推理小説読書日記(2008/10)
２００８年１０月０１日
ルピナス探偵団の憂愁＜津原泰水＞
「ルピナス探偵団の当惑」に続く作品集です。ただ内容的にはシリーズ化の意志は少ないと思います。「当惑」はいわゆる 学園物でしたが、本集はそれにとらわれない構成を取っており、前作から変化していますがそれが同時にシリーズからの離れ とも言えます。作品は時間順に並んでおらず逆行させています。前書の読者にはサプライズな構成ですが、初読の人にはとまどい を感じさせると思います。内容的には、本格味よりも青春小説的な面が強いでしょう。作者が元もと、本書の内容の続編を 予定していなかった可能性もあります。
２００８年１０月０１日
猿の肖像＜オースティン・フリーマン＞
お馴染みのソーンダイク博士が登場します。１９３８年出版の科学的捜査が現在でも読んで面白いという事が驚きです。 たぶん最先端とか特殊な知識とかにとらわれずに、読者に必要な知識は提出して残りはいつの時代でも、普遍的に気づくか どうかの知識で話を構成する所がポイントでしょう。論理のアクロバットが現実の証拠がないという事態になるという危険を 如何に現実の証拠を探すかもこのシリーズの面白さと思います。日本では名前だけは有名で、ややもすれば倒叙・科学捜査が 全面にだされて、古いのではないかと勘違いさせる先入感さえ持ちかねない作者でしたが、翻訳が増えてくるとその面白さは 現在も同じだと感じます。
２００８年１０月０１日
爆発的＜鳥飼否宇＞
作品集ですが題名は長くて書く気がしません。お馴染みの綾鹿市の孤島にある芸術家が集まる不思議なミュージアムで 次々と事件が発生します。集まる芸術家？が半端な人物ではありません。その手法・道具・思想全てが、意表の連続です。 まさしく、芸術は爆発でしょうか。不思議な設定と人物が集まると、事件も不思議なのは当然です。人工的な背景と謎の集まり ですが、みんなが異様ならば普通に感じるかも・・・少なくても読むに従って慣れては来ます。それは作者の術中とは分かるの ですが。
２００８年１０月０７日
最後の１壜＜スタンリー・エリン＞
短編の名手の３冊目で最後の作品集です。年に１作ペースでしかもエラリー・クィーン・ミステリマガジンにのみ書いたと 言われています。１短編に多くの時間をかけているので推敲の行き届いた内容と言われています。第３集ともなると、ややアイデア が乏しくなると思われますが、代表作が少なくなるだけで全体のレベルは高いままです。内容は多岐にわたっていますが、分野に とらわれずに内容を重視しています。次第に１アイデア作が増えて、作品の長さが短くなる傾向と言われています。作品のテーマ 相応ということでむしろ良い方向でしょう。
２００８年１０月０７日
ゴミと罰＜ジル・チャーチル＞
ジェーン物の第１作です。まだ作者の作風がはっきりしない時期とも言えます。それでも受賞作です。読んだ感じはユーモア みがかなり強いことがあります。主婦探偵ですので、事件はその周囲に発生するもの、日常とは異なりますが近い面もあります。 内容は軽いのか、なかなかの構成なのか迷いますがまあミステリとしては必要な事は含まれています。名探偵物ではないですが シリーズになるらしい。一風かわった作風は、変貌しそうに感じます。
２００８年１０月０７日
幻夜＜東野圭吾＞
現在のベストセラー作家ですが、内容的に純本格から広義のミステリに変わってきていますが、ストーリーは面白さを増して います。幻夜は、多くの人が「白夜行」の続編としています。これも大長編で、内容の詳細が妖しいです。本作も大長編です。 主人公は謎の女性・美冬の生き方を描きます。阪神大震災で何があったのか、度々整形手術を行う美冬の狙いは・・・。読者は 予想できますが、現実のコンゲーム的要素と複数の出来事とその謎の収束はありますが、美冬の謎は？？です。
２００８年１０月１３日
少年探偵ロビンの冒険＜フリーマン・クロフツ＞
あとわずかで完訳というクロフツですが、なぜか日本では最後の１冊を訳さない傾向があるようです。そこで突然登場した少年 物です。このてのものとしては定跡通りのストーリーです。クロフツのマニアには歓迎されるでしょうが、通常のファンには、もの 足りません。何故今訳す必要があるのか、意味は不明です。ハードカバーの装丁ですが中身がいかにも薄いです。挿絵も同時に 掲載が目玉かも知れませんが、特に印象に残る事はありません。通常のファンには罪作りな本となりました。
２００８年１０月１３日
三幕の殺意＜中町信＞
実に久しぶりの新作です。ただし、１９６８年に雑誌発表された中編を長編に改稿したものです。中町は短編集が「Sの悲劇」 のみで、雑誌発表で埋もれている作品の単行本化を期待したい所です。内容は閉ざされた山荘が舞台という中町作品では珍しい 舞台となったのも上記改稿が理由でしょう。内容は、いつもの様に謎ときに徹して、そのために色々な手法を用いています。それが 元からのものか、改稿時に加筆されたものかは分かりません。作者のさらなる新作、作品集の刊行を切望します。
２００８年１０月１３日
プリーストリーの問題＜A.B.コックス＞
アントニイ・バークリイが別名義で発表したユーモア小説です。登場人物も、話の展開も途方もない設定です。主人公は 殺人犯の疑い？で逃げ惑いますがミステリではありません。無理に倒叙ミステリとする必要もないでしょう。変人の主人公に いたずらを仕掛ける友人たち、そして一番微妙な役を受け持った筈の女性でしたが・・・・。誰もが予想できない展開にみんなが 右往左往してしまいます。
２００８年１０月１９日
野球の国のアリス＜北村薫＞
