推理小説読書日記(2011/11)
2011年11月01日
三つ首塔<横溝正史>
戦後の本格派の巨匠が、次に手がけたものが風俗サスペンスとは意外です。戦前に戻った面と、サスペンスという新しい分野の結合を狙ったと思えますが、 現在では、逆に戦前のスタイルの印象が深いです。主人公の宮本音禰の出会った冒険・サスペンスを、本人の手記で後で思い出して書いた作品との位置付けです。 金田一耕助は書いた時点では名探偵で、手記の前半では怪しい人物です。
2011年11月01日
蛍<麻耶雄嵩>
閉ざされた空間での犯罪の謎です。なかなか、あるいは読み終わってもピンとこないかもしれません。作者の狙いが、うっかり読むと判りにくい、あるいは 誤植の様にも思えます。古いトリックを完全リニューアルしたと言えるのでしょう。ただマニアック過ぎて理解されないかも知れないリスクはあります。
2011年11月01日
ともだち<樋口有介>
高校生でありながら剣術の隠れた達人の、神子上さやかの正体を知るものは少ない。その同じ学校の生徒が殺された事件を、転校生と風変わりな下級生とで 調べる。3人ともに学校ではやや風変わりな生徒のようだ。さやかが一番変わっているが、本人的には普通。おとなの世界の論理で狂った事実にたどりつく。
2011年11月07日
風さん、高木さんの痛快ヨーロッパ紀行<高木彬光・山田風太郎>
高木彬光の「ぼくのヨーロッパ飛び歩き」の復刊と、ヨーロッパ旅行に同行した山田風太郎の未発表日記とを併載した旅行記??です。1966年ではまだ 少なかった海外旅行に、なかよしのふたりの作家が出かけて、帰って来るまでを、それぞれの旅日記で読めます。どちらも変わり者で、重なる部分と個々に 異なる内容を書いている部分があり、微妙にずれているような・・・。
2011年11月07日
完全犯罪学講義<大谷羊太郎>
なにやら思わせぶりな題名ですが、それ程は変わっていません。作家が企画したサプライズ演技のために雇われた俳優が、犯罪学講義を聞かされる。その 後で、作家が殺され、俳優が推理してゆく内容です。次第に登場人物も増えて混乱してゆきます。
2011年11月07日
警察庁から来た男<佐々木譲>
北海道警を舞台にした作品群のひとつで、「笑う警官」の登場人物が再度活躍します。またもや警察庁から監察を受ける事になった道警は、移動していた 津久井が案内に指名された。一方で、ホテル荒らしを捜査中の佐伯は、道警に存在するグループとそこからの情報リークの存在を知る。津久井と佐伯が 出会った時にそれは、重なった捜査対象だと知る。
2011年11月13日
赤い糸の呻き<西澤保彦>
最近では、少数派になった非シリーズの短編集です。今は、シリーズ物の連作集や短編集が最後に長編的になるという連作集が増えた結果、純粋な 短編を並べた、短編集が少なくなりました。もしろこちらの方が、趣向や複数のジャンルの作品を載せる事が出来て面白く出来る可能性があります。 本集も少し広い傾向の作品もあります。
2011年11月13日
臨床真理(上)<袖月裕子>
医療小説が増えています。また、心理的な謎や精神医療をテーマにした作品も増えています。この分野は、アプローチの仕方が多数あるので、作者側 側には取り組みがいがあるのでしょう。ただし、意外と類似アイデアになる事もあります、人間の考える事はどこかで似るのかも知れません。
2011年11月13日
臨床真理(下)<袖月裕子>
あまり長くない作品を、分冊した理由は不明です。過去の事件や経験が、深い心理に残って現在に不思議な兆候が見える作品はいくつかありますが、 本作もそのひとつです。主人公の女性・臨床心理士が、むしろ不安定な所もいくつか例があるが、展開に利用もしています。なかなか、真実が客観的に 明らかになりにくいテーマです。だから後半に似た内容になりやすいのでしょう。
2011年11月19日
物の怪<鳥飼否宇>
鳶山・猫田コンビの中編集です。テーマは、題名通りの「物の怪」です。それが現れたと言われるあるいは思える状況が起きます。それを、観察者こと 鳶山がほぼ論理的に解き明かします。ただし、全てかどうかは読む人が判断する事になります。自然の観察者は、不思議な謎も観察するのです。
2011年11月19日
老女の深情け<ロイ・ヴィガ−ズ>
1900年代初期に書かれた、倒叙形式のミステリのシリーズが、この作者の不可能犯罪課ものです。その第3作品集が、本作です。だいたいの形式 で書かれており、読者もこのシリーズになれているという前提でしょう。3人称で描かれる犯罪を不可能犯罪課の警部達が見破るのが基本の筋です。
2011年11月19日
ラ・パティスリー<上田早夕里>
神戸の洋菓子店に勤め始めた新人の菓子職人の主人公が出会う、謎と色々な人間を描きます。菓子に関する色々な知識も楽しめます。登場人物にも 記憶喪失や謎を持つ人もいますし、特殊な世界では新人にとっては全てが謎ともいえます。別の作品に登場する人物も少しだけ登場したりもします。
2011年11月25日
京都・宇治浮舟の殺人<大野優凛子>
トラベルミステリ風の題名と情景描写ですが、始まると警察小説風ですが、進行につれてどちらでもなく、心理サスペンスになります。意外なのか、 ページの水増しなのか、戸惑います。ハイブリッドなのか、ごった混ぜなのか・・・少なくてもテーマが弱まった事はやむを得ないでしょう。
2011年11月25日
火村英生に捧げる犯罪<有栖川有栖>
短編・掌編をまぜた8作からなる、特に連作趣向はないが、主人公の同じ作品集です。本格ミステリで特に、ホームズ・ワトソン形式が基本ですが それに忠実だったり、ひねってみたり思いつくパターンが色々登場します。短編集らしい短編集です。
2011年11月25日
よもつひらさか往還<倉橋由美子>
この世とあの世をつなぐ所にあるといわれる坂、「よもつひらさか」・・そこを往還するという人物が主人公です。初期の作者は人名をアルファベットで 表していたが、本作では慧君(K君と同じか??)が主人公で、あるクラブとそこで会う九鬼さんとで話が展開します。黄泉の国に行ったのかもしれない話 ですから、奇妙な世界です。
←日記一覧へ戻る
2011/11に読んだ本の感想を随時書いてゆきます。
本格推理小説が中心ですが、広いジャンルを対象とします。
当然、ネタばれは無しです。