推理小説読書日記(2010/06)
2010年6月06日
冬かもめ心中<斎藤澪>
青森から北海道の幾つかの土地が背景で、戦時中から昭和の終わり頃までの時代背景で進む心中事件の謎です。追いかける複数の 人物にはそれぞれも思惑があります。事件の謎と、それを調べる人物の謎が重なってじっくりとした流れで謎が次第に明らかになり ます。それは、何とも微妙な結果です。事件に関係した人物が事件を追いかける、それは誰が何を追いかけているのかさえ複雑に絡み あいます。
2010年6月06日
ゲスリン最後の事件<F.マクドナルド>
F.マクドナルドの最後の作品ですが、内容は微妙です。事件と謎は次々起きますが、次々解決します。あえて言えば判らないのは 犯人のみです。そのスタイルの作品もありますが、ただ後半が内容が薄く論理的に見えないので読者は迷います。本作は、本格に見せた 非本格推理小説なのかも知れません。探偵が、容疑者に恋をするパターンなのか・・・。それとも元々が、恋愛小説に前半の本格味を 加えたのか、小説自体が謎です。
2010年6月06日
フレンチ警部と毒蛇の謎<クロフツ>
クロフツの最後の日本への紹介作です。いつもの傾向の作品です。倒叙部分と捜査部分とその中間が混ざって構成されています。 倒叙部分という表現は正確ではないかも知れませんが、読者はそのように思って読みすすめるでしょう。いつもの、この作者の特徴が 現れた水準作でこれが最後の紹介になったのは、たまたまなのでしょう。
2010年6月12日
アネモネ探偵団・香港ミルクティーの謎<近藤史恵>
いつの時代でも書き継がれている児童向けミステリです。この作者にとっては初めての作品となります。この種の作品の常道で 主人公は子供・・年齢は色々ですが・・・本作は中学生です。約半分は主人公達の紹介になっています・・次もありそうですね。 そしてソフトタッチのトリックを解決して行きます。児童にも判るように丁寧に謎解きをして行きます。
2010年6月12日
シンデレラエクスプレス殺人事件<矢島誠>
題名からはトラベルミステリ風ですし、実際の展開もその部類と言っても良さそうです。ただし事件は、バラバラ死体の謎です。 主人公が東京から京都にきて事件が進展してゆきますが、必ずしも望む展開ではなさそうです。逆に、新しく知り合う人物とも出会い ます。内輪の事件をその中に入り込んだ主人公から見て解決に絡んで行きます。
2010年6月12日
軌道エレベーター<石原藤夫・金子隆一>
SFの解説書ですが、作品ではなくSFにも登場する未来の技術可能性の歴史的変遷と現状の解説です。現在のロケット打ち上げよりも 容易に宇宙に飛び立つ事は可能かという命題です。壮大なアイデアはまさしくSFの世界ですが、その実現と理論とはまだギャップが あります。そこを克服してゆく過程を描けば優れたSF小説になりそうです。
2010年6月18日
東京青森夜行高速バス殺人事件<大谷羊太郎>
トリック満載の本格推理小説です。密室殺人事件とその容疑者の夜行高速バスのアリバイ。そしてそれを繋ぐ暗号と、盛り沢山に 登場します。応用トリックであっても、相互に繋ぎあって支えあう構成は、軽いフーダニットにも繋がり本格ミステリの本道を歩きます。 夜行バスという交通手段は、鉄道や飛行機と比べて地味で複雑な要因がありえますが、現実は殆ど鉄道と似た使い方が可能とも言えます。 分秒を争う必要は必ずしも必要ないのですから。
2010年6月18日
枯草熱<レム>
ポーランドのSF作家レムは言語訳の再役紹介がされています。逆に言えば、当初は英訳からの2次訳です。本作者は、SFと言っても 幅広い内容の作品を書いています。本書はSFミステリというべき内容です。原因不明の連続死の謎をひとりの飛行士が追います。1976 年という発表は微妙です。なぜならば、現在では非常に注目される病気・症状がテーマです。具体的には「アレルギー」「花粉症」等 ですが、当時はまだSF的な内容だったのでしょう。
2010年6月18日