少年・少女向けの叢書・ミステリーランドの１冊です。少年・少女向けにはぴったりですが、ミステリーかどうかと聞かれると 躊躇してしまいます。読んで楽しい作品ですが、ミステリーとは言えないでしょう。題名から分かるように、ルイス・キャロルの 鏡の国のアリスを下敷きにした作品です。野球少女アリスは、鏡の国に迷いこみます。そこでは、野球のトーナメントで最下位決定 戦があるという設定です。そこのチームに入ったアリスは、鏡の国という事を忘れてミスをしてしまいます。一生懸命に誤ったアリス は他の助っ人とそのチームで、全国１位のチームの３軍？以下？と対戦する事になります。はたして結果は・・・。
２００８年１０月１９日
なめくじに聞いてみろ＜都筑道夫＞
多彩な作品を残したこの作者は、初期にはミステリの技法の限界に挑戦した趣向の作品を発表しました。本作のその時期の１作 ですが設定はまだおとなしいほうです（作者比較）。不思議な殺人方法を研究していた父が残した弟子を、子が次々と捜して対決 して殺して行きます。変わった殺人方法を考えるのに苦労している人には、実にもったいない内容の作品です。この本の殺人法を バラバラに使えば１０冊以上の作品が書けますから。まさしくアイデアの宝庫です。
２００８年１０月１９日
赤き死の訪れ＜ポール・ドハティー＞
最近紹介され始めた作者ですが、幸運にも第１作からの紹介で本作はシリーズ第２作です。複数のシリーズを併行して書いて いる様ですが、全て歴史ものです。日本人にはイギリスの歴史は通常は詳しくありません。従って、歴史的な部分の位置つけは 全く不明です。主人公のアセルスタン修道士と彼が使える検死官が事件を解明します。犯人を捜すのですが、その可能性のある 人物から懺悔を聞いてくれるように言われて困ってしまいます。修道士は懺悔を他の人に明かしてはいけないのです。しかし 捜査も必要です。ちょっと困った探偵役かも知れません。
２００８年１０月２５日
GOSIC4＜桜庭一樹＞
歴史にあらわれた錬金術師の謎をヴィクトリカが解きます。セシル先生も多く登場します。あまりも弱気な役ですが。同時に ヴィクトリカと灰色の狼の謎もしだいにはっきりして行きます。歴史を動かす存在かどうか、設定時代からその後の現実の歴史を 知っているだけに不思議な気がします。物語は、第４巻でも時間の経過はわずかです。いつもは、九条とヴィクトリカの絡みで 展開しますが、謎が広がっている分だけセシル先生や、イギリスからの留学生アブリルなども絡む事になります。謎はミステリー か幻想かという所まで進みますが、ストーリーがそれを前提にしているので想定の範囲ではあると思います。
２００８年１０月２５日
ヴァン・ショーをあなたに＜近藤史恵＞
フレンチレストランのシリーズの２冊目です。レストランが主人公か、三舟シェフが主人公かは１冊目では不明でした。この 短編集で三舟シェフのみが登場する作品が２作あるので、三舟シェフが主人公のシリーズと言ってよいでしょう。シンプルな謎を シンプルかつエレガントに解くという短編ならではの構成が一貫しています。日常的な謎でも、ミステリー的には完全に本格構成 です。伏線のあらためは不十分ですのでホームズ的ともいえます。
２００８年１０月２５日
或る豪邸主の死＜コニントン＞
初読の作者ですので、感想が難しいです。かかれた年代的に黄金時代の作風を予想しましたが、全く異なりかなり地味な作風 です。ミステリーの構成は充分ですが、焦点がぼやかしているようでしかもストーリーのメリハリを付けていません。その中から 伏線と手がかりを拾い出す作業は、結構厳しいです。謎解きものでありながら、謎を解くことを忘れるほどの地味な展開です。 それが狙いなのかどうかは初読では分かりません。評価保留の典型的な作品です。
２００８年１０月３１日
刺青の女＜高木彬光＞
高木彬光の時代・伝奇物のひとつである捕物帳です。千両文七を主人公とする短編集です。じっくりした論理ものではないですが それぞれに謎が設定されておりミステリ要素のある捕物帳としては充分に読む事ができます。ほとんどが短い話なので、思いついたら それが謎解きというシンプルさか単純さかはあります。風物詩のみの捕物帳ではないですが、極度の本格味を求める事もまた過剰でしょう 。捕物帳の出発点の半七ものに近いと感じます。
２００８年１０月３１日
切り裂かれたミンクコート事件＜ジェームズ・アンダースン＞
「エッグ・コージィ事件」の続編となっていますが、特に気にする必要はないでしょう。ストーリー構成は実にゆったり大きく 設定されて進んで行きます。特に解決編の部分は、異常に長く詳しく書けませんが、何故このような構成にしたのかと逆に悩み かねません。特徴がなさそうで、特徴のある不思議な小説です。それゆえ、読者の評価も分かれるところです。無理に悩む事はない と思いましょう。
２００８年１０月３１日
越前岬の女＜斎藤澪＞
「旅情ミステリ」という帯文です。トラベルミステリではありません。主人公が旅行先で遭遇した事件という事で、探偵役が 事件発生地へ出向く訳でもなく、やたら色々な土地を訪問する訳でもありません。ある程度は複数の土地は登場しますが・・。 サスペンス色の濃い作品が多い作者ですが、本作は謎ときものです。ただ、登場人物の性格つけや動機等には論理的というよりも 別のものを感じます。それも謎と思います。
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2008/10に読んだ本の感想を随時書いてゆきます。
本格推理小説が中心ですが、広いジャンルを対象とします。
当然、ネタばれは無しです。