推理小説読書日記(2009/04)
2009年04月01日
さまよう刃<東野圭吾>
複数の視点から描いたサスペンス色の強いミステリです。娘の復讐を狙う父親。加害者たちの個々のおもわく、そして個々の感情 を持ちながら犯罪を追う警察員、そしてマスコミ。たぶん、結論など出ないであろう加害者を守る法律と、それに納得できない被害者 家族の溝は埋められない。それは、この両者だけでなく他の関係者にも影を落とすのでしょう。もし加害者の救済がマイナスになった 時は、誰が責任をとり何が行えるのか・・答えは今はない・・・その時納得出来ない人は何を・・・。
2009年04月01日
男爵最後の事件<太田忠司>
探偵小説ではシリーズで一つのテーマを設定したものが書かれています。例えば、クィーンのドルリー・レーン4部作、高木彬光 の墨野蝋人5部作等です。これが短編のシリーズとなると急激に多くなります。この作者の「霞田志郎・千鶴」兄妹シリーズもまた 新しいテーマの元で一応の完結に達しました。いや終わる必然性は無いと思えますが作者的には一応の区切りとの様です。振り返れば クィーンの国名シリーズに対応する都市名シリーズ6作と短編1冊、それに続く「男爵こと桐原嘉彦」4部作の合計11冊は長い過程 でした。それに霞田志郎名義の2作もあります。テーマは上記2シリーズとは当然異なります。個人的には、続編もあるいは桐原探偵 物も読みたいという感想があります。
2009年04月01日
ひよこはなぜ道を渡る<エリザベス・フェラーズ>
本作者の日本紹介は一応は早かったですが、後が続きませんでした。特に初期の「ドビーとジョージ」シリーズ5作が翻訳された のは最近です。そして好評で5作とも訳されたのは喜ばしいです。本作はその最終作です。本格ミステリ味が強く、同時に主人公 二人の掛け合いが面白いユーモアも感じる楽しいシリーズです。この作者もこの他に最近になり、ぼちぼちと訳されて来ています。 まだまだ多くの作品があるこの作者の地味ではあるが堅実な作品がより多く読める事を期待したいです。
2009年04月07日
ソロモンの犬<通尾秀介>
探偵が犯人を捜すミステリではなく、最近多い作者が読者を騙すミステリです。読者は、作者が小説の中に仕掛けた罠を解く事を 目指します。勿論、それが読む目的の読者であればです。それ以外の読者は、ストーリーを追いながら通常はいわゆるどんでんがえし として構成された話を楽しむ事になります。このジャンルでは、フェアプレイで読者と作者が対決する条件や手法がまだ固まっておら ず、通常は作者の思うままに引きずられる事になります。それは、読者の方が不利な状況が設定されている為で、話の展開を楽しめば 良いと思います。
2009年04月07日
火星ダーク・バラード<上田早夕里>
SFです。ハードボイルドです、ストーリーと主人公が・・・。文体はややソフトでしょう。SFでは、しばしば自然にスーパーマン が登場できます。それ自体が主人公の時は、とても感情移入は難しいですが、微妙な関係で助けられる主人公であれば、頼りないのか 思い切り一本道を進むのか怪しげであっても、不思議な生き方になります。それほど力はなくても、気持ちだけで走り続ける主人公は ハードボイルドの世界に生きるといえます。それは、小説がサスペンス味を持つ事になります。ハードボイルドの主人公は、やせがまん が似合います。スーパーマン的能力を持つ女性と、主人公の関係には、そこかしこに主人公のやせがまんが見えます。
2009年04月07日
白い乱気流<花屋治>
翻訳等で有名な松村喜雄のペンネームです。スパイ小説・国際情報小説になるでしょう、10年以上にわたる巻き込まれ型の主人公 はいささか頼りないですが、誰の視点で描くかとしてはこの程度が無難なのでしょう。舞台と時代が次々に変わってゆくので、影の 組織を隠す事は難しいです。それでもとなると、ちょっと頼りないぐらいが丁度良いでしょう。本当の中心は、それほど難しくありません ので、その謎よりもやはり情報小説として見るべきでしょう。
2009年04月13日
チョコレートビースト<加藤実秋>
フリーライターでホストクラブのオーナーの主人公が、ホストクラブ探偵団を率いて活躍するシリーズ第2作品集です。舞台が 2つ有るのでなかなかストーリーは広くなります。ただ探偵役は誰かというと、複数のイメージです。そして、近くにもそろそろ 探偵的な役を行っているが知られて来ました。それからの依頼もまいこみます。いよいよ、本格的な探偵集団の始まりです。
2009年04月13日
傍聞き<長岡弘樹>
