推理小説読書日記(2008/11)
2008年11月05日
東京バンドワゴン<小路幸也>
舞台は老舗の古書店です。名前が、本の題名です。本の関係を舞台にした作品が最近増えています。図書館・新刊本屋さん・ 作家・出版社等多数です。古書関係も珍しい訳ではありませんが、多彩な登場人物と歴史ある店が背景となると、色々なミスマッチ をはさみ面白い展開を見せます。話題にこと欠かないので、登場人物の数からもシリーズの第1作となります。ミステリ味を含む 作品というのが有っているでしょう。幽霊が登場するのは作者の趣味か、それとも何か仕掛けでもあるのでしょうか。ゆっくりした 時間の流れの作品ですが、読む方は一気に進みます。
2008年11月05日
ぶち猫<クリスチアナ・ブランド>
副題が「コックリル警部の事件簿」です。待望の作品集と帯にありますが、既に翻訳されている「招かざる客たちのビッフェ」 という作品集に選ばれなかった拾遺集的な感じがします。あえて1冊読むならば、こちらの本ではないとは思います。逆にブランド の未紹介作品がもうない事は寂しいです。逆にいえば、日本に早く多数の作品が紹介された恵まれた作者といえそうです。個人的 にはまだ未読作も残っていますが、そう多くはないです。海外作者の日本紹介には、偏りが多くそれには運が左右される事を最近 しみじみと感じます。
2008年11月05日
絞首人の手伝い<ヘイク・タルボット>
発表長編が2作とは少ない作者です。最近、2冊刊行されて終わりですか。不可能犯罪物としては、ロースンよりも少ないです。 あなたはどちらが好みかと聞かれても、2択では・・・。不可能性は本作が強いと解説されていますが、ストーリーの展開につれて 謎が登場してくるので、なかなかつかみところがない作品に感じます。何がそんなに不可能なのか理解しきれない状態で進行する面 があり、先入感を持たずに読んだ方が良かったと反省しています。訳の新しさも違うので、読みやすさで比較するのも難しいです。
2008年11月12日
肺魚楼の夜<谺健二>
この作者としては久々の作品です。もともと2−3年に1作でしたが、前作が年に2作だったので平均すると同じペースともいえます。 神戸を舞台に、阪神大震災を時間の流れに取り入れた不可能犯罪とカルト的な設定を取り入れた作風です。前々作で主人公探偵が死ぬ 展開でしたが、ワトソン役的またはスタウトのアーチー的な役の探偵がメインで活躍します。壁に怪物魚が潜む館での殺人を過去と現在 で追います。古い要素と新しい要素が混ざった不思議な世界は、この作者の特徴です。意外にすっきりした解決なのか、強引で無理の ある解決なのかは、マニア度で変わるでしょう。
2008年11月12日
オオブタクサの呪い<シャーロット・マクロウド>
今ではそこそこの数が訳されていますが、初めて読んだ作品です。いきなりタイムトリップしてびっくりしましたが、必ずしも そのようなシリーズではないようです。それでも一風変わった世界にある幻想的な作品が多い様だと解説にあります。初めて読むと どんな解決にされるのか心配になる作品とストーリーです。複数読まないとある程度の作風や傾向が分からないという、いわゆる つかみ所のないのが持ち味のようで、厄介と思いました。登場人物が同じ事がどの様な意味があるシリーズなのかは、今は不明です。
2008年11月12日
リピート<乾くるみ>
似たような意味の題名の作品があります。「リプレイ」「リセット」・・・内容的には「7回死んだ男」に近いかもしれません。 この作品の様なSF的設定は、ミステリではまだ少数派かも知れませんが、本家のSFでは度々出会います。違いは結末の仕方になると 思いますが、ちょっと区別がつきにくい終わり方と感じます。とくにストーリーが、読者に解ける謎を提出しているというイメージ ではないと思いましたので、その時点で私はミステリからSFに世界が変わっていました。そして結末に至ってもそのままの世界から 戻ってきませんでした。本作をミステリとして読み切るのは、かなり努力が要求されるように思います。
2008年11月18日
密室の木霊<筑波耕一郎>
1986の作品です。作者は雑誌「幻影城」から出発した人です。科学捜査の急激な進歩からはいくらかのギャップはあります。 警察と素人探偵の競演風に描かれています。古典的トリックと科学捜査とのミスギャップとを緩和する狙いかと思います。時代の風化 を考慮しないと評価しにくい作です。題名は密室で、作中はアリバイトリックでストーリーは誘拐という多彩とも言えますし、芯が ぼやけているとも言える微妙な所があります。現在の目では、テレビの2時間サスペンス風と感じます。映像の時代が、ミステリの トリックのばらまきを行い、結果としてハード本格をソフト本格+サスペンスに変えてしまった気がします。
2008年11月18日
漂流巌流島<高井忍>
歴史推理小説は色々なアプローチがあります。その中でも豊富な資料を再構成して、読者に真実かもしれないと思わせる内容は かなりの高い難度でしょう。本作品集は、4作ともに歴史の謎を、映画監督とシナリオ作者が推理する構成で新しい解釈を見つける のが特徴です。そしてその内容が、上記のこれこそ真実ではないかと読者に思わせる説得力があります。まさしく真っ向勝負の歴史 ミステリです。題材により多少の知名度の差はありますが、意外と感じるものと従来より踏み込んでいると感じる作があります。 いずれにしても面白いです。このような作品の量産性は疑問ですが、今後も期待したいです。
2008年11月18日
