推理小説読書日記(2010/04)
2010年4月01日
怪談・無情坂の女<斎藤澪>
題名や帯文とは異なる本格の味が強いミステリです。怪談やサスペンスは無理に付け加えた感じが有ります。そういう注文だった のでしょうか。連続殺人を追う捜査陣と、警察から距離をおく男の二つの視点から事件が追われます。最後に繋がる時についに全貌が。 幽霊騒ぎは無理につけたのか、自然ななりゆきか?いずれにしても本質の流れからは外れて行きます。内容を反映しない題名は、意外 性があるのか、内容を伝えずに不利かを考えたくなります。堅実な本格捜査の内容は、奇をてらう必要はなく誤解を避けるべきでしょう。 あまり知られていない本格ミステリです。
2010年4月01日
東京ダモイ<鏑木蓮>
第52回江戸川乱歩賞受賞作です。乱歩賞が本格から離れたと感じている最近ですが、本作は本格それもトリックたよりでもなく 叙述ものでもメタものでもなく、オーソドックスな構成でじっくり書きこまれた本格ミステリです。戦後のシベリア抑留時の事件と その関係者が自費出版しようとする本の内容と、初めて来日する事件関係者が重なる時に現代の事件も発生します。警察と自費出版社 の編集者はふたつの繋がりと謎を追いかけます。
2010年4月01日
夢はトリノをかけめぐる<東野圭吾>
小説ではなくエッセイです。飼い猫を仮定の主人公にして、作家がトリノオリンピックを見に行った時の事を書きつづります。 マイナーな冬のスポーツを愛する作者の思いが強い準備期間から、実際に訪れたトリノでのやや悲惨とも言える冬の大会の観戦記と と続きます。実はトリノと言っても競技の多くは200キロ離れた会場で行われました。そして屋外の雪のなかでの観戦です。持って いるチケットでの観戦ですから変更もできません。文庫版では、末尾にSF風の短編が付いています。
2010年4月07日
乱歩・正史・風太郎<高木彬光>
高木彬光が3人の作家について書いたエッセイ等を集めた本です。作家デビュー時の恩人の江戸川乱歩、編集者としてと戦後本格 ミステリの先駆者としての横溝正史、戦後に作家になった盟友としての山田風太郎の3名です。過去のエッセイの集成ですので量的 には差があり、山田風太郎が圧倒的に多いです。あまり知られていないものも多く、当時の状況を知る事が出来る内容と言えます。
2010年4月07日
殺す者と殺される者<マクロイ>
マクロイも徐々に作品が日本でも紹介されて来ましたが、初期に紹介された2作が入手困難状態でした。「幽霊の2/3」と共に 復刊されたものが本作です。マクロイは次第に、多様な作風の作品を書いていると知られてきました。本作も現在の紹介作から見ると やや変わった作品と思います。
2010年4月07日
伊豆高原殺人事件<大谷羊太郎>
短編集です。本格風とサスペンス風の混ざった作品集です。個々の作品も同様です。短編の長さでも本格のみでは長い内容に サスペンスを加えた感じがします。不思議な感じがします。もっと短い作品のアイデアを他の要素で長い眼の短編にしたといえる でしょう。オーソドックスとはちょっとだけ違うミステリです。
2010年4月13日
ペルソナ探偵<黒田研二>
パソコン通信の文芸サークルでは、ハンドルネームでチャットを行うと共に小説を書いて定期的に刊行します。主催者以外は 個人情報は不明状態です。そこでのやりとりと個人の小説が紹介されて行きます。そんな中で生じた現実の事件、ついに匿名のメンバー が招集されます。だれがどのハンドルネームで犯人かを意見を出し合いますが、覆面をかぶったメンバーが次第に明かされて行きます。
2010年4月13日
遠野・八幡平 殺意の鉱脈<金久保茂樹>
いくつか前の作品で旅行社の添乗員だった、美代川麗子がいつのまにか、危機管理室に異動して探偵役になっておりやや驚きました。 以前の探偵役はどこへ言ったやら・・・。危機管理室と言っても、まだ現場にあまりにも多く出掛け過ぎます。ストーリー展開に疑問が 残ります。トリック的にはトラベルミステリーらしさが」あり、もういと工夫を期待したいです。
2010年4月13日
