推理小説読書日記(2009/11)
2009年11月02日
ガニメデの優しい巨人<ホーガン>
人類発生の謎を追うシリーズ第2作目です。月と木星の惑星ガニメデで発見された古代人の痕跡。それは優れた技術力を持っていました。 ガニメディアンと人類が呼んでいた人が帰って来ました。その人類との出会いとそこから推察できる太陽系の歴史がテーマです。ガニメディアン は捜索隊を出したあとで全員で移住した可能性が高いと分かりますが・・。現れたガニメディアンは捜索隊が帰ってきたのです。そして 再び・・・。
2009年11月02日
風の墓碑銘(上)<乃南アサ>
刑事・音道貴子シリーズの長編は文庫化で2分冊になりました。所轄で白骨死体の調査をする貴子と玉城刑事は、発見場所の保有者 老人の殺害事件に遭遇します。捜査本部が設置され多くの捜査官が集まります。そこに混ざっていたのが昔コンビを組んでいた滝沢 刑事です。今回の捜査でも偶然にコンビを組む事になります。捜査は難航します。老人関係を担当した貴子たちは、老人ホーム関係 で気になる人物をリストアップしてゆきますが、事件の全貌は全く見えてきません。
2009年11月02日
平泉義経伝説殺人事件<矢島誠>
警視庁共助捜査課の瀬戸際渡警部は、行政の枠から自由に捜査を行える組織として設けられた部署の警部です。東京で殺された女性 の交際相手と会うために岩手平泉を訪問して捜査開始します。静御前が平泉に来たという古文書が見つかったという人物に出会ったり するうちに、密室事件に遭遇します。アリバイと密室の謎から現れた動機とは・・。本格味を持たせたトラベルミステリ風味の作品で す。
2009年11月08日
砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない<桜庭一樹>
私中学生の山田なぎさは、著名人を父に持つ奇妙な転校生・海野藻屑と出会います。育ったそして現在も異なる環境にいる二人は なかなかお互いを知る事はできないでいる。まだ中学生ながら実はどちらも、生きる為の大きな悩みをかかえているがそれを隠して おり、逆に表面の行動は理解できない。そんな二人がやがて、お互いを知りあう事が出来た頃には、とうとう悲劇的な結果が待って います。
2009年11月08日
風の墓碑銘(下)<乃南アサ>
刑事・音道貴子は私生活の悩みを持ちますが、事件の登場人物に投影する部分もあります。捜査本部の事件は、次々に手掛かりが 否定されて行きます。音道と滝沢が追っていた担当でもゆっくりしか進みませんが次第に、昔の事件との関係がある事が分かって来ます。 過去の事件を調べに出張した玉城はキーになる人物名を見つけますが、捜査中の事件に登場しているか不明で最初から昔の事件を担当 していた音道に問い合わせが来ます。音道は同じ名前の人物がいる事を気づきますが、物証がありません。しかし・・・。
2009年11月08日
お眠り私の魂<朔立木>
ほとんどが通信文で書かれた小説です。書き手が伏せられており、それを隠すために筆者の個性を隠しているためにかなり不自然な 文章です。読む側は、かなり負担になります。ストーリーとしては、ミステリー的にはシンプルですが、小説的には複雑とも言えます。 筆者が何を書きたかったのかは、なかなか伝わり難いといえるでしょう。ドキュメンタリー風のストーリー部がどの程度の比重か分かり 難いのです。
2009年11月14日
「幻の女」殺人事件<大谷羊太郎>
最近は少数派になった律儀な本格ミステリです。お馴染みの連続殺人・巻き込まれるヒロイン・つなぎのアイテムと、揃っています。 捜査側の警察と、ヒロインとの2視点から進行しますが、ヒロインが主体のためサスペンス色も見つける人がいるかも知れません。 それがたぶん題名の由来でしょう。ヒロインと警察とが接する時に事件の全貌が次第に明らかになります。
2009年11月14日
手焼き煎餅の密室<谷原秋桜子>
本作以前の3長編での主人公と探偵役であった二人とその他のレギュラーの、過去の話が個々に短編になった作品集です。ただし、 そこでの探偵役は前述の3長編では既に死去している老人です。事件と同時に、なぜ長編での登場人物が集まって来たか、知り合ったか をそれぞれ短編の最後で知る事になります。いわば、ゼロ章的な時期を描いた作品集です。
2009年11月14日
