推理小説読書日記(2011/10)
2011年10月02日
悪霊島(上)<横溝正史>
巨匠・横溝正史の最後の作品です。しかも、かなりの大長編です、生涯現役といえる生涯でした。長く構想を持っていたという、シャム双生児が登場します。 いや全編では、イメージだけでしょう。岡山の沖合の島で、磯川警部と登場します。いや磯川警部自身の事件かもしれません。過去の思い出を語っているうちに その島に着きます。依頼人である富豪の帰郷から事件が始まります。
2011年10月02日
悪霊島(下)<横溝正史>
横溝作品に多く登場する、旧家の血筋・鍾乳洞・女支配者・・・。過去からの因習に捕らえられる人と、そうでない人の間の価値観の食い違いは、動機の 謎をうみます。島自体が、風習と迷路のような鍾乳洞に満ちた舞台は、巨匠の作品の総括とも言えるでしょう。
2011年10月02日
蒼志馬博士の不可思議な犯罪<山口芳宏>
奇妙な二人の探偵、荒城咲之助と真野原が絡むとそれだけで奇妙な話になります。そこに蒼志馬博士なる犯罪者が登場します。昭和27年を舞台に、戦争と 逆に未来とを絡めた怪しげな発明の有無を絡めた話が進みます。
2011年10月08日
高木彬光探偵小説選<高木彬光>
50年以上前の初刊から文庫も含めて復刊されていない長編「黒魔王」と幾つかの短編からなる選集です。黒魔王は、結婚前の大前田栄策と川島竜子が登場 する作品です。それの他も単行本未収録短編を集めています。短編に関しては、どの作家でも作品数が多ければ未収録は生じるものです。ただ近松検事物が 含まれているのはやや予想外です。拾遺集とも言えるがマニア必見でもあります。
2011年10月08日
ピース<樋口有介>
秩父のスナックに集まる人々、そしてその地方に起きる連続殺人事件。死体の特徴はボールを投げたような右手指になっている事です。管轄をまたぐ複数の 刑事たちがミッシングリンクを追います。
2011年10月08日
防風林<永井するみ>
北海道札幌の北にある防風林と地域に、戻って来た主人公は懐かしい人々と出会います。しかし、同時に事件も起こります。もう、昔の事は忘れた筈と戻って 来た筈なのに、逆に強く過去を思い出して立ち向かう事になります。それは、周囲の多くの人も同様でした。
2011年10月14日
地獄蛍<司凍季>
本格ミステリ作家ですが、本作は非ミステリです。第二次世界大戦を挟んで、フィリピンへ移住した日本人の戦争の敗北による悲劇を描いています。 日本への引き揚げといえば、満州やロシアが多く語られており、南方を描いたものは少数です。しかし、実態は同様あるいはそれ以上に悲惨な状態です。
2011年10月14日
大いなる錯覚殺人事件<大谷羊太郎>
この時期のこの作者の作品では珍しい、全編が本格ミステリです。そして、密室・アリバイ・ダイイングメッセージと盛り沢山です。探偵役が最初から 登場しても、なかなか解決しないジレンマが生じますが、あまり気にしないで楽しむ作品でしょう。ダイイングメッセージの扱いは微妙です。
2011年10月14日
無伴奏<太田忠司>
阿南シリーズの4作目ですが、時間と共に年をとる設定ですので、27才・29才・37才と来て本作は50才です。岐阜で介護の仕事をしている阿南に 浜松の父が危篤の知らせです。阿南は、父の言葉による母の死の謎と、幼馴染みの関係する事件に絡みます。
2011年10月20日
蒼い描点<松本清張>
昭和34年に雑誌連載終了作です。このころの作者の執筆量は膨大であり、内容的にややミスが多いのも今に思えば、やむ無しかも知れません。動機に 社会性を求めた社会派推理小説を書き始め多くの影響を与えました。ただそれがプラスアルファ要素と思わずに、変更と思い違いされた事は、作者にもミステリ にも不幸な遠回りをさせました。本作は終始、素人探偵で描かれて、当時の社会の犯罪ではなくあえて言えば戦争犯罪ですが、無理に社会派とする必要は 無いでしょう。ただし、長すぎる小説と思います。
2011年10月20日
日本・マラソン列車殺人号<辻真先>
長く書かれてきた、トラベルライター瓜生慎シリーズの最終作です。ゲスト出演の多い作者ですので、あくまでもシリーズかもしれません。本作は、鹿児島 から函館までの在来線のマラソン旅行と、磐梯での事件が併行して進み、絡みあってきます。
2011年10月20日
馬的思考<アルフレッド・ジャリ>
20世紀最初前後のショートショート集です。昔といえばそうだが、ジャンルが妄想的な多彩なユーモア風であれば、細部の時代性はほとんど無関係に 感じます。多くの人が、書かれた年を見て驚く事でしょう。日本と歴史が違うという感が強いです。
2011年10月26日
リベルタスの寓話<島田荘司>
中編2作の作品集です。そして最近、この作者が多用している、1の前編>2>1の後編という並び構成です。どちらも旧ユーゴ地域に題材を取り(舞台という のは微妙に異なります)、その複雑な民族の歴史が関与します。やや古典的な医学よ、近未来的なアイテム、そして複雑な民族の歴史が絡んで、焦点を掴み 難い作品かもしれません。異質とも言えるアイテムで構成された作品を作者は21世紀本格ミステリのサンプルとの見方をしています。
2011年10月26日
神の領域<堂場瞬一>
警察小説とスポーツ小説を併行して書いている作者が、双方の要素を重ねたテーマで書いた作品です。スポーツの世界で限られた人物のみが到達できる所、 それは他人からみれば神の領域とも言えます。そこに達した人物が絡む事件を、そこに達しなかった捜査陣と主人公が追います。
2011年10月26日
信州飯田殺人奔流<石川真介>
普通の未亡人から作家になった主人公の女性と、度々事件に一緒に当たる刑事とのコンビのシリーズです。豊橋と塩尻を結ぶ飯田線は、路線がまがりくねって しかも、駅の数が多いという変わった鉄道です。併行した国道を自動車で走ると、こちらが早いケースも多い所です。
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2011/10に読んだ本の感想を随時書いてゆきます。
本格推理小説が中心ですが、広いジャンルを対象とします。
当然、ネタばれは無しです。