推理小説読書日記(2011/01)
2011年01月02日
恋愛迷宮殺人事件<大谷羊太郎>
八木沢警部シリーズの1作です。主人公のヒロインと、探偵役の刑事周辺の双方から描く事はお馴染みです。この手法は、アリバイ崩し ミステリではかなり効果的です。探偵役が、後半に謎を解く事が自然ですし、ヒロインからみたサスペンス的な状況とストーリーの双方を 描く事が出来るからです。それは、無理に探偵役を繰り返し旅行させるストーリーから幾分かは緩和します。
2011年01月02日
白銀ジャック<東野圭吾>
スキー場の整備員の目から描かれます。不況で何を考えているのか判らない幹部と、周辺の住民とスキー客たちが登場します。それに 同じ仕事仲間とも微妙な関係です。かなりスキー場の整備は、仕事分担があるようで、それぞれに思惑があるようです。そこで1年前に 起きた死亡事故と、進行形のスキー場爆破の脅迫事件があります。警察に知らせないで納めたい幹部との間で迷う整備員たちがいます。
2011年01月02日
歪み真珠<山尾悠子>
寡作の作者が、時々発表した掌編の長さの作品に、書き下ろしを加えた作品集です。1作を除くと掌編ですが、幻想的な内容とは合います。 デビュー時は、該当ジャンルがなくSFに分類されていましたが、文体や発想ともにまさしく幻想小説と思います。そのスタイルは個性的で 実際に読んでいない人に説明は難しいでしょう。論理性やリアリズムを望む人は縁のない世界です。
2011年01月09日
枯葉色グッドバイ<樋口有介>
自己で子供をなくし、妻と別れた元敏腕刑事がホームレスになっていた。そして、その刑事の昔の部下が事件の捜査中に出会います。 事件の捜査というか監視に、ホームレスを雇うという展開です。死んだ学生服姿の女性はいかなる理由で殺されたのか?。背景は広いが 逆に捜査にとっては、とりとめがない部分がありやや難航します。そしてホームレスならではの視点が真相にたどりつきます。
2011年01月09日
トフ氏に敬礼<クリーシー>
ある程度の金持ちだが趣味??で探偵を行う主人公のニックネームが題名です。なかなか今の時代でも、昔でも舞台の海外でも異様に 感じる設定です。不思議な設定に不思議な人物、そしてやや適当なストーリーとくれば、どのように読むのが正しいのか迷います。これは ギャグ小説なのでしょうか。
2011年01月09日
妃は船を沈める<有栖川有栖>
中編をまず書いた後で、突然に後編の中編を書きたくなり、実は長編だったと気づいたと作者は言います。ただ、その面もあるでしょうが 素直に中編2作として読んで、特に違和感も問題もなさそうです。読者におまかせモードです。妃とは、名前にその漢字を含む女性です。 「猿の左手」「残酷な揺り籠」の2作いや2部構成です。
2011年01月15日
新世界<柳広司>
歴史を題材にするとそれ自体がヒントにも、ミスディレクションにもなります。原子爆弾の開発を行った、ロスアラモスとオッペンハイマー を取り巻く背景での、事件・疑惑が舞台です。ちょっと規模が大きいです。そして、初めてというリスクとの戦いと、背後のそれぞれの動機 の問題は絡みあいます。それは、人を狂気にしてしまい兼ねないものです。そして同時に次の段階へも踏み込んでしまいます。
2011年01月15日
風雲の旗<高木彬光>
伝奇小説ですが、歴史小説的な味付けもあります。陰謀で故郷を追われた少年が、色々な人の助けで再び帰って来る話です。登場するのは まさしく、舞台そのままの怪しげで頼もしげで、実はよく判らない人物達です。子供が主人公という話は、この作者では少ない方と思います。 時代のいつもより、古い戦国時代です。
2011年01月15日
ウラジオストックから来た女<高城高>
戻ってきた作家というべき、日本ハードボイルドの創始者です。書くのは、明治中期の函館を舞台にした、時代警察小説です。既に函館は ロシアやアメリカの船が停泊する港であり、国際的にも色々と事件が持ち込まれます。函館警察と函館水上警察があり、後者の五条警部が主人公 です。ただ、2冊目の本著で完結のようでやや寂しいです。
2011年01月21日
チャーリー退場<アトキンソン>
イギリスのミステリの定番ともいえる、シェークスピア演劇が背景のミステリです。ある劇団で、「マクベス」という言葉を言うと事件が 起きると言われていましたが、うっかり言ってしまい、そして殺人が発生します。実際に劇中に殺人が起きると、広義の密室・限られた容疑者・ 行動のタイムテーブルとアリバイというミステリ要素が自然に発生します。それに嘘を本当に見せるという演劇はミステリにも通じます。
2011年01月21日
蒼きサムライ<福田栄一>
ライトミステリの新人ですが、時代小説設定は初めてです。ただ、内容的にはいつをそしてどこを背景としても可能な作風と思います。時代 小説風に、仇討ち・道場破り・果たし合い等が登場しますが、基本は多重事件・出来事の同時解決という軽いパニック小説です。いつの時代でも 純粋だが騒ぎに巻き込まれやすい男女は存在しますから。
2011年01月21日
雪虫<堂場瞬一>
スポーツ小説と警察小説を並行して書く作者ですが、読むのは警察小説です。主人公・鳴沢了が新潟・魚沼で登場します。そして、彼自身の 事件ともいう内容の展開です。それだけでは、シリーズになりませんが、結果は別に一応の決着はつきます。いや片方かも知れません。地方の 警察の事件・組織は都会とはやや異質に展開します。
2011年01月27日
神戸異人館恋の殺人<大谷羊太郎>
探偵か主人公が訪れる先で事件が起きる、ミステリでのひとつの面白い設定です。ただ理由つけに、バラエティが持たせにくいので内容はやや 難しいでしょう。八木沢警部の部下の村岡刑事が休暇でふるさとの神戸に戻るところから始まりますが、まるでそこからあとを追うように事件が 続きます。離れた場所と無関係に見える事件はいかに繋がるのでしょうか。本作は1992年に書かれています。震災前ですが詳細な描写ですので どこが震災の影響を受けたかがよく判ります。
2011年01月27日
なぎなた<倉知淳>
「こめぐら」と同時出版の短編集です。初出を見るとかなり古い作品が多いです。もっと仕事して下さい。こちらは、「こめぐら」よりはリアル 性がややあります。この作者は、ユーモアというか奇妙な展開、推理よりは推測で構成しますので、リアルな話はないか少ないのです。寄せ集めです ので、当然にバラエティにとんでいます。シリーズではない純短編集もよいものです。ただ、もっと書かないと忘れるよ。
2011年01月27日
外地探偵小説集 南方篇<>
このアンソロジーのシリーズも「満州」「上海」に続く3集目です。南方の島が舞台の作品です。このシリーズの特徴ですが、かなり珍しい 作者・作品が集められています。好き嫌いはあるでしょうが、個人的にはファンです。続刊を待ちます。意外とあるのか、少ないのか不明ですが 確かに日本がこれらの地域に進出したのです。あなたは、7名の作者名の半数は知っていますか。
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2011/01に読んだ本の感想を随時書いてゆきます。
本格推理小説が中心ですが、広いジャンルを対象とします。
当然、ネタばれは無しです。