復活!!虹北学園文芸部<はやみねかおる>
高校で文芸部に入る予定の主人公は、文芸部が存在しないことに驚きます。そして、期限内に5名の部員が揃わないと部を作れません。 そこから数々のごたごたの中で、部員集めが始まります。不思議な部員候補達と謎めいた人物捜しとが謎めいたストーリーとなります。 青春小説というか、学園物の乗りで書かれた奇妙な小説です。
2009年11月20日
少女たちの羅針盤<水生広海>
第1回福山ばらのまちミステリー文学賞優秀作です。青春小説の文体で4年前の出来事と、現在が重なって進みます。現在のミステリ で一番人気のある手法です。時を経た2つの話の登場人物が、完全に重なれば謎の解決になりますが、当事者の視点で描くと客観的な見方 が出来ずに読者に対しての謎が深くなります。本作では、視点の人物にとっての謎の追究が一つのミステリであり、読者にとっては4年前 の事件の真実の追究がこれに加わります。本格ミステリの姿と、読者に対しての謎とが重なった構成です。そのバランスが読者にどのように 伝わるかが個人差があるでしょう。
2009年11月20日
幽霊の2/3<マクロイ>
長く絶版になっていた本の復刊リクエスト1位での、新訳での登場です。あまり出会わなかったこの著者のレギュラー探偵物です。 日本への紹介の比率のせいか、知らなかったです。人気作家のパーティでの毒殺事件はその著者自身の身元が不明という謎も絡んで複雑 な事になります。パーティの余興のゲーム「幽霊の2/3」がその謎のイメージと重なり、名探偵の登場となります。骨組み的には多くの 作例がありますが、謎のイメージと探偵の性格つけに特徴があります。
2009年11月20日
蜜の森の凍える女神<関田涙>
高校生「ヴィッキー」達のいる吹雪の山荘に、迷い込んで来た大学のサッカー同好会のメンバーとで話は進行します。閉ざされた山荘 で行う「探偵ゲーム」の最中に実際の殺人が発生します。ゲームでの殺人は同意で行われるために、意外な人物どうしの接近が実際の犯罪 に絡むとは言い切れません。少女探偵・学園物・閉ざされた山荘・小説中のゲーム・実際の犯罪という、現在多く登場するミステリの形 を全て盛り込んだ作品です。果たして内容は定番を越えたのでしょうか。
2009年11月26日
あばれ振袖<高木彬光>
伝奇時代小説です。主人公は、遠山の金さんの影武者として活躍する浪人の神尾左近で、「素浪人奉行シリーズ」の1作です。事件は 大名の跡継ぎ問題で、側室の男子ながら女として育てられた剣術と柔術の使い手を、跡継ぎとして捜す一派と殺そうとする一派と、利用 しようとする一派が絡みます。謎の人物が続々と登場するめまぐましい展開をみせます。時代小説は今でも多く書かれていますが、既に 犯罪小説風・捕物帖風の作品は昭和の早い時期にかなりの内容まで書きこまれています。
2009年11月26日
百万のマルコ<柳広司>
戦争捕虜収容所に来た新入りのマルコは、おかしな謎のある話をして囚人達を煙りに巻いています。どうみても、うそばかりの筈です が退屈な囚人にはたのしみでも有ります。東洋に旅をして長くフビライ・ハーンに使えていたというこのマルコの逆説的な真相の話を、 あつめた短編集です。主人公も謎というかうそつきというか、しかし謎とその真相を語る事が読者は、囚人と同様に楽しむ事ができます。 時代と背景世界がもたやす謎が主体ですので、一風変わった時代小説ともいえます。
2009年11月26日
顔のない男<斎藤澪>
サスペンス風のミステリでデビューし、次第にホラーや本格ミステリを書いた作者ですが、サスペンス小説はいつも書き続けました。 身体の一部のみの俳優が存在します。手のみ・足のみ等が代表ですが、殺害されたのは筋肉質の身体専門の俳優です。撮されるのは、顔の 見えない身体だけで、全体は別の俳優が演じます。文字通り、顔のない俳優です。それが顔だけ無事で、それ以外が無残に焼かれています。 俳優の時と全く逆の状態ですが、何か意味があるのでしょうか。そこには人間の心理が絡み、サイコの世界になります。
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2009/11に読んだ本の感想を随時書いてゆきます。
本格推理小説が中心ですが、広いジャンルを対象とします。
当然、ネタばれは無しです。