推理小説読書日記(2009/10)
2009年10月03日
1/60秒「謎解き」の死角<筑波耕一郎>
地味な本格推理か、ライトな本格推理かの間の位置にある作品です。いわゆる合わせ技ミステリです。題名に、分数の秒があると 慣れたミステリ読者は、カメラのシャッター速度をイメージします。本作のそれを含みますが、全体の主題ではありません。やや題名 の付け方に困ったといえるでしょう。登場するイベントは賑やかですが、ページ数的にどれかを掘り下げる所なでは行かなかったように 思います。
2009年10月03日
E.S.ガードナーへの手紙<カンデル>
著名作家の伝記を書こうとする作家が主人公です。選んだ作家が、E.S.ガードナーです。その資料を見て行くと、冤罪裁判にも 関わっていたガードナーが途中で関与しなくなった事件がありました。それに関する資料を見つけた主人公は、伝記の目玉を探して 調べ始めますが、次第に事件に巻き込まれてゆきます。読者としては予備知識不足のため、どこまでが事実でどこからが作者の創作 かが判らないので、今ひとつ話の展開に乗り切れない部分があります。この点が本国の読者や、E.S.ガードナーに詳しい読者とに 差が生じると思います。
2009年10月03日
捨て猫という名前の猫<樋口有介>
ベテランとも言える作者ですが、読書数が少なく詳しいイメージが出来ていません。ましてや、本作の主人公の柚木草平は過去の 作品を読んだ方が人物像や登場人物の関係がより理解しやすいと思えました。長さの割りには、事件は少ないですがその分、丁寧に 書きこまれています。柚木の過去の作品を読みたくなりましたが、それは作者の術にはまったようです。柚木の女性観は独自なのか 偏っているのか、どうでも良いようで微妙に謎と絡んでいます。
2009年10月09日
モップガール<加藤実秋>
主人公の長谷川桃子が就職した所は、清掃会社です。ただし通常の会社の仕事の他に、他がいやがる種類の仕事も請負ます。例えば 殺人・事故・自殺事件等で汚れた部屋等の清掃です。流石に社員の定着は悪いようですが・・。ただ、訳あり事件性ありの場所も混ざって います。一方では、主人公はそのような場所に関わると、自身に超常現象が起きます。理由が分からず悩みますが、事件が解決すると 直っています。二重に訳ありの設定を設けなくてもとも思いますが・・変則なサスペンスタッチで話が進みます。
2009年10月09日
悪人は三度死ぬ<大谷羊太郎>
探偵小説の1分野の不可能状況は読者はいつもいます。その謎の構成についての機械的トリックについては、必ずしも全ての読者 が納得している訳でないですが、偶然性が少なくシンプルな解明は廃れる事はありません。本作ではそのような謎が複数登場します。 それに絡むのが推理作家の主人公・浅井です。テレビ局の要請で可能性のひとつを提示しますが、勝手にひとり歩きします。本人が 可能性の一つとか犯人を特定していないと言っても周囲はそうは受け取りません。忘れた頃に関係者が死ぬ事件が起こり、また関係して しまいます。名前を売る程度の軽い気持ちからはじまり次第に追い込まれます。そして三度目・・・。
2009年10月09日
刈りたての干草の香り<ブラックバーン>
SFとも怪奇ともホラーともサスペンスとも冒険とも言える不思議な内容の作品です。現在の作家が苦し紛れに新ジャンルとして書き そうですが、1958の作品です。ナチスの秘密兵器の研究が終戦で隠されたという設定は多く見られますが、その展開かたで異様な作品 になるようです。ロシア近海の北海で、謎の死が進行して来ます。対策が多くの科学者等に求められますが、あまりに異様な死とせまり くるタイムリミットは絶望的に見えます。その死の臭いは、刈りたての干草の香りの様だとの証言がありますが、はたして結末は?。
2009年10月15日
めぐり合い<岸田るり子>
たぶん主人公であろう池田華美と、僕との章が交互に描かれます。その内容は妄想的なあるいは幻想的な内容に思えます。しかし 主人公は写真に写った少年を追い求めます。僕も・・・。併行した2つの話か、繋がった話かは明らかにされません。その展開は、 サスペンスとも幻想ともあるいは・・・色々に見えます。論理性を求めるのは疲れます。そして結末は、妄想が現実になるのかどうか。 それが大事な事かどうかは読者には不明です。
2009年10月15日
ぶぶ漬け伝説の謎<北森鴻>
主人公の有馬次郎の短編集2冊目です。訳のわからない作家志望の居候?が加わり、事件が増えます。住職の推理も冴えて、展開は 複雑化します。もはや色々な要素とスタイルが混ざって、読者は展開を予想する事が難しくなっています。京都という舞台の特有の謎 は知らなくても読めば分かるようになっていますが、情報として読み飛ばす事もありそうです。まだまだ読みたいシリーズですが、 登場人物が増えるとますます混迷させられるでしょう。
