推理小説読書日記(2012/06)
2012年6月04日
オリーブ<吉永南央>
3作の書き下ろしを含む5作の短編集です。個別の作品ですが、雰囲気は底辺は似た所はありそうに感じます。短編ですから、ミステリーでも本格よりもサスペンス に近い作品が多いです。長編と短編で、異なる事も多いです。伏線が少なくなるので、結末の決め方を中心にサスペンス調と人情話と心理的な面を組み合わす事になります。 本書は人と人との絡みを描いています。
2012年6月04日
びっくり箱殺人事件<横溝正史>
珍しいユーモア調の長編と、本格短編の金田一耕助ものの2作からなる本です。あるいは短編「蜃気楼島の情熱」の方が有名かもしれません。そのメイントリックの 皮肉さは、以降で色々な作品で使われています。長編は文体がユーモアですが、本格のスタイルで書かれていますが、異色作と言えるでしょう。
2012年6月04日
交錯<堂場瞬一>
「警視庁追跡捜査係」の2人の刑事が主人公の作品で、シリーズ化になるでしょう。現実の警視庁が迷宮事件の再捜査を行う部署を設置してから、小説やドラマで 迷宮事件や過去の事件を扱うものが急増しました。題名や係や厳密な任務はそれぞれ異なりますが、発想は似ている所からでしょう。沖田・西川という性格の異なる 2人の刑事が最終的にコンビを組むスタイルですが、最初はバラバラの事件なので、交錯となります。
2012年6月10日
倉橋由美子の怪奇掌篇<倉橋由美子>
もともと幻想・奇想・怪奇の要素を持つ作者の文体は、長々した散文よりも掌篇に合わせた方が効果的なのかも知れません。特別でもないが、普通で無い短い 話を完結かつ豊富なイメージで語るべき文体とストーリーが一体となり、1作1作が異なる世界へ読者を呼び込みます。怪奇というのは、脅かしでも恐怖でもなく 読者のイマジネーションを乱す事で生まれ刺さすのかも知れない。
2012年6月10日
プリズン・トリック<遠藤武文>
特殊な環境で起きた特殊な状況の事件から始まるが、内容が分かるほどにより謎が増えて行きます。謎の多い話ですが、文章の読みにくさも相当です。意図した ものならば、謎の意味を間違っており、そうでなければ習作レベルの文章でしょう。章のなかで度々視点がかわり、そこで人称代名詞が多様される。視点がかわっても 文章が同じだから、人物が混乱する。それは謎ではないと思う。
2012年6月10日
もろこし桃花幻<秋梨惟喬>
長編ですが、謎の一族が登場するシリーズです。ただし、それは生かされていない様に思う。短編ならば、結果的に登場しても成立するが、長編で同じ手法では 登場しないのと同じ結果とも思えます。中国らしい世界のある時期起きる出来事と人物談ですが、個別の話になっている、それでも良いがやや読みにくいです。
2012年6月16日
薔薇忌<皆川博子>
怪奇・幻想の世界の短編集です。死というものが伴うとそれは、怪奇であろうかと悩む。幻想的死も、時間が経てば、あるいはある時間状況内のみでは幻想的な のもであっても、結局は悲劇的なものではないか。それが本連作のように、舞台に関する事が主題だとより作られた幻想と思えて来ます。そして、そこに作為的な死が 加わるともう怪奇とも言えない悩ましい事になります。
2012年6月16日
警官の血(上)<佐々木譲>
全体が3部に別れそれぞれが、祖父・清二、父・民雄、和也という三代の警察官の話です。時代とともに変わる警官の姿と仕事と異なる配置先を描きますが、背景に 祖父と父の不可解な死と、それが付されたままの状況が付いてまわります。時代と共に同時代の人も減って行きますが、それが真実を知りたい事を止める訳でありません。
2012年6月16日
警官の血(下)<佐々木譲>
上巻は昭和32年の放火現場で死がみつかった祖父・清二と、第二部の前半です。下巻は、昭和49年に殉死する父・民雄の後半と、その葬儀から始まる和也を 描きます。多様な警官の仕事や裏の世界と、個人事情と全体に流れる死の謎が組み合わさる膨大な作品です。
2012年6月22日
闇の喇叭<有栖川有栖>
舞台は日本でも現実の世界ではなく、日本が分断された状態を設定したSF的設定状態で起きる話です。年号も異なるし、似た部分と異なる部分がある世界です。 その説明と登場人物の紹介にページを多く割いているので、長編ですが本筋は中編的な量に思えます。あえて言えば、シリーズの序章かも知れません。
2012年6月22日
天翔る白日<黒岩重吾>
時代小説も飛鳥時代まで遡るものは少数です。本書はこの作者がこの時代を描いた連作長編の1作です。古くて資料は少ない時代ですが、歴史資料はそこそこは あります。しかし謎が一杯の時代です、しかも朝廷と蘇我氏等の豪族が絡み合って、人物系統図を見ても複雑過ぎると感じます。その中で、幼くして政治に関わり 暗殺という結果になった大津皇子を描きます。
2012年6月22日
隠花植物<結城昌治>
長編サスペンス・ミステリーです。掏摸という裏の世界の人間が、異なる裏の世界に巻き込まれて行きます。サスペンスとどこかユーモアさえ感じます。テーマは 男と女の裏のなりわいの世界であり、書かれた時代よりも戦前や現代の方が合っているかもしれない印象ですが、実はいつの時代でも存在するテーマなのでしょう。 まさしく隠れて咲いた花の世界とそこで生きる人間のミステリーです。
2012年6月28日
仮面劇場<横溝正史>
横溝正史は、戦前でも本格ミステリは書いています。作品全体での比率や作品の長さ、謎解きの論理性の強度等は差があるとも言えます。勿論、探偵役も異なります。 戦前は、由利先生+三津木か、三津木かが多いです。背景が特殊な状況で、特殊な過去が絡み、この傾向は戦後よりも強いです。
2012年6月28日
鉄の骨<池井戸潤>
建築技術者が突然の配置変更で業務課になり、そこで公共事業の発注と落札に関わる事になり、特に談合に深く立ち入る事になります。膨大な土木業界の経費算出と コストダウン作業、そして登場する業界の取り仕切り役、そして動き出している捜査陣達、その結末は?。
2012年6月28日
砂漠の悪魔<近藤史恵>
青年のきままで無計画な海外旅行が描かれる前半、しかし逃亡の生活としては制約と知らない世界があったが、そしてそれが次第に未知の世界に足を踏み込んだ時に、 出会った砂漠の悪魔とは何か。後半は一気に加速した全く別の小説に変貌します。
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2012/06に読んだ本の感想を随時書いてゆきます。
本格推理小説が中心ですが、広いジャンルを対象とします。
当然、ネタばれは無しです。