推理小説読書日記(2009/06)
2009年06月01日
魔女の笑窪<大沢在昌>
オムニバス形式の連作集ですが、長編と見る方がよいでしょう。主人公の私の名前は不詳、いくつも名前がある様です。昔、ある島 から脱出した女が2人いるという噂がありその一人?。表向きのコンサルタントと裏の色々な繋がりを持つ女性ですが、過去がトラウマ になっています。はたして、そこから脱出出来るのでしょうか。それは続編へでしょう。主人公が女性でも、内容はハードなハードボイルド の作品です。登場人物がそれぞれ何かに拘りを持って生きています。
2009年06月01日
制服捜査<佐々木譲>
北海道警は癒着汚職を防ぐために、同じ職場に長い期間勤務する事を廃止しましたが、その反動でベテランの職務に詳しい人間が いなくなってしまいました。同時に、多くの家族持ちの刑事が単身赴任で地方の駐在所勤務になりました。仕事上は、妻が電話番で いるほうが好ましいが成長した子供をつれての転勤は無理のため、単身での仕事になります。主人公の川久保篤巡査部長は札幌から 釧路方面広尾警察署志茂別町駐在所に転勤しました。そこは風習的にもその他も色々と、慣れない問題がありますが、自ら事件に 向かってゆきます。
2009年06月01日
伊豆・柳川伝説 雛の殺意<金久保茂樹>
女性雑誌の編集長の冬木は、直ぐに事件に首を突っ込むくせがあります。雑誌の取材と、副編集長にまかせきりと言っても、無理な 設定ですが、そこは無視して読むトラベルミステリです。福岡と伊豆にある同じ地名と、類似した事柄。事件は、その二つを結びつけます。 距離の離れたアリバイと、距離の近いアリバイの組あわせが冬木の捜査を悩ませます。小道具はさえますが、メイントリックは新しい とは言えない難点があります。一般人が繰り返し訪問しなくても解決出来る構成が期待されます。
2009年06月06日
ロンド<柄澤齊>
版画家のこの作者の処女小説で、かつ現在唯一の作品です。そして、長い大作です。テーマも絵画・それも幻の作品「ロンド」です。 一度登場したとされる作品「ロンド」は実在するのか、そうならば現在の行方は?。多くの人が探し求める幻の作品を中心?背景?にして 起きる複数の殺人事件は読者を混沌とした世界に呼び込みます。処女作ゆえに、作風も分からないし読んでも読んでも話は絡むばかりで 一向にほぐれそうにありません。得体のしれない世界と、予想のしにくい結末のままに読み進む作品は、絵画同様に小説も幻ではないかと 思ってしまいます。
2009年06月06日
GOSICKs<桜庭一樹>
GOSICK長編は6冊書かれています。短編集にあたるGOSICKsも複数ですが、第1巻は時間的には、長編第1作の前に当たります。 読者がどの順番で読むのかで異なりますが、GOSICKの背景が、次第に明らかになってゆく構成の連作集です。このシリーズの登場 人物の謎と登場背景が次第に明らかになって行きます。そして、舞台の小国も、学園も同時に謎と設定が示されてゆきます。読者が 低い年齢層を設定していますので、長編と重なる部分もありますが、長編第1作に到るまでが明らかになってゆきます。やや、大胆な 長編の設定の説明を行ってゆく様です。
2009年06月06日
七番目の仮説<アルテ>
フランスのカーともいわれる不可能犯罪ものの著者の作品です。実際は、表現も謎もどろどろしたものではなく、作風はかなり異なり ます。単純なトリックを如何に、不可能犯罪に構成してゆくかがこの作者の見所です。それゆえに、類似トリックはたいてい存在します。 従ってトリック小説というよりは、小説・ストーリーで如何に再構成するかの作品群です。題名は、複数の仮説を考えてもそれ以外の 結末があるという意味でしょう。
2009年06月12日
夜の処刑者<日影丈吉>
「日影丈吉全集:5」の「連作:夜の処刑者」です本庄祥作を主人公にした犯罪小説集です。この作者は、発表先に合わせて作品を 書き分けていた気がします。犯罪小説風作品は、イメージしにくい面もありますが慣れると違和感は消えます。この作者の本は、復刊 されるものが限られており、同じものが繰り返し復刊されます。そしてされないものは、全く置き去りです。本集も初出雑誌・単行本 を最後に途切れて、本全集が初めての復刊になります。ちょっと変わった作者の世界も楽しみましょう。
2009年06月12日
屈折光<鏑木蓮>
江戸川乱歩賞作家です。舞台は最先端医療と、動物医と牧場です。父と娘の繋がりと、過去の出来事が絡んで進みます。本格味も 情報もサスペンスも色々な要素を持った作品です。これは作者の迷い・苦悩と見えます。名前と作風とをどのように作り上げて行くかを 迷っているように思います。印象は、全てに器用なために、どれかにシンプルに拘り切れないと見えてしまいます。色々な読者をターゲット していると同時に、まだこの作者の個性が隠されているとも見えます。これから如何に、変わって行くかは作者にも読者にも見えにくい です。
