推理小説読書日記(2008/07)
2008年07月01日
証拠は語る<マイケル・イネス>
作家としての活動時期で、大きく作風が変わっている作者の本は読んでみないと内容が予測できません。発表時期が早いと 読むのに厄介な作品が多いといえるでしょう。本書はやや早い時期です。隕石で押しつぶされた大学教授の死の謎を調べる所は 典型的な本格スタイルです。ただし、その目的で訪れる教授の部屋での話が、事件とはいつしか離れて訳の分からない所に進み その部屋を出る頃には、元々の事件が何なのか忘れてしまってしまいます。これが次々と繰り返されると、読んでも先に進まない 小説のような気持ちになります。私には、前期の難解な作風の作品に感じました。そういえば、途中に次の事件も起きたような 気がします。
2008年07月01日
GOSICK2<桜庭一樹>
世界大戦のあいまの時期に、フランスとイタリアの間の国の優秀な留学生を集めた学園にいるが、日本人三男と同じく某 貴族の子供の末端に生まれた少女の活躍する小説です。中学生ぐらいをターゲットにしているので、キャラはそれに合わせて いますが本格推理小説です。読者層から、純度はわざと薄めています。優秀でも、生まれながらの立場で埋没せざるを得ない 立場が性格に影響を及ぼしています。少女ヴィクトリカが母親の容疑を調べるべく、ひそかに訪れた伝説的な集落での事件 を解きます。登場人物がみんな裏があり、それを解いてゆきます。主人公やその周囲の人物がすでに謎ばかりで、わざわざ 出かけなくてもと思いますが・・。
2008年07月01日
ハーレー街の死<ジョン・ロード>
ヴァン・ダインもびっくりの、傷害で100作をはるかに超える作品を書いた本作者です。全部訳して欲しい等と無理は いわないまでも、日本への紹介数はあまりにも少ないです。一部に内容が劣るという説もありますが、実際に読めないのだから あてになりません。どちらかと言えば、1点狙いと感じるが紹介作がたまたまそうかもしれません。いつまでたっても評価が 出来ない作家である事は変わらないでしょうが、しかしもっと訳して欲しいとは思います。題名から分かるように、死の原因が 不明で調べる内容です。もし他殺なら・・・・。いいかげんにやめたら・・・・。が混ざった中での捜査?になります。第4の 選択肢とは何か?。
2008年07月07日
想い出大事箱<高木晶子>
小説ではなくノンフィクションエッセイです。副題が「父・高木彬光と高木家の物語」です。故高木彬光の娘の本書の著者が 父と一家の事を綴ります。ミステリファンならば知っている名前が随所に出てきますし、なかなかまとめて語られる事の少ない 小説家とその一家のやや不思議な歩みが書かれています。小説家には引っ越しが多い人が多いと言われていますが、高木家も同様 だったようです。子供は結構困ったものでしょう。古い雑誌には時々写真で登場する、まだ子供時代の著者ですが、もうそれから 長い月日がたちました。巨匠・高木彬光を語る少ない人物ですが、ミステリの巨匠も実の娘の前では普通人というか、形無し です。
2008年07月07日
成吉思汗の秘密<高木彬光>
再刊・復刊が難度もされている本です。途中で大きな加筆もされているので、どの版でよんだのか憶えていないと時々は 読み返したくなります。2005年に10冊出された高木彬光コレクションの1冊です。加筆とか版の違いも書いてあるので 再読するならこの版でという面もあります。また、このコレクションシリーズには、長編の末尾に短編やらエッセイやら色々 と追加があります。短編「ロンドン塔の判官」はノンシリーズでもあり、未読だったのでこれは必読です。ますます著者の テリトリーの広さに驚きます。長編についても巻末エッセイを読んで仁科東子の「針の館」を読みたくなる人は多いでしょう。
2008年07月07日
人魚とビスケット<J・M・スコット>
小説中小説を、序章と終章で挟んだ形のミステリが少し前から多く書かれています。1955年発表の本作も典型的なその スタイルを取っています。小説中小説がおまけで、前後のメタミステリ部が狙いの作品を時々見かけますがはっきり言って面白く ない場合が多いです。小説は全体が面白い事が必要です。本書は、中心の小説部が海洋冒険ミステリになっています。やや人物 的に謎の多い人たちの冒険談と不明な結末です。序章と終章で、その登場人物がそれについて語ります。謎の三行広告のやりとり を誰が行っているのか、中央の話の真相とその関係は???。謎は、最初と終わりに集まっていますが、小説中小説の部分が面白く 書かれており安易なメタミステリとは異なると感じます。
2008年07月13日
北雪の釘<ロバート・ファン・ヒューリック>
初読の作者ですので、舞台が中国だとは全く知りませんでした。中国が舞台が苦手なのは、地名・人名が憶えにくいからです。 主人公も帯はカタカナで本文は漢字表現とはまいりました。中国の文献等の知識を元にしているらしいが、全く当方の知識外で 時代性も含めて不思議な世界が背景と感じます。そして小説の印象は、色々なジャンルの混ざった微妙な作品と思いました。 あえて狭いジャンルとして見ると、不満があります。でも歴史と地域の書き込みを含む不思議な話として読めば、なかなかの 内容とも思います。
2008年07月13日
消えて、戻り橋<斎藤澪>
