推理小説読書日記(2009/07)
2009年07月01日
少年少女飛行倶楽部<加納朋子>
ミステリ作家が書いた非ミステリの青春小説です。元もと日常の謎派ともいわれ、全編がミステリで満ちている作風でないので 特に違和感もなく読めます。空を自身で飛ぶという目的で集まった??不思議な集団の部活の生活とその結末が描かれます。変人集団 の中で、どうもまともそうなのが主人公の様です。飛行の定義と目的が、ユニークに感じた人は楽しめるでしょう。
2009年07月01日
上海スクランブル<伴野朗>
昭和初期の戦前の上海を中心に描いた、冒険・スパイ小説です。色々な秘密組織が、存在していり乱れています。時代も場所も 何でもありの所での物語です。主人公自体が日本人とも中国人ともいえる存在で、その関係者でいわゆる無難な登場人物は誰もいません。 敵も味方も入り乱れてというよりも、多数の組織がどの立場か不明で動いている世界での話となります。個人的には、漢字の中国名が 苦手で頭がますます混乱してゆきます。
2009年07月01日
江戸川乱歩の推理試験<>
今も昔も「犯人当て」小説は存在します。有名な作品のトリックだけを抜き出した困ったものも含まれます。本書は江戸川乱歩が 編んだアンソロジーを中心にした犯人当てアンソロジーの復刊です。有名な作家が並びますが、作品的には枚数制限や内容制限で 小説的には面白いとはいえないです。このような分野が、昔もあったという事です。ただ、トリックのぱくり集よりは、遙かによい です。
2009年07月06日
ケンブリッジ大学の殺人<ダニエル>
本邦初訳の作者で、内容も面白いです。これはと思いますが、どうも本国でも作品数が非常に少ないようです。作品数が多くても 訳される機会は少ないのが現状ですので、作品数が少ない作者は再度読める可能性は少ないです。ただ本作自体が、変則的な後半の 構成を取っており、類似の趣向が次々とは期待しにくい面はあります。初訳の作者にとっては、読者に効果的に働く内容と言えます。
2009年07月06日
向日葵の咲かない夏<道尾秀介>
今、売り出し中の作者です。ただ内容的に特殊な面があり、素直に楽しめない所があります。いわゆる読みにくい作品と感じます。 うっかり読み過ごした所に大事な内容があると、最後にサプライズですが、読むのが苦痛で読み飛ばし気味の所に伏線的なものがあっても 何も感じません。読者によって相性が激しく異なる可能性があります。私には、相性の悪い作家のようで、読むのが苦痛でなんでもよい から早く終わって欲しいと感じながら読んでいます。
2009年07月06日
人事系シンジケート T−REX失踪<鳥飼否宇>
奇想な設定でその中でのみ可能なトリックと論理展開を得意とする作者です。本作は新シリーズの様で、新たな設定が登場します。 ただあまり奇想とは言えない程度です。しかも、その能力を生かすともっと簡単に謎が解決すると思いますので、やや??です。 持ち味のユーモアは十分ですので楽しんで読めますが、意外な論理展開は不足しておりこの作者しか書けない内容とはいえないように 思います。
2009年07月12日
善の決算<日影丈吉>
「日影丈吉全集5」採録より。元もとは3作の短編しゅうですが、復刊されていません。そして単行本化されていない同一シリーズの 3作を加えた、春日検事シリーズの完全版となっています。昭和50年頃に一度、復刊の予告がありましたが、今回が待望の復刊と なります。日影作品は幅が広いですが、トリックだけで支える作品はありません。謎解きを重視するかどうか、トリックも使用する かどうかを組み合わせて、多様な世界が作り出されます。春日検事シリーズは、トリックもあるが中心は動機等の謎解きです。 短編では比較的に少ないですが、なかなかの力作揃いです。何故復刊されなかったのかは不思議です。
2009年07月12日
さまよえる未亡人<フェラーズ>
