推理小説読書日記(2010/11)
2010年11月03日
十三回忌<小島正樹>
回忌ごとに起きる事件の中に迎えた、十三回忌です。またしても起きた事件と、過去の事件を繋ぐ謎を複数の探偵?の目で追い ます。どこか、英国風の動機ですが日本では、やや苦しいです。事件ごとに謎を仕掛ける意欲は感じられます。連続の死者で、容疑 者が減少するのと、その対策?もこの種のミステリではやむを得ないでしょう。
2010年11月03日
修験峡殺人事件<水上勉>
紀伊半島を舞台に、大阪・和歌山・奈良・三重の警察の刑事が事件の謎を追います。県単位で、担当刑事が登場するのは現実的 ですが小説の世界では、むしろ珍しいです。関西の人間でも地理的位置関係がなかなか、イメージできないのが難しいですが時間の アリバイが微妙に謎になって覆います。
2010年11月03日
陶人形の幻影<アリンガム>
如何にも英国風の設定です。英国の相続問題と、歴史絡みは日本人には理解が難しいですし、ごちゃごちゃしている感がします。 これは仕方がない事です。しかし探偵役のキャンピオンが、何もせずに時間だけが経過するのは冗長と感じます。結果として結末 までの過程がぼけてしまっている様に感じます。
2010年11月09日
名残り火・てのひらの闇2<藤原伊織>
題名のとおり「てのひらの闇」の人物や会社が見え隠れする設定です。後日談とも言えるし、登場人物が一部重なる別の作品でも あります。新しく、キャラクターも登場しますが、作者の死去で、本作が最後の長編作となりました。堀江雅之・ナミ・大原真理達に 時間が若干経過した、少しづつ異なるシチュエーションでまたあえます。ただ堀江の父の事は出て来ません。飲料メーカー・広告業界 が絡む事件に深く絡んでゆきます。
2010年11月09日
雨の夜の殺意<大谷羊太郎>
本格ミステリ的トリックを含むサスペンスタッチのミステリです。犯罪者・巻き込まれ人物・捜査側からそれぞれ描かれる事で サスペンスが生み出されます。別々の視点から描かれていた話が、次第に交叉して収斂してゆきます。巻き込まれのヒロインと捜査 するヒーロー??との接点は、サスペンスの常道へと向かうのでしょうか。
2010年11月09日
裂壊<堂場瞬一>
警視庁失踪果三方面分室は、室長の真弓が失踪?したうえに、間近に査察が近づいています。同時に出された失踪人捜索願いを 調べる内に失踪者が、真弓の娘と判明します。プライベートを隠し続けていた真弓の周囲には、謎が多く手がかりは少なく、しかも 周囲に室長の失踪が判らない様にしなければならない。ナンバーツーの高城賢吾は、分室メンバー総動員でタイムリミットでの捜査 を行い、遂に真弓と娘の過去にたどりつきますが・・・。
2010年11月15日
新ナポレオン奇譚<チェスタトン>
チェスタトンの初長編が本書ですが、かかれた1904年のロンドンがそのまま1984年のロンドンになっているという設定は 何ともいいようもないでしょう。20世紀の80年が空白になっており、のんびりした中で突然に内戦が起きるというこれまた、 不思議な展開です。これは、空想ともシュミレーションとも異なります。妄想でしょうか、幻想でしょうか、哲学的な比喩でしょうか デビュー時からこの作者は読者を悩ます事に没頭している様です。
2010年11月15日
夢の浮橋<倉橋由美子>
純文学として捉えられた作者ですが、幻想・SF等の作り物の小説が増えて来ると、人工的な作り物の構造の中に主題を織り込んだ 手法は、アイデアやパロディだけの幻想・SF等が近寄れない存在になっています。小説という表現方式の可能性を利用・追及した内容 は判り易い理解と、その後に待つ奥深い世界とを合わせて持っています。
2010年11月15日
コロシ<三谷祥介>
「コロシ」と「宝石」の2中編からなる作品集です。犯罪実話なのか、実話風の犯罪小説なのか?。度々登場する、謎という言葉 とうって変わって内容はミステリ的な謎はなく、登場する捜査側の謎に終始します。そして、結果は解決したのかどうか自体があやふや です。元々、謎を解明する構造の小説?ではないのでしょう。
2010年11月21日
高城高エッセイ集<高城高>
長く絶筆状態の好きな作者の復活ほどうれしい事はありません。私にとってはその一人が、高城高です。仙台の出版社から作品集が 出て喜び、創元推理文庫から全集が出て喜び、新作「函館水上警察」が出ては喜びました。このエッセイ集は、薄い小冊子ですが、私 には、またまた喜ばしいものです。多くはないが、なかなか知られていない作者のエッセイを集めてあります。ファンは必読でしょう。
2010年11月21日
こめぐら<倉知淳>
デビュー時から寡作とは言われていましたが、それにしても久しぶりの出版です。短編集2冊同時出版の片側です。内容は、寄せ集め タイプで多彩ですが、風変わりなものもいくつかあります。それがこの作者の持ち味でしょうが、ちょっと行き過ぎかもしれません。猫丸 登場作品も1作あります。もっと作品を書いて欲しいものです。
2010年11月21日
六死人<ステーマン>
6人がゆっくりと死んでゆきます。閉ざされてもいないですが、その関係は微妙です。このスタイルはその後の作家に、色々なバリエーション で影響を与えたと思います。作品自体は、探偵役のいる本格ミステリです。そして連続殺人風です。作品全体で徐々に被害者が増えてゆく このスタイルはミステリのひとつの形として定着していると思います。
2010年11月27日
魔剣青貝流<高木彬光>
青貝進之丞を主人公にする伝奇小説の短編集です。6作からなります。主人公には裏はなさそうにも見えますが、おなじみの剣の達人の 素浪人です。歴史上の人物名と架空の人物が登場します。やけに顔が広いのか、いれかわり色々な人物が登場します。伝奇小説の要素を 盛り込んだ痛快時代小説です。サスペンス的な展開は当然の要素です。
2010年11月27日
沈底魚<曽根圭介>
スパイミステリの本作で江戸川乱歩賞を受賞しました。同時に、ホラーの賞も受賞しています。その後の作品からはホラーが中心の様に 見えますが、どのような作品を書いてゆくのでしょうか。必要な時までは何も活動をしなく、完全に他国の人物になりきっているスパイを 沈底魚と呼びます。普通?のスパイ、二重スパイ、偽装スパイが入れ乱れての諜報活動を描きます。果たして、沈底魚は誰か。
2010年11月27日
現代詩殺人事件<>
「俳句殺人事件」「短歌殺人事件」に続くアンソロジー3部作の最後です。前の2編ではページごとに代表的な俳句・短歌が掲載されて いましたが、詩はスペースの関係でありません。ミステリ要素の高い作品を集めていましたが、詩を含む作品は短編ミステリでは少ない様で 幻想系統の作品が目立ちます。きっと、詩は長編のキーやモチーフの方に向くのでしょう。
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2010/11に読んだ本の感想を随時書いてゆきます。
本格推理小説が中心ですが、広いジャンルを対象とします。
当然、ネタばれは無しです。