推理小説読書日記(2012/02)
2012年2月05日
振袖変化<高木彬光>
伝奇時代小説です。時代は7代徳川将軍の時で、子供がなく8代将軍は紀州か尾張かという争いの時期です。多様な思惑の勢力が入り乱れて、競いあいます。 登場人物の正体不明が多数が伝奇小説の基本であり、それに実在の人物が重なり、その裏で複数の女性が動くと長編が出来上がります。将軍争いの少し前の設定 ですが、このくらいの方が勢力がはっきりしておらず、小説向きでしょう。
2012年2月05日
悪魔の寵児<横溝正史>
悪魔の手毬唄と併行して書かれた作品です。純粋の本格でなく、戦前の幻想の頃の作風と風俗的なサスペンスとを併せ持ちます。雨男と称する人物の狙いは何か 家系相続にまつわる連続殺人の実行者と本当の真相は何か、ラストは本格的になりますが、そこにたどり着くまではどんでん返しの連続です。作者の筆に乗って読む 本でしょう。
2012年2月05日
猫城記<老舎>
中国出身のSF作家の作品です。中国から打ち上げた有人ロケットが火星に着くと、そこには多くの国があった。その一つに迷い込んだ主人公の話です。火星人 は実は猫の姿だった。しかも、見た目はのんびりした生活をおくっていて平和に見えた。しかし長くいると、次第にその国の中の矛盾に気づき始める。SFなのか パロディなのか、単なる戯作なのか掴みにくい。
2012年2月11日
苦い雨<樋口有介>
文庫版で主人公の目からのスタイルに改稿されました。主人公はかっては大手会社員で現在は、零細業界誌の編集が仕事の家庭的な中年が主人公です。 その過去に勤めていた会社の事件に巻き込まれてしまい、探偵役を行ってしまうというストーリーです。そういう所では色々と、勢力争いや隠し事がある。 家庭的なしかし、どこか遊び人の中年探偵のハードボイルドです。
2012年2月11日
奈良斑鳩の里殺意の径<大谷羊太郎>
ヒロインの家に飛び込んできた友人は警察に追われていた、そして父の過去の事件の謎を追っていた。ふたりでそれを調べる事にする。別の事件で、八木沢 警部達が捜査していると、ふたりの追う事件と関連性がありそうであった。そこから、八木沢は過去の事件との関連に気づき、双方調べ始めた。
2012年2月11日
血烙<堂場瞬一>
恋人とその息子のいるニューヨークに研修に来た、鳴沢だったが、そのテレビで有名な息子が誘拐されれた。それに関係すると思われる中国マフィアを追って ニューヨークから、アトランタ、マイアミへと追い続ける。そして、意外な誘拐目的と犯人にたどりつく。アメリカでも暴走する鳴沢を描く。
2012年2月17日
奪われた死の物語<皆川博子>
短編小説とその作者のノートとが交互に並んで進行してゆく、そして途中に作者が死に著者が変わるという外見を持つ、現在風の構成ですが昭和54年の 作品です。連載時の題名は「花の旅 夜の旅」で単行本で改題されましたが、その後昭和の秘宝という文庫叢書で復刊時に、元の題名に戻りました。旅行記に 付属する短編という事で日本各地をまわります。細部を知らないで読む小説です
2012年2月17日
覚書源氏物語「若菜」 望月のあと<森谷明子>
源氏物語から題材をとったシリーズの3作目です。主人公は紫式部です。源氏物語の中の玉葛のモデルの女性の話と、唯一の上下に分かれている「若菜」 の謎を紫式部の立場から、描いてゆきます。とりまきは、前作とかなり重なっていますが、時代は少しずつ進んでいます。
2012年2月17日
螺旋階段をおりる男<夏樹静子>
ドラマで有名な検事・霞夕子シリーズの短編集です。ドラマは沢山作られていますが、原作は東京シリーズが短編7作+北海道シリーズが4作のみです。 ドラマの多くはオリジナル脚本となります。短編集3冊ですが、東京編の2冊はコロンボ・スタイルの倒叙となっています。東京の一番南の1区の捜査検事の 主人公が現場好きと呼ばれるくらい、現場主義で地味でおっとりした性格ながら証拠を見つけます。
2012年2月23日
湯煙に消ゆ<島田一男>
作者の初期の連作作品集です。舞台が温泉で統一されていますが、それ以外は登場人物も小説スタイルも個々に異なるものです。あえて言えば、恋愛 ミステリというか犯罪小説風が多いです。二つの要素を足すと、恋愛から愛憎へと変わってゆく話になります。温泉宿の男女には、色々な関係が想定 できると言う事でしょう。
2012年2月23日
憧れの少年探偵団<秋梨惟喬>
中国の歴史ミステリで本格的にデビューした作者ですが、それ以前に懸賞その他応募小説に、書いていた学園ものを短編集に書き上げたと、後書きで 明かしています。それ故に、今後書き継がれるか、書かれるとすればどのような形かは不明ともしています。内容は学園ものの定番のライトミステリと 言って良いでしょう
2012年2月23日
麒麟の翼<東野圭吾>
作者のデビュー当時から、ゆっくりと書き継がれて来た加賀恭一郎刑事を主人公とするシリーズの最新作です。学生時代から始まり、本庁の刑事で活躍 した、悲しい話の眠れる森、それ以降は所轄刑事として活躍しています。練馬署の最後の事件で父親と死に別れた時の看護士から、父の3回忌の法要を 行う事を言われる内に、殺人事件が発生します。容疑者は交通事故で意識不明で、捜査本部もやや低調のなかで、早くも変わった日本橋署付近を知りつくした 歩き回る捜査が続きます。
2012年2月29日
紅いレース<樹下太郎>
13の短編からなる連作形式の長編です。謎は少なく、軽い犯罪+恋愛小説的な内容です。むしろ、ユーモア小説というべき内容です。電話での脅迫犯 を探しての13編は、むしろそれだけ犯人の心当たりがあるとは、やはりユーモア小説が妥当でしょう。
2012年2月29日
小説 どろろ<辻真先>
親が妖怪に息子を売った為に、全身が無い状態で生まれてきた百鬼丸と、子供の怪盗どろろの道中です。自分の体を取り返す為に妖怪退治をする百鬼丸は 妖怪を退治する為に、普通の体に戻ってゆきます。ふたりの不幸な子供が生き抜いてゆく姿が描かれます。
2012年2月29日
若狭湾の惨劇<水上勉>
本名の中編と5作の短編からなる作品集です。中編は、警察が地味な捜査でアリバイ崩しを行うという内容です。背景に当時の社会派推理的な内容が あります。短編は、犯罪小説的な内容の作品で個別に独立しています。
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2012/02に読んだ本の感想を随時書いてゆきます。
本格推理小説が中心ですが、広いジャンルを対象とします。
当然、ネタばれは無しです。