推理小説読書日記(2009/08)
2009年08月01日
流星の絆<東野圭吾>
出版されてすぐにドラマ化された作品です。だんだん、速くなります。謎にのみ重点を置いていませんが本格推理小説です。 倒叙形式ではなく、犯人を捜す側からの視点で描かれています。偶然と必然との間の組み合わせが微妙で、読者ごとに感想が異なる でしょう。間をコンゲーム風につないだのは作者の力量で、手掛かりを味覚という個人差のあるもので構成されると、なかなか判断が 難しくなります。
2009年08月01日
闇に葬れ<ブラックバーン>
個人的には始めて読む作者で、妙な内容と重なり意味不明の作品となりました。SFか幻想かホラーか、それともいわゆるバカミスか?。 どうも読者が解くことができる謎が存在するように思えません。ストーリーを追うには、予想困難な作風で、読書というよりゲーム 感覚に近いでしょう。1作では何も分からない作者ですが、次作を読む事はやや抵抗があります。
2009年08月01日
はじまりの島<柳広司>
色々な時代とそこでの登場人物を背景に、描く本格推理小説です。時代等の設定が、独自の謎と解明に繋がるので趣向というよりは 推理小説の中身そのものと言うべきでしょう。大きく分ければ、最近多い一部SF的・架空設定の作品と似ています。ただ、背景を選ぶ 事で謎を自然に組み込む事に成功しています。本作は、ダーウィンがガラパゴス諸島で出会った殺人事件を扱います。その時代と舞台 でのみ成立する謎でしょう。
2009年08月07日
GOSICKs2<桜庭一樹>
シリーズ長編の4と5作の間の夏休みに、九条とヴィクトリカで出会う色々な事件を描いた短編集です。視点や構成を変えて バラエティに富んだ構成にしています。長編の内容を補佐するとともに、短編ゆえにヴィクトリカの聞いただけですぐに分かる推理 が不自然なく描く事が出来ます。このコンビは、推理の性格上は短編向きなのでしょう。
2009年08月07日
天使の牙<大沢在昌>
華奢で可憐な女性が、実は強い運動神経と精神力と知識を持つ戦士というのは、アニメや劇画のひとつのパターンです。それを ハードボイルドの世界で行うには、現実とは異なる何かの設定を行う事がおおいでしょう。たとえば「リボンの騎士」「バイオニック ジェミー」等です。そしてそばに、ナイト役の男性が存在します。本作はそういった設定です。ただそこにより一層のサスペンスを 持たせる工夫の設定です。体が生き残った女性と、脳が生き残った女性の移植手術。戦闘知識は豊富だが、体が自由についてこない。 そして外観と脳の違いが、周囲に徐々に分かり始めます。
2009年08月07日
裁くのは僕たちだ<水原秀策>
裁判員制度がはじまりました。それに合わせて多くの作品、本、映像が作られています。ただ、新しい設定を楽しむように事件や イベントを起こすので、本来の裁判と推理小説とが持つ相性がかならずしも良くなっていないと思われます。法廷物は、欧米では古く から書かれ続けています。それを受けて日本でも、同様に進行してきました。その中には、法律や裁判の活かしたすぐれた作品も多い です。制度が変わることを題材とすると、誰でも新しいテーマが思いつくようですが、それは本来の面白さとは異なると思います。
2009年08月13日
怪談・霊安室の声<斎藤澪>
カバーには「恐怖サスペンス・ミステリー」と書いてありますが、素直に題名通りに「怪談」として読むのがよいと思います。 怪談と呼ばれる作品が少なくなって、ホラーとか恐怖とかサスペンスとかの言葉が増えていますが、読書中に感じる事よりも読後に 残るイメージを重要視している作品が怪談という言葉があっていると思います。それは人によって異なるのですが、小説の感想は 無理に押しつけるものではないでしょう。病院の霊安室は長年積み重なってきた何かの感情が漂っている場所かも知れません。
2009年08月13日
修道女フィデルマの叡智<トレメイン>
長編が2作紹介された、修道女フィデルマ・シリーズの初の短編集です。アイルランドの時代小説でありながら、本格ミステリと いうこのシリーズは貴重です。5作収録の本作品集も長編とは異なる魅力があります。ただ、一部にミステリー的なネタが重なる作が ありやや選題にちょっと工夫が欲しかった面もあります。時間制限のミステリが多く、時間サスペンスも狙いかもしれません。ただ あくまでも、本格構成が見所です。
2009年08月13日
星を継ぐもの<ホーガン>
SFにはSFの謎があります。それは規模という面では、現実社会のミステリを越えます。読者の心配は、謎が幻想的にほうり出されないか という心配です。SF的な謎の解明に、合理性の有無は個人で異なるでしょう。それを踏まえても、本作は謎の解明という面ではミステリ しても面白い内容です。スケールの大きい世界では、謎も解明も本作の様に大きなスケールで行って欲しいと感じます。
2009年08月18日
雲仙・天草ロザリオの殺意<矢島誠>
