推理小説読書日記(2010/07)
2010年7月06日
初恋よ、さよならのキスをしよう<樋口有介>
柚木草平シリーズ第2作です。15年前の発表時には読んでなかったシリーズですが、今巡りあって良かったとも言えます。本作 も柚木の一人称のハードボイルドスタイルです。そして、初恋とは柚木の学生時代の思い出です。このシリーズは登場人物が歳を重ね ない設定のようで、登場人物のキャラクターがどれから読んでも変わらなさそうで安心です。柚木の女性遍歴は、昔からだったのかの 印象ですが、柚木の現在の関わっている女性は今回はあまり登場しません。
2010年7月06日
邂逅<堂場瞬一>
警視庁失踪課シリーズです。心臓病を抱える法月が何故か無理をして捜査に熱中します。しかし失踪者は仙台で水死体で発見され 殺かと思われます。一方、高城・明神は辣腕の大学経営者の失踪を調査し始めますが、突然に依頼が取り消されます。この二つの失踪 が繋がりを見せる時に、事件は進みます。その裏では、何故に法月が無理をしても捜査するのかの謎もあります。真相にはある邂逅が ありそれが前編の縦糸になっています。
2010年7月06日
毒薬の小壜<シャーロット・アームストロング>
この著者のサスペンスの作り方は独得です。自然な日常の中で突然生じる食い違いと事件。それを追って複数の人が急激に動き出し ます。そのアイテムが、毒薬の入った小壜です。伏線や謎よりも、ひたすらノンストップの追いかけのサスペンスというスタイルです。 このスタイルで読者を引っ張ってゆく技術力は独得のものでしょう。
2010年7月12日
使命と魂のリミット<東野圭吾>
最近増えた、医療ミステリです。性格的にタイムリミット・サスペンスの色も持つことになります。この種のミステリは医療ミスの 有無を扱うのが定番です。それでないと、医療現場を背景にする理由が薄いから当然とも言えます。そして、ミッシングリンクテーマ も合う背景です。複数の出来事が併行して進みます。関連性は徐々に有無が判ります。登場人物の思惑が絡まって、複雑な収束に向かい ます。
2010年7月12日
日影丈吉全集8巻(4)<日影丈吉>
昭和の末期から平成の最初までの短編の単行本未収録作品です。後期には文庫版短編集・作品集も出ていますが、そこへ収録された 作品も、単行本未収録として掲載されています。この時期は作品数が激減していますが、質は低下していません。やや作品内容の制約 が自由になった面もありますが、ある程度発表誌にあわす事は残っています。長編・短編合わせて全8巻・通常の単行本ベースでは約 30冊以上がこの作者の主な全作品です。9巻にエッセイ・子供向け・未発表を残しますが、全作というべきでしょう。
2010年7月12日
白い対角線<藤本明男>
昭和35年発行というとミステリ界では微妙な時期に発表されました。その時期という予想以上には、ミステリ的な作品です。内容 の整理が付きかねたという印象が残ります。麻薬事件を中心に、複雑な人物の絡みが読み切れないレベルで書かれているので、読者が 進展や真相を読み解くのは無理ではないかと思えます。これは、残念な事と思います。サスペンス的な見方ならば少しは評価は高くなる かも知れません。
2010年7月18日
安達ヶ原の鬼密室<歌野晶午>
短編「こうへいくんとナノレンジャーきゅうしゅつだいさくせん」「The Ripper with Edouard 」と、長編「安達ヶ原の鬼密室」から なる作品集です。短編は前編・後編に分かれており、長編を前後に挟んでいます。何か意味があるのか考えてもみたくなります。長編も 時代を挟んだ2つの謎が登場します。こちらは最近のはやりのスタイルですが無難なレベルに見えます。
2010年7月18日
「秩父山景」三層の死角<大谷羊太郎>
サスペンス小説です。警察と主人公の女性達とから描かれますが、複数の事件が絡みあいます。伏線とか必然性はなく、ストーリー 展開上で事件に遭遇します。本格スタイルの多い作者ですので、意外な展開ともいえます。テンポの良い展開で読者を引っ張りますが 本格ミステリを期待した人には残念かもしれません。
2010年7月18日
Dカラーバケーション<加藤実秋>
ホストクラブ「インディゴ」シリーズの作品集の4冊目です。一番最初のオーナー・ライターの晶の1人称スタイルに戻っています。 「インディゴ」も徐々に変わってゆきますが、それに従い登場人物も変化があります。そしてそこに新しい事件が付いてきます。一部に ドラマ化された時のキャラクターも取り入れているようです。
2010年7月24日
偽りの時間<津村秀介>
この作者のミステリの実質的な最初の長編です。ジャンルは以降と類似していますが、細部の構成はかなり異なります。複数の事件 が併行して起こり、複数の人物が併行して捜査します。複雑でトリッキーですが、読みやすく整理されているかどうかは微妙です。ただ 混乱せずに書ききっていると思います。
2010年7月24日
赤と青の殺意<有為エンジェル>
ジャンルの異なる作者のミステリです。比較するものがないのですが、作者の趣味やミステリの考え方でしょうが、やや異色というか ミステリ的でない展開・構成にも感じます。試行の最初でもなさそうです(後発作がない)ので、ジャンルを広げた実験作でやや失敗 気味ともいえます。
2010年7月24日
血どくろ組<高木彬光>
「蛇姫様」の続編とも言える伝奇小説です。伝奇小説の要素を沢山盛り込んだ作品で、ジャンルを割り切ればかなりの出来でしょう。 ミステリ作家の姿は消されているとも言えます。奇想と伝奇要素を盛り込んだ内容は、典型的でまだまだ書ける事が判ります。主人公 的な人物が死んだり・登場したり入れ替わりが多いので、シリーズとして見るには謎が多いでしょう。
2010年7月30日
翔騎号事件<太田忠司>
狩野俊介シリーズの長編です。新たに飛行船ビジネスを始めた人物に届いた脅迫状。その状況で、飛行船は飛び立ちます。高度を下げる と爆発するという脅迫状が届きます。試運転に招待された客は、俊介たちに渡された脅迫する可能性がある人物リストに載っている人ばかり です。閉じられた飛行船の内部での事件の解決に臨みます。
2010年7月30日
スミソン氏の遺骨<コンロイ>
スミソニアン・シリーズと言われても何も判りません。その1冊です。スミソニアン博物館の職員になったばかりの時に、見つかった 創始者の遺骨。そこから始まる連続殺人・・らしきもの。なかなか、名前は有名ですがイメージできない舞台と登場人物たちが作る不思議な ミステリです。不思議なジャンルの作品にも見えます。
2010年7月30日
虚名の鎖<水上勉>
かっては松本清張と並ぶ社会派ミステリとも言われた作者ですが、その後はいわゆる純文学に移行したようです。その結果、ミステリ 作品はとり残された感があります。本作は、女優等の業界の人間間を背景に、複数の警察官が事件を調べるミステリです。複数の刑事の 登場は清張作品でも多くみられます。日本の警察組織ではこのような構成にならざるを得ないのですが、まだやや違和感は残ります。 謎やトリックは、作品構成とのアンバランスは感じますが読みやすい文体は、この分野の作品が止まった事に残念感もあります。
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2010/07に読んだ本の感想を随時書いてゆきます。
本格推理小説が中心ですが、広いジャンルを対象とします。
当然、ネタばれは無しです。