メグル<乾ルカ>
不思議な出来事は、奇跡とかSFとかホラーとか幻想とかいろいろな呼び方があります。普通小説の結末にひとつのそれらの不思議を いれればどうなるか?・・という小説です。ミステリと思って読んでいたら、不思議現象で終わったという人もおれば、落ちのある小説 と見る人もいるかもしれません。あるいは、普通に読んでしまう人さえいるかもしれません。不思議な小説とは言えます。
2010年6月24日
告白<湊かなえ>
デビュー長編ですが、芥川龍之介の「藪の中」を長編にした小説です。従って、ミステリとは言い難いです。全体を複数の登場人物 の1人称で書いています。そしてそれが事件があったとすれば、容疑者・告発者・関係者の筈です。しかし、読者にとって1人称の複数 人の語りは信用できるかどうかは疑問です。嘘を書いても間違っていても何でもありですから。ミステリでは、読者が信用できる1人称 か、いわゆる地の文を信用するしか無いです。それで無ければ、論理的な真相は存在しないし、それはミステリにはならないです。「藪 の中」の長編化が成功したかどうかは、ミステリでは無いのであまり興味はありません。
2010年6月24日
日時計<ランドン>
1957年の作品です、本格ミステリに分類されていますが、内容は微妙です。前半は現在の科学捜査にも出てきそうな、時と太陽 とから場所を推定する所から始まります。ミステリ味にわくわくしますが、いつしか流れが大きくかわってゆきます。サスペンスなのか 落ちのあるコントなのか、あるいは・・・・。という訳で、本格ミステリはどこへ行ったの???になります。意外な展開とはいえ、それ は裏切られた展開に思えます。
2010年6月24日
暗殺者ロレンザッチョ<藤本ひとみ>
時代小説です。たぶん歴史小説なのかも知れません。ミステリなのかは知識不足で判りません。そもそも歴史小説なのかも判りません 。中世のイタリア・フランスが舞台になると知識不足で、史実と作者の創作の区別は全く判りません。ただ、結構この時代の小説は多く 見かけます。作家にとって、複雑な人間関係・家族関係・国関係が絡むので創作意欲が起きる時代なのでしょう。
2010年6月30日
短歌殺人事件<>
短歌が登場するアンソロジーです。ミステリ特に短編ミステリと短歌の相性が良いのか、かなりレベルの高い作品群です。ミステリ の境かすぐ外に位置する作品も選ばれていますので、内容的に多彩なアンソロジーとも言えます。短歌の登場の仕方も多彩ですし、 引用も創作もあります。そこが判らないとこも醍醐味とも言えます。各ページに短歌が端に掲載されています。知らない作者名が多い ですが、少し短歌が身近になった気もします。
2010年6月30日
堂場警部補の挑戦<蒼井上鷹>
ジョイス・ポーターのドーヴァー警部シリーズは有名ですが、そのパロディ風であり、またそれとは異なるトリッキーな作品4作の 作品集です。連作なのかどうかは、微妙です。短編集の1作ごとに工夫がされた、本格ミステリの味と遊びが混ざった奇妙で驚きの作品 集です。ミステリのひとつのジャンルである奇想を本格というスタイルと混ぜた、凝った作品といえるでしょう。
2010年6月30日
不安定な時間<ミシェル・ジェリ>
SFがサイエンスフィクションならば、時間は扱い難いテーマになります。ただそこから少しだけ離れて扱うと、時間というテーマは 非常に大きく再現のないテーマになります。科学的な可能性の厳密なアプローチを外すという意味ですが・・・。時間溶解というのが 本作のテーマです。時間移動の溶解時には、非常に不安定になる事はイメージできる展開です。ではその不安定が重なってゆけば・・ という本書の内容は、もはや予想も理解も容易ではありません。
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2010/06に読んだ本の感想を随時書いてゆきます。
本格推理小説が中心ですが、広いジャンルを対象とします。
当然、ネタばれは無しです。