元アイドルの特命記者が主人公のシリーズです。相方?は刑事です。設定に工夫を考えますが、日本各地を繰り返し旅行しながら 捜査するというトラベルミステリに多い不自然さは、本作ものがれていません。元アイドルが知名度を活かすという、大胆な設定は 無理に受け入れても全体の強引さは抜けません。従ってミステリ的な要素を期待する事になります。東京と長崎と20年前とを結ぶ 展開は手堅い内容ですが、背景の設定は必ずしも必要としない様です。
2009年08月18日
青い繭の中でみる夢<山之内正文>
保育士の狩場諒子とその息子の篤志が主人公です。諒子は職場で起きた事件を調べる内に多くの人間とその複雑な関係に遭遇します。 そして元刑事の倉淵の助けで深くからんで行きます。息子の篤志は、友達やその家庭の問題に絡んだ事件に関わって行きます。その 親子がある接点で交叉しながら、展開してゆきます。事件はかなり昔の事にも発展してゆきます。親子は、それぞれの事件を解決に 導くことが出来るでしょうか。そして、合間に見える母親や元刑事や人々の過去もしだいに判ってきます。多くの人物の繋がりを細かく 描いた作品です。
2009年08月18日
どくろ観音<高木彬光>
「千両文七」と子分の「合点勘八」が主人公の捕物帖シーリーズです。12編が収録されています。短い話ですので、論理の展開で はなく、ひらめきによる一発の解決が行われます。推理味は従って薄いですが、単なる人情話ではなく、典型的な捕物帖といえます。 日本伝統の捕物帖の1シリーズとして、代表的な構成でしょう。
2009年08月23日
神の家の災い<ポール・ドハティー>
修道士でかつ検死官補佐も行うアセルタンを主人公にするシーリーズの1冊です。修道士なので、信者から懺悔をされる立場ですが そうなると、検死官補佐として犯人を逮捕する事ができないので逃げ回ってしまいます。人々から信用されている修道士ですが、 検死官とともに捜査して事件を解決します。微妙な立場の主人公が中世を背景に活躍します。
2009年08月23日
「西伊豆」恋人岬の女<斎藤澪>
本作者のは題名に「岬の女」がつく作品が複数ありますが、個々に独立した作品内容です。本作は伊豆半島の西側にある、恋人岬・ 黄金崎・松崎・土肥等が主な舞台です。そして、現地に詳しい人にはわかりますが、伊豆半島は交通手段が複数あるが時間的な優位が 微妙で、これに新幹線への乗り継ぎを重ねるとミステリに向いているアリバイの舞台ともいえます。小説全体としては絡み合った人間 関係の解きほぐしから、事件の整理と進みます。
2009年08月23日
モーフィー時計の午前零時<>
若島正編のチェス小説アンソロジーです。従ってミステリー要素のある作品は、一部です。ただ、テーマの取り上げ方によっては かなりトリッキーな内容にもなります。チェスを知らない人には厳しい作品も含まれますが、多くは問題なく読めるでしょう。作品の 種類がバラバラでテーマのみが同じ作品は、展開が予想しにくいのでそれ自体が奥深い内容といえるでしょう。
2009年08月28日
イヌの記録<日影丈吉>
「日影丈吉全集5」収録。初刊以降全く、再刊されることのなかった作品集です。マニアの探求本でしたが、全集でようやく 読むことができました。安助亮と野呂弘だけの探偵社が舞台です。基本は本格推理ものですが、真っ向勝負というよりは、変化球を 多投しています。まいこむ事件も色々ならば、作品スタイルもいろいろと言うか、いろいろなもののパロディ的なユーモアで飾って います。シンプルなトリック作が中心ですが、上記のようにパロディ的に使用されています。
2009年08月28日
複合誘拐<大谷洋太郎>
この作者はイメージは、本格・密室・芸能界等でしょう。そして本作は誘拐ものですが、サスペンスでも警察ものでもなく、やはり 本格推理です。ただ、ストーリーが題名通りに複合で次々と変化してゆく為に、謎はそれに応じて意外に短く解明される感があります。 密室とは言えないまでも、広義の密室・不可能状況はやはり登場しますし、変わる展開ごとにそれぞれトリックが設定されています。
2009年08月28日
検死審問ふたたび<ワイルド>
「検死審問」=「検死裁判」はあまりのも有名ですが、その続編の存在も日本への紹介もあまりにも遅れすぎと言えるでしょう。 前作を読んで、登場人物や解明の進みかたに戸惑う人がふつうでしょう。そして、当然それで完結と思っていても不思議はありません。 ところが、そのおかしな人物が再登場して、またおかしな事を始めるのですから、読者は翻弄されるでしょう。これで本当に終わりですか と聞きたくなります。もしこの続編があったら、お手上げです。
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2009/08に読んだ本の感想を随時書いてゆきます。
本格推理小説が中心ですが、広いジャンルを対象とします。
当然、ネタばれは無しです。