2008年推理作家協会賞短編賞受賞の表題作を含む短編集です。個々の作品に全く関連性のない純粋の短編集です。特徴のない のが特長というか、特定のジャンル・キャラクターにとらわれずに個々の作品にあった舞台・テーマ・スタイルで書かれています。 短編は玉石混在といいますが、どの作品もレベルが高い状態を維持しており、しかも冗長な長編よりも密度と内容は濃いです。短編と いえども量産が出来るタイプではないでしょうが、期待が大きい作者です。
2009年04月13日
卒塔婆小町殺人事件<斎藤澪>
デビュー当時の作風からかサスペンス・ホラー作品のイメージを持つ人が多い作者です。しかし中期以降は、本格味が次第に 強くなってきます。同時に初期に見られた、作品構成のバランスの不安定さが消えてきて大きく変貌して行く感じが受けます。 本作は佐渡を舞台に、捨てた筈の過去が明らかにされてゆく女性を中心に、佐渡の風土を濃くとりいれっています。そしてそこに 本格の謎を融合させた作品です。そこには本格を強く意識した作家への変化と、横溝正史の本格作品への意識がかいまみれる感じが します。
2009年04月19日
鉄道捜査官<矢島誠>
副題が「殺意のスーパーあずさ2号」です。国鉄が民営化されて、鉄道公安官がなくなり、警察の一部としての鉄道警察隊が 出来、その中の特別捜査係が、警視庁・所轄のなかに入っての共同捜査になります。この組あわせでは自然と競争や対抗意識が 生まれますがその中での事件捜査となります。トラベルミステリーか警察小説かそれ以外かは微妙です。基本はアリバイ崩しで あり、まとまっています。
2009年04月19日
司政官 全短編<眉村卓>
SFです。この作者の大きなシリーズである「司政官」は短編群と大長編2作からなります。2冊に別れていた短編集を、まとめ て、年代順に並び替えた作品集です。結果的にかなりのページ数になります。ロボットと、宇宙の原住民と植民との間のトラブルを 描いて行きます。「司政官」が次第に力を持ち大きな役目をはたす姿と、その後のその絶対者的な存在から逃れようとする企みを 描きます。制度は進化すると同時に、いつかは役目を終えて異なる役目になってゆく事を描いています。
2009年04月19日
歌の翼に<トマス・M・ディッシュ>
SFと言っても、わずかの特異な状況から大きく異なる変化が生じる状況を描きます。法律・内部に爆発装置をうめこまれた 少年少女・空を飛べる少年たちという設定は、わずかとは言えないかもしれません。これだけ違えば、とても普通の生活はおくれません 。そして刑期を終えて結婚する主人公2人が無事にすごす話で終わる訳はありません。歌を歌って空を飛ぶという一見メルヘンの イメージが深い運命と繋がった作品です。
2009年04月25日
夜は楽しむもの<日影丈吉>
ミステリ系列の作家で全集がある作家は少ないです。2002年頃から出された全9巻の「日影丈吉全集」はその希な例です。 全集はその性格から、その作家のファンにとっては微妙なものです。テキスト的に見れば、ファンゆえにその殆どは既読です。 しかし、入手困難の未読本・作が読めるし、どうしても全揃いしたいものです。その量的な理由から価格的にも悩むものです。 あれこれで全部そろえると、逆に安心して逆に読まないものです。ようやく読み始めました。1−3巻で未読は、この長編のみでした。 この作者らしい文体ですが、内容はやや異色です、分野によらわれなくしかも超現実派の内容です。登場人物の誰よりも読者が一番 詳しく知っているという内容は独特です。
2009年04月25日
GOSICK6<桜庭一樹>
シリーズ第6長編で現在では最後の長編です。伏線の背景が次第に明らかになって行きます。そして、主人公2人の気持ちもお互い に気がゆきはじめます。そして次第に近づく、次の世界大戦・・それは二人が別れるときでしょう。それに向かって時間は進みます。 ここに登場する謎は、ヴィクトリアによって解明されますが、シリーズ全体の謎と展開は続くのか、終わるのか、どのような展開を 示すのか全く分かりません。
2009年04月25日
造花の蜜<連城三紀彦>
誘拐事件です・・という紹介は極めて便利な説明です。しかし本作の複雑な構成をより詳しく説明する事は、至難です。本作者は 複雑な構成・動機・犯罪等をまとめる手腕が得意としています。どうして、これが目に見える破綻もなくまとまるのかは、非常に不思議 です。本作をバラバラに分解すると、本作者のデビュー当時の短編に類似構想を探す事が出来そうです。完成された構想と思ったものが 実はまだまだ発展性があり、複数が化学反応してより高い完成度が生まれるのは夢の様に思います。
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2009/04に読んだ本の感想を随時書いてゆきます。
本格推理小説が中心ですが、広いジャンルを対象とします。
当然、ネタばれは無しです。