宮部みゆき>
江戸時代、瀬戸内海に面した近くに金比羅がある讃岐は丸海という架空の藩の話です。重要人物の遠島先に選ばれて大騒ぎになりますが、まずは藩の事情や 藩内の権力競争があり、その先に繋がる組織があり、その先にまた人々がいるという通常の世界があります。それぞれの段階の登場人物が紹介されて行きますが 主人公といえる者たちはその末端近くです。ただ、上がこけると下もという事情があります。
2012年9月08日
孤宿の人(下)<宮部みゆき>
遠島された人物が到着しますが詳細な理由も、人物も明らかではありません。ただ小藩ゆえに、何か不祥事が起きるとただではすまない状況で、人々の思惑が 駆け巡り、その先は事件や疫病も全てその人物のせいにする状況になります。そんな中で、末端の複数の者の生き方が描かれて行きます。感情移入したら亡くなって ゆくという、読者にはやや厳しい展開かもしれません。
2012年9月14日
暗黒のすべての色<ビッグル>
SFならではの、矛盾する題名です。ジャン・ダーゼック・シリーズ第1作との事だが、初めて読む作者なので関係はなさそうです。物質転送機の運用中にトラブルが 発生して探偵が追いかけるというサスペンスだが、ついには宇宙人にまで遭遇するという事態で完全にSFの世界になります。
2012年9月14日
風の報酬<結城昌治>
初期短編集ですが、この作者は初期から傑作集という名が付きます。ですから昭和40年頃の作品も既に中堅といえます。ハードボイルドやスパイものも書き初めて おり、現代小説は自然に社会を描くし、多彩なジャンル・背景を素直にかつ最先端で書き上げています。
2012年9月14日
吸血蛾<横溝正史>
金田一耕助の登場作品の中でも、三つ首塔の様にサスペンス的な作品です。金田一耕助がまじめに取り組むと、事件が解決してしまうので適度の無関係さで進みます。 金田一耕助作品には、多数のジャンルがあるのです。そして本作のテーマは狼男です。
2012年9月20日
星を撃ち落とす<友桐夏>
4人の個性的な、あるいは感情を表面に出さない女学生が組み合わさる事によって起こる、幾つかの謎と事件が描かれます。正確にはプラス1なのか。 主人公も探偵役も未定なままで、登場人物の誰かに感情移入するのを待つように、作者は展開を大きく変えて行きます。
2012年9月20日
パルテノン<柳広司>
ギリシャ時代を舞台にした、長さの異なる3つの話です。個別の都市国家の集まりのギリシャが、ペルシャの大軍に勝ったが内部抗争で崩れてゆく。その中で パルテノン宮殿という夢を実現させた男達を重ねて描きます。神話と歴史の世界が、そのままよみがえる。
2012年9月20日
世界記憶コンクール<三木笙子>
ホームズ・ワトソンの明治パラレルワールド版かというシリーズです。ただし、ワトソン役で一番目立つ美貌の絵師・有村礼は、全ての連作には登場しません。 背景の世界と、ホームズ談への拘りとが絡むと異様な雰囲気になっています。
2012年9月26日
スキヤキストQの冒険<倉橋由美子>
スキヤキストという党?のQという人が、孤島の感化院を訪れる話です。しかし、そもそもみんな存在しない物ばかりです。それでいて、似た事が連想出来る という厄介な話です。「架空の人物が架空の場所の架空の人物を訪ね、架空の事に出会う」という風に読むのが正しいとは、作者がかなり後に書いた解説だそうです。 何かのパロディと考えると余分な解釈が入って難しく感じるとの事です。また別の人の解説では、マルクスの著書が下敷きとも言いますが、それ自体が存在する 社会・思想の実現していないパロディであるから、架空のパロディをまたパロディ出来ないとも言います。解説を先に読むのだったかも・・・。
2012年9月26日
アンドロギュヌスの裔<渡辺温>
20代で事故死した作者の、文庫版全集です。短編・掌編・脚本の筋書き等からなります。戦後直ぐの作品が主体ですから、用語や言い回しが難しいです。 それが短い話に詰め込まれているので、読む方からは密度が高く感じます。
2012年9月26日
彼女らは雪の迷宮に<芦辺拓>
今時の雪で閉ざされた山小屋に閉じ込められた人達の話です。ただし、携帯電話は通じるので情報は閉ざされていない。機能的に、容易に解決する方法はあるが 先入観があると、気がつかないです。それからいえば、犯行は元々無理と思えますが、小説的にはこだわらなければ楽しめるという事です。
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2012/09に読んだ本の感想を随時書いてゆきます。
本格推理小説が中心ですが、広いジャンルを対象とします。
当然、ネタばれは無しです。