推理小説読書日記(2012/03)
2012年3月06日
悪女の挨拶<多岐川恭>
犯罪小説・クライムノベルの短編集です。テーマは特になしに見えますが、題名からは悪女と男の絡みがテーマという事でしょう。しかし、それは広い意味では 小説特に、ミステリーには欠かせない内容です。最近は学園物が増えていますが、この作者は大人の世界を書きます。ただ、悪女ものとは言いにくい作品もあります。
2012年3月06日
地獄の辰・無残捕物控・首なし地蔵は語らず<笹沢佐保>
長い題名ですが、ヤクザ上がりで同心にこき使われている巷では悪名高い岡っ引きの辰が主人公の捕物帳です。ただ、事件は斬ったはったの内容で、主人公も「地獄の 辰」と呼ばれ、登場する悪もそれに比例しています。シリーズの副題が付き長い題になります。しかし実は、岡っ引きを脅してこき使う同心が最大の悪に思えます。
2012年3月06日
温情判事<結城昌治>
短編の名手の作者初期の作品集です。題はその中の1作で、関連のない作品を集めた本当の短編集です。この作者も、ミステリーと文学の両立を目指しましたが、 その手段は、本格からハードボィルド・スパイ・その他広いジャンルへ関心を持つ事へ歩んで行きます。この作品集は、その最初に当たるものですが、すでに作風が 出来ている感があります。
2012年3月12日
白と黒<横溝正史>
金田一耕助+等々力警部のコンビ作ですが、舞台は都会の団地です。書かれた昭和35年頃には今よりも、一層都会の先端的な舞台だったでしょう。そこに 飛び交う怪文書が発端になり起きる事件です。しかもその内容がかなりの問題で大騒ぎという所に、いわゆる顔のない死体が登場します。舞台は変わっても、 登場する人たちの他への疑心は変わりません
2012年3月12日
若さま侍捕物手帳・虚無僧変化<城昌幸>
名前は有名で、時々は映像化もされますが、小説では現在はあまり読まれていないです。実際に、若さまはやや地味な存在です。江戸の町中で、目立って しょうが無いという程の事はありません。虚無僧は、江戸時代は多かったのでしょうが、一種の覆面でありいかにも正体不明の人物として格好の登場人物です。 実際に、色々な利用が可能でそれを生かした作品です。
2012年3月12日
浴槽から発見された手記<レム>
題名には一応の意味はありますが、それから予想されるものと内容はたぶん、全く異なるでしょう。太古の文献とか暗号とか、色々な思考実験がごちゃまぜに 登場すると、もう理解を超えて思考の破壊に向かいかねません。
2012年3月18日
信州千曲川殺意の旅情<大谷羊太郎>
タレントのヒロインは母親から小諸に行かない様に遺言されていたが、仕事で行く必要が出来た。そこで巻き込まれた事件と共に、自身の家族の過去も 調べ始めた。八木沢警部補は、そこでヒロインと知り合うが、その後に発生する事件がヒロインの過去に交わる事に気づく。八木沢は、ヒロインと父娘ゲーム をする感覚が生まれながら、謎に向かった。
2012年3月18日
楽園<樋口有介>
赤道付近の架空の島・ズッグ国は、楽園の筈だったが大統領の後継争いか、多量の爆弾が持ち込まれた可能性が生じた。いまだ続く戦時の日本排除の中で アメリカの調査員がたちむかう国際謀略?・・。多くの人は平穏な生活に慣れてしまっているが、・・・。
2012年3月18日
秘匿<堂場瞬一>
アメリカ研修も無事ではなかった鳴沢は、東京の西すみの西八王子署に移動になった。丁度、代議士が事故死とされた所だったが、慣れるために担当区域 を廻る内に、不審死の捜査が行われ無かった事に不審を持つ。そんな鳴沢に、無関係の所から問い合わせと情報が入ってくる。そして、突然に本庁の事件と なる。地域の馴れ合いの積もりが、背後に大きな事件の可能性が生じたのだった。
2012年3月24日
人斬り魔剣<高木彬光>
浪人・青貝進之丞を主人公とする連作集です、ただしカバーには長編となっています。いわゆる伝奇時代小説で、剣豪が多様な事件に巻き込まれる設定 ですが、巻き込まれに行く面もあります。浪人ですから、何もしないで暮らす訳でないので、色々と関わってゆく事にもなります。自身で青貝流といい、 周囲からも人斬りとも呼ばれます。
2012年3月24日
かばん屋の相続<池井戸潤>
連作ではない短編集ですが、主人公は色々な銀行員で、彼らが社内・社外の得意先の色々な事件・騒動に巻き込まれてゆきます。そこには、表には見えない 金融絡みの秘密や企みが潜んでいます。ミステリーであり、金融情報小説でもある内容です。
2012年3月24日
トマト・ゲーム<皆川博子>
作者のデビュー当時の短編集です。テーマも内容もバラバラですが、文章と構成にはかなり特徴があります。とは言っても、それぞれのテーマを書き分ける という特徴です。最近は長編作で構成に凝る作者が増えていますが、既に昭和40年代後半時点で、見事に書き分けている事に驚きます。
2012年3月30日
恋細工<西條奈加>
時代小説ですが捕物帳でも、剣豪小説でもありません。細工職人・錺職人の世界をえがきます。主人公は、珍しく細工職人の技を憶えた女性です。跡継ぎを 決めずに死去した先代から選びをまかされた上に、妙な職人かたぎを老舗に雇う事になる。時は改革時代で贅沢もの禁止の時代。出入りの小間物店の娘とその 難題を如何に解決して行くのでしょうか。
2012年3月30日
トラブル・ハニームーン<海渡英祐>
奇妙なおしどり探偵夫婦が主人公の連作です。それぞれに映画の題名をもじった題の作品集です。そして、その内容も元の映画のシチュエーションのパロディ になっている趣向のようだ(映画をしらない作もあるので)。日常の謎に近いユーモア・ミステリです。
2012年3月30日
大倉てる子探偵小説選<大倉てる子>
第二次世界大戦前後の作者の作品集ですが、全集ではありません。「てる」は、「火篇に華」ですが通常は使わないです。いわゆる時代を考慮して読むタイプ の作品で現在の尺度では、かなり厳しいです。ただ当時の作家の中では、執筆条件に恵まれていたのでしょう、枚数にやや余裕が感じられます。
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2012/03に読んだ本の感想を随時書いてゆきます。
本格推理小説が中心ですが、広いジャンルを対象とします。
当然、ネタばれは無しです。