推理小説読書日記(2008/04)
2008年04月02日
ミステリ講座の殺人<クリフォード・ナイト>
本を読む時には「期待度」があります。事前の評判・叢書のレベル・タイトル・帯文・後書き等です。それからすると 本作の期待度は非常に高くなります。初邦訳・題名・手がかり索引・黄金時代などは、本格マニアを呼び込む代名詞です。 ただ期待値が高すぎると、実際の内容に関わらず読後感は非常に期待はずれになります。本書はその典型です。小説と しては地味で軽めの本格でしょう。題名はストーリーと関係ないが・・英語原題と日本語題とが一致しない・・・騙された?。 黄金時代・・・別にがちがちの本格だけでは無い。手がかり索引・・・原書ではどのようになっているのでしょうか、これは 違います、手がかりではなく「言い訳レベル・・・この部分は真相と必ずしも矛盾しません」それもありかもしれないが、 手がかりではありません。冷静な感想が出てきません。
2008年04月02日
HEARTBLUE<小路幸也>
主人公が2組ある作品と言えるでしょう。初読の作者ですので、あまりこれにはコメント出来ません。前作があれば それを含めての感想が必要です。単独では、ストーリー的にふたつが重なる構成のバランスが微妙となります。それに 警察捜査と、特技での罠を貼る登場人物のギャップが埋め切れていないように感じます。後者なしで、話が進んで終わっ ても、むしろ完成度は高くなったと思います。ただ作者の狙いが、後者の特殊な部分と思うので、詳細保留の感想です。 ニューヨークを舞台に若干の日本人が登場する作品も珍しくなくなって来ました。何故海外で・・とは、もう考えない 時代なのでしょう。
2008年04月02日
魔王城殺人事件<歌野晶午>
少年・少女も対象にした「ミステリーランド」の1冊です。ただこのシリーズでは、どうしても少年探偵団風に なる傾向があります。それはやむを得ないので、ストーリー展開がポイントになります。本作は、作者の趣向かも知れ ませんが、非常に古風な内容に感じます。まあ、世代差を私が理解していないだけかもしれません。ただ、大人も楽しめる とはちょっと無理でしょう。あくまでも、少年向き小説でしょう(あくまでも推定)。内容は、分かりずらい場面切り替え が多いやや錯綜した展開です。登場人物も名前が、愛称になったり翻訳小説を読むような戸惑いがあります。理解がしにくい 小説です。
2008年04月08日
監禁<福田栄一>
複数の登場人物の関わる複数の出来事(事件?)という場所と、やや複雑化した時間経過とを混ぜて、そこになにかを 何かを加えるというのが現在のサスペンス・事件小説の基本的流れです。本書もこれにかなり忠実に作られています。 ただ発端が、事件かどうかわからない所から始まったり、その追いかけが過去に戻ったりするので自然に複雑化されます。 ところどころに挟まった手記風のモノローグが、味付けになっています。やや不規則に出てくるので、読み飛ばしてしまう かもしれないし、それでもストーリー上は問題なさそうです。誰がいつ、事件と認識するのかがそもそもの問題ですが、 そこは視点になった人物の意識で左右されます。事件と謎の双方を探すこのスタイルは、現在のはやりですし、本書もそれ を理解して読む作品です。
2008年04月08日
白薔薇と鎖<ポール・ドハティ>
イギリス歴史ミステリ作家であり多作家の本作者のシリーズが、ほぼ同時期に異なる出版社から翻訳されたのは偶然 でしょうが、読む側はうれしい事です。他にもシリーズがあるようですが、本書はロジャー・シャロット・シリーズの第 1作です。時代的には16世紀です。歴史上の人物も関わるシリーズですが、あまり意識しなければ日本の読者も楽しめ ます。主人公はやや挙動不審な人物です。探偵か、冒険家かはたまた・・・・この不安定さはシリーズが進むとどのように なるのでしょうか。続編を期待しましょう。
2008年04月08日
禍家(まがや)<三津田信三>
