推理小説読書日記(2010/02)
2010年2月06日
四国・坊ちゃん列車殺人号<辻真先>
鉄道ライターの瓜生慎が出会う事件は、やはり鉄道マニアが登場します。昔、学園祭で「坊ちゃん」を演じた同窓生たちの集まり そこに含まれる複数の鉄道マニアの存在が、謎を作ります。舞台は、東京と松山です。映画「坊ちゃん」製作の為の「坊ちゃん列車」 のセット・復活した松山の「坊ちゃん列車」・そして・・・。お互いを学園祭の役柄で呼び合う同窓たちの間で事件が起きます。 背景も仕掛けも充分です、そして全てがパズルにはまります。
2010年2月06日
七人の迷える騎士<関田涙>
典型的な学園ミステリです。探偵役は、通称「ヴィッキー」高校2年の美少女です。その弟が語り手のワトソン役です。演劇部を 舞台に連続して事件が起きます。ちょっとやりすぎでしょうが、現実の世界と思わない方が良いのでしょう。その為か文章が異様です とても読めない漢字がルビ付きで多様されています。かなり読みつらいです、賛成できないですね。ストーリーは、ミステリの定番 が次々と登場します。最後は挑戦状らしき長い文も・・・。
2010年2月06日
ゴルディオンの結び目<後藤均>
歴史ミステリと絵画ミステリが合体した・いやスパイミステリとトリックミステリも加わっています。舞台は地中海で、時代も過去 に遡ります。連続殺人で登場人物が、公式の?仮面をかぶっています。二重のものも存在します。登場する日本人は主人公のみです。 海外が舞台だと複雑な人間の登場が現実味があります。それが、ストーリーにかかせません。かなり欲張った内容の大作と言えるでしょう。 時間をかけてゆっくり読まないと焦点が違う所にずれる作品です。
2010年2月12日
災厄の紳士<ディヴァイン>
本格ミステリといわれながら、一風変わった作風の作者です。表向きは、犯罪小説・コンゲーム的な小説の進行ですが、何故・誰 の部分が欠けています。詐欺師の狙いは成功するのか・・に関しては目的ははっきりしていますが、何故そのターゲットを・・と、 協力者?主犯?の存在があるような展開ですが、これに関してはその目的も誰かも不明のままで進行して行きます。後者の部分が本格 言われる訳ですが、共犯と言っても片方が分かっているのですから実際は単独犯捜しと同じです。
2010年2月12日
少女探偵は帝都を駆ける<芦辺拓>
作者のデビュー第2?3作に登場した「平田鶴子」が再登場です。当然時代も遡ります。トリック小説短編集といえますが、昭和 初期という設定ではじめて成立するミステリと言えます。警察捜査・科学捜査の中では、難しい話です。そして、どう見てもご都合 主義にみえることもありますが、昔はそんな事も人物もいたかもしれないという逃げとも、工夫ともいえるものがあります。時代に 合ったトリックとも言えますし、やや苦しい設定とも言えるでしょう。
2010年2月12日
イシャーの武器店<ヴァン・ヴォークト>
時間移動をテーマの設定SFです。イシャーの武器店というキーワードが全体を流れます。パラレルワールドのSFと言っていい筈ですが 現代からタイムトラベルで紛れ込んだ人物を加える事で、時間SFに生まれ変わっています。対立する組織が争う世界、そこに紛れ込んだ タイムトラベラーは時間エネルギーを持っており、それが両者にとっても問題となります。二つの物語を掛け合わせた構成でSFの定番を 自由に使える設定という荒技で書いた作品です。死とはなれた存在のタイムトラベラーは、度々登場しても不思議はない設定なのです。
2010年2月18日
嗤う身代り地蔵<斎藤澪>
作者後半期の作品で、本格風・サスペンス風・ホラー風・サイコ風・・・色々な要素を取り込んでいて作者のねらいを隠しています。 読者は謎を探す所から悩まされます。そもそも、謎は設定されていないのではないか?。登場人物の複雑な思考が、他人には判らない為 主人公には謎というより恐怖・サスペンスが満ちています。果たして主人公の恐怖は、本物なのか心理的なものなのか・・。悪意はどこ から出ているのでしょうか。
2010年2月18日
シートン(探偵)動物記<柳広司>
探偵役は、動物記でおなじみの「シートン」、そして記述者の私は単なるライターだったが、たまたまシートンから聞いた話を ミステリ風の小説風に書いたら、読者から続編の要望が殺到して困ります。しかたがないので、シートンに思い出話をして貰いそれを もとに小説にします。探偵役をシートンにした、ホームズのスタイルの連作ミステリです。個々の話は、本家の動物記に登場する動物 達の話が主体となっています。
2010年2月18日
水曜日のクルト<大井三重子>
ミステリ作家・仁木悦子の別名義の童話集の何回目かの復刊です。童話には子供に不思議に思わせる仕組みがありますが、ミステリ ではありません。復刊時には、挿絵が変更になっています、その他の収録作品には変更はありません。本作者には、多くの童話といくつかの 少年少女向けミステリがありますが、現在では少数しか読む事は難しいです。気長に、読める日をまちましょう。
2010年2月24日
宿命は待つことができる<天城一>
同人誌発表の著者長編のうちの1作と、島崎警部シリーズの春をテーマにした短編集です。天城一作品集の3冊目になります。作者が 長期に渡って度々書き直したというこの作品は、メイントリックの周りに奇妙な人物を配する事で、実に不思議な展開というか、雰囲気の 作品になっています。作者のイメージと異なると見るか、諧謔的な作風のひとつと見るかは個人差がでると思います。短編は、必要最短 のイメージはあるものの、作者の遊び心が微妙に現れています。
2010年2月24日
二壜の調味料<ダンセイニ>
短編集・掌編集ですが、表題作のみが有名です。私もその作品が、シリーズの1作とは知りませんでした。奇妙な味の終わり方は 文字通り推理の終わりであり、犯人逮捕ではなかった事を確認しました。しかし、かなりいい加減な探偵・警察・作者に感じます。 探偵役が登場しても、本格謎解きを書く積もりはなかったと理解するべきでしょう。以下の短編も全体に短く、コント風の味が目立ち ます。内容よりも枚数の長大化が目立つ今日では、逆に不思議な作品達です。
2010年2月24日
ペット・ショップ・R<香山滋>
短編中心の非本格作家の香山の少ない長編です。ただし、ジャンルは多岐に渡りますが、本作は一風変わった味の幻想的な作品です。 現代ならば、官能作品とか奇想作品とかあるいは心理サスペンスと呼ぶかも知れません。作者のストーリー展開は、特定のジャンルの 制限を超えて自由にあちこちに乱れ跳びます。香山風の、一風変わった恋愛小説の積もりかも知れません。舞台のペット・ショップ は、小説の流れのイメージなのでしょうか。
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2010/02に読んだ本の感想を随時書いてゆきます。
本格推理小説が中心ですが、広いジャンルを対象とします。
当然、ネタばれは無しです。