2009年10月15日
四年目の呪殺<斎藤澪>
主人公の元女刑事が、情緒・行動ともに不安定な事は読者には厄介です。どうしても振り回されます。たとえ、私立探偵として 働き始めても同じです。むしろ何故、周囲がそんな主人公を守るように行動するのか。そんな事は無視して主人公は暴走します。 殆どやけになって、過去の事件を追いかけます。それは、誰かにとっては避けたい事でもあるのでしょうが。本格的な展開も可能な 謎ですが、主人公の暴走で極めて不安定なサスペンス色が強くなっています。それにひっぱられないように読み必要があります。
2009年10月21日
学ばない探偵たちの学園<東川篤哉>
やや少なくなった学園物であり、探偵ゲーム物風の作品です。ユーモアミステリですが、パロディの味も漂います。怪しげな学園の 怪しげな探偵部とそのメンバーが学園に起きた事件を捜査します。謎の解決の上で、この小説スタイルは得なのか損なのかは微妙です。 読者には、論理性よりも偶然性が目立ちかねないことになります。それにユーモアを除くと独創性の有無が微妙になる所もあります。
2009年10月21日
日影丈吉全集7・未収録短編1<日影丈吉>
全集7は、「夢の播種」「泥汽車」「鳩」の後期3短編集と、単行本未収録短編集です。単行本未収録短編は多いので全集8にも 持ち越しとなります。本集に収録分も通常の単行本2−3冊分はあります。2回に分けて読みます。年台順に掲載されているので 初期の短編になります。厳密には、全集では初登場ですが長編と単行本になった作品もあります。色々な傾向の作品が混ざっていますが 時代的に短い作品が多い事と、本格風の作品が多い事が特徴でしょう。作者は後年に、変格派の代表のように言われていますが、一部の 作品からの印象です。
2009年10月21日
函館水上警察<高城高>
昭和30年台に日本のハードボイルドの3羽烏とも言われて活躍しましたが、唯ひとり専業にならず次第に作品が途絶えていました。 私にとっても昭和50年台にほとんどの作品を読みつくしたと思っていた作者です。それが、マイナー誌掲載の作品と共に作品集が刊行 されるという望外の事が起きました。そして遂に、新作が登場です。懐かしい文体とクールなまとめかたは変わっていませんが、舞台は 開港当時の函館で水上警察の警部が主人公というやや異色な設定です。しかし主人公の警部の経歴や行動は、ハードボイルドを感じさせる ものです。森鴎外の函館視察の中編を含む短編集は、私にとって20年ぶりに届いた特別な贈り物です。
2009年10月27日
饗宴 ソクラテス最後の事件<柳広司>
ソクラテスが探偵役で友人のクリトンが記述者というミステリです。時代と事件の性質が、この登場人物の時代と場所を必要として いたと言えます。著者の発想が逆かもしれませんが、読む方は気にしないで楽しめます。ミステリの謎は常識をベースにして、そこからの ギャップで隠したりサプライズを起こしたり出来ます。読者の常識を歪める仕組みの一つが、本書のような時代と場所を現代から離す ことです。なかなか当時のギリシャを正確にイメージするのは困難です。作者はそこに、歴史上の事件を重ね合わせて読者をより揺さぶり ます。
2009年10月27日
その死者の名は<フェラーズ>
ようやく日本への紹介が増えはじめた作者ですが、本書がデビュー作との事です。同時にトビーとジョージのコンビの登場です。 5作のみのシリーズですが、その中で二人の役割が変化してゆく事が分かります。作者がこのコンビと別れた原因が、何か関係している のでしょうか。デビュー作だからか、冒頭から事件が発生します。ただその後は長いそしてゆっくりした進行に変わります。展開はこの 作者にはいつもの世界です。死者の事がよくわからないという展開は、サスペンスになりやすいですがユーモアな進行と登場人物の性格 で本格ミステリとなっています。
2009年10月27日
外地探偵小説集・上海篇<>
藤田知浩編のアンソロジーの2冊目です。アジア系を舞台にした作品を集めていますので、作品的には日本の進駐時代のものが多いです 戦前・戦中を舞台にした作品群は、書かれた時代も同じころで古い作者名が多いです。同時に戦時の話や、スパイ的な内容が多いです。 メジャー作者は後半の3名ですが、ページ数的には半分以上になります。古い作品は、短い時代だった事が分かります。珍しい作品を 集めるのは大変らしくか?続編はまだのようです。
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2009/10に読んだ本の感想を随時書いてゆきます。
本格推理小説が中心ですが、広いジャンルを対象とします。
当然、ネタばれは無しです。