ミステリとホラーの融合というと、まるで昭和20年台以前に戻った気がします。最近の日本では、時代設定を過去に とる作品が増えています。その事情からは、内容も過去のものに遡ることもありかもしれません。クリスティの短編集に ホラーの結末と、ミステリの結末の作品が混ざったものがあります。読む方は、作者にいいように振り回されますので、騙 される事を楽しむか、敬遠するかのどちらかを選ぶ事になります。本作の取った手法も類似しています。作者と読者との 間に暗黙のルールがあるのか、あるいは作者によって破られるのか不安定な状態で読む事になります。残念ながら、これは 本格ミステリの楽しみ方ではありません。異なる読み方が必要な作品です。
2008年04月14日
完全恋愛<牧薩次>
辻真先が登場人物のミステリ作家「牧薩次」名義で発表した作品です。これはアマグラムの関係にあり、どちらが卵 か鶏かという関係にあります。作者名義を替えた事に大きな意味はありません。ただ作風を変えてみたという事は分かり ます。冒頭から動機探しだと名言して始まり・・終わります。・・本当に?この部分は作者が作者だけに謎です。「存在を 知られない犯罪を完全犯罪というならば、存在をしられない恋愛は完全恋愛とよばれるべきか?」これは、隠された動機 を探すミステリとも、小説内に書かれていない動機か恋愛が存在する可能性を示しています。後者の可能性はすてきれません。 長い時間経過と離れた距離を結ぶ謎、その謎が解けたので1代記をミステリ形式で牧薩次が書くという展開です。牧薩次は は書くが辻真先は書かない。これは何かのメッセージなのでしょうか。
2008年04月14日
疑惑の墓標<藤桂子>
藤雪夫が長い沈黙後に、娘の桂子との合作で2作を発表して亡くなりました。それから2年、藤桂子単独での第1作です。 作者はその後も発表しますが、探偵役が菊地警部から、大江沙織警部に変わると共に劇的な作風の変化を起こします。その 経過を見ると、何故合作が可能だったかの疑問さえ浮かびます。本作をあえて分析すれば、トリックは合作時より小型化し、 論理性とストーリー性は複雑化し、動機は後の大江シリーズに近づいているといえるでしょう。作家が作風を変える事は多く ありますが、その原因がトリックメーカーの父との合作が出発にあったとすれば、数すくなく興味或るケースです。
2008年04月14日
写楽・考<北森鴻>
民族学者・蓮丈那智フィールドファイル3です。作者自身が量産できないシリーズとしていますが、短編でありながら 次第に内容に変化が出てきます。それに伴い登場人物も変わります。助手の内藤三國は依然活躍しますが、新たに佐江由美子 を加え、その上影の人物だった教務部の男が表面で活躍しはじめます。そして、那智自身は行方不明状態が増えます。 その取り扱う内容はむしろ広がりをみせ、北森作品の特徴である他シリーズとの、キャラの交流もあります。舞台の謎・那智 の魅力が中心から、次第にシリーズ全体が広がってゆくようです。次はどのような展開を見せるか予断を許さないともいえますし このままでも、大きく変わっても面白さは変わらないだろうとの期待できるシリーズです。
2008年04月20日
ビーコン街の殺人<ロジャー・スカーレット>
スカーレットのデビュー作の新訳です。旧訳が完全訳でなかった事もあり、間違った紹介がされていた様に思います。 題名自体が間違いやすいものでした(「密室二重殺人事件」)。この題から密室トリック作品と思い込み、底の浅い密室 ミステリとの評価を読んだ記憶があります。実際は、密室は登場しますがストーリー上の添え物で、あくまでもフーダニット の本格推理小説です。密室は謎として登場しますが、少し後で作者自身が次々と解き明かしてゆきます。読者が考えるもよし、 しかし最後の犯人に到達する前には作者自身で解決しています。これを密室トリック作品と思い、トリックの内容のみを取り上げて どうこういうのは見当はずれです。この当たりは完全訳を読んでより理解できる所で、今回の新訳はよろこばしいです。
