推理小説読書日記(2009/12)
2009年12月02日
戯曲アルセーヌ・ルパン<ルブラン>
怪盗アルセーヌ・ルパンが登場する日本初紹介を含む戯曲3作と、ルパン・シリーズの出版目録です。本の約1/4が出版目録と 解説になっています。ルパンと言えば変装や他人との入れ替わりが多いですが、戯曲になるとそこは判り難いというか誰の台詞かを 書く必要があるので、戯曲の性格上で小説とは異なりアンフェアとならざるを得ません。芝居・映像化・戯曲のファンは私も含めて ある程度は存在するとは思いますが、オリジナル戯曲は小説とは異なり映像の元になるものという性質から小説のような立場のフェア さは求められません。目録はルパンの研究者向けと言えるでしょう。
2009年12月02日
別冊シャレード・宮原龍雄集<宮原龍雄>
同人誌です。正式出版とは異なり著作権の問題は微妙ですが、今は死去された作者の生前出版ですので、著者の了解はあったと 思います。もう一方の雑誌出版社の版権移行は無理でしょう。商業出版では難しいでしょう。ほとんどのページが雑誌の切り抜きで 構成されています。読みやすいとは言えませんが、まだ個人作品集のない作者の作品を個別雑誌を探して読むよりは楽でしょう。 アンソロジー等で、本作者の作品の質・量から何故作品集が出なかったのか不思議でした。その理由が判りました、アンソロジーに 未収録の作品の多くに、主として海外の有名作品のネタばらしがふんだんにされています。作者は情報のサービス的な感覚だった様に 思いますが現在ではそのままの復刊は難しいでしょう。
2009年12月02日
犬吠里美の冒険<島田荘司>
長編「龍臥亭事件」「龍臥亭幻想」、短編「里見上京」で登場したキャラクターの犬吠里美が主人公の作品です。多くのキャラクター が活躍する島田作品ですが、このサブの人物の主人公化は意外でした。作者自身も同様のあとがきがあります。上京して大学に入り 司法試験に合格して司法研修が始まった先は、希望と異なる岡山裁判所でした。そこでの最初の研修は弁護士修習です。その先で最初に 出会ったのが刑事事件の国選弁護士でした。被告人自身が刑務所暮らしを希望しているという状況で、少ない情報から頼りない修習弁護士 として何が出来るのでしょうか。
2009年12月08日
日影丈吉全集7:未収録短編2<日影丈吉>
短編集にまとめられているのが幻想的な内容の短編ですが、逆に未収録はそれとは異なり本格ミステリの風味が濃い作品が多いです。 発表順に並んでいるので初期から中期の作品ですが、短くまとめるテクニックとやや略した結末が目立ちます。中期になると次第に ページ数も増加傾向がありやや趣が変わりつつある様にも思えます。しかし、読者が勝手に作り上げている・・・あるいは編集者や 評論家が勝手に押しつけている幻想味が特徴のイメージは過小評価でしょう。引出の多い・あるいは注文に応える内容を作る作家と の評価が正当でしょう。
2009年12月08日
午前零時のサンドリヨン<相沢紗呼>
2009年鮎川哲也賞受賞作です。学園物・日常の謎と言えば、一時期の新本格の一つの分野でした。本作もその系です。主人公 が過去から自分を変えようとする過程での姿から始まり、次第に全体が明らかになって行くスタイルは現在のはやりと言えます。 ただ特徴は作者自身が、マジックを行い、主人公をマジックを行う少女に設定した事でしょう。本作の応募頃には泡坂妻夫は存命で した。その死後に、曾我牙城の少女版ともいえる主人公の作品が登場した事に、何か不思議な巡りあわせを感じます。自分の弱さを マジックを魔法に見立てて克服しようとする主人公の本当の姿に筆記者が気づく過程は、日常の謎派の非謎部としては読者を離さない でしょう。
2009年12月08日
フリッカー式<佐藤友哉>
2001年メフィスト賞受賞作です。古い本格系の私の様な読者には、かなり読むのが厳しい内容です。作品を評価する以前に 理解する事が苦痛になります。たぶん、その世界に入りこめたらば楽しめるように感じますが、私が作れるイメージの世界とのギャップ は想像以外に大きいです。謎はある、しかし正面から読者と競争する事をせずに、もっと複雑化させてあるいはその様に感じさせて 謎の解明自体を、序盤そうそうに放棄させる事に成功しています。戦わずして勝利する、それもミステリの手法でしょう。ただ、読後も 特に感想もましてや、やられてとも感じないです。
2009年12月14日
探偵小説の風景<>
ミステリー文学資料館編のシリーズ・アンソロジーです。主に戦前のトラベルミステリーを集めています。2009年現在は、 トラベルミステリーという分類も登場していますが当時はありません。しかし、分類は無くても作品はあります。鉄道に関しては 鮎川哲也がアンソロジーを多く編んでいます。本編は鉄道を含む広い交通機関が舞台や道具として登場する作品群です。時代的に 短い作品が殆どで、本格味は少なく現在のトラベルミステリーとはかなり異なります。編者のいうように原石なのでしょう。
2009年12月14日
記憶の果て<浦賀和宏>
