推理小説読書日記(2012/01)
2012年1月06日
怪傑修羅王<高木彬光>
伝奇時代小説ですが、時代は幕末です。実在の登場人物の顔ぶれを見ればそれは判りますし、実際の事件も時代背景程度に書かれています。このような混乱期に 登場するのが、誰かの隠した別の姿と名前ですが、本作ではそれが「修羅王」です。従って、最後に明かされるまでは主人公の正体も謎のひとつになっています。江戸から 次第に西に移動する舞台と開国との時代の変化が重なります。
2012年1月06日
天の声<レム>
1968年に書かれた作品ですが、SFですが予言書ではないかの思いもします。テーマは、宇宙の地球外生命体の存在です。宇宙からの雑音の中に、規則性がある と考えた人々の解明と、より多くの情報あつめ計画とを描きます。そもそも信号ならば発信者がいる筈ですが、本当にメッセージか偶然か、地球外生命体の存在自体が 謎だし、そのメッセージが地球人に判るものである可能性も疑わしいが、ただ人は政治的なおもわくがある。
2012年1月06日
船宿たき川捕物暦<樋口有介>
作者の初めての時代小説です。長編でかつ捕物帖になりますが、主人公がそれ自体が謎の生い立ちを持つ剣豪です。そして、江戸の奉行所やその付近にある 影の裏社会が存在します。そして、田沼時代のなかでの松平定信となると、かなり広い世界・階層が絡みます。シリーズになる事を期待(2冊目は出ていますが) します。
2012年1月12日
あがり<松崎有理>
本来のサイエンス・フィクションです。いや、リアル過ぎて未来の事か現在の特定の最先端技術研究所の話かは判断がつきません。知識と空想の合体する境目 が判断出来にくいです。ただ、その部分が必ずしも謎や結末に繋がっていないので、科学は苦手という人でも楽しめるでしょう。予言書との境目は、微妙かも しれない。
2012年1月12日
関越自動車道殺意の逆転<大谷羊太郎>
復讐談を、警察の捜査の目から見ると本格推理になる。特にミッシングリンク的に動機が隠されと、アリバイが偽装されるから普通の捜査や発想では解決 しません。ただ、そこに第3の視点が入ると、異なる展開を見せる事になり、捜査陣も発想の転換が必要に
2012年1月12日
讐雨<堂場瞬一>
連続少女誘拐殺人犯の釈放を要求する、爆発魔の脅迫が発生した。東多摩署の鳴沢は、相方のママこと萩尾聡子刑事とこの事件に巻き込まれる。見えない動機 ・死刑になるだろう犯人の釈放要求と、爆弾の脅威にさらされる市民。次第に目的が連続少女誘拐殺人犯の救助ではないと思えて来る。
2012年1月18日
ロートケプション、こっちにおいで<相沢沙呼>
女子高校生手品師・酉乃初のシリーズ2冊目です。短編を組み合わせて長編にする手法の連作長編です。奥手で頼りなさそうな語り手と取り巻く、色々な 生徒が登場します。主人公の目では、人物の本質は直ぐには見えないようです。ワトソン役としては頼りなさ過ぎですが、日常の謎の弱いレベルですから、 ワトソン役はかなり頼りなくする必要があるのでしょう。
2012年1月18日
大人のための残酷童話<倉橋由美子>
一時は流行った残酷童話です。童話が、何かの教訓を語ろうとするなら、ハッピーエンドが望ましいのかどうかは意見が分かれるでしょう。大人のためと すれば、もうみかけのハッピーエンドで教訓とはならないでしょう。しかし、シンプル・イズ・ベストともいえる連作です。
2012年1月18日
罪の行方<バーバラ・シャピロ>
主人公は挫折を知らずに育った精神科医師(正確には複雑な呼称ですが)の女性です。その1人称での語りは、本人が患者かと思わせる情緒不安定な 内容です。これにふりまわされる読者は大変です。日本人的には、主人公に感情移入しにくいでしょう。医師不審に陥りそうになるかもしれません。
2012年1月24日
マルセル<高樹のぶ子>
2011年末に完結した、新聞小説連載です。単行本で加筆等があるとも思います。純文学畑の作者であり、過去には短編をわずかに読んだ事がある のみです。自ら「絵画ミステリー」という言葉を使用していたので、取り上げても良いでしょう。絵画マルセル盗難事件に関わった父らの事を知りたい 主人公が時を経て再度謎を追います。当時不明で終わった事件が、何らかの形で明らかになるのでしょうか。未解決にはその理由があり、関係者の娘に 対する思いやりが絡んで来ます。
2012年1月24日
煙霞<黒川博行>
幾つかのジャンルと主人公コンビを生んだ作者ですが、コンビというのが特徴でしょう。そしてまた新コンビ・美術教諭の熊谷と音楽教諭の正木菜穂子 の誕生です。不思議なキャラです、学校というトラブルと権力争いの中と、特に使命感も正義感も強い訳がなく、人並みに欲もあるコンビが巻き込まれた 事件は意外な展開をしめし、サスペンスともハードボイルド風ともユーモア風とも言える展開です。あるいは、社会派的な問題的を見つける読者もいるでしょう。
2012年1月24日
警官の紋章<佐々木譲>
在住する北海道警を舞台にする警察小説を多く手がけている作者です。その中の、佐伯・津久井・小島百合を中心にした登場人物のシリーズも人気です。 警官の不祥事から組織に歪みが生じ、対策した同一勤務先に長くとどまらない規則で適材適所から大きく離脱した組織は、人材の分散が起きています。 そんな中で、それぞれが担当する事件が次第に関連を持ってゆく事になります。
2012年1月30日
蜃気楼<内田康夫>
ルポライターの浅見光彦シリーズの1冊です。舞台は、蜃気楼で有名な魚津そして富山・宮津と広がります。テーマは、越中富山の薬売りの世界です。 長く続くこのビジネスが、どのような歴史と実際の運用で成り立っているのか。そこから、離れた地域でどのような人間関係が生まれる可能性があるのか。 そこには、知らない者には判らない謎もありますが、はたして・・・。
2012年1月30日
ジョーカー・ゲーム<柳広司>
舞台は戦時中の日本が中心です。軍人や憲兵には理解の出来ない、スパイ養成学校が作られプロのスパイを育て始めますが、そこへ派遣された軍人には 理解の出来ない事ばかりです。軍人にはタブーと上下の世界ですが、それは欧米では特殊過ぎてスパイになれない。スパイになって外国の社会に馴染む訓練 を受けた人間とは、・・・・。
2012年1月30日
殺意の布石<有村智賀志>
戦後直ぐに登場した作者ですが、その後も青森・津軽での地方作家として過ごしました。通信の発達した現代では普通ですが、戦後では地方作家として 主にその地域での活躍に制約される事になるようです。地方の囲碁の世界を背景にしていますが、それも青森では普通なのかどうかは判りません。
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2012/01に読んだ本の感想を随時書いてゆきます。
本格推理小説が中心ですが、広いジャンルを対象とします。
当然、ネタばれは無しです。