ジャンルの多様化と先祖還り等の色々な要素のある時代の作者は、どうも見過ごされてしまいやすいと感じます。本作者 も華々しいデビューの筈ですが、やや地味な作風と本格とサスペンスの中間的な作風のために、どちらからも注目されにくい 面があったと思います。ただ作品数的にはまずまず多く、それは良いのですが現在はほとんどが入手難ではやはり淋しいです。 主人公が旅先で遭遇した事件のかかわってしまった結果、素人が人間関係を中心に事件の解明に乗り出します。サスペンスが 混じった犯罪小説風の本格推理でしょうか。人間の心にはいりこみ過ぎていますが、それが狙いとも言えます。
2008年07月13日
海王星市から来た男<今日泊亜蘭>
日本SFの創世時代から活躍した長老です。古くから本は少数持っていましたが、何故かアンソロジー以外は読まないまま来て しまいました。作者の死去をきっかけに読むのは、やや遅い気もします。本作は純粋の短編集です。かなり広い分野で活躍した とその種の本にはありますが、この短編集自体でもそれがうかがわれます。傾向的に、ハードSF要素がかなりあり、もっと早く 読んでおきたかったとの感想です。先駆者のひとりであると共に、広いジャンルを手がけてSFの広がりに影響を与えていたと 感じます。
2008年07月19日
あじあ号、吼えろ<辻真先>
鉄道冒険小説となっています。場所は満州・時は第二次世界大戦終結直前。ソ連の侵入に色々な憶測がながれる満州で、 ある目的のために既に、使用を終えていた特急あじあ号が、復活して身元の妖しい人物の中で強行突破で目的地を目指します。 歴史的・伝奇的・SF的設定と共に繰り広げられる真っ向勝負の冒険小説です。登場人物にそれぞれ思惑がありますが、鉄道( 満鉄)特にあじあ号に思いを寄せる人物の活躍は、作者の気持ちの表れでしょうか。ひた走る特急の行くはては?。そして 後日談は・・ミステリ的にはここにも興味はありますが、一番の場面は次々くり広げられる冒険シーンでしょう。
2008年07月19日
ビールボーイズ<竹内真>
ミステリー系出版社からの本ですが、特にミステリではないようです。いわゆる成長型の青春小説です。「ビール」「ビール 祭」をキーワードに、集まりそして離れて成長して、また「ビール祭」で集まる数人の若者の青春が描かれます。 勿論、ビールに対する作者の拘りが小説の組み立てや登場人物にもあらわれます。そう、ビールといっても飲むだけでなく 作るのです。ビール作りの歴史が本書に必要かどうかは、不要の議論でしょう。作者がそこに、テーマの元を置いているのですから。
2008年07月19日
サファリ殺人事件<エリスベス・ハクスリー>
ミステリの舞台は閉じているほうが、分かりやすいし謎の設定・解明も魅力的になりやすいです。しかし、沢山の本が書かれる とそんな舞台もありふれてきます。しかし、はるかな昔(ミステリ黄金期ともいわれます)に既に、珍しくしかも魅力的な舞台が 書かれていました。それが本書であり、題名通りです。舞台が変わると謎も事件も、登場人物の性格もそしてトリックも全て 異なる内容になります。ほとんどの人が新しいミステリ空間と謎を楽しめると思います。
2008年07月25日
アンボス・ムンドス<桐野夏生>
ハードボイルドスタイルから出発して、次第にスタイルを変えながら広げている作者の作品集です。すでに犯罪小説のスタイル を完成させている作者ですので、ほとんどが短編でも違和感はありません。もしこの作者の作品になじんでいなければ、むしろ 表面と裏面のある作品構成は、刺激を感じるかもしれません。読者により好き嫌いの差はあるでしょうが、方向性のある作品 の姿がここにあります。表題作のみが、やや長いですが構成上にフェイントをかけ舞台を広くしています。そこに描かれるもの 自体は他の作品と同じ印象を受けると思います。
2008年07月25日
京都「新懐石」殺人事件<金久保茂樹>
写真ライター夏樹を主人公にした作者の初期のシリーズの1作です。登場人物の設定上、グルメシリーズともいえます。 作品としてはトラベルミステリーに入るのですが、背景に持ってきた京都の懐石料理とその知識にアリバイ崩しを加えた構成 は骨格としてはまずまずといえます。しかし、トラベルミステリーの批判としてしばしば言われる「主人公がいとも簡単に日本中 を旅行する」という事に対して残念ながらその通りです。その面では「点と線」の欠点をいまだに持っている事の寂しさを感じます。 トリックは個人的に京都に詳しいので簡単すぎますが、それは問題ではありません。先にのべた、探偵役の余分な無関係のまわり 道がひたすら不満になります。
2008年07月25日
ノーヴェンバー・ジョーの事件簿<ヘスキス・プリチャード>
本邦初紹介の作者です。1913年の作品で「カナダの森のシャーロック・ホームズ」と言われるそうです。舞台はカナダの ケベックの森、森での特有の手がかりを掴む事にたけた主人公が事件を解決してゆきます。解決方法が背景とともに特有ですが 推理法的には特徴はあまりなく、ホームズとはやや異なります。しかしこの古い時代に書かれた作品としては、なかなか楽しめる 内容といえます。外観は長編のようですが、内容は章と事件が一致しない連作集です。プロローグと短編と、最後に中編があります 。解決方法から分かるように短編向きで、中編はやや間延びを感じます。
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2008/07に読んだ本の感想を随時書いてゆきます。
本格推理小説が中心ですが、広いジャンルを対象とします。
当然、ネタばれは無しです。