ようやく、徐々に翻訳が進んでいる作者です。なかなかに少ない作品数では、特徴のわかり難い作者です。しかし、ややのんびりした 焦点が緩いストーリーの中に巧妙に伏線を貼っていく、本格派というイメージが出来ています。読者が、自然な流れにのってしまうと あとは作者の思うつぼという事に気づくと共に、この作者の技量にも注目が集まります。
2009年07月12日
緑色遺伝子<ディキンスン>
どこかSF的な設定を含む世界でのストーリーを得意とする作者です。白人とそれ以外という構図のなかに、緑色遺伝子をもつ人が 存在する設定です。それを研究するインド人のコンピュータ技師が主人公で話が進みます。緑色遺伝子が、問題なのか、白人以外が 問題なのか、立場で理解が異なりますし、そこには非白人の日本人・東洋人自体の白人から見た扱いが現れます。
2009年07月18日
ノサップ岬の女<斎藤澪>
青梅の旅館での事件を巡って、何かを探しに人が消えて死体となって見つかります。北海道は根室と留萌で過去になにがあったのか 。どの人物が誰と何時、どこで繋がりがあるのか。小説家はいつ何故有名になったのか。色々なひとが、それぞれの思惑で調べるうちに 事件はどんどん複雑に発展します。外部の人間が訪問するだけで、人々に記憶される地が舞台であり、後から訪れると先に来た人物の 後を発見します。人の少ない土地ならではの背景での中で、謎が絞られてゆきます。
2009年07月18日
横浜・神戸人形館の殺人<矢島誠>
職業探偵以外を主人公にすると、捜査に限界があります。それを越えるために、作家はかなり強引かあるいは都合の良い設定を 使用します。紅林真紀は元アイドルで誰もが知っている有名人です。サングラス等で変装してフリーのルポライターとして、事件を 調査します。どうしても調査に行きつまり、話を聞きたくなると元アイドルに戻ると、殆どの人が何でも話してくれます。まさに 必殺の調査員です。
2009年07月18日
最後の1球<島田荘司>
偶然性の高いトリックは、なかなかメインでは使用できないし説得力はありません。ならば、謎としては薄くして、犯罪の背景を 詳細に描き込む事で、読者を偶然から必然にすくなくてもあり得ると思わせる構成にしようという作品です。謎は不可能的でも、真実も 不可能的です。それを長く経過と背景を書きこむ事で、だんだん納得させられるかも知れません。
2009年07月24日
玻璃の家<松本寛大>
「第1回ばらのまち福山ミステリー文学賞新人賞」受賞作です。選考委員は島田荘司ひとりという、賞名も主催も選考もユニークな 新人賞です。受賞者がメジャーに育つのだろうかというチェックポイントはありますが、選考講評が「この作風では量産がきかない事」 という内容ではチェックすらできません。時代もどんどん遡る構成ですし、登場人物も日本人はひとりで、カタカナ表示なので忘れて しまいます。構想の大きさで読ませる作品ですので、やや難解でかつ、簡単には沢山は書けない事は同意するしかないでしょう。
2009年07月24日
福家警部補の再訪<大倉崇裕>
和製コロンボの福家警部補シリーズの短編集の2冊目です。魅力のひとつに、本家のコロンボシリーズへの強い意識でしょう。 直ぐに対比する作品を探してしまいます。コロンボは、プロの犯人もびっくりする専門知識を学んで犯人を追いつめます。このシリーズ でも福家は同様に、色々な事に詳しく専門的に犯人を追及します。ただ、それがこの作者の他のマニアックなシリーズとの重なりがある ので、読者としては福家が壊れてゆくような気もします。
2009年07月24日
ダナエ<藤原伊織>
2年前に亡くなった作者の生前の最後に出版された作品集です。乱歩賞と直木賞のダブル受賞という作者の、受賞第1作の「ひまわりの 祝祭」でも判るように、美術ミステリもテリトリーのひとつです。物的な面のみでは難しく、関係者の心情を深く描く必要のあるジャンル はこの作者の得意な所でしょう。短編でも切れ味と余韻を持たせています。
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2009/07に読んだ本の感想を随時書いてゆきます。
本格推理小説が中心ですが、広いジャンルを対象とします。
当然、ネタばれは無しです。