2009年06月12日
溶ける男<カニング>
1968年の作品です。ハードボイルド風のスパイ小説です。このタイプの主人公がもつユーモアあるいは、ブラックユーモアも あわせて含まれます。奇妙な登場人物が集まると、奇妙な展開になり、奇妙な終末になります。これは定番なのかどうかは、読者の 受け取り方でしょう。日本でも同時期に類似の試行錯誤があったジャンルとおもいます。この作者にもそれがあったのか、あるいは 既に確立されたスタイルかは、1作では分かりません。
2009年06月18日
鷺と雪<北村薫>
ベッキーさんこと別宮シリーズの連作集の3冊目です。最終ではないかとも言われています。昭和初期を舞台に、良家の令嬢・花村 英子の視点から、お抱え運転手のベッキーさんとの生活を描いています。3短編が入っています。背景の時代を強く反映した内容で 時代考証もかなり、気を配っているように思います。その時代のベッキーさんの立場は、使用人だがかなりの重責でかつその能力を 持った女性です。その結果、英子が出会った謎にも答えを出せます。令嬢の目に移る時代と、時代の先をゆく使用人の見る時代が描かれ ます。
2009年06月18日
折れた櫛<斎藤澪>
1988年刊行の短編集です。作者が熟練期に入る頃になります。初期のホラー・サスペンス風の作風から、次第に広い内容に変わって 来ます。ブラックユーモア的な落ちのある作品もありますし、本格味は薄いですが如何にも短編的なバランスがよくなって来ています。 ただ、デビュー時の作風や作品のみで評価されている現状では、むしろ異質に見えるかもしれません。しかし、作品数全体から見れば この作品の傾向は少数派ではないと言えるでしょう。
2009年06月18日
ホワイトクロウ<加藤実秋>
ホストクラブ・シリーズ連作集の3冊目です。ただ、オーナーの女性の視点から書かれた2冊とは異なり、色々なホスト達の視点で 話は進みます。クラブの改装の期間中に仮営業の場所に移転したクラブ。そして、その期間に各々のホストが巡り合った事件が展開します。 これ以後が書かれれば、これが外伝的なのか、シリーズのバリエーションの広がりなのかは分かるでしょう。なぜならば、主人公が オーナー女性と思っていたのは読者の思い込みで、実はホストクラブそのものが主人公だっただけかも知れないからです。
2009年06月24日
深淵のガランス<北森鴻>
絵画修復師を主人公とする連作集です。ただし、中編2作+掌編1作です。ハードカバーで読んだ人は驚くかも知れません。掌編1作 が文庫版用の書き下ろしだからです。本著者は、他にも文庫化の時にボーナストラックを追加した事があり、予想される事です。 既に多くのシリーズを持ち、それらが交叉して登場するこの作者ですが、本主人公も分野的に、他のシリーズと交叉する可能性が高い 位置に存在します。しかし絵画修復技術の深さと詳しさは、本著の特徴でしょう。小説であっても全てが作りものと感じさせないものが あります。
2009年06月24日
殺人への扉<デイリー>
日本への紹介が非常に少ない作者です。その為に、作風も分からずに読んでゆくと、あまりのものんびりした流れに同調してしまい ます。そして、そのまま終わると勘違いしてしまいます。所が・・・・。騙されました。ミステリだから、予想はするべきでしょうが 最近はかなり、何もなく終わる作品も多く、読む方も注意が緩慢になりそうです。特に作者名から何かが期待出来るという訳でないので す。のんびりした雰囲気の奥に隠された、・・・・は本格ミステリの定番なのです。
2009年06月24日
追憶のかけら<貫井徳郎>
小説中に、古い作家の手記が含まれた構成ですので、2倍の量の大作です。しかも手記が旧書体で書かれているので、かなり読みつらい 面はあります。戦後直ぐの雑誌を読んだ人は、慣れているかも知れません。作品的には色々な仕掛けがありますが、主人公があまりにも おひとよしというか、簡単に騙される性格に設定されすぎていて、現実的とは言い難いです。もう少し、疑うのが普通の人でしょう。特に 大学講師ならば、調べもせずに信じるとは思えません。
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2009/06に読んだ本の感想を随時書いてゆきます。
本格推理小説が中心ですが、広いジャンルを対象とします。
当然、ネタばれは無しです。