推理小説読書日記(2011/04)
2011年04月05日
夢の遠近法<山尾悠子>
10年前に長い中断から復活した作者です。その「山尾悠子作品集成」は豪華本にもかかわらず増刷されました。本著はその中から短編を 選んだ選集です。作品的には、上記と全て重なっています。本書の特徴は、作者自身の自作解説と、エッセイ抄です。ただし後者は、投げ込み 付録となっており、綴じ込みにして欲しかったと思います。
2011年04月05日
花文字の憎悪<大谷羊太郎>
犯罪魔による殺人計画という設定は最近の異常犯罪者の、犯罪計画として扱われています。本作も設定は同様のものです。この作者としては 珍しいです。その展開がどのように利用されて、展開されるのかは、作者の作風となります。本作もその作風は生きていると言えます。
2011年04月05日
星が流れる<藤村正太>
川島郁夫時代の短編作家時代から、江戸川乱歩賞受賞で長編デビューしたこの作者です。その作者のジュブナイル長編です。遺産相続に関する 事件を描きます。内容はシンプルですが本格ミステリと言えるでしょう。長編の少ない作者ですが、読んでおきたい作品です。
2011年04月11日
死をもちて赦されん<トレメイン>
修道女・フィデルマのシリーズの第1作です。7世紀のアイルランドを舞台にしたシリーズですが、最初の2作は異なる地を舞台にしているため に、アイルランドが舞台の作品が最初に訳されました。これは原作者の意志も含まれるとの事です。キリスト教にも複数の派が存在します。地域による がかなり背景となりますが、本作はずばりローマ派とアイルランド派のどちらをある国で選ぶかという会議が舞台です。この後にパートナーなる人物 との出会いもあります。
2011年04月11日
アンジャーネ<吉永南央>
北関東のある街にある、外国人が借りるアパートの管理人の祖母が亡くなり、その管理人になった主人公の青年が出会う人々と事件です。 社会を知らないでいきなり、大家としての仕事になるとまどいと、色々な文化や人種との出会いが青年に謎と急激な成長を与えます。
2011年04月11日
カムナビ(上)<梅原克文>
弥生時代以降しか無いはずの陶器が、縄文時代の遺跡から見つかります。ありえないこの謎を追う内に、次々絡む人々と、広がる謎です。 魏志倭人伝の邪馬台国論争は、解釈から考古学に移っていますがなぜ複数の記述解釈が生まれる内容になったかの謎もあります。同時に 何故、日本の古事記等に記載されていないかの謎もあります。その謎を追うと、不思議な現象に出会います。スペースファンタジー?? の始まりです。
2011年04月17日
カムナビ(下)<梅原克文>
上巻は考古学ミステリの様相だったが、下巻になると景色が多彩に広がります。それの詳細は、述べるべきでは無いのが残念です。一体どの ジャンルの内容と見るべきかすら判らなくなります。あまりにも広大な世界に広がる一方で、狭い伝奇的世界へと戻る部分ば、妙にミスマッチで あり読者を迷路に入れたままにします。
2011年04月17日
五瓣の椿<山本周五郎>
女性それも少女的な・・復讐物語は、探せば多数あります。特に最近はスーパーマン的な設定や、あるいはそれを助ける白馬の騎士との セットで流行とも言えるでしょう。しかし、この設定は何を書きたいのかが多きなポイントであり、復讐で何を得て、何を失うのか。結果に よらず、復讐は何をもたらすのかというテーマに如何に答えるかは終わりのない課題です。本書の主人公も答えは出していますが、それがテーマの 答えになるかどうかは難しいです。
2011年04月17日
モップの精と二匹のアルマジロ<近藤史恵>
短編で幾たびか登場した「キリ子」シリーズの初長編です。アルマジロとは何かは最後に判ります。日常の謎派は、純長編は難しいとされて います。連作集が最後に別の謎を解決して、長編となるのが多い手法です。本作は、完全な長編スタイルです。テーマは「人を好きになるとは どの様な事でしょうか」です。
2011年04月23日
風少女<樋口有介>
青春ミステリをひとつの得意分野とする作者が描く、今も若いが少し前の学生時代はもっと若かったという作品です。わずかな時間の経過が 大きな比重の思い出となり、当時は何も判っていなかったと気づいてゆきます。わずかな時の流れで大きく変わった個人を、思い出と現実で描き ます。わずかな時間が、進む道を帰る時代の話、それが青春小説なのです。
2011年04月23日
冥い渇き<マグレガー>
夫婦主人公シリーズを始めて読むと、やや戸惑います。ましてや、妊婦が探偵役で活躍するのは活字ではなかなかイメージが固定しません。 私立探偵は、妊婦でも仕事に追われるのでしょうか。親友の関わる事件とはいえ、シリーズの中の通りすがりの時期の話です。
2011年04月23日
すれちがった殺意<大谷羊太郎>
私立探偵と有能な女性助手のコンビですが、サスペンスタッチで、登場は多くありません。複数の登場人物の視点から描かれますが、それぞれが 思い違いをする事で、訳の分からない意外な展開をします。ミステリ的には、必然性が希薄であり、ストーリーを追う形でしか読めません。まさしく サスペンスです。
2011年04月29日
熱欲<堂場瞬一>
刑事・鳴沢了シリーズ3です。所轄の生活安全課に配属された鳴沢は、詐欺事件を追ううちに、複雑に絡んだ事件に遭遇します。それを担当に 渡しても、また事件が起きます。関わった元の事件か人物が絡んでいるのではないか。こつこつと追ううちに静かにしかし、破滅的な結末になります。
2011年04月29日
人形遣いの影盗み<三木笙子>
時代は、東京が帝都と呼ばれていたころです。天才といわれた絵師とそのともだちの記者が出会う事件の探偵物語です。時代を古くした事で 雰囲気が奇妙に違います。雰囲気は、探偵小説なのです。長さの異なる5作の連作集です。
2011年04月29日
綺譚集<津原泰水>
基本は幻想小説ですが、すこしずつ異なる短い話を15集めた、掌編集です。奇妙なしかし、時にはあでやかであったり、恐怖であったり読む人 にゆだねられた作品が並びます。短いゆえに、返って読者に想像させる部分が多く残ります。
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2011/04に読んだ本の感想を随時書いてゆきます。
本格推理小説が中心ですが、広いジャンルを対象とします。
当然、ネタばれは無しです。