大長編です。たぶん新しい事を求める模索でしょうが、読者にはかなり辛い作品になってしまっています。最後まで読むには努力 が必要です。一番迷うのは、作風が判らないからどこに導かれるのか不明であり、作者を信じる事が出来ない事でしょう。ミステリ という特殊なジャンルでなければ中断する可能性が高いです。少なくても作者に、読者を引っ張ろうとする気持ちは少なかったように 思えます。作中に複数回登場する名探偵論議?は主人公の思い込みから生まれる形態になっており、本作でなにかを示しているようには 読めない所が作者の計算違いかも知れません。
2009年12月14日
ファイロ・ヴァンスの犯罪事件簿<ヴァン・ダイン>
世界初のキャッチコピーですが、本格ミステリではなく犯罪実話です。このことは帯にも書いてありますが、表題の名探偵名との ギャップはかなりあります。確かに、それらしく名前は時々出て来ますが、本質的に関係ないし犯罪実話を誰が語り手で進めても内容 が本格にかわる事はありません。しからば、本集は資料的な面が重視でテキスト的に読む事が意味がどのていどあるかは、個人でかなり 差が生じます。
2009年12月20日
イゾルデの庭<伊神貴世>
中高生向きに書かれた作品ですので、幻想的な面が強いです。イゾルデとトリスタンの話はあまり知名度は高くないですが、名前 くらいは知っている人は多いでしょう。モチーフであると共に、ストーリーも類似性をもたしているので、あまり詳しくない方が 読者としては向いています。幻想的と言っても、内容的には対象の読者より高い年代の人むけと感じます。モチーフの話の内容が そうであるように。探偵役の特殊な設定も、最近はよく見かけるようになりました。
2009年12月20日
風の日にララバイ<樋口有介>
何の取り柄もないような中年が主人公です。別れた女が宝石店の社長で殺されるところから始まります。娘にあきられる様な生活 をしていたが、後輩の刑事が担当で訪れた頃から調べ始めます。広義のハードボイルドスタイルです。調べる先で、相続者である娘の 後見人として巻き込まれてゆくかあるいは、誰かが近づいてきます。元女房が利害関係が発生する立場であって、自身はたんなる後見 人ですが、娘が成長するまで待てない周囲ばかりです。中には損得関係ない女性とも繋がり、一緒に調べ始めます。そして、とうとう 辿りつきます。
2009年12月20日
越後七浦殺人海岸<大谷羊太郎>
ある人物は高校生時代の思い出はいつまでも残っています。それが新たに生じた事件の目撃を歪める結果になっても・・。そして 別の事件が発生します。名刑事が登場します。捜査は難航しますが、ある人物が二つの事件の関係に気づいた時に大きく変わってきます。 そして警察が捜査過程で、ある人物の存在に気がつきます。そしてこの作者得意の不可能状況が事件にあらわれます。本格ミステリの 常道に従った地道でかつ飛躍のある論理で捜査が進みます。
2009年12月26日
ダイイング・アイ<東野圭吾>
記憶喪失のテーマは現在の流行です。本作もそれが中心ですが、なかなか行き先がみえない展開です。ダイイング・メッセージは ミステリの定番ですがこちらは、ダイイング・アイです。似た事を読んだ経験はありますが、展開が異なると微妙なテーマになります。 見つめる眼は、女性かマネキンか、殺した相手か目撃者か殺そうとした相手か?。記憶喪失だけでは説明のできない事が重なって謎と なっています。最終の解決?は正しいのかどうか自体が謎として残ります。
2009年12月26日
闇の中の猫<麻生荘太郎>
新人のデビュー作です。「猟犬クラブ」というパソコン内の集まりという匿名と現実の世界が交叉して展開します。しかも登場人物 がミステリ愛好家という設定です。「猟犬クラブ」への書き込みと実際に発生する事件の類似性が、まともとも遊びともとれるクラブ 内の書き込みやチャットになります。実際の殺人事件と、古典ミステリ論議とが同じ場所で話されるという違和感が漂います。そして 精神異常?嘘つき?と言う言葉が、走り出すともう混乱は止まりません。作者自身が整理がついているのか疑問にさえなります。本格 ミステリ風に書かれていますが、はたして矛盾なく解けているのかさえ簡単に確認出来ません。
2009年12月26日
虎の首<アルテ>
トリックの独創性は疑問があるが、不可能犯罪を真っ直ぐに書いている作者です。本作も連続殺人であり、バラバラ殺人・密室殺人 と舞台は整います。しかし、本作では前奏があります。とある村でその前に既に複数の奇妙な出来事が起こっていました。ツイスト博士 はこの二つの事件を結び附けることで、事件の解明を行います。魔術まで登場させる必要性はどうかとも思いますが、論理性とか派手な 解決でなくても、始めに事件あり謎は沢山はミステリには必要と思わせます。
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2009/12に読んだ本の感想を随時書いてゆきます。
本格推理小説が中心ですが、広いジャンルを対象とします。
当然、ネタばれは無しです。