武家屋敷の殺人<小島正樹>
帯文通りの、詰め込み過ぎのミステリです。内容が濃いとも言えますが、焦点が散乱しているとも言えます。過ぎたるは及ばざる がごとしで、内容を整理してストーリーを短くして、トリックと論理を読者が競えるようにするべきでしょう。よほど暇でなければ メモを取って読者が整理する事はないでしょう。今一度、読者と作者が競えるミステリとはどの程度整理されているのかを考え直して 欲しいと感じます。
2010年4月19日
瀬下耽探偵小説選<瀬下耽>
戦前から戦後にかけて短編のみ発表した作家です。幻想風と言われていますが、はじめての作品集でかつ全集となったこの本では 意外と広い作風があった事が判ります。アンソロジー採用の「柘榴病」のイメージが強かったのでしょう。時代を考えると文章は読み やすく、短くまとまっています。そして、かなり本格味の強い作品も複数存在します。作者の死後にはじめて編まれた作品集で、その 全貌が知られる事となりました。なお、作者の紹介は鮎川哲也のアンソロジーに詳しいです。
2010年4月19日
殺しの時間<若島正>
雑誌連載当時は、日本未訳の海外作品を原語で読んで語るというエッセイをまとめたものです。現在で見ると、その後にかなりの 作者と本が訳された事が判ります。その一部はこの著者自身の仕事ですが、この連載が影響したものもあるのではないかと推察します。 掲載雑誌からミステリ関係が多いですが、必ずしも狭く捉えずに広く対象を選んでいます。もともと、未紹介の作家や本ですから内容 を選ぶ事がエッセイ的でないからです。
2010年4月19日
くノ一忍法帖<山田風太郎>
高木彬光著「乱歩・正史・風太郎」を読むと、多くが山田風太郎とその作品に割かれています。そして、未読本が多くあるので 読んでみたくなりました。大阪夏の陣で豊臣秀頼の死後、その子を宿した千姫の付き添いの忍者たち(くノ一)と子を殺そうとする 徳川方の忍者の争いが影で生じます。その中に坂崎出羽守が加わり複雑になります。後は、作者のいつもの調子の進行となります。 忍法帖は時々読みたくなる本でしょう。
2010年4月25日
少女七竈と七人の可愛そうな大人<桜庭一樹>
旭川の25才の女は自分を平凡と思っていたが、突然に辻斬りのように男遊びをしたくなった。そして誰かの子供が生まれた。川村 七竈である。そして、七竈が17才から物語ははじまる。そして非常に美しく生まれたが、鉄道以外には興味がない。周りに男が集まるが 友達はやはり鉄道好きの雪風だけだった。その少年もやはり美しかった。二人は幼なじみだが、周りは鉄道マニア友達と思わない。周囲が ふたりを騒ぎに巻き込んでゆきます。
2010年4月25日
盲目のピアニスト<内田康夫>
やたら連作短編集が増えたが、これは純粋の連絡のない作品を集めた作品集です。著者の第2短編集であり、純粋の短編集としては はじめてのものです。あまり短編は書かないという作者で、かつこの後に複数のキャラクターで多数の長編を書くことになるので 逆に珍しい作品集とも言えます。内容は多彩であり、とても短編は書かないとはもったいないとも思えるが、題材があれば長編にできる 作者にとってはやはり、避けた舞台でありそれも成功だったと言っても良いのだと思います。
2010年4月25日
西麻布 紅の殺人<大谷羊太郎>
八木沢警部シリーズというよりも、20年前と現在を結び密室・死体移動のトリックを横糸に、別れた人物の再会?を縦糸にした 贅沢な詰め込み構成の作品です。ロマンと時代経過は、サスペンスをうみ結果として捜査陣は、やや影が薄くなるのは仕方ない所です。 探偵役・捜査陣よりも、トリック・サスペンス等のストーリーを優先させた作品といえるでしょう。そしてそれでいて、コンパクトな 長さの長編という贅沢なのか、強引なのかは読者次第とも言えます。
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2010/04に読んだ本の感想を随時書いてゆきます。
本格推理小説が中心ですが、広いジャンルを対象とします。
当然、ネタばれは無しです。