コンウォールの聖杯<スーザン・クーパー>
ウエブサイトに復刊.comがあります。ある程度の投票が有ると復刊交渉を行うというコンセプトのサイトです。そこで投票が多か った作品です。1972初訳で2002復刊です。イギリスのアーサー王伝説を基にした、少年向け冒険談といえるでしょう。 時代は経過して現在は、冒険と幻想をテーマにした作品群が大きな人気にあります。比重が過去から未来にやや移ったとも言えますが 根本の流れには共通するものがあると思います。
2008年11月24日
凍れる十字架<藤桂子>
1996に「我が母の教え給いし」で出版された本が改題されました。大江沙織警部が主人公の作品の2作目です。失踪・殺人と 続く謎が奇妙な十字架風のシンボルに繋がるとカルト宗教が浮かびあがりますが、それが連続殺人となると謎が深くなります。まるで ミッシングリンクの様に。異常心理・動機から異常な犯人像が浮かぶ、いわゆるサイコサスペンス風ですが、ストーリーはミステリ その者です。このジャンルの作品では、捜査側も心理的に傷つく事は避けられず、しかも犯人の心理を理解出来る異常性も持つ事が 要求されます。その結果、全編が異常心理につつまれサスペンス色も生じます。はたして、その心理状態を理解しきれない読者に謎が 解けるかという難解な問いが生じます。それを要求するミステリであり、力作でしょう。
2008年11月24日
容疑者Xの献身<東野圭吾>
直木賞・本格ミステリ大賞受賞、そして映画化と進んでいる作品です。この作者のキャラクターとしては新しい方の湯川学が主人公 の作品です。ガリレオと題するシリーズは電気系の技術出身のこの作者の得意のミステリですが、古くからいわれている様に物理的 トリックを生で扱いますのでやや否定的な読者も多いでしょう。本格パズルミステリを書き続けていた時の作者は、偏り過ぎという 事で避けていたのではないかと思います。作品が増え、本格パズル作品が減少し書く内容の多様化に成功しました。この時期に、ギャグ 小説や本シリーズの様な物理トリック作を書く事は逆に破調的な意味を感じます。それらは短編でしたが、長編を書く時には天才湯川 の推理力は逆に障害になります。そこに石神という天才が登場して、それ故にもつ異常な動機とトリックを一見倒叙風に描く事で、実は 謎を隠す事に成功しています。動機を納得させる事は難しいですので最初からオープンにする手法には感心します。
2008年11月24日
予告探偵 木塚家の謎<太田忠司>
予告探偵・摩神尊の第2作です。第1作の西郷家の謎の結末からは、再登場するとは思わなかったです。今回は連作集ですが、全体 で長編として見れる構成です。そもそも第1作を読んでおれば、素直なミステリとは思いませんが、その特徴を連作全体にもそして個々の 短編の幾つかにも利用しています。ストーリー自体がネタばらしになりかねない作品です。これはどのようなジャンルに入れれば良いの でしょうか。多様化したミステリの色々な要素を複雑にかつ巧妙に取り入れて、実に奇妙な作品に再構成する事に成功しています。メタ ばやりの時代では本作もメタものと言うのは簡単ですが、本格ミステリの要素も濃くいわゆる一筋縄では語れない作品と言えます。
2008年11月30日
織姫かえる<泡坂妻夫>
宝引の辰・捕物帳です。このシリーズは軽い本格と江戸の風物詩を時代小説でうつし、そこに人情話を加えた混合タイプの作品 シリーズです。今回の主役は、宝引の辰の子分の「半端の松」です。ミステリ色は濃くはないが、1話ごとは短く捕物帳としては、 かなりバランスがとれた内容になっています。新しい登場人物もおれば、再登場の人物もいるというシリーズの通読者向けの部分も あります。時代小説が増えている現在ですが、独特の内容を持つシリーズと言えるでしょう。今回は、宝引の辰は必要最小限の出番 ですが、辰の活躍を書くのだけが目的ではない事はないでしょう。
2008年11月30日
誘う森<吉永南央>
独特の落ち着いた文体でかかれており、如何にもおとなのミステリという感じがします。そのイメージが、森の謎と失われた過去 というやや古風な謎と現代の社会の問題とを組みあわせたストーリーを融合する事が出来たと思います。自殺した妻のよりすっかり 気落ちした主人公が、妻の過去をたどる内に隠された過去に巡り会いそして現在に繋がる事件へとなります。ゆったりした文章とストー リー展開が気がつけば、がちがちのミステリの世界に誘われていたと感じます。丁度、森に誘われるという主題の様に・・。最近は 少なくなった、テンポのよい展開ではなく優雅な世界へ読者を誘う作品は私の好みであり、読後に余韻を残します。
2008年11月30日
狂気殺人事件<西東登>
この作者が一時書いていた毛呂周平を主人公にした作品のひとつです。会話が多い文章はやや軽い内容にしています。この探偵は はたして推理しているのかどうかがはっきりしない人物です。また、後半になるとこの作者がいつも使用する動物が登場しますが、今は 触れないでおきましょう。事件と展開と、視点の変化からは本格ミステリというよりもサスペンス的な組み立てに感じます。それは 探偵役の性格も影響しているのかも知れません。色々と工夫していますが、書かれた時代を考慮して果たして組み立てがどうだったのか 悩ませる作品です。
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2008/11に読んだ本の感想を随時書いてゆきます。
本格推理小説が中心ですが、広いジャンルを対象とします。
当然、ネタばれは無しです。