推理小説読書日記(2010/10)
2010年10月04日
鳥羽・葛西水族館殺人事件<大谷羊太郎>
八木沢警部シリーズの本格ミステリです。作者にはオーソドックスな構成でしょうが、連続殺人です。手がかりが分散出来るので 構成が容易なのでしょう。トラベルミステリ風の題名ですし、内容もその傾向が強いですが、トリック的には他の要素が多いです。 推理の過程で題名の場所を取り入れたのは、特徴とも無理に押し入れたとも言えるでしょう。
2010年10月04日
風船を売る男<シャーロット・アームストロング>
サスペンスミステリそれも、日常的な題材が多い作者です。本作はちょっと複雑な関係にある、ヒロインからみたサスペンス状況 です。心理的に揺れ動く様子が、非常にサスペンス色が濃く、裏の登場人物と作者の企みが隠されています。特に題名は、何の事か 最後の所まで不明です。
2010年10月04日
夢の終わりとそのつづき<樋口有介>
ノンシリーズの「ろくでなし」を柚木草平シリーズとして書き直した作品です。ハードボイルドタッチですが、犯罪トリックの の特殊な薬品は本格ミステリとして読むと首をかしげます。ただ本作は、そこがポイントではなく犯罪小説的な要素が大きいです。 登場人物に裏がある者ばかりで、スパイ小説的な要素もありそうです。主人公が柚木とほぼ同一の設定のために、書き換えが可能 だった様です。
2010年10月10日
北村薫のミステリびっくり箱<北村薫>
小説ではなく「探偵クラブ」の古い会報からテーマ別にゲストを迎えた座談会を行ったものです。資料的に珍しいものや、ゲスト の蘊蓄等がなかなか面白いです。ハードカバー本には、珍しい音源がCDで付いています。江戸川乱歩が、当時は珍しいレコード等の マニアであり、音源やフィルム撮影等に興味があり残された資料があるようです。
2010年10月10日
座頭市<縄田一男 編>
縄田一男 編でシリーズで編まれた「時代小説英雄列伝」の1冊です。「鞍馬天狗」「銭形平次」に続く第3集です。しかし、他の 主人公と座頭市は原作面で大きく異なります。座頭市は子母沢ェの原作は、わずか15枚の超短編でありわずかな人物像しか書かれて いません。そのため、関連小説や実質の人物像を決めたとされる映画の第1作の脚本が掲載されています。
2010年10月10日
長弓戯画<滝田務雄>
ミステリーズ賞(短編)受賞作家の3冊目で、初の長編です。主人公は新しいコンビを登場させて、ユーモアミステリのスタイルで 書かれた本格ミステリです。必要以上に登場人物が多いので、続編が書かれる事が期待できます。兇器トリックに複数の謎を絡ませる 手法は早くも、慣れた内容とも言えます。
2010年10月16日
ザビエルの首<柳広司>
時代ミステリですが、探偵役の設定がSF的架空です。何かの意味があるのか、考えますが思い当たらないです。複数の短編を合わせて 長編的にまとめるという手法上の都合かと思えます。それにしても、主人公の探偵役の意識が時代を超えてザビエルの近くにいる人物に のり移る設定はあまりにも都合が良すぎます。ミステリ的には、何も意味はないので無視して読むと、時代性も含めてなかなか面白く ミステリしていると思います。
2010年10月16日
菅沼貞風<赤沼三郎>
ミステリも書く作者の歴史小説です。主人公は、長崎の平戸藩の青年で、西南戦争に参加を断られて学問に励みます。文献整理の 功績で藩公に認められ、東京で大学に入ります。そこでも、優れた論文を書き海外要員になります。選んだ先は、まだだれも手をつけて いないフィリピンです。上陸して、移民を試みようとしたやさきに病気で亡くなります。
2010年10月16日
コスミック・レイプ<スタージョン>
浮浪者の体に乗り移った宇宙生物が、たくらむ全宇宙支配がうまく行かない人類。人類を1つの頭脳にするという企みがあります。 それは、成功すると思えたがみつばちの様な集合体になった人類と、ただひとりそこから外れた浮浪者の行動は宇宙生物の予想とは 違うものだった。
2010年10月22日
隠密独眼竜<高木彬光>
独眼竜というと伊達正宗を思い浮かべる人が多いでしょうが、伝奇小説の世界では柳生十兵衛の事です。柳生一族は、伝奇小説の 花形であり、宗矩・十兵衛はその代表です。特に、かなり人物自体が伝奇てきな十兵衛は恰好の主人公になります。もうひとつの、 代表は豊臣の遺児と真田一族の末裔です。本作は、柳生十兵衛シリーズの1冊であり、かつ真田一族の末裔が次々と登場します。そして いわゆる妖しい女の大量登場です。
2010年10月22日
兄の殺人者<デヴァイン>
社会思想文庫の倒産で、いくつかの作品が読み難くなりましたが、その幾つかとそれ以外の本作者の作品が出版されています。やや 風変わりですが本格ミステリのこの作者は、日本でもマイナーではありませんがもう少し紹介されないとメジャー入りしない境目です。 シリーズ探偵がおらず、しかもそれをあいまいにする作風は、探偵役捜しも謎に組み入れています。サスペンス風の作風が、本格ミステリ の謎を隠す働きもしている様に感じます。
2010年10月22日
ラベンダーの殺意<大谷羊太郎>
八木沢警部ではないシリーズ探偵・牧原と高村の登場です。私立探偵という事でやや、ストーリーが破調となります。警察は助演 的ですが、この探偵の信頼度はやや微妙に設定されているので本格度が下がって、サスペンス度が上がっている印象があります。 ところで、本作は不思議な程に多くの誤植があります。探偵を含めた登場人物の名前さえ、度々間違っているのです。一寸、悩みます。 最近は誤植トリックもでまわっていますから・・・かなり困ります。
2010年10月28日
誰もわたしを愛さない<樋口有介>
主人公・柚木草平の年齢が全く進行しないタイプのシリーズです。一部を除いて、主人公の1人称で語られる、いわゆるハードボイルド スタイルです。主人公は、警官上がりの刑事事件専門のルポライターで、登場するのが色々な女性であり、主人公の女性観がひとつの 売りとなっています。女性は娘から、現役刑事まで多種であり、本作で新人編集者が登場します。この種の作品の恒例の地味な捜査と やや作者と主人公の性格を反映しているのでは無いかと思われる真相があります。
2010年10月28日
グーテンベルグの黄昏<後藤均>
鮎川賞以来、3−4年に一度のペースで3冊の本を出している作者の第2作です。歴史ミステリと伝奇ミステリと本格ミステリを 融合した作品群です。それぞれに緩いシリーズ要素があります。本作は、第二次世界大戦時のドイツが部隊の中心です。ヒトラーの 死の謎と、それに関すると思われる事件を、日本人画家が追いかけます。そしてそれ自体を後年に画家の娘と日本人の教授が謎を推理 します。
2010年10月28日
会津・リゾート列車殺人号<辻真先>
イベント列車シリーズです。瓜生慎・竜・うずら・可能克郎たちが登場します。会津の白虎隊イベント列車内での事件とそこから 逃げ出した容疑者の死が謎となり、偽装された事件を解きます。過去とイベントとトリックというシリーズのテーマを活かした作品 です。イベントという利害が伴う企画にはつきものの対立と過去の出来事との組み合わせが、謎を構成しやすいと思えます。
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2010/10に読んだ本の感想を随時書いてゆきます。
本格推理小説が中心ですが、広いジャンルを対象とします。
当然、ネタばれは無しです。