2008年04月20日
戸田巽探偵小説選1<戸田巽>
かなり珍しい作者の作品集も含む叢書です。ただ残念ながら、珍しいのみで終わってしまう作品集がほとんどなのは、残念 ですし、まだまだ多くの作品集のない作家がいるのですから、作家の選定にもっと力をいれてほしいと思います。この作者も ほとんど名前さえも知られていないでしょう。心理犯罪小説と帯に書いてありますが、ミステリ・探偵小説と呼べる作品が どの程度あるのかは疑問です。それにこだわらなくても、当時のページ数との兼ね合いもあると思いますが、コントや落ちの ある犯罪話にとどまっているため現在では、内容に乏しいといえるでしょう。
2008年04月20日
探偵と怪人のいるホテル<芦辺拓>
本格ミステリでの活躍がめざましいですが、色々なジャンルの作品を手がけていることでも知られています。本作品集は 作者自身が「非ミステリ・ノンシリーズ短編集」と言っています、同時に「レトロ探偵趣味はいつも通りたっぷり」とも書いて います。上記内容はあくまでも、この作者比での事で、ちまたの多くのミステリと呼ばれる分野と比べれば、非ミステリとも いえない内容です。また少数ですがキャラクタも登場します。レトロ探偵趣味については、まさにその通りでしょう。本書を 面白く読めるかどうかは、読者の読書歴に左右されるのではないかと思います。作者の最初の言葉は、非マニア向けの言葉でしょう。 1作ごとに作者の趣味がちらばっています。充分楽しめますが、才能の無駄使いにならないか心配もあります。
2008年04月26日
火星の魔術師<蘭郁二郎>
「探偵クラブ」として出た叢書の1冊です。著者は活躍当時でも多くの出版本があります。死後から最近までは、それと 比べると非常に紹介が少ないといえます。理由が何かは、會津信吾氏の解説にもありますが、個人的には犯罪小説・幻想小説・ SF小説のジャンルに該当して本格物がない事も理由のひとつと思います。そして戦中に死去したために、戦後に評価されにく かったのではないかと思います。書かれた時代のわりには、内容が古びていないので機会がなかったのでしょう。現在では、 古典的な眼で読んでしまいますが、文章的に作者の才能を感じる事は出来ます。また、巻末の解説・資料はこの叢書のなかでも 上位の内容であると思います。
2008年04月26日
ロンド・カプリチオーソ<中野順一>
こちらは新鋭作家の新作の叢書です。最近多い「青春ミステリ」の肩書き?。意味が広くて分かりません。ストーリー的には ハードボイルドスタイルと感じます。ただし、主人公は感情的にはそうであっても、肉体的にはやや違う感があります。謎が 謎を呼びしかも、主人公本人にかかわる事です。その面では青春の1コマ的でしょう。そこに予知能力を持つ恋人が登場すると やや倦怠感が起きそうです。最近のはやりでしょうか。色々な工夫はありますが、望む事はこの内容をもっと短くまとめて欲しい という事です。
2008年04月26日
有翼人<香山滋>
昭和33年の出版です。そのころの本は、色々とあります。酸性紙でそれ以前よりも状態が悪い事はしばしばです。また、 再版時に過去の版型使用で中身が妖しいことがあります。実はこの本もそうです。本の題名は「有翼人」、目次は中編「有翼人」 「遊星人」の2作です。実際の内容は、目次の2作と短編「炎となる慕情」の3作です。どれも、奇想の世界を書き続けた 作者らしい作品です。夢か怪奇かSFかは読者におまかせです。現在では、それぞれがひとつのジャンルになっていますが、当時 は作者数も少なく、特に区別はなかったのでしょう。とにかく、非現実な世界に誘いこまれる独自の作品群で、しかもアイデアは つきる事がなさそうな作者です。
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2008/04に読んだ本の感想を随時書いてゆきます。
本格推理小説が中心ですが、広いジャンルを対象とします。
当然、ネタばれは無しです。